米ドルは6月のG10通貨の中で最も高いパフォーマンスを示しました。底堅い経済成長、AI関連設備投資ブーム、そしてFRBのよりタカ派的な見通しが支援材料となりました。足元では米雇用統計の軟化を受けて勢いが弱まる可能性がありますが、米ドルは依然としてG10諸国の中でも最も強力なマクロ経済環境と金利面での優位性に支えられています。戦術的には、当社は英ポンド、ユーロ、カナダドルに対する見方を中立に引き下げる一方、ノルウェークローネに対しては弱気な見方へ転じました。
米国とイランの覚書(MOU)締結後の初期的な市場調整はかなり進展しており、原油価格は事実上、紛争前の水準まで戻っています。今後は、相対的な経済成長率やインフレ率、そしてそれらを反映する金融政策の見通しが、再び為替市場を動かす主要な要因となるでしょう。ただし、景気循環やインフレサイクルの違いはすでに相当程度市場に織り込まれており、夏場の為替市場は変動を伴いながらも一定のレンジ内で推移する可能性が高いとみています。
米ドルは、力強い経済成長と金融政策の引き締め観測を背景に大きく上昇してきました。しかし、7月2日に発表された弱い雇用統計は、この強気の米ドルシナリオに影を落としました。7月中旬に公表される6月のコア消費者物価指数(CPI)が予想外に強い結果とならない限り、最近の上昇トレンドを支える材料は限られています。実際、底堅い成長見通し、相応の金利水準、そして堅調な企業業績が支えとなる前に、今後数日間は米ドルに下落リスクが生じる可能性があると当社はみています。
日本経済と日本株式市場は引き続き非常に魅力的に映っており、歴史的な円安水準を下支えする要因になると考えています。また、為替介入への警戒感が、さらなる円安進行を抑制する役割も果たしています。しかし、日本銀行が金融政策の正常化を非常に慎重なペースで進めていることに加え、中長期的な財政面への懸念も残っていることから、7月中に円相場が持続的に上昇するきっかけは見当たらないと当社は考えています。
ユーロと英ポンドは原油価格の下落による恩恵を受けていますが、G10通貨(米ドルを除く)に対する相対的な優位性は今後壁に直面する可能性があります。中長期的な成長見通しは依然として力強さを欠いており、原油価格の下落によって市場が織り込んでいる金融引き締め期待も後退するとみています。また、英国において財政面や政治面のリスクプレミアムの低下による恩恵は一時的なものにとどまると予想しています。これは、新たなバーナム政権が直面する難しい政策上の制約によって、不透明感が再び高まると考えられるためです。さらに、スウェーデンクローナについては、ユーロ高の余地が限定的であることに加え、スウェーデンの低インフレ・低金利見通しが上値を抑える要因になるとみています。
ノルウェークローネに対するエネルギー価格下落の逆風は、おそらく終息に近づいています。しかし、市場が2027年にかけての原油供給過剰リスクを織り込む中で、今後4~8週間についてはやや弱含みの展開を予想しています。この環境は豪ドルにも下押し圧力をかけると考えられますが、その影響は比較的小さいでしょう。豪ドルにとってより大きな課題は、国内経済成長指標の軟化、住宅価格の伸び鈍化、オーストラリア準備銀行(RBA)の利上げサイクル終了、そして中国からの前向きな成長刺激要因が見られないことです。
全体として、G10通貨を個別に見渡すと、現在の為替水準では強気材料と弱気材料がおおむね均衡していると当社は考えています。このことは、夏場にかけて為替市場が比較的方向感に乏しいもみ合い局面に入る可能性を示唆しています。
図表2: 2026年7月の方向性見通し
| 短期見通し | 中長期見通し | Comment | |
| USD | 高い利回りと力強い成長、ただし勢いは鈍化 | ||
| CAD | テクニカル・リセッションとUSMCAを巡る不透明感があるものの、割安 | ||
| EUR | 低利回りと低成長が重し | ||
| GBP | 高い利回りが支えとなる一方、低成長と財政面の不透明感が重し | ||
| JPY | 介入が支えとなるものの、短期的なきっかけを欠く | ||
| CHF | 成長は持ち直しているものの、割高かつ低利回り | ||
| NOK | 高い利回りと株式市場への感応度が、原油価格急落によるリスクを相殺 | ||
| SEK | 低インフレと低利回りが重しとなる一方、成長は改善 | ||
| AUD | RBAの据え置き姿勢と足元の成長鈍化が一時的な重し | ||
| NZD | タカ派的なRBNZながら、景気回復は力強さを欠く |
注釈:上の表における各通貨の見通しは全てG10通貨平均との相対評価です。
出所:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年6月30日時点。
当社のスコアカードでは、堅調な株式市場のパフォーマンス、力強い経済指標、そして比較的高い金利水準を背景に、米ドルは高く評価されています。ただし、問題は米ドルがすでに十分な上昇を遂げていることにあります。さらに、7月2日に発表された軟調な雇用統計によって、経済成長が今後も加速し続けるのか、またFRBに追加利上げを迫るほどの勢いがあるのかについて疑問が生じています。市場が予想を下回る労働市場の結果を消化する過程で、米ドルには一時的な調整局面が訪れる可能性があります。しかしその先を見据えると、米ドルが継続的に弱含むと考えるのは容易ではありません。米国の経済成長、企業の収益力、そして金利水準は依然としてG10諸国の中でも最も魅力的な水準にあります。この状況が変わらない限り、米ドルは引き続き堅調に推移すると考えられますが、直近の高値を大きく上回るほどの上昇余地は限られるでしょう。
夏以降に目を向けると、米ドルが下落基調に転じるシナリオも明確に見えてきます。原油価格の下落を背景に、今後数カ月でインフレ率は鈍化し、総合インフレ率がマイナスとなる月も現れる可能性があります。同時に、2026年前半の税還付による追い風がなくなることや、ワールドカップ関連支出の反動、さらに力強さを欠く労働市場を背景に、消費者支出の勢いが失われる可能性もあります。AI関連設備投資のテーマは今後もしばらく継続すると考えられますが、AI分野以外での成長減速が第3四半期後半の経済成長やインフレを押し下げる可能性は、米ドルにとって明確なリスク要因です。
当社は引き続き、中長期的には米ドルに対して慎重な見方を維持しています。革新的な企業の存在や、柔軟で活力のある米国の労働市場および資本市場は、米国が依然として魅力的な投資先であることを支えています。しかし、関税やその他の政策に伴うマクロ経済リスクの高まり、高水準の政府債務と財政赤字、そして経常収支赤字は、米ドルの魅力を損なっています。そのため、魅力的で革新的な米国企業や投資機会への投資を維持しながら、米ドルの為替ヘッジ比率を引き上げることで、顕在化しつつある米国のマクロリスクに備えることが有効ではないでしょうか。
当社は、この戦略が今後数年にわたり一段と魅力を増すと考えています。そのため、米国に投資されている約33兆ドルの海外ポートフォリオ資産について、米ドルの為替ヘッジ比率は今後数年かけて徐々に高まると予想しています。また、投資家がよりバランスの取れたグローバル資産配分を求める中で、新たなポートフォリオ資金の流入に占める米国の割合は低下すると考えています。こうした動きは、長期にわたる米ドル安局面をもたらす、あるいは少なくとも米ドルのさらなる上昇余地を大きく制限する要因になる可能性があります。
景気後退の技術的定義とされる2四半期連続のマイナス成長、原油価格の下落、米国が米国・メキシコ・カナダ協定(カナダではCUSMAとも呼ばれます)の更新に応じないとの報道、そして目標水準に近いコアインフレ率は、いずれもカナダドルにとってマイナス要因です。しかし、当社は短期的には中立的な見方を維持しています。経済成長は弱く、金利水準も低いものの、足元では状況が徐々に改善しています。4月の国内総生産(GDP)は前月比プラス0.5%となり、景況感指数(PMI)の拡大基調、雇用の持ち直し、小売売上高の増加に支えられました。
米国がCUSMAの更新を拒否したことは好材料ではなく、今後10年間にわたり毎年見直しが行われるため、不透明感は継続するでしょう。しかし、これは当社がもともと想定していたシナリオであり、市場にも概ね織り込まれていると考えています。最善のシナリオは協定更新でしたが、米国が協定から離脱するリスクがやや後退しただけでも、輸出関連産業における企業の見通し安定化に寄与するはずです。その結果、設備投資や雇用計画の改善につながるとみていますが、その効果は限定的なものになるでしょう。
当社は中期的にはより前向きな見方をしています。金融政策は適切に緩和的であり、実質政策金利は0%近辺にあることから、長期的な均衡水準を下回っている可能性があります。経済成長が安定し改善に向かえば、実質政策金利は上昇していくと考えられます。CUSMA交渉についてはもう少し明確な見通しが必要ですが、経済に大きな悪影響を与えるような関税引き上げは想定していません。2027~2028年にかけては、カナダの住宅ローン金利低下が景気刺激要因となるでしょう。金利上昇局面のピーク付近で組まれた住宅ローンの借り換え時期を迎えることで、その効果が徐々に表れるとみています。同時に、米国経済は引き続き健全な成長を維持するものの、今年後半から来年にかけてインフレ率とともに減速すると予想しています。これにより、FRBの金融引き締め期待が抑制され、米国とカナダの金利差も縮小しやすくなるでしょう。
総じて、当社は経済環境が徐々に改善し、米ドル/カナダドル(USD/CAD)は2026年後半から2027年初めにかけて1.30台半ばまで低下すると予想しています。さらに、当社が長期的な米ドル弱気シナリオを維持していることを踏まえると、今後数年間でUSD/CADは1.20台、あるいはそれを下回る水準まで低下する可能性があると考えています。ただし、米ドル安そのものが逆風となるため、カナダドルはG10通貨(米ドルを除く)に対しては相対的に力強さを欠く展開が続く可能性があります。
当社はユーロに対して中立的な見方をしていますが、G10通貨の平均と比較するとやや弱気であり、米ドルに対してはより明確に弱気な見方を維持しています。7月初旬に米ドルが短期的な調整局面を迎える可能性はあるものの、その見方に変わりはありません。ユーロ圏経済は依然として低迷しており、第1四半期のGDP成長率はマイナス、小売売上高は低調で、サービス業PMIも弱い状況です。エネルギー価格の下落は一定の追い風となるものの、景気が大きく持ち直す要因にはなりにくいと考えています。
一方で、インフレ率は速やかに目標水準へ向かって低下するとみられ、欧州中央銀行(ECB)は政策金利を据え置くことが可能になるでしょう。その結果、市場が織り込んでいる年内2回目の利上げ期待は後退する可能性があります。低金利環境と限定的な景気回復見通しを踏まえると、ユーロは軟調に推移すると考えられます。特に、より力強い経済成長、高い金利水準、そして堅調な株式市場に支えられている米ドルに対しては、その傾向が強まるでしょう。
長期的には、当社は米ドルに対するユーロの見通しについて前向きに考えています。ただし、それは欧州経済の強さによるものではなく、主として米国側の弱さを背景とするものです。米国が貿易や安全保障において以前ほど信頼できるパートナーではなくなりつつある中、欧州の投資家が米国資産への集中した投資配分を見直し、少なくとも為替ヘッジ比率を引き上げる根拠は十分にあると考えています。
他のG10通貨に対する見通しについては、必ずしも楽観的ではありません。ユーロは日本円、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナ、カナダドル、豪ドルに対して割高な水準にあると考えており、今後数年間にわたり、これらの通貨に対して大きく劣後する可能性が高いとみています。
当社は英ポンドに対する見方を弱気から中立へと引き上げました。小売売上高、失業率、製造業およびサービス業のPMIがいずれも改善を示しているためです。さらに、原油価格の下落は、こうした景気の緩やかな持ち直しを後押しすると考えられます。政治面のリスクも一時的に落ち着いており、新首相就任が有力視されるバーナム氏は財政規律を順守する姿勢を示しています。当社は、現在市場が織り込んでいるような年内のイングランド銀行(BoE)による利上げは想定していませんが、政策金利が3.75%という水準にあることは、英ポンドを支える要因として十分機能すると考えています。
最近の経済指標や環境変化は一定の改善を示しており、これが当社の英ポンドに対する弱気スタンスを後退させた理由です。しかしながら、積極的に英ポンドを選好するほどの環境には至っていません。経済指標は弱い状態からやや前向きな水準へ改善したものの、失業率は依然として4.9%であり、PMIも成長の勢いが限定的であることを示しています。スターマー首相の辞任を受けて一時的な安心感による上昇局面があった可能性はありますが、その効果は長続きしないと考えています。英国経済と英ポンドは、高水準の債務、継続的な経常収支赤字、そして構造的に低い生産性成長という脆弱な土台の上に成り立っています。新首相がこれらの課題に取り組むことは容易ではなく、新たな財政支出や増税を伴わずに解決することは極めて困難でしょう。そして、そのいずれも投資家心理を悪化させる可能性があります。
長期的には、少なくとも米ドルやスイスフランに対しては、それほど悲観的な見方をしていません。3年から5年の投資期間でみると、英ポンド/米ドル(GBP/USD)は1.40を超える水準まで上昇すると予想しています。また、総収益ベースでみると、割高で利回りが低いスイスフランに対しても、今後数年間は英ポンドが優位になるとみています。一方で、米ドルとスイスフランを除くその他のG10通貨に対しては、中長期的に英ポンドは苦戦する可能性が高いと考えています。
円が対米ドルで40年ぶりの安値を更新したという見出しを見ると、6月の円が極端に弱かったような印象を受けます。しかし、円は確かに米ドルに対しては下落したものの、G10通貨の平均に対しては上昇しました。また、対米ドルで記録した40年ぶりの安値も、2024年7月の安値をわずか約0.5%下回る程度でした。つまり、この動きはそれほど劇的なものではなく、主として米ドル全般の強さによるものであって、円固有の弱さによるものではありません。
一方で、この数年間にわたる円安の水準は、円に有利な方向へ金利環境が徐々に変化してきたことを考慮すると、非常に顕著なものだったといえます。さらに、経済成長の改善、自律的に目標を上回るインフレ、堅調な企業業績、有望な企業改革、上昇する金利、AI関連設備投資ブームへの高いエクスポージャー、原油価格の下落、そして追加的な円安を抑制する為替介入リスクなど、多くの好材料が存在しています。こうした良好なファンダメンタルズに加え、ポートフォリオ資金の流れも徐々に日本に有利な方向へ変化しています。当社のスコアカードでは、円は米ドルに次ぐ第2位の評価となっています。
問題はタイミングです。日本銀行(BoJ)は依然として後手に回っており、実質金利は大幅なマイナス圏にあります。市場では、日本銀行の超緩和的な金融政策や、高市政権による長期的な財政支出計画が、引き続き実質金利と円に下押し圧力をかけると懸念されています。
そのため、円には大きな上昇余地があると考えているものの、そのためのきっかけが現れるまでは大幅な円高は見込みにくいと考えています。想定されるきっかけとしては、財政政策の方向性に関するさらなる明確化、日本銀行によるより強力なフォワードガイダンス、世界的なリスクオフ局面の発生による株式市場やキャリートレードの巻き戻し、あるいは円高進行によって海外資産に十分な為替ヘッジをかけていない日本の投資家が影響を受ける状況などが挙げられます。
長期的には、当社は円が米ドルに対して大きく上昇する余地があると考えています。当社の長期的な米ドル弱気シナリオに沿って、今後3~5年の間に米ドル/円は120~130円程度のレンジまで低下する可能性が高いとみています。
当社のモデルでは、経済指標の改善、原油価格の下落、そして短期的なバリュエーションモデルからの前向きなシグナルを背景に、スイスフランに対してG10通貨全体に対する強気な見方を維持しています。ただし、この見方の大部分は短期的なバリュエーションシグナルによるものであり、その効果は通常数週間程度しか持続しません。
短期的な支援要因が存在する可能性はあるものの、当社は引き続きスイスフランの下落リスクを意識しています。金と同様に、スイスフランも世界的な実質金利および名目金利が上昇する局面では魅力が低下すると考えています。なぜなら、スイスの政策金利は名目で0%、実質ではマイナスとなっているためです。さらに重要なのは、スイス国立銀行(SNB)が過度なスイスフラン高を防ぐため、必要に応じて市場介入を行う姿勢を明確にしていることです。一方で、コアインフレ率は前年比0.3%にとどまっており、政策金利を0%に据え置く余地を与えています。こうした環境は、政策金利が3.6%を超えている米ドル、豪ドル、ノルウェークローネ、英ポンドと比較すると、スイスフランにとって不利な条件といえます。
また、マイナス幅が拡大する金利キャリーコストを考慮したトータルリターンの観点からみると、スイスフランがG10通貨全体をアウトパフォームする姿は想定しにくい状況です。米ドルに対してでさえ、スイスフランは今後3~5年の間にさらに10~15%程度上昇しなければ、不利な金利差によるマイナスの影響を相殺できない計算になります。
さらに、今後1~3年にかけて想定される米ドル資産からのポートフォリオ分散についても、スイスフランは他の通貨ほど恩恵を受けないと考えています。スイスの投資家はもともと外貨エクスポージャーの大部分に対して為替ヘッジを実施している傾向があります。そのため、米ドル資産に対する為替ヘッジ比率をさらに引き上げる余地はそれほど大きくありません。言い換えれば、米ドル売りとスイスフラン買いが新たに発生する余地は、他の主要通貨と比べて限定的であると当社は考えています。
当社は一時的にノルウェークローネに対する見方を弱気へと引き下げました。原油価格の急落と株式市場センチメントの弱含みが、短期的な見通しを悪化させているためです。実際、6月のノルウェークローネは米ドルに対して6.7%、ユーロに対して4.5%劣後しており、下落の多くはすでに実現した可能性があります。しかし、来年の原油供給過剰に対する投資家の懸念は当面続くとみています。ホルムズ海峡経由の輸送拡大の動きや、来年に向けた世界的な原油増産計画、さらに中国を中心とする原油需要減少の一部が恒久的なものになるのではないかとの懸念が背景にあります。こうした不安は一定の合理性があり、しばらく市場に残り続けることで、原油価格とノルウェークローネのさらなる下押し圧力になる可能性があります。また、エネルギー関連企業の構成比率が高いことから、ノルウェー株式市場の低調なパフォーマンスにもその影響が表れています。
一方で、明るい材料もあります。ノルウェーのコアインフレ率は依然として3%を上回っており、ノルウェー中央銀行(Norges Bank)の政策金利は4.25%に据え置かれています。これは豪州と並び、G10通貨の中でも最も高い金利水準の一つです。今年のGDP成長率については、ブルームバーグのコンセンサス予想が1.3%とやや弱めであり、小売売上高も力強さを欠いていますが、経済成長は安定しており、2027年には緩やかな改善が見込まれます。原油価格が戦後の新たな均衡水準を見つければ、ノルウェークローネは大きく反発する条件が整っていると考えています。このため、長期的な見通しについてはより前向きな姿勢を維持しています。
また、ノルウェークローネは当社の推定する適正価値と比較して歴史的に割安な水準にあります。加えて、安定した長期的な潜在成長率と健全なバランスシートにも支えられており、長期的には魅力的な投資対象であると考えています。
当社は引き続きスウェーデンクローナに対して戦術的には弱気な見方を維持していますが、注目すべき前向きな兆候もいくつか見られます。今後の市場では経済成長と金利がより重視されると考えていますが、その観点からみると、スウェーデンクローナには依然として克服すべき課題が多く残っています。具体的には、リクスバンク(スウェーデン中央銀行)の政策金利が1.75%と低い水準にあることが挙げられます。この水準は、前年比0.5%にとどまるコアインフレ率と、2023年の7.2%から上昇した8.7%の失業率を背景に正当化されています。今年のGDP成長率は約2%と予想されており、G10通貨圏の中では比較的良好な水準ですが、低い金利水準を補うには十分ではありません。
一方で、改善の兆しも徐々に積み上がっています。サービス業および製造業のPMIはいずれも景気拡大の勢いが強まっていることを示しています。また、コアインフレ率は前年比0.5%と依然低水準ではあるものの、4月までの前年比0.0%から上昇しています。ただし、原油価格の下落はインフレ圧力をさらに和らげる可能性があり、リクスバンクが当面様子見姿勢を維持する要因となるでしょう。しかし、スウェーデンは主要な原油輸入国であることから、原油価格の大幅な下落は企業や家計のコスト負担を軽減し、経済成長を支える効果が期待されます。こうした前向きな動きが継続すれば、スウェーデンクローナの見通しもそれに応じて改善していくと考えています。
長期的には、バリュエーション面でもスウェーデンクローナに優位性があります。実質実効為替レートベースでみると、スウェーデンクローナは歴史的に割安な水準にあります。また、スウェーデンの政府債務残高はGDP比33%と低く、財政負担が過度に大きくなっている国が多い世界の中で大きな強みとなるでしょう。
さらに、当社の長期的な米ドル弱気シナリオに基づけば、今後数年にわたり進むとみられる世界的なポートフォリオの再配分によって、スウェーデンも恩恵を受けると考えています。スウェーデンおよび欧州連合(EU)の投資家が保有する多額の海外資産について、米国資産への集中を見直す動きが進む可能性があります。たとえそれが米ドル資産に対する為替ヘッジ比率の引き上げという形であったとしても、長期的にはスウェーデンクローナにとって大きな追い風になると考えています。
オーストラリアドルは、4%を超える政策金利、完全雇用に近い労働市場、そして良好な長期成長見通しに支えられており、当社は中期的な視点でG10通貨の中でも有力な通貨の一つと考えています。しかし、短期的な環境はやや厳しく、レンジ相場を中心としながらも若干弱含みの展開を予想しています。エネルギー価格や鉄鉱石価格の継続的な下落は逆風となっており、住宅価格の軟化に加え、オーストラリア準備銀行(RBA)に対する市場の見方が利上げ期待から政策金利据え置きへと変化したことも重しとなっています。また、年初から5月まで続いた人民元上昇局面が終了したことや、中国による目立った財政刺激策の拡大が見られないことも、オーストラリアドル上昇の重要な材料を失わせています。
一方で、明るい材料もあります。家計支出は持ち直しており、総合PMIは再び50を上回る水準に回復したことで、緩やかな景気拡大が示唆されています。また、労働市場も安定しており、失業率は前月の4.5%から4.4%へと低下しました。高い金利水準、完全雇用に近い雇用環境、データセンター建設の拡大、そして精製石油製品価格の下落は、いずれオーストラリアドルの新たな上昇を支える要因になると考えています。ただし当面は、不安定な値動きが続く可能性が高いとみています。
数年単位の長期的な視点では、当社はオーストラリアドルに対してかなり前向きな見方をしています。オーストラリアの投資家は、為替ヘッジを行っていない米ドル建て資産を多く保有しているとみられ、それらについて今後は為替ヘッジ比率の引き上げや、より分散されたグローバルポートフォリオへの資産シフトが進む可能性があると考えています。また、世界が新たな関税体制に適応していくにつれて、オーストラリアドルには長期的に大きく上昇する余地があるとみています。
当社はニュージーランドドルについて、G10通貨平均に対して中立的な見方を維持しています。原油価格の下落は、2024~2025年の景気後退から緩やかに回復しつつあるニュージーランド経済にとって明確な追い風です。しかしながら、現在の経済成長の勢いは依然として力強さを欠いています。ニュージーランド準備銀行(RBNZ)は7月8日の会合で利上げを実施する可能性がありますが、その場合でも政策金利は2.5%にとどまり、G10通貨圏の中では依然として低い水準です。さらに重要なのは、原油価格の急落によって、利上げが行われたとしてもハト派的な内容となるリスクが高まっていることです。第2四半期のインフレ率上昇を一時的なものとして受け流し、景気回復を優先する余地が政策委員会に生まれているためです。
ニュージーランドドルは割安な水準にありますが、政策金利が完全に正常化へ向かうとの期待や、景気回復が加速するとの見通しは依然として確信を持てるものではありません。そのため、現時点で当社が積極的な見方へ転じるには至っていません。
長期的な見通しについては、やや複雑です。当社の長期的な適正価値の推計によると、ニュージーランドドルは米ドルおよびスイスフランに対しては割安であり、上昇余地が十分にあると考えています。一方で、日本円や北欧通貨に対しては割高な水準にあるとみており、それらの通貨に対して大きく上昇する余地は限定的であると考えています。