米ドル安の進行により、G10通貨の中で選別的な投資機会が生まれています。しかし、米国の底堅いファンダメンタルズ、高い金利水準、そして地政学的な不透明感を踏まえると、持続的な米ドル弱気相場の始まりと判断するには時期尚早です。
さまざまな変動要因が想定されるものの、好材料と悪材料が拮抗していることから、当社では、夏場を通じて市場は方向感に欠ける不安定な展開となり、概ね一定のレンジ内で推移すると引き続き予想しています。
イランとの武力衝突の再燃に加え、フーシ派によるサウジアラビアへの攻撃など、他国へ戦闘が拡大する可能性もあり、原油価格は高止まりする可能性が高いと考えています。しかし、原油価格や債券利回りが過度に上昇した場合には、トランプ大統領が事態のエスカレーションを回避するとの投資家の見方が、現時点では市場の反応を和らげています。また、予想を上回る第2四半期の成長率やインフレ率のデータは、今回の衝突による経済への影響が依然として限定的であることを示しています。
こうした市場の落ち着きの一部は、楽観的すぎる可能性もあると当社は認識しています。イランとの衝突が長期化し、世界の原油在庫の減少が進み、戦闘がさらに拡大すれば、市場が大きく混乱するリスクは高まります。しかしながら、現時点ではまだその転換点には至っていないとみています。
個別通貨の観点からも、相場が一定のレンジ内で推移することを示唆するプラス要因とマイナス要因が混在しています。米ドルについては、インフレ率、雇用創出ともに市場予想を下回り、米連邦準備制度理事会(FRB)もハト派的な反応を示していることから、追加的な材料はドル安方向に働いています。一方で、米国経済は依然として完全雇用、またはそれに近い状態にあり、国内需要も堅調です。さらに、金利水準はG10通貨の中でも高く、原油価格の高止まりも米ドルの支援材料となっています。また、FRB当局者が方針を転換し、よりタカ派的な姿勢を示す可能性もあります。
欧州、英国、オーストラリアの成長率データはいずれも最近市場予想を上回りました。しかし、ユーロは平均を下回る金利水準やエネルギー価格上昇への感応度の高さによって上値が抑えられています。英国は、当社の予想を上回る成長率と高い金利水準の恩恵を受けていますが、失業率は依然として高く、経済はエネルギーコスト上昇の影響を受けやすい状況にあります。また、新たに発足したバーナム政権は財政面での制約に直面する可能性が高いとみています。
オーストラリアでは、個人消費と労働市場が引き続き底堅く推移しており、金利水準もノルウェーと並んでG10通貨の中で最も高い水準にあります。しかし、インフレ率が予想を下回り、住宅価格も下落していることから、オーストラリア準備銀行(RBA)には慎重な姿勢を維持する余地があります。
日本円についても、政府・日銀による協調介入や堅調な国内成長に支えられていますが、日本銀行がより速いペースで利上げを進め、高市政権が財政面への懸念を和らげる措置を講じない限り、大幅な円高は限定的にとどまる可能性があります。
より広い観点では、現在のプラス材料とマイナス材料の組み合わせは、市場の方向感を欠いた不安定な展開をもたらす可能性が高いと考えています。そのような環境下では、当社は引き続き魅力的な成長機会とキャリー収益機会の組み合わせを選好する一方、地政学リスクや投資家心理の影響を受けやすい資産については慎重な見方を維持します。
これは、米ドルのショートポジションについては戦術的な位置付けにとどめ、過度に強い確信を持たないことを意味します。今後、米ドルのロングポジションを取る機会が再び現れる可能性が高いとみているためです。当社は、慢性的な低成長、平均を下回る利回り、高い債務水準、そしてエネルギー価格への感応度の高さから、ユーロは脆弱であると考えていますが、短期的にユーロのショートポジションから大きな収益が得られるとは予想していません。一方で、スイスフランについては、利回りがほぼゼロであること、インフレ率が極めて低いこと、スイス国立銀行(SNB)が過度なフラン高を抑制するために介入する意向を示していること、さらにスイス経済が低迷する欧州連合(EU)の成長の影響を受けやすいことから、ショートポジションに対してより強い確信を持っています。
スイスフランは歴史的に安全資産として認識されてきたことから、現時点では日本円または米ドルのロングポジションを通じてこの見方を反映させるのが適切と考えます。ただし、イラン紛争が収束した後には、スウェーデンクローナやオーストラリアドルのロングポジションの魅力が一段と高まる可能性があります。
ノルウェークローネは高い利回りの恩恵を受けていますが、経済成長は力強さを欠き、インフレ率も予想を下回っています。高金利と高止まりする原油価格は支援材料ですが、原油価格の変動性が高いことから、投資リスクも大きくなります。持続的な円高が実現するのは、まだ数四半期先であり、むしろ2027年のテーマになる可能性が高いと考えています。それでも、介入効果による追い風は継続すると予想しており、下値リスクも限定的であることから、投資家はキャリー収益を得ながら、より持続的な円高を待つことができる日本円は、スイスフランに対して魅力的であると考えています。
今後数カ月間の市場変動をそれほど重視しない長期投資家にとっては、オーストラリアドル、日本円、スウェーデンクローナ、ノルウェークローネ、カナダドルのロングポジションと、米ドル、スイスフラン、そして程度は小さいもののユーロや英ポンドのショートポジションとの組み合わせには、大きな投資価値があると当社は考えています。
図表2: 2026年8月の方向性見通し
| 短期見通し | 中長期的見通し | Comment | |
| USD | 高金利と堅調な成長を維持する一方、モメンタムは鈍化 | ||
| CAD | 景気改善と原油高が追い風も、上昇余地は限定的 | ||
| EUR | 低金利・低成長が重石 | ||
| GBP | 高金利ながら低成長と財政不透明感が重石 | ||
| JPY | 為替介入は追い風だが、追加的な政策支援が必要 | ||
| CHF | 成長は安定も割高かつ低利回り | ||
| NOK | 高金利と原油高が支援材料だが変動性は高い | ||
| SEK | 低インフレと低金利は重石だが景気は改善中 | ||
| AUD | RBAの様子見姿勢と住宅価格の軟化が重石 | ||
| NZD | RBNZはややタカ派だが景気回復は緩やか |
注釈:上の表における各通貨の見通しは全てG10通貨平均との相対評価です。
出所:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年7月31日時点。
米ドルは、予想を下回る雇用統計やインフレ率、第2四半期のGDP成長率(前期比年率+1.5%)、さらに7月27日の米連邦準備制度理事会(FRB)会合が市場でハト派的と受け止められたことを受け、8月入りとともに下押し圧力に直面しています。しかし、8月中に雇用やインフレのさらなる弱含みが確認されない限り(その可能性は十分ありますが)、当社は戦術的な米ドル売り以上のポジションには慎重であるべきだと考えています。
米ドルは引き続き堅調なファンダメンタルズに支えられています。最終国内需要は年率換算で3.9%のペースで拡大しており、失業率も低水準です。金利は依然としてG10通貨の中でも高い水準にあり、FRB当局者も信認回復のためによりタカ派的な姿勢を示す可能性があります。加えて、イラン紛争を巡る継続的なリスクも米ドルの支援材料となっています。
一方で、夏以降に目を向けると、消費者支出は上半期の税還付やワールドカップ関連支出による押し上げ効果を失い、特に労働市場の軟化を背景として勢いを失う可能性があります。人工知能(AI)関連の設備投資拡大というテーマは当面継続するとみられますが、AI関連分野以外の経済活動の減速が年後半の成長率やインフレ率を下押しし、米ドルにとって明確な下振れリスクとなる可能性があります。
当社は米ドルに対する中長期的な弱気見通しを維持していますが、持続的な弱気相場に伴うリスクが差し迫っているとは考えていません。革新的な企業群や、柔軟性と活力に富んだ米国の労働市場・資本市場は、引き続き世界的に魅力的な投資先であると考えています。しかし、関税やその他の政策判断に起因するマクロ経済リスクの高まり、多額の債務と財政赤字、そして恒常的な経常赤字によって、米ドルの魅力は以前より低下しています。
こうした環境の下で、投資家は革新的な米国企業やその他の魅力的な投資機会へのエクスポージャーを維持しながら、拡大するマクロ経済リスクを軽減する手段として、米ドルの為替ヘッジ比率を引き上げることを検討してもよいでしょう。当社は、この戦略の魅力が今後数年にわたり高まっていくと考えています。
その結果、米国内で保有される33兆米ドル規模の海外ポートフォリオ投資に対して、為替ヘッジの利用が今後数年かけて徐々に拡大すると予想しています。また、投資家がよりバランスの取れたグローバル資産配分を志向する中で、米国が新規ポートフォリオ資金流入に占める割合は縮小すると考えています。この変化は、米ドルの長期的な下落圧力につながるか、少なくとも今後の米ドル上昇を大きく抑制する要因になるとみています。
2025年第4四半期と2026年第1四半期に2四半期連続でマイナス成長となったことで定義されるテクニカルリセッション、2.25%という低い政策金利、カナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA)の枠外で追加的な米国関税が課される可能性、そして目標を下回るコアインフレ率は、いずれもカナダドルにとってマイナス要因です。しかし、当社のモデルは強気シグナルへと転じました。成長率は低く金利も低水準ですが、状況は改善しつつあります。
5月の実質GDPは前月比0.3%増加し、4月の成長率も前月比0.6%増へ上方修正されました。これは、拡大を示す製造業PMI、雇用の増加、小売売上高のプラス成長、そして原油価格の回復に支えられています。米国がCUSMAの更新を見送ったことや追加関税を示唆していることは好ましい展開ではなく、引き続き不透明感をもたらすでしょう。しかし、これは当社の基本シナリオであり、市場には既に織り込まれていると考えています。協定の更新が最も望ましい結果であったことは間違いありませんが、米国が協定から離脱するリスクがわずかでも低下すれば、輸出関連産業の企業マインドの安定化につながるはずです。時間の経過とともに、それは設備投資や採用計画の下支えになる可能性があります。
景気回復は依然として脆弱であり、低金利環境を踏まえるとカナダドルのロングポジションには慎重な姿勢が必要です。それでも当社は、モデルがファンダメンタルズの実質的な改善を捉えていると考えており、少なくともさらなる下落余地は限定的になるとみています。
当社は中期的にはより前向きな見方をしています。金融政策は適切に景気支援的であり、0%近辺にある実質政策金利は長期的な均衡水準を下回っている可能性が高いことから、成長率が持続的に改善すれば金利は上昇していくと考えています。CUSMA交渉を巡るさらなる明確化は依然として必要ですが、経済に大きな打撃を与えるような関税引き上げは想定していません。
2027年から2028年にかけては、カナダの住宅ローン金利低下による景気刺激効果が一段と強まるとみています。これは、高金利期に組まれた住宅ローンが、より低い金利で借り換えられていくためです。同時に、米国経済は引き続き健全な成長を維持するものの、今年後半から来年にかけてインフレ率とともに徐々に減速すると予想しています。これにより、FRBによる追加引き締め観測は抑制され、米国とカナダの金利差は縮小していくと考えています。
総じて、当社は経済環境が徐々に改善し、それに伴ってUSD/CADは2026年末から2027年初めにかけて1.30台後半から半ばの水準へ低下すると予想しています。最終的には、当社の長期的な米ドル弱気見通しを踏まえると、USD/CADは今後数年で1.20近辺まで低下すると考えています。ただし、カナダドルは米ドルを除くG10通貨と比較すると出遅れる可能性が高いとみています。米ドルの広範な下落が、通常であれば追い風となるはずの環境でありながら、カナダドルにとってはかえって逆風として作用する可能性があるためです。
当社は、GDPやPMIの改善、失業率が過去最低水準に近い6.3%にあること、さらに欧州中央銀行(ECB)が9月の利上げに前向きな姿勢を示していることなどを踏まえても、ユーロに対してはG10通貨平均との比較で引き続き慎重な見方を維持しています。課題は、イラン紛争とそれに伴う原油価格の上昇が当面続く可能性が高く、成長見通しの重荷となることです。ECBがさらに1回または2回利上げを行ったとしても、成長への逆風を強める一方で、ユーロがG10通貨の中で高利回り通貨の仲間入りをするには至らないため、ユーロを大きく支援する材料にはならないと考えています。
このような景気循環面での強弱材料が混在する状況に加え、高い債務水準、中国との競争激化、人工知能(AI)投資サイクルへの関与の限定性、成長重視の構造改革の進展の遅れといった長期的な構造課題が重なり、ユーロにとっては厳しい環境となっています。
長期的には、当社は対米ドルでユーロに対して前向きな見方を維持しています。ただし、その主な理由は欧州の強さではなく、米ドルの弱さを見込んでいるためです。前述のとおり、米国が貿易や安全保障の面で以前ほど信頼できるパートナーではなくなりつつある中、欧州の投資家が米国資産への集中したエクスポージャーを縮小する、あるいは少なくとも為替ヘッジ比率を引き上げる合理的な理由があります。この動きは、ユーロの対米ドル相場を一定程度支える要因になると考えています。
しかし、他のG10通貨に対する見通しはそれほど良好ではありません。ユーロは、日本円、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナ、カナダドル、オーストラリアドルに対して割高に見受けられ、今後数年間にわたり、これらの通貨に対して大幅に劣後すると予想しています。
当社は英ポンドについて、G10通貨平均との比較では中立的な見方を維持しています。小売売上高や雇用統計に加え、製造業・サービス業のPMIはいずれも当社の予想を大きく上回る改善を示しています。また、政治リスクも一時的に後退しており、次期首相就任が見込まれるバーナム氏は財政規律を順守する方針を表明しています。
しかし、こうした最近の改善を相殺する要因も存在します。英国経済は依然としてエネルギー価格上昇の影響を受けやすく、失業率も高止まりしています。また、足元の景気回復は依然として脆弱です。加えて、当社はイングランド銀行が今後1年間で市場が織り込んでいる2.5回分の利上げを実施するとは考えていません。さらに、新政権を取り巻く好意的なムードも長続きしない可能性が高いとみています。政権は、構造的な低成長問題、限られた財政余地、そして財政運営を厳しく監視する債券市場という大きな課題に直面するためです。
長期的な見通しについては、少なくとも米ドルやスイスフランに対しては、やや前向きな見方をしています。3年から5年程度の期間では、GBP/USDは1.40を上回る水準まで上昇すると予想しています。また、今後数年間にわたり、英ポンドは割高で低利回りのスイスフランをトータルリターンベースで上回るパフォーマンスを示すと考えています。
一方で、米ドルとスイスフランを除く他のG10通貨に対しては、英ポンドの見通しはそれほど良好ではありません。当社は、中長期的に英ポンドはG10通貨の多くに対して相対的に苦戦すると予想しています。
日本円は、バリュエーション、経済成長率、金利上昇、対外証券投資の純流出の鈍化、堅調な国内株式市場、自律的に目標水準付近またはそれを上回って推移するインフレ率、さらには為替介入を通じた通貨政策など、さまざまな観点から魅力的に見えます。日米による円支援のための協調介入は重要な進展であり、これまでの介入よりも高い効果を発揮する可能性が高いと考えています。同時に、日本銀行は年2回としていた利上げペースを加速させる可能性を示唆しており、この動きはスコット・ベッセント米財務長官にも歓迎される可能性があります。
課題は、持続的な円高サイクルが始まるタイミングです。協調介入によってUSD/JPYの取引レンジはすでに切り下がった可能性があり、155円近辺の抵抗線を下回れば、150円方向へ進む展開も考えられます。しかし、日本銀行が利上げペースを加速させる可能性が示されているにもかかわらず、短期金利は依然として低く、実質政策金利も大幅なマイナス圏にあります。また、市場では、超緩和的な金融政策や高市政権の中長期的な財政支出計画が、引き続き実質金利と円相場の重荷になるとの見方も根強く残っています。
その結果、日本円には大きな長期的上昇余地があると考えているものの、短期的な上昇余地はより限定的とみています。ただし、スイスフランのような低利回り通貨に対しては、依然として相対的な魅力があります。一方、高利回り通貨に対してはより慎重な見方をしており、より強力なファンダメンタルズ上の材料がない限り、キャリーコストを相殺できるほどの十分に強く持続的な円高トレンドはまだ確認できていません。
今後の円高を後押しする要因としては、日本の財政見通しに関する透明性の向上、日本銀行によるより明確なフォワードガイダンス、世界的なリスク回避局面による株式市場やキャリートレードへの圧力、あるいは円高進行によって為替ヘッジが不十分な日本の海外資産保有投資家に実質的な損失が発生し始めることなどが考えられます。
長期的には、当社は対米ドルで日本円に大きな上昇余地があると考えています。当社の長期的な米ドル弱気見通しとも整合的に、USD/JPYは今後3年から5年の間に120円から130円程度のレンジまで低下すると予想しています。
当社のモデルは、インフレ率と成長率の弱含みを受けて、G10通貨に対するスイスフランの見通しをやや弱気方向へ修正しました。また、先月は強気シグナルを示していた短期的なバリュエーションモデルも、中立的な評価へと変化しています。
先月と同様に、当社はモデルのスコアが示す以上に、スイスフランには下落リスクがあると考えています。また、世界的に実質金利・名目金利が上昇する中で、スイスの名目政策金利はゼロ%、実質政策金利はマイナスであるため、スイスフランの魅力は相対的に低下しています。特に重要なのは、スイス国立銀行(SNB)が過度なフラン高を抑制するために介入する用意があることを明確にしている一方で、コアインフレ率が前年比わずか0.3%にとどまっているため、政策当局には金利を0%に据え置く余地が十分にあることです。
こうした状況は、政策金利が3.6%を超える米ドル、オーストラリアドル、ノルウェークローネ、英ポンドと比較すると、スイスフランにとって不利な環境と言えます。スイスフランのロングポジションに伴うマイナスの金利キャリーを考慮したトータルリターンの観点からは、スイスフランがG10通貨全体を上回るパフォーマンスを示す姿は想定しにくい状況です。米ドルに対してでさえ、今後3年から5年の間にスイスフランがさらに10~15%程度上昇しなければ、マイナスのキャリーコストを相殺できない可能性があります。
また、今後1~3年にわたり進むとみられる米ドル資産からのポートフォリオ分散投資の流れが、スイスフランに対して他の通貨ほど大きな恩恵をもたらすとは考えていません。スイスの投資家はすでに海外資産に対する為替ヘッジ比率が比較的高いため、米ドルの為替ヘッジ比率をさらに引き上げる余地は限定的です。言い換えれば、他の主要通貨市場と比べると、継続的な米ドル売り・スイスフラン買いが進む余地は小さいと考えています。
総じて、当社はスイスフランが、低利回り、緩和的な金融政策、介入リスク、そして世界的なポートフォリオ再配分の恩恵を受けにくいという不利な要因の組み合わせに直面していると考えています。その結果、中期的にはG10通貨の多くに対して相対的に軟調な推移となる可能性が高いとみています。
ノルウェークローネは原油価格の大きな変動と連動して推移しており、その結果、6月にはG10通貨の中で最もパフォーマンスが低かった一方で、7月には最もパフォーマンスの高い通貨となりました。イラン紛争やホルムズ海峡を通過する原油輸送への混乱は、当面続く可能性が高いとみられます。これは、ノルウェー中央銀行(Norges Bank)の魅力的な4.25%の政策金利とともに、ノルウェークローネを支える要因になると考えています。
しかし、だからといって夏場にノルウェークローネを積極的にロングすることが魅力的であるとは限りません。引き続き大きな変動が続く可能性があるためです。イラン紛争の緊張度合いは今後も変動する可能性が高く、それに伴って原油価格も上下両方向に大きく動くと考えられますが、ノルウェークローネはその影響を受けやすい傾向があります。一方で、国内経済の成長は依然として力強さを欠いており、6月のコアインフレ率も市場予想の3.3%を下回る2.7%となりました。これにより、ノルウェー中央銀行がさらなる利上げを行う必要性は低下しています。
その結果、短期的には原油価格の上昇や魅力的な利回りが支援材料となるものの、地政学的な不透明感、原油価格の高い変動性、そして国内経済の軟調さを踏まえると、慎重な姿勢が望ましいと考えています。
一方で、長期的な見通しについてはより前向きです。ノルウェークローネは、当社が推計する適正価値と比較して依然として歴史的に割安な水準にあり、安定的ではあるものの堅実な長期成長見通し、魅力的な利回り、そしてノルウェーの健全な財政基盤および対外収支に支えられています。こうした要因は、特に現在の地政学的な不透明感が後退し、市場の変動性が落ち着き始めた後に、ノルウェークローネが時間をかけて上昇していくための確かな基盤になると考えています。
当社はスウェーデンクローナに対して戦術的には引き続き慎重な見方を維持していますが、注視すべき前向きな変化もいくつか見られています。当社は、市場が今後ますます成長率や金利差に注目する展開になると考えていますが、その環境下ではスウェーデンクローナは依然として大きな課題を抱えています。とりわけ、スウェーデン中銀(リクスバンク)の政策金利は1.75%にとどまっており、その背景には前年比わずか0.4%のコアインフレ率と、2023年の7.2%という低水準から上昇した8.7%の趨勢失業率があります。今年のGDP成長率は約2%と予想されており、多くのG10諸国と比較すれば良好ですが、相対的に低い金利水準によるマイナス要因を完全に補うほどではないと考えています。さらに、スウェーデンはエネルギー輸入と欧州連合(EU)の需要への依存度が高く、いずれも米国とイランの対立の激化度合いによって影響を受けやすい状況にあります。
一方で、前向きな兆候もいくつか現れています。製造業・サービス業ともにPMIは景気拡大の強まりを示しており、コアインフレ率も前年比0.4%と依然低水準ながら、4月までの1年間における0.0%から改善しています。小売売上高も再びプラス成長に転じました。エネルギー価格上昇の影響を受けやすいにもかかわらず、スウェーデン経済は比較的高い耐久力を示しています。こうした傾向が続けば、中東情勢がより持続的に安定化した際には、スウェーデンクローナは反発に向けて良好な位置にあると考えられます。ただし、その実現には時間を要する可能性があります。
長期的な観点では、バリュエーション面が依然としてスウェーデンクローナの大きな魅力です。実質実効為替レートベースでみると、スウェーデンクローナは歴史的に割安な水準にあり、またスウェーデンの財政状況も依然として健全です。政府債務残高はGDP比33%にとどまっており、多くの先進国が財政負担の増大に直面する環境では有利に働くと考えています。
また、当社の長期的な米ドル弱気見通しの下では、スウェーデンも徐々に進むポートフォリオの再配分から恩恵を受けると予想しています。スウェーデンおよびEUの投資家は多額の海外資産を保有しており、米国資産への集中投資を分散させる余地は大きいと考えられます。この動きが資産売却ではなく米ドルの為替ヘッジ比率引き上げという形で進んだとしても、スウェーデンクローナにとっては長期的な追い風になるはずです。総じて、短期的な課題は残るものの、中長期的な見通しはますます前向きになっていると考えています。
当社はオーストラリアドルに対して引き続き前向きな見方を維持していますが、現時点では中立的なスタンスを取っています。オーストラリアドルは当社のバリュエーション指標では割安な水準にあり、G10通貨の中でも比較的高い利回りを提供しています。PMIは再び景気拡大を示す水準へ回復しており、労働市場も堅調です。また、インフレ率は引き続きオーストラリア準備銀行(RBA)の目標レンジを上回って推移しています。
課題は、経済成長や金利見通しそのものにあるわけではありません。むしろ、新たな政策要因はややハト派方向に傾いています。インフレ率が市場予想を下回る結果となった一方で、住宅価格は予想以上のペースで軟化しています。その結果、RBAは追加利上げについて市場が以前想定していたよりも慎重な姿勢を取る可能性が高いと考えています。
また、オーストラリアは精製石油製品価格や世界的なリスクセンチメントの影響を受けやすい経済です。これらはいずれも、複雑化が進む米国とイランの対立の行方に左右されやすい状況にあります。こうした要因は短期的な相場変動をもたらし、今後数カ月間のオーストラリアドルの上昇余地を限定する可能性があります。
しかし、数年単位の長期的な視点では、当社はオーストラリアドルに対して非常に前向きな見方をしています。特に、対米ドルおよび対スイスフランでは魅力的だと考えています。オーストラリアの投資家は、為替ヘッジを行っていない米ドル建て資産を相当程度保有しているとみられ、今後は為替ヘッジ比率の引き上げや、より国際的に分散されたポートフォリオへの資産配分の見直しが進む可能性があります。
市場が新たな関税体制に完全に適応し、世界の貿易パターンが安定化すれば、オーストラリアドルには大幅な長期上昇の可能性があると考えています。魅力的なバリュエーション、比較的高い利回り、そして堅調な経済ファンダメンタルズを併せ持つことから、オーストラリアドルは当社が長期的に選好する通貨の一つです。
当社はニュージーランドドルについて、G10通貨平均に対してやや前向きな見方をしています。ニュージーランド経済は2024年から2025年の景気後退から徐々に回復しており、製造業PMIと消費者信頼感指数はいずれも最近さらに改善の兆しを示しています。ニュージーランド準備銀行(RBNZ)は政策金利を25ベーシスポイント引き上げて2.5%とし、追加利上げの可能性も残されていることを示唆しました。市場では現在、2027年5月までにさらに4回の利上げが実施されることが織り込まれています。
こうした改善が見られる一方で、当社は引き続きニュージーランドドルに慎重な姿勢を維持しています。エネルギー価格のさらなる上昇は景気回復を損なう可能性があり、またニュージーランドの交易条件は3月以降着実に悪化しています。コアインフレ率はRBNZの目標レンジである2~3%の範囲内に収まっており、特に米国とイランの対立が解消されてインフレ圧力が和らぐ場合には、市場が予想しているほど追加利上げを急ぐ必要はないと考えています。
政策金利は上昇したものの、2.5%という水準はG10通貨の中では依然として低く、とりわけ大幅かつ恒常的な経常赤字を抱える経済としては低水準です。バリュエーションの観点ではニュージーランドドルは割安に見えますが、金利の完全な正常化や持続的な経済成長加速が実現するとの確信を持つには、依然として不確実性が高いと考えています。そのため、現時点で積極的な見方に転じるには至っていません。
長期的な見通しについては、やや複雑な評価となります。当社の長期的な適正価値の推計によれば、ニュージーランドドルは米ドルやスイスフランに対して割安であり、それらの通貨に対しては十分な上昇余地があると考えています。一方で、日本円や北欧通貨に対しては相対的に割高に見え、これらの通貨との比較では上昇余地が限定的であり、時間の経過とともにパフォーマンスが劣後する可能性があります。
総じて、景気循環面の環境は改善しており、バリュエーションも追い風となっていますが、当社は投資家に対し、経済回復と金融政策正常化のサイクルがより確実に定着していることを示す強い証拠が得られるまで、選別的かつ辛抱強い姿勢を維持することを推奨します。