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米国政府閉鎖が市場と経済に与える影響

米国議会が医療保険補助金を巡って行き詰まったことによる政府閉鎖は、短期間で終わり、マクロ経済への影響はほとんどないと予想しています。一方で、ヘルスケアセクターへの影響はあるのでしょうか?

Vladimir Gorshkov profile picture
Macro Policy Strategist

米連邦政府は、2025年9月30日以降の運営資金を確保するための継続決議を巡る議会の行き詰まりを受けて閉鎖されました。

政府閉鎖は通常、見過ごされるイベントであり、今回も例外ではないと考えています。マクロ指標に注目する投資家は、今回の閉鎖を気にせずに済みますが、10月の主要データ発表が遅れる可能性がある点には注意が必要です。一方で、より詳細な分野に焦点をあてる投資家は、ヘルスケア政策が予算対立の中心にあるため、ヘルスケアセクターに投資機会を見出すかもしれません。

マーケットは政府閉鎖を気にせず、経済への影響は短期的

米国政府閉鎖は歴史的に市場への影響が限定的ですが、経済的には無視できない側面もあります。閉鎖は約200万人の労働者(政府契約者や連邦職員の約半数を含む)に影響を及ぼし、彼らは一時帰休となるか、無給で働くことを求められます。

賃金の未払いと政府サービスの中断は経済に影響を与えますが、実際に大きな混乱が生じるのは、閉鎖が長期化した場合のみです。

そして、政府閉鎖は平均して1~2週間以上続くことはなく、経済にとっては一時的な障害に過ぎません。実際、短期的な経済活動の停滞は、連邦職員が未払い期間分の給与を後から全額受け取るため、一般的にその後リバウンド(回復)が見られます。

記録的な長期化となった2018~2019年の政府閉鎖は例外

米国史上最長の政府閉鎖は、2018年12月22日から2019年1月25日までの35日間続きました。そして、この閉鎖は市場のパフォーマンスに悪影響を及ぼしました(図1)。

図1:政府閉鎖期間中のS&P 500のパフォーマンス*

2018~2019年の政府閉鎖は、米国とメキシコの国境の壁建設資金を巡るドナルド・トランプ大統領と議会の民主党との政治的対立が原因でした。この閉鎖は、2018年の中間選挙で民主党が共和党による議会の一元的な支配を終わらせ、立法上の行き詰まりが生じた後に発生しました。

世界的な成長の減速や金利上昇への懸念も投資家心理に影響を与え、市場の変動性を高め、影響を複雑化させました。しかし、それでも市場への影響が最も大きかったのは閉鎖直前であり、閉鎖が始まると市場はすぐに回復し、その期間自体には特に大きな影響はありませんでした。

医療保険補助金を巡る行き詰まり

今回の政府閉鎖で最も市場に影響を与える要素は、年末に期限切れとなる医療保険補助金の行方です。これらの補助金は、2010年の医療保険制度改革(ACA)の一部として導入され、強化された保険料税額控除を通じて提供されてきました。時間の経過とともに大幅に拡大し、特に保険会社に恩恵をもたらしています。

手頃な健康保険の必要性を強調する民主党は、これら強化されたACA税額控除の延長を求めています。一方、共和党は財政緊縮の観点から延長に反対しています。

補助金を縮小すれば、保険の加入者数が減少し、ヘルスケアセクターの投資家心理に悪影響を及ぼす可能性があります。

政治的な駆け引きと解決への道筋

今回の政府閉鎖は、政治的な利害が明確であり、解決策も見えているため、短期間で大きな混乱なく終わると確信しています。

有権者から野党としての有効性を示すよう圧力を受けている民主党は、具体的な政策成果を狙っています。補助金の期限切れを許せば、何百万人ものアメリカ人の健康保険費用が増加します。民主党が強硬な姿勢を取ることで、共和党は医療費削減の責任を「背負う」ことになります。

総合的に見て、民主党はこの争いにより強くコミットしており、得るものが多く失うものが少ない状況です。共和党にとっては、政府閉鎖の責任を民主党に押し付ける以外に、戦う価値のある争いではありません。

補助金延長の財政コストは年間300億ドル(GDPの約0.1%)と重要性が低いため、共和党が大きな予算上の影響なく譲歩する方が容易です。つまり、共和党は政府閉鎖を許すことで政治的な得点を稼げますが、閉鎖を長引かせることで失うものの方が大きくなります。

したがって、共和党は1~2週間以内に譲歩し、医療保険税額控除の延長を認めると予想しています。このシナリオは、米国ヘルスケアセクターに対する当社の前向きな投資見通しを強化します。一方で、データに依存する投資家は、主要なマクロデータの発表遅延に備える必要があります。

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