ETF Market Outlook

オルタナティブ資産でポートフォリオを分散化

株式と債券の相関が異例の高さとなったため、伝統的な60/40ポートフォリオの分散効果が弱まっています。オルタナティブ資産 ―― 伝統的資産との相関性が低い ―― を組み入れれば、60/40ポートフォリオのバランスは戻り、インフレやボラティリティが上昇しても影響を抑えられるため、引き続きポートフォリオを目標に沿って運用できるでしょう。

株式と債券の異常に高い相関性により、伝統的な60/40ポートフォリオの分散効果が弱まっています。そして現在、株式リスクがボラティリティに大きく影響しているため、伝統的な株式/債券ポートフォリオのバランスが崩れています。

このようにポートフォリオのバランスが崩れるなか、米連邦準備制度理事会(FRB)のインフレとの闘いも難しい時期に差し掛かっています。トランプ次期政権の新政策でインフレ上昇が予想されており、対応を迫られるからです。

2025年のマクロ経済環境は60/40ポートフォリオの逆風となるでしょう。そして、60/40ポートフォリオはすでに大幅な圧力にさらされているため、政策ミスが大幅なドローダウンを引き起こす可能性は一段と高いとみられます。

以下のオルタナティブ投資を追加すれば、伝統的な株式/債券ポートフォリオは強化され、おそらくマクロ・トレンドを乗り切る助けとなるでしょう。

  • は歴史的に見て伝統的資産との相関が低く、これまで市場のストレス時にも底堅さを見せてきました1
  • コモディティ全般はインフレとプラスの相関をもち、伝統的資産とは低相関となる傾向があります。
  • オルタナティブなディフェンシブ株式戦略は、株式のリスクプレミアムを調整することで、インカム創出力を高めつつ、ドローダウンに対するプロテクションを強化します。

株式と債券の相関関係を分析

年ごとに分解すると、グローバル株式と債券の日次リターンの12ヵ月移動平均相関は、過去3年連続でプラス圏にあります(図表 1)。1995年以降、リターンの12ヵ月移動平均相関率は-10%ですが2、日次リターンの12ヵ月移動平均相関は630日を超える期間連続でプラスとなっており、記録的な水準に迫っています。

株式リスクは通常の水準まで上昇

この分散効果の低下に加え、株式リスクが伝統的ポートフォリオのボラティリティを主に牽引したため、「バランス型」戦略は株式のリスク特性に著しく影響を受けやすくなっています。

そして、この株式リスクは高まりつつあります。FRBによる積極的な利上げ時の債券ボラティリティ上昇後、ポートフォリオ全体のリスクに対する株式の寄与度は6ヵ月連続で上昇し、過去の平均水準に戻っています3

株式がポートフォリオ全体のリスクを押し上げ、ボラティリティが急上昇した場合、60/40ポートフォリオのドローダウン・リスクが高まる可能性もあります。実際、歴史的に見て、株式と伝統的なバランス・ポートフォリオのドローダウンの間には、84%の相関関係があります4。また株式リターンと60/40ポートフォリオのリターンの間には、歴史的に見て98%の相関関係があり5、伝統的ポートフォリオが、いかなる市場環境においても、株式市場のトレンドを反映していることを示唆しています。

マクロの不透明感が、伝統的ポートフォリオの逆風要因

財政政策が不透明なことに加え、FRBの利下げの経路とペースに対する見通しもやや不透明になっています。9月時点では、2025年5月までに25ベーシス・ポイント(bp)の利下げが8回実施されると予想されていましたが6、好調な経済成長を示すデータが発表されため、10月末には予想利下げ回数は半分まで減少しました7。そして米国の選挙が終わり、現在市場が予想する2025年5月までの追加利下げの回数は僅か2回となっています。

同時に、世界の中央銀行の多くは財政計画が変更されるなか、金融政策の正常化を目指しています。イングランド銀行(BoE)は先ごろ2会合連続で利下げを実施しましたが、緩和ペースの加速を示唆するには至りませんでした8。BoEは議会が提出した新予算は、インフレ率を最大50bp押し上げる可能性もあると警告しました。また、ドイツの連立与党崩壊や日本の衆院選での連立与党の惨敗は、これらの地域の財政政策に影を落とす可能性もあります9

さらに、トランプ次期政権が追加関税の賦課に踏み切れば、世界的に成長悪化とインフレ上昇につながり、政策当局は様々な対外財政リスクへの対応を迫られるでしょう。実際、中国は米国の保護主義的政策による景気悪化に備えて、大規模な景気刺激策を既に実施しています10

金融政策の変化や米保護主義に備えた世界の財政政策ポジションに反応し、不透明感が急激に高まったとしても不思議ではありません。足元で米国経済政策不確実性指数は、コロナ禍時と世界金融危機時に次いで、過去3番目の高さにあります(図表2)。

実物資産によるオルタナティブ投資は、分散効果の持続性向上につながるか?

不透明なマクロ環境の下で60/40ポートフォリオを強化するには、伝統的市場との相関性が低く、成長やインフレに対して様々な感応度をもつ戦略を組み入れることで、ポートフォリオの基盤を固め、レジリエンス(回復力)を高める必要があります。

分散効果に加え、金、米国物価連動国債(TIPS)、コモディティ、インフラ、天然資源、不動産、デジタル資産などのオルタナティブ資産には、それぞれ個別に、あるいはマルチアセット実質リターン戦略の一部として組み入れることで、インフレの変動からポートフォリオを守る役目を果たします。

株式ボラティリティは非対称となる傾向があるため ―― つまり、株価下落を受けたボラティリティの上昇ペースは、株価上昇を受けたボラティリティの低下ペースを上回ります ―― 金は、政策ミスが起きた場合に、株式ボラティリティが大きく上昇するリスクの軽減に利用できます。

歴史的に見て、CBOE VIX指数(VIX)が上昇する時、金は他の資産クラスに比べて高いリターンを上げており(図表3)、特にボラティリティが3標準偏差を超えて上昇するとその傾向は高まります。

金は、連邦財政赤字が拡大するリスクへのヘッジにも役立ちます11。また赤字が拡大すれば、外貨準備の分散を図る中央銀行からの金需要も増加するでしょう。

インフレは2025年におけるより差し迫ったマクロリスクです。インフレの基調は、堅調な消費需要、関税によるサプライチェーン混乱の可能性、報復関税、世界のコモディティ大量産出地域で現在も続く紛争、などの影響にさらされるでしょう。セントルイス連銀のムサレム総裁は大統領選の結果判明後、「インフレ率が2%に収束しない、もしくは上昇するリスクが高まっている」と述べています12

コモディティは、金と同様に伝統的資産との相関性が低いことに加え(図表 4)、歴史的に見てインフレの上昇ならびに予想外のインフレに強い感応度を示しています13

導入に際しては、金は株式に対する分散効果が高いため、ポートフォリオへの金の追加は債券を源泉にするとよいでしょう。一方、インフレは名目債では十分に対応できないリスクであることから、債券の分散を目的としてコモディティを60/40ポートフォリオに追加する際には、株式のアロケーションを源泉にすることを推奨します。

オルタナティブなディフェンシブ株式戦略: ドローダウンからポートフォリオを保護

デリバティブによるディフェンシブ株式戦略(コールの売りでベータ・リスクを変換)は、歴史的に見てドローダウンからポートフォリオを守る助けとなってきました。

カバードコール戦略のディフェンシブ特性は、プレミアムを受け取る代わりに上振れの機会を売却することで得られます。そして、プレミアムの累計額は相場下落局面でバッファーの役目を果たし、ダウンサイド・キャプチャー(相場下落との連動性)を抑えます。カバードコール戦略では、市場をより意識することで、上振れ機会を犠牲にすることなく市場レジームの変化に順応する可能性を高めることができるでしょう。

たとえば、インデックス市場のレジームを意識したS&P500種指数のカバードコールへのエクスポージャーの場合、過去35年間に、市場と比べてボラティリティは15%低く、平均ドローダウンは23%低く、また相場下落時の連動率は62%にとどまっています14。また、より市場を意識した指数連動カバードコール戦略は、過去35年間に、より単純で静的な2%アウト・オブ・ザ・マネー戦略を年80bpアウトパフォームしています15

以上を踏まえると、ファンダメンタルズにもとづいて構築された原株式ポートフォリオにダイナミック・オプション・オーバーレイを組み合わせたアクティブ・カバードコール戦略は、市場レジームを意識しない静的な指数連動カバードコール戦略の改善につながる可能性があります ――同時に不透明なマクロ環境の下で、ドローダウン・プロテクションの代替手段となる可能性があります。

投資アイディア

株式と債券にみられる異常に高い相関に加え、株式リスクがボラティリティの牽引役となったことでポートフォリオのバランスが崩れています。バランスの回復には、伝統的資産と相関性が低く、ドローダウン・プロテクション能力ならびにインカム創出力の高いオルタナティブ資産の追加を検討すべきでしょう。

執筆者

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Michael W Arone, CFA

Chief Investment Strategist

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Matthew J Bartolini, CFA, CAIA

Head of SPDR Americas Research

共同執筆者

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Anqi Dong, CFA, CAIA

Senior Research Strategist

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