日本の株式市場は、業績見通しの改善、ファンダメンタルズの強化、自社株買いの増加、そしてマクロ環境の改善に支えられ、堅調なパフォーマンスを維持したまま2026年を迎えている。円相場や金利の変動は見られるものの、成長志向の政策環境と底堅い需要が、引き続き日本株の見通しを下支えしている。
2月8日の衆議院の解散総選挙や、日本国債(JGB)および円相場における足元の変動を受け、現在の環境下で日本株をどのように捉えるべきか、投資家は疑問を抱いているかもしれない。長年にわたり物価上昇圧力が抑制されてきた後、インフレが高まる局面で、金利や為替市場が大きく動き、見出しを賑わせるとともに投資家の懸念を呼んでいる。本稿では、こうした最近の動きを適切な文脈の中で整理し、日本株式市場を評価するにあたり、株式投資家が考慮すべき主要なポイントを明らかにしていく。
出所:FactSet(2026年2月3日時点、米ドルベース)
最近、日本の投資家は長期金利の急上昇や円の顕著な上昇を経験しており、これが投資家心理を動揺させているのは理解できる。一方で、日本市場の構造的な背景を踏まえると、こうした動きが示唆する以上に、より安定したストーリーが存在することが分かる。これは「サナエショック:英年金危機でも円キャリー巻き戻しでもない」でも詳述されている。こうした環境下、株式市場が何を語っているのかを検証することには意義がある。私たちは今年も日本株に対して前向きな見方を維持しているが、その見通しはよりニュアンスのあるものとなっている。すなわち、ファンダメンタルズの強化に支えられている一方で、成長率に比して割高に見えるバリュエーションが上値を抑える要因となっている。
日本株式は力強いスタートを切っている。MSCIジャパン指数は年初来で8.1%の堅調なリターンを記録し、2025年に注目を集めていた他の地域市場を上回っている。ただし、バリュエーションについては慎重な解釈が必要である。一見すると、日本株は妥当な評価水準にある。日本株の予想PERは16.8倍で、MSCI ACWIの19倍を大きく下回る一方、MSCI EAFE(日本除く)の15.7倍をやや上回っている(FactSet、2026年1月30日時点)。しかしこれを、成長率を考慮した視点で見ると、状況はより複雑になる。MSCIジャパンの予想PEGレシオは2.02と、MSCI ACWI(1.50)およびMSCI
EAFE(日本除く、1.70)を大きく上回っており、期待される成長率に対して割高である可能性を示唆している。もっとも、こうしたシグナルはファンダメンタルズ改善の兆しと併せて評価すべきである。MSCIジャパンの自己資本利益率(ROE)は上昇基調を続け、現在は10.14%と、過去15年平均の8.14%を上回っている(FactSet、月次データ、2026年1月30日時点)。これは、企業の収益性および資本効率が、より前向きな方向へ進んでいることを示している。
業績を取り巻く環境は一様ではないものの、その変化の方向性は注目に値する。2025年のコンセンサスEPS成長率見通しは、2025年9月時点の0.42%から、現在では8.89%へと大きく上方修正されている(FactSet、2026年2月4日時点)。第4四半期決算の初期的な内容把握は、現時点ではまだ暫定的である。2月4日時点で約43%の企業が決算を発表しており、報告ベースのEPS成長率はおおよそ13.5%となっている。ただし、セクター間のばらつきは依然として大きい。例えば、コミュニケーション・サービスセクターは、発表済み企業が40%の段階で4.93%のプラス寄与となっている。一方で、一般消費財(Consumer Discretionary)は、同セクターでの発表進捗が27%にとどまる中、▲14.6%のマイナス寄与と、厳しいスタートとなっている。では、何が業績予想の上方修正を押し上げているのだろうか。
その一つとして注目されるのが、配当の増加トレンドである。過去5年間で、MSCIジャパン指数構成銘柄の配当支払見通しは約38%増加している(1株当たり配当予想〈NTM〉、月次データ、FactSet、2026年1月30日時点、米ドルベース)。これは、資本改革の進展により、日本企業が株主に、より多くの資金を還元できるようになっていることを示しており、将来にわたる安定的なキャッシュフローへの期待を示すシグナルとも考えられる。加えて、日本企業は自社株買いの拡大も進めている。FactSetのデータによると、MSCIジャパン指数構成銘柄における年間平均の自社株買い額は、2010年代半ばと比べて、2024~2025年にかけて大幅に増加している(FactSet、MSCIジャパン構成銘柄が報告した最新の暦年ベースデータ、2015~2025年)。自社株買いは、発行済株式数を減らすことで機械的にEPSを押し上げる効果がある(分母を減らすことで分子である利益が強調される)。また、より直接的ではないものの、経営陣が自社株を割安と見ているというシグナルとなる可能性があり、1株当たりフリーキャッシュフローの改善を通じて、ファンダメンタルズの強化にも寄与する。
より広範なマクロ経済要因も、株価上昇を後押ししている。持続的な円安は日本の輸出競争力を高め、グローバル需要へのエクスポージャーを持つ企業に恩恵をもたらしている。加えて、春闘における大幅な賃上げは家計所得の押し上げにつながり、裁量的支出の増加や内需の拡大を支えている。また、インフレも一定の役割を果たしている。価格決定力を持つ企業は値上げを通じて名目売上高を拡大することが可能である。これらを総合すると、需要が底堅く、ファンダメンタルズが良好で、価格決定力が改善している環境においては、緩やかなインフレは業績成長を後押しし得る——もっとも、その影響はセクターごとにばらつきがある。なお、日本の業績見通しは依然として世界株式全体には及ばない。MSCI ACWIの2025年におけるEPS成長率は10.7%と見込まれている(FactSet、2026年2月3日時点)。ただし今後の業績予想の修正動向には注目する価値がある。
政策環境は、投資判断にもう一段の重要な要素を加えている。昨秋に選出され、あらためて解散総選挙を実施した高市早苗首相は、引き続き拡張的な財政スタンスを主張している。これまでの分析として、先行する Mind on the Market のレポート「Takaichi’s policies fuel Japan’s market rally(高市政策が日本株上昇を後押し)- 英文のみ」では、こうした政策姿勢に対する市場の前向きな反応が示されていた。この見方をさらに裏付けるものとして、2025年後半には、AI関連半導体開発への資金拡充計画や、家計が所得の約30%を食料に支出しているとの推計を背景に、食料品にかかる消費税の撤廃を検討しているとの報道が伝えられている。このような財政措置は、国全体の債務水準に対する懸念がある中でも、短期的には株式市場のパフォーマンスを下支えする効果を持つ。
こうした状況は、最近の円相場や日本国債(JGB)の変動が示唆するよりも、はるかにニュアンスのある全体像を描き出している。株式市場の見通しは、業績モメンタムの進展に左右される一方で、成長志向の財政政策がパフォーマンスを維持しようとする姿勢が支えとなっている。解散総選挙の結果に市場が反応する中で、投資家にとっては、短期的な出来事だけに目を向けるのではなく、日本株の進化し続けるストーリーを、より包括的な視点から再評価することが有益となる可能性がある。
出所: FactSet、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。※過去のパフォーマンスは将来の成果を保証するものではありません。