「自分自身のルールを定め、それを守れ。市場と議論するな。失う余裕のない勝負はするな。理不尽な熱狂に流されるな。何よりも、カモになるな」
資本市場のサプライズを予測するという10年にわたる取り組みを振り返ると、ある種のノスタルジーを感じます。運命のいたずらとも言えるでしょうか、この予測シリーズは2016年、すなわち、ブレグジットが決まり、ドナルド・トランプ氏が初めて大統領選に勝利するという衝撃的な年に始まりました。それ以来、貿易戦争、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げおよび利下げサイクル、新型コロナウイルスの世界的パンデミック、40年以上ぶりの高インフレ、ロシアのウクライナ侵攻、人工知能(AI)の台頭など、多くのさまざまなサプライズがありました。
過去10年間に非常に多くのサプライズがあったとはいえ、それを予測することが容易になったわけではありません。おそらく、投資家にとっての教訓は、サプライズは予測することではなく、サプライズに備えることかもしれません。それでも、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントのチーフ・インベストメント・ストラテジストとして、私には毎年恒例の予測儀式に参加する義務があります。
不確実性はいつの時代も市場にありました。変わったのは、それにどう対処するかです。ミーム株、当日満期(0DTE)オプションの人気、そして今や米国株の1日当たり出来高の30%超を占める個人投資家の存在が、市場や予測に対する投資家の考え方を変えました。
さらに、予測市場の急成長がこの変化を加速させています。10月には、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の親会社であるインターコンチネンタル取引所(ICE)が、予測市場で注目される米ポリマーケット(Polymarket)に最大20億ドルを投資すると発表しました。米ロビンフッドも、予測市場サービスを提供するカルシ(Kalshi)の主要パートナーとなり、カルシのユーザーはロビンフッドのアプリ経由で取引するため、カルシの取引量の大半をロビンフッドが占める形となっています。さらに、独自の予測市場機能の構築または買収に乗り出す資本市場関連企業も増えています。
広い意味で言うところのトレーダーは、スポーツ、株式、政治、経済、その他あらゆるものを対象に、同じアプリを使って手のひらの上でお金を賭けることができます。投資とギャンブルの境界線は、かつてないほど曖昧になっています。
投資成果は常に不確実です。その中で投資家がコントロールできるのが、一貫性と規律があり、再現可能な投資プロセスです。長い目で見ると、熟慮されたアプローチにある程度の運が重なることで、長期的に成功する確率は大幅に高まります。
私は10年以上にわたり同じ公式を用いて予測を行ってきました。私が注目する投資対象は、投資家の関心は低いものの、バリュエーションが魅力的で、悪材料はほぼ織り込まれ、投資家のセンチメントが明らかに同じ方向に向いているものです。
3つのサプライズの予測も11年目を迎え、予測環境はますます困難になっています。だからこそ、株式市場における伝説的投機家のジェシー・リバモアの助言に沿って、自らのルールに従おうと思います。自分がカモでないことを願うばかりです。
過去10年を振り返ると、30件のサプライズ予測のうち17件が的中し、予測精度は約57%です。年々少しずつ精度は上がっていますが、わずか30件の予測では、私に予測能力があるのか、それとも単なるまぐれなのかを判断することはできません。
数秘術の世界では、11は幸運で力強い数字とされています。期待しましょう。
2026年に予測する3つのサプライズは以下の通りです。
1.
小型株が大型株をアウトパフォーム
2.
インフレ率が下振れ
3.
ヘルスケアセクターがS&P500指数をアウトパフォーム
1月、米国市場に上場する上場投資信託(ETF)に1,650億ドルが流入し、1月として過去最高となっただけでなく、過去3年間の1月の合計値をも上回りました。1月に小型株は大型株を大きくアウトパフォームしましたが、小型株ETFからは47億ドルが流出しました1。
「解放の日」以降、小型株は大型株と遜色ないパフォーマンスを示しているものの、投資家は依然として懐疑的で、過去12ヵ月間に小型株ETFから120億ドル超が流出しています2。無理もありません。小型株は過去9年連続で大型株をアンダーパフォームし、連敗記録が過去最長となっています3。
その結果、歴史的に見て大きなバリュエーションギャップが生じています。大型株と比べて小型株は、過去の約8割の期間よりも割安な水準にあります4。また、市場の集中が進み、時価総額で上位5銘柄の合計は小型株全体の時価総額の6倍を上回ります。そして米国株式市場全体に占める小型株の割合は、過去最低水準となっています5。
小型株の人気は大きく落ち込んでいます。とはいえ、弱いセンチメント、極端な集中、割安な相対バリュエーションという組み合わせにより、ポジティブサプライズが起こる条件が整っています。しかも、市場のテーマが大手銘柄以外に広がり始まればなおさらです。
市場には、「1月がその年の相場を占う」という格言があります。歴史的に見て、1月に小型株が大型株をアウトパフォームすると、年間でも60%超の確率で小型株がアウトパフォームします。幸運の前兆でしょうか、小型株は1月に大型株を大幅にアウトパフォームしました6。
とはいえ、希望と相場の格言だけでは有効な投資戦略になりません。
さらに心強いことに、小型株の9年にわたる連敗記録を止めてくれるかもしれないファンダメンタルズおよびマクロ要因が次々と出ています。タイトなハイイールド債のスプレッド、イールドカーブのスティープ化、ドル安は、歴史的に小型株のパフォーマンスにとって追い風です。同時に、規制緩和と企業マインドの回復が相まって、停滞していたM&A(合併・買収)や新規株式公開(IPO)が活発化する可能性があり、それも2026年の小型株見通しには好材料です。
「一つの大きくて美しい法案(OBBBA)」とFRBによる利下げは、小型株にとって強力な二段構えの追い風です。例えば、OBBBAでは、支払利息の損金算入をEBITではなくEBITDAベースに戻し、その変更を2024年12月31日以降に始まる課税年度に遡及適用します。一般的に小規模企業は、減価償却費が大手企業の2倍近くあるため、変更によって受ける恩恵が大きく、景気サイクルの重要局面でバランスシートの柔軟性やキャッシュフローの改善につながります。
FRBの利下げ幅が2%に達すれば(近いうちに到達する可能性が高いと考えています)小型株が優位に立ちます。小規模企業は大手企業と比べて負債に対する支払利息の割合が高いため、借入コストの変化に対する感応度が高くなっています。
感応度の差はすでに表れています。小規模企業の支払利息は減少傾向にあり、FRBが利下げサイクルを維持すればさらに低下する見通しです。一方、大手企業の負債に対する支払利息の割合はほとんど変化していません。支払利息が減少し、資本コストが改善すれば、小規模企業の収益性に大きなプラスの影響が及ぶはずです。
この動きは、すでに業績にも表れ始めています。2026年の小型株の利益成長率は、数年ぶりに大型株を上回る見通しです7。この点こそが、小型株のアウトパフォームを予想する最大の根拠と言えます。2025年第3四半期に、小型株の利益成長率は13四半期ぶりに大型株を上回りました8。1回の四半期だけではトレンドと言えませんが、利益における優位性がこのまま続けば、最終的に小型株が優勢になるかもしれません。
これが、私が今年予想する1つ目のサプライズ「2026年に小型株が大型株をアウトパフォームする」です。
多くの投資家は、今年の株式相場が上昇する上で、景気減速懸念よりもインフレ率の上昇の方が大きな脅威になると見ています。しかし、原油価格が落ち着き、労働市場における離職率が低く、家賃も下落している現状において、深刻なインフレが再燃するシナリオはあまり予測できません。
歴史的に見て、特に1970年代に見られたようなインフレ率の上昇は、原油価格の急騰と同時に発生することが多くあります。しかし、足元ではそのような展開を予想できません。1月下旬、国際エネルギー機関(IEA)は2026年第1四半期の世界の石油市場が大幅な供給超過となり、供給量が需要を日量425万バレル上回ると予測しました9。
石油供給量が需要を上回るペースで伸びている背景には、石油輸出国機構(OPEC)加盟国にロシアなど他の産油国を加えたOPECプラスが、長年にわたる減産の後2025年4月に増産に転じたことがあります。トランプ政権の政策も、インフレの抑制と消費者コストの引き下げを理由に、原油価格を低水準に抑えることを優先事項としています。
確かに、米国とイランの緊張の高まり、ベネズエラからの供給停止懸念、そしてOPECプラスによる第1四半期中の増産停止の決定などを受け、原油価格は年初から上昇しています。とはいえ、こうした圧力は一時的なものにとどまるとみられます。地政学的緊張や供給停止懸念はいずれ解消され、供給増により原油価格の上昇は抑制される可能性が高いとみられます。原油価格が持続的に上昇しない限り、今年のインフレ率が大幅に上昇する可能性は低いと思われます。
米労働統計局(BLS)は、退職、人員削減、解雇、その他離職といった労働市場における離職状況を追跡しています。その中で、退職は労働者側の自発的離職であり、特に重要な指標となり得ます。退職率が上昇している場合、労働者が転職に自信を抱いていることを示し、賃金上昇の前兆となります。
現在、そのような圧力はほとんど見られません。BLSが2月5日に公表した求人労働異動調査(JOLTS)によると、退職者数は320万人、退職率は2%で、いずれも前月比で横ばいでした。これらの数値は1年以上にわたりほとんど動きがなく、労働者が自発的に離職していないことを示唆しています。
労働市場は、転職を繰り返す「ジョブ・ホッピング」から、安心感や安定を求めて通常より長く同じ職にとどまる「ジョブ・ハギング」へ移行しています。求人サイトを運営するモンスターによる「ジョブ・ハギング」レポートによると、在職者の約半数が、今は転職する気はないと回答しています。そして75%は、少なくとも、あと2年は現在の職にとどまる予定と回答しています10。
賃金上昇はインフレの重要な要素です。一方、退職の停滞、ジョブ・ハギングの広がり、労働市場の軟化、そして非農業部門の生産性向上は、賃金上昇が抑制されていることを示唆しています。
賃貸住宅の家賃と持ち家の帰属家賃(OER)を含む住居費は、消費者物価指数(CPI)の約35%を占める最大のサービス項目です。そのため、家賃の変動は総合インフレ率に大きな影響を及ぼします。
一方、OERは動きが鈍く、遅行性指標であるため、住宅市場の状況をリアルタイムで捉えられず、公表されるインフレ率が実態よりも高くなるとの批判も多くあります。
リアルタイムの家賃データを見ると、まるで異なる様相を示しています。不動産情報を提供するアパートメント・リストがまとめた2月の全米家賃レポートによると、1月の全米の家賃中央値は前月比0.2%下落し、6ヵ月連続で下落しました。前年同月比では1.4%下落し、家賃は2年以上にわたって緩やかな下落トレンドを示しています。全米の家賃中央値は2022年のピークから6.2%下落しています11。
家賃の下落は、今年後半にはCPIや他のインフレ指標に表れ始め、物価に対する下押し圧力となる可能性があります。
パウエルFRB議長は1月28日の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、高水準のインフレデータは主に関税の影響による財(モノ)のインフレを反映しているとの見解を示しました。パウエル議長は、サービスセクターではインフレ率の鈍化(ディスインフレ)が続いており、関税の影響を除くとコア個人消費支出(PCE)インフレ率は2%をわずかに上回る水準にあると述べました12。
好材料としては、関税によるインフレへの最悪の影響は、今年半ば以降に徐々に弱まると予想されます。
パウエル議長はさらに、短期的なインフレ期待は昨年のピークから低下しており、長期的なインフレ期待の多くはFRBが目標とする2%とほぼ一致しているとの見方を示しました13。
総合すると、落ち着いた原油価格、横ばいで推移する自発的離職、家賃の下落、財のインフレの改善、そして安定したインフレ期待はいずれも、2026年における2つ目のサプライズ「インフレ率が下振れする」を示唆しています。
ヘルスケアセクターは、過去10年にわたって苦戦しており、年間でS&P500指数をアウトパフォームしたのは10年のうち2018年と2022年の2回だけです14。注目すべきは、2回のケースはどちらも、S&P500指数がマイナスリターンを記録した年であり、ヘルスケアセクターのディフェンシブな特性を浮き彫りにしています。しかし、こうしたディフェンシブな特性には代償が伴いました。S&P500指数におけるヘルスケアセクターのウェイトは2015年12月の16%をピークに低下し、足元では10%未満と、米国株式市場全体の時価総額に占める割合としては約40年ぶりの低水準にあります15。
驚くべきことではありませんが、ETF投資家の関心も高くありません。過去12ヵ月間の資金フローを見ると、ヘルスケアは11セクターのうち下から4番目であり、流入額はわずか5億3,700万ドルでした。同期間に最も多くの資金を集めたのは資本財セクターで、106億ドルが流入しました16。
ヘルスケアセクターの見通しをめぐっては多くの懸念材料があります。GDPに占める医療費の割合は伸び悩んでいます。薬価には下押し圧力が途切れることなくかかっています。金利上昇により、新薬開発のための資金調達コストは上昇しています。OBBBAには、メディケイド支出の大幅削減が盛り込まれています。トランプ政権は最恵国待遇(MFN)の薬価政策を推進しており、メディケアの薬価に対して、他の先進国で支払われている最低価格を上限とすることを目指しています。これは、製薬会社の利益に多大な影響を及ぼすと予想されます。さらに、バイオテクノロジー企業は、中国企業による低コストのイノベーションとの競争激化に直面しています。
精彩を欠くパフォーマンス、低調な資金フロー、投資家センチメントの落ち込みを受け、今年のヘルスケアセクターにはポジティブサプライズが起こる絶好の環境が整っています。セクターのバリュエーションは、株式市場全体と比べて20%以上のディスカウントとなっており、魅力的なバリュエーション機会が生まれています。
中間選挙の年にはボラティリティが急上昇します。ヘルスケアセクターは、中間選挙が行われた過去13回の年のうち11回でS&P500指数をアウトパフォームしています(年率で平均8%のアウトパフォーム)。偶然にも、過去10年間でヘルスケアセクターがアウトパフォームした2018年と2022年は、どちらも中間選挙の年でした17。
トランプ政権の医療政策の明確化、規制緩和、金利低下、およびAIがもたらす効率性の向上は、すべてヘルスケアセクターの見通しにおいて好材料です。人口の高齢化に加え、がん、認知症、心臓病といった深刻な病気を克服しようとする継続的取り組みは構造的な追い風であり、ヘルスケアセクターの見通しを下支えするはずです。
バリュー投資アプローチの欠点の一つは、機会の特定が早過ぎる可能性があることです。成果が出ていない投資判断を続けるには、規律、忍耐、そして確信が必要です。過去10年間に私が予想したサプライズの中には、その年には実現しなかったものの、後から実現したものもありました。
早い予想と2年連続で同じ予想を繰り返すことは別の話です。過去10年間で1回だけありました。2021年に航空宇宙・防衛セクターのアウトパフォームを予想して外れましたが、2022年も続けて同セクターが市場をアウトパフォームすると予想しました。2度目は予想が的中し、航空宇宙・防衛セクターは過去数年間にわたり大幅に上昇しています。
その数少ない例外を今年も行います。私が予想する3つ目のサプライズは昨年と同じ、「ヘルスケアセクターがS&P500指数をアウトパフォームする」です。
過去10年間にわたり私は、投資家の関心は低いもののバリュエーションが魅力的で、悪材料はほぼ織り込まれており、投資家のセンチメントが明らかに同じ方向に向いている銘柄を探してきました。このシンプルな枠組みに基づき、昨年は3つの予想のうち2つが的中しました。「FRBが予想以上の利上げを実施する」と「金価格が3,000ドルを突破する」です。しかし、「ヘルスケアセクターがS&P500指数をアウトパフォームする」という予想は外れました。
10年間の予想実験で多くのことを学びました。サプライズ予測を始めたばかりの頃、『Superforecasting: The Art and Science of Prediction(超予測:予測の芸術と科学)by Philip Tetlock』 を読みました。Tetlock氏は、数十年にわたるGood Judgment Projectの研究に基づき、予測の成功は、知性や極秘情報とはほとんど関係がないと論じています。それよりも、優れた予測者には、謙虚さ、確率的推論、好奇心、および新しい情報に応じて考え方を更新する意欲という共通の特性があります。
優れた予測者は、複雑な疑問を小さな要素に分解し、イデオロギー的な硬直性を避け、自らの信念を守るべき立場ではなく、検証すべき仮説として扱います。優れた予測者のチームは、オープンな議論や説明責任を促し、単独の専門家を一貫して上回る成果を上げています。
現在、手数料無料の取引プラットフォームとますます高度化する金融商品に予測市場が加わり、投資家の市場への関与の仕方は大きく変化しています。投資に対する時間軸が数分であれ数年であれ、結果は依然として極めて不確実です。
多くの要素が投資家のコントロール外にある世界において、最も信頼できる優位性は自分がコントロールできるもの、すなわち、一貫性と規律があり、再現可能な投資プロセスです。この枠組みによってサプライズを排除することはできませんが、サプライズを乗り越え、長期的な財務目標を達成する確率を高めてくれます。
2026年に市場にサプライズが起こるかどうかは問題ではなく、サプライズはきっと起こります。もっと重要なことは、あなたの投資プロセスがそれに備えているかどうかです。