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日本への回帰

過去1年間、世界の2大経済大国である米国と中国の株式市場はリターンを押し上げ、注目を集めてきました。今月は、景気に復調の兆しがあり、新たな関心が高まっている日本に注目してみたいと思います。日本に目を向けると、企業の利益が増加し、株価のバリュエーションが妥当な水準に近づき、企業がリターン拡大のカタリストとなっていることが分かります。

Head of Active Portfolio Management

米国と中国を超える

過去1年以上にわたって繰り広げられてきた米国と中国の株式市場をめぐる展開は、今ではよく知られたものとなっています。第1に、米国の株式市場は米国例外主義と人工知能(AI)が引き起こした熱狂によって、揺らぐことのない上昇軌道に乗っています。こうした株価の上昇は、分散化、ファンダメンタルズ、集中リスクに関する過去の論評で述べた通り、少数の勝ち組銘柄に集中しています。

第2に、世界第2の経済大国である中国の株式市場は、経済成長の鈍化、不動産危機、世界的な生産拠点の本国回帰(リショアリング)の動き、政府の行き過ぎた市場介入などによって投資家の意欲は削がれ、苦戦を強いられています。3月の全国人民代表大会(全人代)で発表された支援策は、こうした逆風の一部に対処するうえで有効かもしれませんが、これまでのところ市場の反応は鈍いままのようです。

相場が直近の安値に近い水準にあった昨年9月末以降、米国の株式市場は46%のリターンを記録し、一方、中国の株式市場のリターンははマイナス2%(いずれも現地通貨ベース1)となっています。 両国のファンダメンタルズと中国が直面している逆風を考えれば、こうした相場動向に驚きはありません。しかし、もう1つの主要市場である日本の同時期のリターンは52%と米国をアウトパフォームし、注目に値します。

日本の株式市場が他の国々の株式市場をアウトパフォームした背景には、業績予想の上方修正および株価収益率(PER)の上昇があります。米国企業の予想利益は引き続き増加しています。しかし、日本や欧州と比べてPERで見たバリュエーションが割高であり、投資家は大幅なプレミアムを支払う必要があります。

図表 1 リターン、予想利益変化率、およびバリュエーション

  指数トータルリターン (%) 予想利益変化率 (%) 12カ月予想PER(倍)
日本 52% 13% 15.5
米国 46% 6% 20.8
ワールド・インデックス 42% 6% 18.2
欧州 32% 10% 13.4
新興国市場 19% 2% 12.0
太平洋地域(除く日本) 18% -1% 14.8
中国 -2% 3% 9.1

出所:ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、MSCI、FactSet。MSCI指数の2023年9月30日から2024年2月29日までの現地通貨ベースのリターン、12カ月コンセンサス予想利益の2023年9月30日から2024年2月29日までの変化率、2024年2月29日現在の予想PER。過去の実績は将来のパフォーマンスの信頼できる指標ではありません。

日本市場では相場を牽引する銘柄の集中度は米国市場よりも低く、上位10銘柄がMSCIジャパン指数の上昇分に占める割合は全体の34%にすぎません。これに対し、米国市場では上位10銘柄で全体の83%を占めており、上昇のかなりの部分はAIの波に乗る超大手有名半導体メーカー1社によるものです。米国以外の市場の幅が広がったことは、銘柄を選別する株式投資家にリターンを創出の機会を与える一方、米国では「マグニフィセント・セブン」か、あるいはそれ以外の銘柄を選ぶかが、投資判断の上でる重要になっているのです。

変わりつつある日本

現在の日本市場の相対的な魅力についての当社の見解は、単にいくつかの単純な比率を前提としているわけではありません。当社の高い評価はむしろ、これらの比率を支えるポジティブなストーリー、すなわち、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの同僚が日本に関する最近の記事で説明した、より幅広い構造的な変化のナラティブに基づいています。こうした構造変化の中には長年にわたる取り組みの成果もあります。特に企業改革は日本企業の取締役会に前向きの変化をもたらし、株主をより重視する政策が採用されるようになりました。東京証券取引所はコーポレート・ガバナンスと資本効率の改善を目的とした最近の指導および介入を通じて、こうした動きを引き続き後押ししており、企業が多額の手元資金を成長資金として再投資するアプローチへと変化をもたらしています。

最近の改革が市場全体の方向性だけでなく、日本の株式市場におけるリターンの相対的な決定要因にも影響を及ぼしているという暫定的な兆候が見られます。「失われた30年」の間、日本はファクター・レンズを通して、おおむねバリュー主導の市場と見なされてきました。企業は多額の現金を貯め込み再投資を行わなかったため、売上高の成長は最小限にとどまり、1株当たり利益の伸びをもたらす主因は売上高の増加ではなく自社株買いになっていました。手掛かりとなるファンダメンタルズに改善がほとんどなく、センチメントとモメンタムの両ファクターは、ともに苦戦を強いられました。

日本では、モメンタム・ファクターは長期的にはプラスのリターンをもたらしたものの、バリュー・ファクターのリターンに比べれば微々たるものでした。世界金融危機以降のモメンタム・ファクターのリターンは無視できる水準です。これに対し米国市場は極めて対照的であり、売上高の力強い成長と勝ち続ける企業が牽引してきました。その結果、モメンタムが最も強力なファクターとして主導し、バリューはアンダーパフォームすることになりました。

しかし、東京証券取引所の直近(2023年3月)の介入以降、日本のモメンタム・ファクターに復活の動きが見られます。日本ではこの1年間、バリューが引き続き極めて優れたパフォーマンスを見せる一方で、モメンタムも長期平均を大幅に上回るパフォーマンスを示しました。

システマティック・エクイティ‐アクティブ運用チームは、リターン予測モデルの4つのコア・テーマのうちの2つ、すななちセンチメントおよびバリューの両シグナルを重視しています。当社が用いるシグナルは前述した単純なモメンタムおよびバリューの両シグナルよりも多様化され微妙な違いを反映しており、類似特性を示すにもかかわらず、長期的には両シグナルを大幅にアウトパフォームしています。引き続き堅調なバリューのリターンに支えられた日本における当社のセンチメント・シグナルの最近の良好なリターンは、当社のベンチマークを意識した戦略が、日本で当社が創出することが可能なアルファの恩恵を受けていることを意味します。過去12カ月間の当社のグローバル・エンハンスト(Global Enhanced)戦略のリターンに対する国別貢献度は、日本のアクティブ運用リターンが最大となっています。

結論

日本の株式市場では構造改革と企業改革によって、再び投資家の関心が高まっています。企業利益の改善および相対的なバリュエーションの低さが、最近の日本株に見られる力強いパフォーマンスにつながり、米国株さえもアウトパフォームしています。

こうした構造的な変化に伴い、当社は、最近では長年にわたる日本の標準的なファクター・パフォーマンスにも変化が見られるようになったことに注目しています。日本ではリターンに対する貢献度で、バリュー・ファクターが長期にわたりモメンタムを遥かに上回っていましたが、この1年間はセンチメントとモメンタムの指標に力強い復活が見られます。これが日本の株式市場と日本企業が掲げる構造改革の結果としての新たなパラダイム変化なのかどうかは、時が経てば答えが出るでしょう。

当面、当社はアクティブ運用を行う投資家として、日本株に目を向ければ、当社のお客様のために高水準のアルファのみならず魅力的なベータをリターンとして創出する多くの機会があると考えています。

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