日本は、巨額の政府債務と厳しい財政見通しを背景に、しばしば「時限爆弾」と形容されてきました。近年では、日本国債(JGB)の金利急上昇が「世界的な金融市場の崩壊(アルマゲドン)」を招くとの誇張された懸念も広がっています。本稿では、過度な懸念に対して、実証的な視点からバランスの取れた見解を提示します。
誤解されがちな3つの核心ポイント:
国の債務を評価する際には、「総債務残高」だけでなく、「金融資産を差し引いた純債務残高」で見ることが重要です。日本政府は多くの資産を保有しており、多額の外貨準備、政府系金融機関や年金基金などが含まれますと、これらの資産が債務を相殺しています。
さらに、日本は世界有数の「純債権国」であり、2024年には対外純資産が約533兆円(約3.7兆ドル)に達しています。これに政府の多額な資産を加えると、「時限爆弾」というイメージとは異なり、財政状況ははるかに安定していることがわかります。
世界的に金利が上昇している中で、通常は財政悪化への懸念が金利上昇の要因になりますが、日本の場合は事情が若干異なります。最近の超長期国債の弱さは、需給の一時的なバランスの崩れや市場の機能不全によるもので、財政の根本的な悪化を示すものではありません。日本の財政基盤は構造的に健全です:
これらの要因から、日本が長期金利のコントロールを失うリスクは非常に低く、国債の急落を懸念する声は過剰といえます(参考:揺れる日本国債市場:それでも「危機」とは呼ばない理由)。
さらに、アメリカでは総債務がGDPの120%、純債務が96%であるのに対し、日本は2020年以降、債務比率を減らしてきたという点でも特異です(図3参照)。これは、着実なGDP成長と、グローバルの金利上昇を受けて3.7兆ドルにのぼる対外純資産からの利子収入の増加によるものです。先進国の中で、債務負担を実質的に減らしたのは日本だけです。
図3:日本は2020年以降、主要先進国の中債務水準を改善した唯一の国である (対GDP%)
| Net Change 2019 vs 2024 | Gross Change 2019 vs 2024 | |
|---|---|---|
| Canada | 3 | 21 |
| France | 16 | 15 |
| Germany | 8 | 5 |
| Italy | 4 | 1 |
| Japan | -17 | 0 |
| United Kingdom | 18 | 16 |
| United States | 15 | 13 |
図1〜3 出所:国際通貨基金(IMF)、世界経済見通しデータベース(2025年4月版)
JGBの金利上昇により、「本邦投資家が海外から資金を大きく引き上げるのでは」という過度な懸念が出ています。一部では「世界金融市場の崩壊(アルマゲドン)」の引き金になるという声もありますが、これは大げさな見方です。
本邦の外債投資家は、主に次の3つのカテゴリーに分類できます:
日本の債務残高はしばしば誇張され、GDP比250%とされていますが、実際には純債務は約140%であり、管理可能な水準です。日本は安定した国内投資家層を持ち、長期国債の安定を支えています。JGB金利の上昇が世界金融市場の崩壊を引き起こす可能性は低く、構造的な要因が安定を維持しています。本邦投資家の米国債保有は構造的であり、投資家は現状以上に大きく外債を売却することは考えにくく、過度な懸念は不要です。