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Uncommon Sense

法外な政府支出が株式市場の繁栄の鍵なのか?

「金を稼ぐためには、金を使わなければならない」

– ティトゥス・マッキウス・プラウトゥス

Michael W Arone profile picture
Chief Investment Strategist

第1四半期の最大のサプライズの一つは、欧州株のパフォーマンスが米国株を大きく上回ったことです。トランプ政権が掲げる「アメリカ・ファースト」の波に乗り、2025年も米国例外主義が限りなく続くと誰もが予想していました。しかし、年初来で欧州株が米国株を約15%アウトパフォームしています1

欧州株がそのように大きくアウトパフォームした理由を特定するのは困難です。経済協力開発機構(OECD)の最新のGDP推計によると、今年の米国の経済成長率は2.2%、それに対しユーロ圏は1.0%と予想されています。従来から欧州の経済成長を牽引してきたドイツの今年の成長率は0.4%と低い水準にとどまる見通しです。確かに、米国の経済成長ペースは前年比で鈍化する一方、欧州は加速すると見込まれています。とはいえ、他の条件が全て同じなら、絶対的な経済成長率が低いよりも高い方が株式投資家にとって好ましいはずです。

10年以上にわたる持続的なアンダーパフォーマンスにより、欧州株にはバリュエーション面で大きな相対的優位性が生じていることは確かです。実際、米国株は株価収益率(PER)でみて欧州株に対して50%のプレミアムで取引されています。しかし、この大幅なPERプレミアムは正当化されるかもしれません。今年の米企業の1株当たり純利益(EPS)の伸び率は欧州企業を45%超上回ると予想されています。EPS成長率の超過分とほぼ等しい50%のPERプレミアムは妥当と言えます。

では、今年の米国経済と企業利益の成長率が欧州を上回ると予想されるなら、第1四半期に欧州株が米国株を大きくアウトパフォームしたのはなぜでしょうか?

この問いを考える際、投資家は直線的思考を避ける必要があります。相関関係と因果関係は必ずしも同じではありません。市場はダイナミックです。そして、様々な要因が第1四半期の欧州株のアウトパフォーマンスを後押ししたとみられます。米国株は割高で、経済と企業利益の見通しは悪化しています。一方、欧州株は割安で、経済と企業利益の見通しは改善しています。欧州株は、長年にわたり米国株式市場のパフォーマンスに後れを取った後、長らく待望された平均回帰をようやく経験しているのかもしれません。3年目に入ったロシア・ウクライナ戦争の停戦が実現すれば、それも欧州株に対する投資意欲を後押しする可能性があります。

しかし、欧州中央銀行(ECB)の前総裁であるマリオ・ドラギ氏が昨年9月に発表した欧州の競争力の未来に関する報告書と、トランプ政権が早々に新たな世界秩序の構築を試みていることが強力なワンツーパンチとなり、以前は緊縮志向だった欧州を積極財政に向かわせていると結論付けないわけにはいきません。ドラギ氏の提言は、欧州が国際競争力を高めるために必要な措置を講じるよう求めるものでした。トランプ政権が目指す新世界秩序は、欧州が米国への軍事的依存を減らすよう迫る警鐘となりました。

ドイツはこれに強く呼応し、3月に民生・防衛投資のために1.08兆ドルという前代未聞の支出計画を打ち出しました。大規模な財政支出と競争力の向上が欧州全域でより高い経済成長と企業利益成長を生み出すとの期待から、欧州の株価は急騰しました。

結局のところ、2008年以降、米国ではこのような方式がうまく機能してきました。

「必要なことは何でもやる」が復活

世界金融危機(GFC)と新型コロナのパンデミックに対応した異例の財政刺激策を背景に、米国の債務と財政赤字の対GDP比は10年以上にわたって着実に上昇してきました。同期間に米経済は他の先進国よりも急速な成長を遂げ、米国株式市場も他の先進国市場を上回るパフォーマンスを記録しました。

今一度、直線的思考を戒めておくことは重要です。米国の経済と株式市場は様々な理由からアウトパフォームしてきました。金利低下、法人税の引き下げ、グローバル化、そして「マグニフィセント7」を中心とするテクノロジー企業の驚異的な収益力により、米企業の利益率は今世紀に入ってからほぼ倍増しています。他の国々も、GFCとパンデミックによる悪影響を緩和するために積極的な財政支出を行いました。

一方、経済がとりわけ崩壊の瀬戸際に追い込まれたGFC以降に、米国の政府支出が金融緩和策と共に果たした重要な役割を無視することはできません。ストラテガス・リサーチ・パートナーズによると、米政府と教育や医療などの隣接セクターは、2023年と2024年を合わせた雇用創出の73%を担いました。法外な政府支出は、緩和的金融政策と相まって景気サイクルを歪ませ、リセッションを遠ざけてきました。

欧州が注目を集めています。競争力の未来に関するドラギ氏の報告書は、欧州の新たな道を提示しました。通商と防衛に関するトランプ政権の強硬な戦術により、欧州は、「アメリカ・ファースト」政策が欧州の未来にとって何を意味するのかに気付かされました。欧州は、より革新的になり、エネルギーコストを低減し、投資拡大と規制緩和を進め、自衛のために支出し、通商政策を強化しなければなりません。そのためには、より強力で協調的な財政の統合が必要となるでしょう。欧州はようやく、大規模な財政拡大を通じて、再編成、改革、再軍備に積極的に取り組む姿勢を示しています。これは大きな変化です。

欧州の新たな道には多くの障害が立ちはだかっているため、ドイツ以外の欧州諸国は、当初はドイツのリードに付いて行くことができないかもしれません。ドイツとは異なり、多くの欧州諸国は既に大幅な財政赤字を抱えており、経常収支は赤字か、あるいは黒字でもごくわずかです。欧州経済の構造的課題として、労働市場の硬直性、手厚い社会保障制度、過剰な規制などが挙げられます。巨額の財政支出を行うには、国債発行の大幅な増加が必要となるでしょう。これは意図せざる金利上昇につながり、インフレを煽る可能性があります。

しかし、こうした課題にもかかわらず、欧州株は今年に入ってから大きく上昇しています。

欧州株の上昇は、金融や資本財・サービスなどの景気循環セクターに主導されています。これは、米国株式市場がヘルスケア、生活必需品、公益などのディフェンシブセクター主導で下落しているのとは対照的です。欧州の投資家は循環的な景気回復を織り込んでいる一方、米国の投資家は景気減速か、場合によってはリセッションに備えています。

欧州株が完璧すぎる結果を織り込んでいるのは確かかもしれません。これまでのように、経済実態が明らかになるにつれて株価は相応に調整するでしょう。一方、投資家は今のところ、ECBの利下げによる財政支出の拡大が、経済、企業利益および株価を押し上げると期待しています。これは、米国で10年以上も効果を上げている処方箋です。

なんという変わりよう

昨年11月の米大統領選直後の投資家心理は、まさに陶酔状態でした。米国例外主義は衰えることなく続くと予想されていました。投資家は、トランプ政権下で予想される減税、規制緩和、および財政拡大を歓迎しました。しかし、トランプ政権は発足以降、むしろ関税、移民制限、および政府効率化省(DOGE)を通じた歳出抑制を優先しました。これは政策不透明感の高まり、株式市場の下落、およびリセッション懸念の増大につながっています。

トランプ大統領の関税は交渉のための脅しにすぎず、実行はされないとの投資家の期待は、トランプ政権が世界貿易を劇的にリセットするという現実の前に打ち砕かれました。DOGEは多くの公務員の雇用を削減し、連邦政府の再編を進めています。また、ベッセント財務長官は、今後数年間で米国の財政赤字をGDP比6%超から3%まで削減する方針を市場に示しています。トランプ政権の幹部らは、長期的な利益を得るためにある程度の短期的な痛みを許容する意思があることを明言しており、株式市場のボラティリティが多少高まっても、「米国を再び偉大に(MAGA)」との政策目標の妨げにはならないとしています。

これはトランプ政権の政策に対する支持でも批判でもありません。同大統領の政策は根本的に矛盾をはらんでいます。政策の中には経済成長とインフレを促進しそうなものもあれば、成長とインフレを抑制し得るものもあります。今年後半は、減税、規制緩和、財政支出といった成長促進的な政策が出てくる可能性が高いと思われます。

重要なことは、GFC以降初めて、米国と欧州の財政スタンスが乖離していることです。驚くべきことに、米国は財政緊縮への道を突き進んでいます。それと同時に、欧州は財政支出により前向きになっています。これは、今年、欧州株が米国株をアウトパフォームしている大きな要因です。また、米国債利回りが低下している一方、ドイツ国債利回りが上昇している理由にもなっています。

ドイツは、安価なエネルギーコストとECBが手厚く支援する割安な通貨に支えられた国内製造業に重点を置いたGFC後の経済モデルが破綻したことを認めています。驚くべきことに、これはまさにトランプ政権が米国でやろうとしていることなのです。

しかし、投資家は不安を抱いています。バンク・オブ・アメリカの直近の月次グローバルファンドマネジャー調査によると、3月の米国株への資金配分は前月比40%減と、月次としては過去最大の落ち込みとなりました。調査に応じたファンドマネジャーの約23%が米国株をアンダーウェイトしている一方、欧州株をオーバーウェイトしているファンドマネジャーの割合は39%と、前月のわずか12%から上昇し、2021年半ば以降で最高となっています2

投資家は、自身の考えをじっくりと見つめ直すことも必要です。資本主義理論の支持者は、政府支出は非効率的で無駄が多く、時には詐欺的だと考えています。それはまさにDOGEとトランプ政権が是正しようとしているものです。ほとんどの投資家は、政府支出よりも、利益を目的とした民間が保有する資本の方が経済に大きな影響を与えると信じています。トランプ政権の政策は、連邦政府を縮小し、それによって浮いた資本を民間に還流させることで、政府よりもはるかに高い利益率を生み出し、その過程で経済成長を押し上げることを目指しています。

では、政府が財政支出を大盤振る舞いしている国および地域の株式市場に投資家が集まっているのはなぜでしょう?米国が財政支出のバトンを欧州に手渡したのに伴い、投資家は米国株を売り、欧州株を買っています。

残念なことに、この不透明な環境の中で誰もが疑心暗鬼になっています。地球温暖化で気温が上昇し、分断化が進むなか、誰もが好戦的になっているように感じられます。筆者は、ある財政政策が他の政策よりも優れていると主張しているわけではありません。こうした状況のすべてが今年または今後数年間でどのような結果を招くのかは分かりません。とはいえ、米国と欧州の間で財政支出に対する姿勢が分かれていることは見て取れます。また、この乖離に対する資本市場の反応はご覧の通りですが、筆者には奇妙に思えます。筆者は投資家として、非効率的な政府支出よりも、民間部門に多くの資本が投入された方が、より高い利益率と経済成長をもたらすと信じています。驚くべきことは、なぜ株式市場のリターンがそのように動いていないのかということです。これは注目に値します。

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