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湾岸ショック:エネルギー供給、市場およびマーケットへの波及

原油価格は想定どおり上昇しているが、混乱はホルムズ海峡の輸送ボトルネックからエネルギー生産へと波及し、リスクオフ姿勢を一段と強めています。

Elliot Hentov profile picture
Chief Macro Policy Strategist

先週の当社予想では、生産が直接的に影響を受けない限り、原油価格は1バレル=100ドルを下回る水準にとどまると想定していました。しかし、この前提条件はすでに崩れており、サウジアラビアおよびバーレーンの製油所、さらにカタールのガス液化施設も被害を受けています。

ブレント原油は3月9日時点で1バレル=約100ドルで取引されており、一時は120ドル近くまで上昇した。図表1は、2022年のウクライナ戦争勃発後のブレント原油価格の変化率と、現在の状況を比較したものです。

4年前、原油価格は1バレル=130ドルまで上昇し、その後4か月間にわたり100ドルを上回る水準で推移したのち、2023年初めにかけ、徐々に正常化しました。今回は市場環境が異なるため、ここではドル建て価格ではなく、リベースした視点で見ることが有用であり、現時点までで約25%の上昇が確認できます。上昇ペースがより速いのは当然とも言えます。2022年の紛争では、影響を受けたのは世界の原油生産量の約10%だったのに対し、今回の湾岸地域は世界生産の約30%を占めているためです。

現在の価格水準は、地域紛争を前提とした均衡価格に近づきつつあると見ています。次なる高値局面に入るためには、さらなるエスカレーション、あるいはホルムズ海峡が2〜3週間を超えて閉鎖され続ける兆候が必要となります。現在の輸送水準では、閉鎖が約2週間続くと連鎖的な問題が発生すると考えられます。この期間は新たに生産された原油を海上輸送や陸上貯蔵に振り向けることができなくなり、最終的には生産停止(シャットイン)を余儀なくされるのです。

生産停止を回避するため、産出国は時間を稼ぐ目的で事前に生産調整を開始します。イラクはすでにその対応に踏み切っており、輸送再開まで生産を維持できることを期待して、日量300万バレル(同国の日量生産量の約75%)の減産を実施しています。イラクは他の産油国と比べて貯蔵能力が低いという点で特殊なケースではあります。ただし、UAE(アラブ首長国連邦)およびクウェートも、ホルムズ海峡の長期閉鎖に備えるため、先週末に生産調整を行うと発表しました。

さらなる悪化を示唆する傾向

図表2は、イランによる弾道ミサイル発射が急減しているという、数少ない明確なポジティブ要因を示しています。一方で、ドローン攻撃は一定水準実施されており、UAEだけでも1日あたり100機超のドローンが投入されています。比較のために言えば、ロシアは2025年を通じて、イラン製シャヘド型ドローンを平均して1日156機、合計約5万7,000機をウクライナに向けて発射しており、それはイランのドローン供給量はその30〜40%程度と推定されています。さらに、ロシアは妨害を受けない固定施設からの発射をしていたのに対し、イランは容易に代替できない、より熟練した人員に依存した発射体制を取っています。それでもなお、イランには数週間にわたり、1日あたり50〜100回のドローン攻撃を実施する能力が残されており、湾岸地域が完全な正常状態に戻ることを妨げる要因となっています。加えて、政治面および経済面での動きも、短期的な情勢悪化を示唆しています。

第2週のアセスメント

ポジティブ要因

(紛争の早期終結およびリスク資産にとってより好ましい結果につながる可能性)

ネガティブ要因

(紛争の長期化およびリスク資産にとってより不利な環境につながる可能性)

 
  • 弾道ミサイルの1日あたり発射数が減少
  • ドローンおよびクラスター弾への依存度が上昇
 
  • ホルムズ海峡の通航量が95%減少
  • 世界のLNG生産の約20%を占めるカタールのLNG生産が数週間にわたる停止
  • イラクが日量300万バレル(同国の日量生産の約75%)の減産を実施、UAEおよびクウェートも追随
  • 湾岸地域の防空体制が概ね良好に機能し、大規模な人的被害は回避されている一方、残存する迎撃ミサイル在庫には懸念が残る
  • ホルムズ海峡の機能停止は、エネルギー以外の輸出にも間もなく重大な影響を及ぼす見通し(特に硫黄:世界生産の45%、肥料:10%、アルミニウム:10%)
  • イスラエルによる攻撃対象のうち、イラン国内の抑圧的統治機構に向けられる比率が上昇
  • モジタバ・ハメネイ氏への権力移行は、イランが長期戦を選好している兆候

市場への示唆

今回の出来事はエネルギー輸入国にとって典型的なスタグフレーションのような供給ショックであり、再び財政面での対抗措置を必要とする局面となるでしょう。ブルームバーグのSHOKモデルによれば、原油価格が1四半期で50ドル上昇(すなわち約115ドル水準)した場合、その後3四半期にわたり、米国消費者物価指数(US CPI)を約1%押し上げるとされています。債券市場は、このインフレ動向を受けて、財政基盤の弱い欧州ソブリン債を中心に大きく調整しており、米国およびドイツでも程度は小幅ながら同様の動きが見られます。

注目すべき点として、2022年の場合には、戦争開始から第3週に入り、ウクライナ支援の規模や欧州の再軍備に伴うコストが具体化するまで、国債利回りは上昇しませんでした。現在の危機が長期化する場合、債券の利回りには引き続き上昇圧力がかかると想定されます。同様に、米国のエネルギー構造を背景として、米ドル高基調が維持されるとの見通しです。もっとも、これら2つのトレンドはいずれも、緊張緩和を示すニュースが出た場合には、急速に反転する可能性も考えられます。

今後注視すべきポイント

  • フーシ派が戦争に参入し、原油輸出の迂回により戦略的重要性が高まっている紅海の海上輸送に混乱が起きるのか
  • 米国の政治的関与の意思はどの程度持続的と見られるか。また、トランプ政権はどのようなベンチマークをもって関与終了を宣言するのか
  • イラン軍・準軍事組織および装備に対する深刻な損害が、士気に影響を及ぼすのか
  • 淡水化プラントなど、湾岸地域のエネルギー以外の重要インフラが被害を受けるリスクはあるのか

結論

イランが湾岸地域に向けた十分な攻撃を維持していることから、この戦争は現在、世界経済にとってネガティブなマクロショックへと性格を変えつつあります(米ドル、金、コモディティには追い風となる一方、債券および株式には逆風)。もっとも、このショックの持続期間が1〜2か月を超えるとは想定しにくい状況です。仮に紛争が長期化した場合でも、原油価格は部分的には正常化に向かう可能性が高いと考えます。

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