⾦は、市場の調整局⾯や地政学的リスクの⾼まり、あるいは通貨下落の局⾯においてリスク分散効果が期待され、相対的に流動性の⾼い資産であることから、投資家は資産保全⼿段としての⾦をポートフォリオの⼀部に戦術的に活⽤してきました。⾦は、このように戦術的利点があるだけでなく、さまざまな景気サイクルを通じた分散投資の中核資産として、より⻑期的で戦略的な役割を果たすこともあります。
⾦は、いくつかの点でポートフォリオ特性を改善させる効果が期待できます。⾦投資には次のような潜在的な利点があります。
これらの⾦投資の利点について、過去におけるデータを例⽰しつつ、以下で説明をします。
ポートフォリオのパフォーマンスを最適化する上で、短期かつ未知のリスクに対する備えは極めて重要です。⾦を組⼊れることにより、市場や景気サイクルのあらゆる段階を通じてポートフォリオを安定化させる以下の効果を期待することができます。
⾦は、歴史的に⾒て多くの⾦融資産に対して低⽔準または負の相関性を⽰してきたため、ボラティリティの抑制や資産の保全に寄与することが期待されます。例えば、1970年代以降、⾦はS&P500指数およびブルームバーグ⽶国総合債券指数に対して、0.00と0.09の相関(⽉次収益率に基づく)を⽰しています1。このように他の多くの⾦融資産との相関性が⻑期的に極めて低い理由は、景気拡⼤または後退の局⾯にかかわらず、⾦に対する需要が多岐にわたっていることにあります。
金はまた、米ドルとの強い逆相関関係を示しており、投資家が通貨の減価リスクをヘッジするのに役立つ可能性があります。実際、過去30年間にわたる週次金価格リターンと米ドル指数リターンの1年間のローリング相関は、平均して-0.42でした。要するに、米ドルが弱い環境では、金を使用してヘッジすることがよくあります。これは通貨の名目効果によるものです2。
⾦は安全な逃避先資産として⾒なされているため3、極端なボラティリティの上昇や市場が混乱した局⾯で優れたパフォーマンスを上げることが期待されるほか、伝統的な株式との低相関性により、ドローダウン低減効果も期待されます。
資産市場は2020年に⼤きく様変わりし、投資家は低⾦利とリスク環境に耐えられるポートフォリオの構築を迫られています。投資家は変化をし続けるリスクを乗り越えるために金に目を向けました。
⾦は多くの伝統的資産クラスとの相関が低いことから、ボラティリティが極端に⾼まり、市場が混乱する局⾯においてプラスのリターンを⽣み出してきました。そのため、⾦を「安全な逃避先資産」3と評価する投資家も少なくありません。
ポートフォリオのリスク分散のために通常⽤いられる他の資産クラスとは異なり、⾦は歴史的に⾼い分散効果を発揮してきました。多くの米ドルベースの実物資産は、よりシクリカルになり、大型株式や債券の動きとより密接に一致するようになりました。これには、金のユニークさが関係している可能性があります。金は、物理的な需要特性を持つ世界的に代替可能な資産であり、文化的、地政学的、地域経済的要因と関係があることが多く、必ずしも米国の景気循環に密接に従うわけではありません。
⾦投資を検討すべき理由は市場下落時における打撃を抑えるだけではありません。⾦には、投資家にキャピタルゲインを通じて、⻑期的かつ戦略的な投資機会を提供するという利点もあります。⾦がもたらすリスク低減効果とリターンの低相関性は、ポートフォリオのドローダウンを低減することが期待され、ポートフォリオの最適化につながると考えられます。また、⾦は市場サイクルにおいて投資元本を成⻑させる機会も提供すると考えられます。
⾦は好不況にかかわらず、さまざまな景気サイクルを通じて、競争⼒のある⻑期リターンを歴史的に提供してきました。⾦を組⼊れることにより、⻑期的なリスク分散効果を通じてリスク調整後リターンの最適化が期待されます。
景気サイクルを通じてポートフォリオの価値を⾼め、リターンを最適化することは、⻑期ポートフォリオを構築する際に極めて重要なポイントです。さらに、ポートフォリオ内の資産クラスの相関性の低さは、ポートフォリオのボラティリティ低下に寄与するため、他の条件がすべて同じ場合、分散効果は⼤きくなり、時間とともにシャープレシオの改善や全般的なリスク調整後リターンの向上につながることが期待されます。
仮想マルチアセット・ポートフォリオ(組⼊資産にはグローバル株式、各種債券資産クラス、不動産、プライベート・エクイティ、コモディティなども含む)にGLDを組⼊れることで、リスク・リターン特性がどのように改善するかについて分析しました。その結果、2005年1⽉1⽇(GLDの設定1年⽬)から現在までのSPDR® ゴールド・シェア (GLD®)の組⼊⽐率を2〜10%とした場合、GLDを組⼊れなかった場合に⽐べて、仮想ポートフォリオの累積リターンとシャープレシオは改善し、最⼤ドローダウンは低下していた可能性があることが分かりました。
図表4:ポートフォリオに金を組み入れる潜在的な利点を例示-仮想ポートフォリオを定義する
仮想ポートフォリオA,B,C,Dの各アセットクラス配分
| 資産クラス | 仮想ポートフォリオの配分比率 (%) | |||
ポートフォリオA |
ポートフォリオB |
ポートフォリオC |
ポートフォリオD |
|
株式 |
43 |
42 |
40.5 |
38 |
株式合計 |
43 |
42 |
40.5 |
38 |
国債 |
24 |
23 |
21.5 |
19 |
投資適格社債 |
15 |
15 |
15 |
15 |
インフレ連動債 |
2 |
2 |
2 |
2 |
ハイイールド社債 |
1 |
1 |
1 |
1 |
新興国債券 |
3 |
3 |
3 |
3 |
債券合計 |
45 |
44 |
42.5 |
40 |
不動産 |
5 |
5 |
5 |
5 |
プライベートエクイティ |
4 |
4 |
4 |
4 |
コモディティ |
3 |
3 |
3 |
3 |
金 |
0 |
2 |
5 |
10 |
オルタナティブ資産合計 |
12 |
14 |
17 |
22 |
ポートフォリオ合計 |
100 |
100 |
100 |
100 |
結果 |
||||
年率リターン (%) |
5.66 |
5.73 |
5.9 |
6.18 |
年率標準偏差 |
10.53 |
10.39 |
10.28 |
10.14 |
シャープレシオ* |
0.38 |
0.39 |
0.41 |
0.45 |
最大ドローダウン (%) |
-35.68 |
-34.70 |
-33.58 |
-31.68 |
累積リターン (%) |
204.99 |
209.31 |
219.21 |
236.87 |
*シティグループ3カ月物T-billレートをリスクフリーレートと仮定します。過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスの信頼できる指標ではありません。
出所:ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年3月31日時点。株式はMSCIオール・カントリー・ワールド(ACWI)日次トータルリターン指数、国債はブルームバーグ・グローバル総合国債トータルリターン指数、投資適格(IG)債はブルームバーグ・グローバル総合社債トータルリターン指数、インフレ連動債はブルームバーグ・ワールド・インフレ連動債トータルリターン指数、ハイイールド(HY)債はブルームバーグ・グローバル・ハイイールド社債トータルリターン指数、新興国(EM)債はブルームバーグ新興国市場ハードカレンシー総合債券トータルリターン指数、不動産はグローバル・プロパティ・リサーチ総合トータルリターン指数、プライベートエクイティはLPX総合上場プライベートエクイティ・トータルリターン指数、コモディティはブルームバーグ・コモディティ・トータルリターン指数、金はSPDR®ゴールドシェア(GLD®)を表します。
資産配分シナリオは仮定のためのものであり、特定の資産配分戦略を示すものでも、特定の資産配分を推奨するものでもありません。投資家の状況はそれぞれ異なり、資産配分の決定は投資家のリスク許容度、投資期間、財務状況に基づいて行う必要があります。指数に直接投資することはできません。ポートフォリオにGLDを追加した場合の影響は、投資家による資産配分の決定や市場のパフォーマンスといったさまざまな要因によって異なります。指数のリターンは運用によるものではなく、いかなる手数料または経費の控除も反映されていません。指数のリターンは各種インカム、キャピタル・ゲインまたはロス、配当およびその他インカムの再投資を反映しています。リターンは特定の商品のものではありませんが、表に記載されている構成銘柄の、実際のパフォーマンス・データを数学的に組み合わせることで算出しています。仮想混合ポートフォリオのパフォーマンスは、取引費用やリバランス費用を想定していないため、実際の運用成果は上記と異なります。SPDR®ゴールドトラスト(GLD®)のパフォーマンスは、年間経費率0.40%を反映しています。すべてのデータは、月次のパフォーマンス測定に基づいています。運用リターンおよび元本価額は変動するため、売却時にキャピタル・ゲインまたはロスが生じる可能性があります。現在のパフォーマンスは、記載時点のものより高いまたは低い場合があります。最新の月末パフォーマンスについては、ssga.comで確認することができます。仮想ポートフォリオ手法の計算に関する詳細は、用語集をご覧ください。
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金の歴史的な分散効果と市場の混乱時におけるリスク調整後のプラスのリターンに基づいて、短期的なボラティリティを抑え、ドローダウンを制限するのに役立つ可能性があります。
しかし、金への配分は長期的な資産保全にも寄与する可能性があります。さまざまな景気循環における歴史的な長期的なリスク調整後のプラスのリターンは、予期せぬリスクや資本の損失から投資家を守り、時間の経過とともにポートフォリオの価値を損なうことを防ぐのに役立ちます(図表4)。
⾦の流動性は資産保全の役割を果たす可能性があります。取引市場において相対的に厚みのある流動性を投資家に提供していることは、⾦を戦略的に保有する際の重要な利点と⾔えるでしょう。歴史的に⾒て、取引額は主要な債券、通貨、株式市場と同⽔準であり、⾦の⽇次平均売買代⾦は2,320億⽶ドルを上回ると推定され、年間58兆⽶ドルに相当します5。
そして、2020年3⽉のような市場混乱時であっても、⾦市場の流動性は維持されました。新型コロナウイルス感染拡⼤による当初のロックダウンが実施された3⽉に⾦の売買額は2,370億⽶ドルに達し6、他の多くの資産の価値が減少するのを横⽬に、投資家は流動性のある取引市場、すなわち、キャッシュにアクセスすることができました。
⻑期的には、⾦は投資家にとって価値の保全に優れた投資⼿段であり、購買⼒を維持する役割を果たすことが期待されます。⾦はインフレ上昇時、特に極端なインフレ局⾯において、歴史的にプラスのリターンを提供することにより、物価上昇と歩調を合わせてきました7。
さらに、⾦は⽶ドルと歴史的に負の相関性を維持することによって、通貨下落の影響をヘッジする能⼒を⽰しています8。総合すると、⾦は、通貨下落および物価上昇に強い性格を有していることから、投資家は購買⼒を保ちつつインフレ圧⼒から資産価値を保全することができると考えられます。
投資家にとって、⾦は危機時において戦術的に利⽤するだけの資産ではなく、多様な利点に着⽬した⻑期的かつ戦略的な投資対象になりえます。
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