Skip to main content
インサイト

2025年 年央金市場見通し:金価格は(より)高く(より)長い上昇レジームへ

上場投資信託(ETF)投資家からの需要回復ならびに中央銀行とアジアの個人投資家による根強い買いを受け、金価格は初めて1オンス3,000米ドルを突破しました。本稿では当社が金価格にはまだ上昇余地があると考える理由を説明します。

Aakash Doshi profile picture
Head of Gold Strategy
Diego Andrade profile picture
Senior Gold Strategist
Robin Tsui profile picture
APAC Gold Strategist
Mohamad Abukhalaf profile picture
Gold Strategist
アーロン・チャン profile picture
ゴールド・ストラテジスト(日本)

金は不透明な環境下で輝く

米国でトランプ政権がスタートするなか、経済をめぐる不透明感が高まるとともに消費者の間に不安が広がり1、米ドルが下落し(図表1)、テールリスクや地政学リスクのヘッジ手段として金の需要が高まりました。金融市場ではいつ何が起きてもおかしくありませんが、新型コロナウィルスのパンデミック(世界的な大流行)後はとりわけさまざまな構造変化が起き、現在も続いています。金はこの新たなレジームの下で恩恵を受けており、世界保健機構(WHO)がパンデミックを宣言した2020年3月11日以降、金価格は98%上昇しています2
 

世界的なインフレ圧力の持続、貿易戦争、世界における米国の役割の縮小(リトレンチメント)、政府の債務負担増、大衆の声を反映した政治の動きのいずれが要因であれ、とりわけ政策や地政学、マクロ経済の先行きに関する確率分布が広がるなかでは、ボラティリティが低く、ポートフォリオの分散化に効果のあるセーフヘイブン(安全な逃避先)資産*として、金に対する需要は続くでしょう。

金の価格は2025年最初の5カ月間に約25%値を上げて1オンス3,300米ドルに達し、世界のマクロ資産クラスのパフォーマンス・ランキングの首位に返り咲きました3。当社は戦術的要因(たとえば、先行き不透明な貿易政策、ETFの資金フロー、リセッション[景気後退]リスク、米連邦準備制度理事会[FRB]による緩和の可能性)ならびに構造的要因(たとえば、中央銀行の需要、ソブリン債務負担、脱ドル化のトレンド)を踏まえ、依然として中期的に金に対し強気バイアスを維持しています。

2025年に金価格の下値は、これまでの水準1オンス2,000米ドル台に代わり、新たに1オンス3,000米ドルに切り上がったとみています。世界的な貿易摩擦が緩和しても、当社の基本シナリオは金が今年1オンス3,100~3,500米ドルと記録的水準で推移すると予想しています。強気シナリオ(確率30%)では、スタグフレーションや脱ドル化の加速など、特定のマクロ経済環境の下で、金は今後6カ月から9カ月で1オンス4,000米ドルに近づくと予想しています。

「解放の日」の影響が続き金ETFの需要が増大する可能性

世界の貿易政策は金の投資家にとって特に関心のある話題ですが、興味深いのは、トランプ政権が貿易戦争を一段と拡大させた「解放の日」以前の第1四半期の金価格のリターンが1986年以来の高水準をつけた点です4。ファンダメンタルズの観点からは、金ETFに対する投資家需要は金の現物の需給バランスを引き締めます。そのため、他の需要源を制限するため、またはスクラップのリサイクル活動のインセンティブを促して供給増加につなげるために、金価格は上昇する必要があります5

金融商品への資金流入、特に西側諸国の金ETF投資家が再び市場に戻れば、2025年の金需要は記録的な伸びを示し、その結果、金価格は当社の強気シナリオである1オンス3,500~3,900米ドルまで上昇する可能性があります。

流動的な貿易政策はこうした資金フローに影響する要因です。投資家には関税措置の実施時期や最終的な税率が不明なことから、これが市場のボラティリティを冗長しています。当社も明確な答えを持っているわけではありませんが、政府と投資家が金融、経済、通貨に対する米国の支配的立場を疑問視するなか、トランプ政権の地経学的政策が金に有利に働く可能性もあるとみています。

米国の対中国/対世界の貿易政策ならびに地政学的見通しが引き続き極めて不透明ななか、当社は以下の5つのテーマが金価格の強気見通しの支援材料になるとみています。

1 金ETFへの資金流入増加の可能性。2020年末から2024年半ばまでの3年半に及ぶポートフォリオ調整サイクルを経て、現在投資家には金ETFの保有を増やす十分な余地があります。年初来で大量の資金が流入しているにもかかわらず(図表2)、現物で裏付けされた金ETFによる世界全体の金保有量は2020年第4四半期のピークを依然として約20%下回っています6

2 中国の消費者による金購入が回復。2025年第1四半期の中国の個人による金輸入は価格高騰が響き低調でした7。しかし米国の「解放の日」以降、中国国内の金価格プレミアムは上昇しており8、国内金需要は前四半期比である程度反発すると予想されます。また中国政府は保険会社などの非伝統的セクターの金投資を押し上げるための政策も打ち出しています(以下のアジア太平洋[APAC]地域に関するセクションをご参照ください)。

3 公的セクターの金需要は引き続き力強く推移する公算大。当社は2025年に公的セクターは世界金融危機以降16年連続で金を買い越すと予想しています。中央銀行の金需要により、金の価格急落は限定され、下値は切り上がります。また政府機関は価格に影響されることなく戦略的に金を購入する傾向があります。

4 フィアット通貨の代替資産に対する需要と世界の債務が金価格の上昇をサポート。世界の債務残高は2025年第1四半期に324兆米ドルを突破して過去最高を更新し、セクター別では政府の占める割合が約30%と、過去最高となりました(図表3)9。この状況は短期的に解消する公算は小さく、記録的な債務残高に支えられ金価格は高水準にとどまるとみられます。

5 FRBは依然として利下げ姿勢を維持。2025年には25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の利下げが1回もしくは2回にとどまるかもしれませんが、実質金利およびデュレーション・チャネルを通じて金はおそらくさらに恩恵を受けるでしょう(ただし、その関係はここ数年それほど強くありません)。しかしマネー・マーケット・ファンド(MMF)には7兆米ドル近い資金が滞留しているため10、短期金利の低下は金のようなゼロクーポン資産の支援材料になるでしょう。

米財政不安が広がるなか、利下げサイクルから政策を慎重に見送る姿勢へと転換

年央時点で、利上げが議論の俎上(そじょう)に載っていないのは明らかですが、積極的な緩和を求める声もありません。FRBは2024年12月以降利下げを実施しておらず、据え置き期間は現在のサイクルで最長となっています。歴史的に見て、金融状況が引き締まりの様相を見せ、成長が停滞し、不透明感が高まるのに伴い、FRBが政策を据え置くなかで金はアウトパフォームしています。

過去3回の景気サイクルでは、FRBが利下げサイクル中に政策据え置きを長期化した際、金は一貫してS&P500指数を大幅にアウトパフォームしています(図表4)。2002年後半から2003年半ばにかけて、当時の緩和サイクル中で最も長く政策を据え置いたこの期間に、金価格は13%上昇しましたが、S&P500指数の上昇率は4%でした11。2008年、桁外れの金融危機の最中、FRBが政策を据え置くなか、金価格は横ばいで推移する一方、S&P500指数は15%下落しました12。そしてパンデミックの直前、2019年終盤から2020年2月にかけてFRBが政策を据え置くなか、金価格は7%上昇した一方、S&P500指数は2%下落しました13

今年、これらと同様の転換点を迎えています。

昨年12月の最後の利下げ以降、金価格は25%上昇しましたが、S&P500指数は横ばいとなっています14 。当初の予想より利下げ回数は少ないものの、政策の基調は依然として利下げ方向にあります。金融環境がいずれ緩和すれば、おそらく金は恩恵を受けるでしょう。現在のFRBの政策据え置きは、投資家にとって、戦略的かつ長期的な金のエクスポージャー積み増しの機会と言えるかもしれません。

米国債の格下げ、財政不透明感は金の支援材料

経済は完全雇用の状態にある中、米国では財政赤字の対国内総生産(GDP)比率が6~7%と予想され、平時ではこれまでにない状況にあります15。連邦政府赤字が34兆米ドル、年間の利払い費が1兆米ドルに迫るなか16、投資家は米国の財政政策の持続可能性について疑問を強めつつあります。この懸念はアカデミックな議論だけでは終わりませんでした。5月16日、ムーディーズが米国を格下げし、スタンダード&プアーズ(2011年)、フィッチ・レーティングス(2023年)に続いて米国を格下げした3番目の主要格付け機関となりました。

米国債務の長期ソルベンシー(支払い能力)への信頼が損なわれたのと同様に、米ドルの購買力ならびに安全な逃避先というステータスへの信認も損なわれました。いずれ、こうした格付けや評価の低下は、特に海外資本が米国の財政ガバナンスの信頼性を疑問視し始めた場合、米ドルの対主要通貨の価値に圧力をかける可能性もあります。貿易戦争勃発の可能性がこうした懸念に拍車をかけています。

金には負債がなく、返済に依存せず、ポートフォリオにおける役割を利回りで正当化する必要がないため、こうした環境の下で、その安定した価値保存能力を発揮するでしょう。

中央銀行と金の再調整: モメンタム、目標、見通し

中央銀行は過去15年にわたり金の強力な追い風となっており、2022年のロシア・ウクライナ戦争勃発以降、年間純購入量は毎年1,000トン(t)を超え、主要鉱山の生産量の約25~30%を占めています17

2025年の中央銀行による金の購入ペースは若干鈍化するものの、依然として順調に推移し、16年連続で買い越しになると当社は予想しています。最新データによると、第1四半期の中央銀行の純購入量は244トンと、前四半期からわずかに減少したものの、依然として大規模です ―― 過去5年間の四半期平均を24%上回り、記録的な需要となった過去3年間の平均を9%下回るにとどまっています18

外貨準備管理に関しては、2025年第1四半期の外貨準備に占める金準備の割合を発表した中央銀行上位20行のうち、90%が金準備の割合を引き上げました。新興国の中央銀行が引き続き主要な買い手となっています。

中央銀行の金のアロケーション目標

外貨準備の脱米ドル化を目指す動きが強まるなか、戦略的なアロケーション目標を達成するために中央銀行が今なおどの程度金を積み増しする必要があるのかを推定しました。2025年第1四半期に発表された全中央銀行のデータに基づくと、外貨準備全体における金の目標配分比率は平均約22%で安定しています。金準備の目標を引き上げる動きは、「需要の追い風」が10年にわたり続く可能性を示しています19

2025年末の中央銀行による金の純購入量を推定するため、最初に、最近発表された第1四半期の純購入量(244トン)を過去の季節性(パンデミックの打撃を受けた2020年を除く)を用いて調整しました。

当社の分析ならびに投資家との最近の会話に基づくと、2025年の中央銀行のネット需要は900~1,000トンとみるのが妥当だと考えられ、その場合1971年以降で4番目に高い水準となります20
 

図表5:1994年以降の中央銀行による金の純購入量と2025年の予想

GMO FIG 5

出所:ICEベンチマーク・アドミニストレーション、メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド・ゴールド・カウンシル、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ。2025年3月31日時点のデータ。注:2025年の予想は、第1四半期の実際のネット購入額(244トン)を用い、2010~2024年の歴史的な季節性(特殊年を除く)で調整して算出しました。基本シナリオは第1四半期の需要の長期平均シェア(24%)を反映し、強気シナリオと弱気シナリオについては、購入ペースの上振れまたは下振れの可能性を考慮し、それぞれ19パーセンタイル値、80パーセンタイル値を適用しました。過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスの信頼できる指標ではありません。

アジア太平洋(APAC)地域の金保有量増加が金の高騰に寄与

APAC地域における金の現物保有量は過去5年で大幅に増加し、金価格の上昇レジームを支えてきました。中国、インド、日本にけん引された力強い金投資需要を促してきたのは、景気の先行き不透明感、不安定な地政学要因、現地通貨の下落、金と比較したリスク資産のアンダーパフォーマンスです。実際、世界の金地金・金貨需要に占めるAPAC地域の割合は2024年に65%と、2020年の消費不況から完全に回復し、2010~2019年の中央値を2%ポイント上回っています(図表6)。

中国の投資需要の拡大を促してきたのは、国内の株式・不動産市場の低迷、資本規制による信頼できる代替資産の不在、中国の景気浮揚策をめぐる不透明感、そしてより最近で言えば人民元安です。一方、インドの需要を促してきたのは、力強い国内経済、人口一人あたりの所得の増加、インドルピー安です。この2カ国で世界の金地金・金貨需要の約50%を占めており21、当社はこのトレンドは今後数年にわたり(たとえ強まらなくとも)安定的に推移するとみています。

日本では、円建ての金の投資信託や金ETFへの純資金流入額が2020年から2023年の年平均4億7,700万米ドルから、2024年には18億9,800万米ドルに急増しました22

規制変更と政府の新たな政策措置が地域の金保有量の増加に寄与しており、中期的にAPAC地域の需要のさらなる支援材料になるでしょう。当社は主に以下の政策措置に注目しています。

  • 中国:保険会社10社に資産総額の最大1%まで金への配分を認めるパイロット・プログラムを2024年2月に発表23
  • 香港: 金の貯蔵施設の建設や金関連の規制整備を通じて香港を国際的な金の取引セクターに育成するための政府の取り組み24
  • インド: 2024年7月に、金の輸入関税を15%から6%に、金鉱石の関税を14.35%から5.35%に引き下げたほか、金の長期キャピタルゲインとみなされる保有期間を36カ月から24カ月に短縮25
  • 日本: 銀行預金に眠っている資金を長期投資に向かわせるため、2024年1月に新NISA(少額投資非課税制度)がスタート。成長投資枠では金の投資信託や金ETFなどにも投資可能26

金価格の見通し:基本、強気、弱気シナリオ

当社は、金市場はこの先2025年末まで1オンス3,000米ドル超で推移するようになると予想していますが、今後12~24カ月では1オンス4,000~5,000米ドルを試す展開となる可能性もあります。

基本シナリオ(確率50%): 3,100~3,500米ドル/オンス。米中間を含め、厳しい関税は撤回されました。しかし2025年はこの先も政策をめぐる不透明感や緊張が続きます。米ドルはおおむね底値を付け、リスク・センチメントは安定します。長引くインフレによりFRBの利下げ余地は限定的です。中国の消費者の金需要は第1四半期の底から回復するものの、2023~2024年のピークには届きません。中央銀行の金需要は引き続き旺盛ですが2022~2024年に比べるとやや抑制されています。金ETFへの資金流入は続くものの1~4月のような熱狂的な勢いは収まります。

強気シナリオ(確率30%): 3,500~3,900米ドル/オンス。貿易・関税を巡る緊張はエスカレートし、地経学的秩序の変化を示す明確な兆候が見られ、米国/世界のスタグフレーション・リスク、そして米国ソブリン資産に再投資される米ドルが減少するリスクが高まります。リスクオフ局面は長期化します。中国の消費者の金需要の回復の勢いは一段と増し、中央銀行の金需要は予想を上回り(たとえば1,100~1,200トン超)、金ETFへの資金流入は2009年や2020年に匹敵するペースとなります。

弱気シナリオ(確率20%): 2,700~3,100米ドル/オンス。米中の地経学的関係の緊張が大幅に緩和し問題が半永久的に解決し、米ドルと米国経済の例外主義が復活します。投資家はリスク資産と米国株式を大幅にオーバーウェイトします。ボラティリティはあらゆる資産市場で低下します。自律的成長が回復するなかFRBは政策の据え置きを続けます。中国、中央銀行、金ETFの需要は予想より軟調となります。2,000米ドル台後半では戦略的な金の買い手の押し目買いにより支えられる可能性もありますが、弱気シナリオでは3,000米ドルを割り込む可能性もあります。

共同執筆

その他の金