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リスクからレジリエンスへ アジア太平洋地域(APAC)に拠点を置く保険会社におけるサステナブル投資の動向

2025年8月および9月に、State Street Investment ManagementはFT Longitudeと共同で、アジア太平洋地域(APAC)に拠点を置く幅広いアセットオーナー(以下、「APACアセットオーナー」)を対象に、サステナブル投資への取り組みに関する調査を実施しました。本稿では、調査対象となった保険会社(以下、「APAC保険会社」、または「回答した保険会社」)が、気候・自然・生物多様性の目標を投資ポートフォリオに組み込む上で、どのような課題と機会に直面し、取り組んでいるかを検証します。さらに、AIAグループのグループ最高投資責任者(CIO)であるMark Konyn氏への詳細インタビューから得られた貴重な知見も掲載しています。Mark Konyn氏の多大なる協力に改めて感謝の意を表します。

多くのAPAC保険会社にとって、気候変動は投資ポートフォリオにおいて重要な役割を果たしています。回答した保険会社の半数が運用資産残高(AUM)の30%超に気候関連目標を適用しており、4分の3超が、今後2年間でこの割合がさらに増加すると見込んでいます。自然関連投資はまだ初期段階にあるものの、回答した保険会社の過半数がAUMの5%超に自然および生物多様性の目標を適用しており、56%がその割合が増加すると予想しています。

気候変動と生物多様性の喪失は、投資パフォーマンスに影響を与える可能性に加え、洪水や台風などの頻繁かつ激甚化による保険金請求や再保険コストの増加を通じて、負債コストを押し上げる可能性があります。1同時に、特定の規制や対象を絞った政策により、保険会社を含むAPACアセットオーナーに、投資判断において気候・自然・生物多様性を考慮するよう促しています。2

持続可能な投資機会を捉えつつ、財務リスクと規制リスクを管理するAPAC保険会社は、どのように取り組めばよいのでしょうか。

気候・自然・生物多様性関連投資は、主にリスク低減が原動力

気候変動および生物多様性に関する課題は、投資家に多大なコストを強いています。AIAのMark Konyn最高投資責任者(CIO)は、「気候リスクとそれに関連する政策は、資産評価のあり方に影響しています。われわれは、投資先のクレジットや企業のビジネスモデルを揺るがす事態が発生する可能性を考慮しなければなりません」と述べています。

自然関連政策は気候関連政策に比べて未成熟ですが、生態系の劣化といった物理的リスクによって、一部の資産評価や生産性に対する脅威が増大しています。3

 本調査によれば、こうした課題が回答した多くの保険会社の投資行動を促しています。APAC保険会社にとって、自然および生物多様性投資の最大の動機は「長期投資リスクの低減」であり、53%が上位三つの動機の一つに挙げています。気候変動投資についても、47%の回答した保険会社が同様に上位三つの動機に挙げています。

また、本調査では規制や政策も同様の影響を及ぼしていることが判明しました。より成熟した規制ガイドラインが適用される気候変動投資においては、「進化する規制・政策要件への対応」がAPAC保険会社にとって最大の推進要因となっています。回答した保険会社の過半数(53%)が意思決定に影響すると回答しました。さらに、生物多様性の枠組みが成熟するにつれ、47%の回答した保険会社にとって重要な投資検討事項となっています。

図1:貴社が投資ポートフォリオに気候変動および自然・生物多様性の目標を組み込んでいる(または今後12カ月で組み込む予定である)主な理由は何でしょうか。(上位3項目を1~3位で順位付けしてください)

出典:State Street Investment Management/FT Longitude APACサステナブル投資調査2025。回答した保険会社のデータのみ(n=30)。

ここ数年、APAC保険会社に影響を与える規制面での進展が著しく、例えば2020年には、シンガポールの金融管理局(MAS)が保険会社向けの環境リスク管理ガイドラインを導入し、引受および投資判断の双方に気候・生物多様性リスクを組み込むことを求めました。4また2025年には、日本の金融庁(FSA)が損害保険会社各社と損害保険料率算出機構と連携し、「気候関連リスクに係る第2回シナリオ分析【保険セクター】」を公表し、急性物理的リスクと保険業界への影響に焦点を当てています。1

APAC保険会社向けの気候・生物多様性に関するガイダンス・規制の例     

      一部のAPAC保険会社は、規制の不透明さやその他の課題に直面している

      近年の進展はあるものの、回答した多くの保険会社にとって自然・生物多様性関連で最も重要な課題は、「規制や政策の不透明さ」となっています。回答した保険会社の47%が、これを「規模の拡大が見込める投資機会が限られていること」と並んで上位三つの懸念事項の中に挙げており、気候変動投資に関しても37%が同様の回答をしています。また、「現実世界への影響の測定・検証の複雑さ」も同様の懸念事項となっています。回答した保険会社にとって気候変動関連で最も多く挙げられた上位三つの課題(40%)であり、生物多様性では第3位(43%)に位置付けられています。

      投資に対するインセンティブは明確かもしれませんが、APAC保険会社の中には、そのインセンティブが必ずしも財務上の利益につながらないのではないかと懸念しています。多くの回答した保険会社にとって、気候関連投資は「投資リターン・リスクへの影響可能性」(37%)や、「気候変動関連の課題に対する社内の専門知識や対応能力の不足」(37%)といった疑問を抱かせるものとなっています。一方、生物多様性については、APAC保険会社のほぼ半数(47%)が、「規模の拡大が見込める投資機会が限られていること」を挙げています。

      図2:貴社が気候変動および自然・生物多様性関連の投資戦略への投資、あるいはそれらの提供を行う際に直面する主な課題・懸念は何ですか。(上位3項目を1~3位で順位付けしてください)

      出典:State Street Investment Management/FT Longitude APACサステナブル投資調査2025。回答した保険会社のデータのみ(n=30)。

      投資判断は負債との関係への懸念を反映している

      保険会社は投資判断を行う際に数多くのリスクを管理します。Konyn氏は、「われわれは投資を、数十年、数世代にわたる「負債」との関係で考えています。保有ポートフォリオにどのような種類のリスクを取り込もうとしているのか、そしてそれらのリスク・エクスポージャーを保有期間全体にわたって維持できるのかを理解する必要があります」と述べています。

      回答した保険会社による調査結果も、これを反映しています。再生可能エネルギー発電は最も人気のある気候変動関連のテーマであり、APAC保険会社の57%が、この分野に投資を集中させていると回答しています。再生可能エネルギー投資は、電力購入契約(PPA)などの長期契約を通じて安定したリターンを目指せることに加え、開示要件を満たすための明確かつ測定可能な成果が得られやすい傾向にあります。5

      今回の調査で回答した保険会社にとって、持続可能な食料および農業は、生物多様性投資をテーマとするリストの最上位(50%)に位置しています。長期的な土地の賃貸借契約から得られる収益は、負債の支払いスケジュールと合致する可能性が高く、また、収益は通常、食料価格に連動しているため、インフレに対するヘッジとしても期待できます。一方、水質改善といった測定可能な重要業績評価指標(KPI)によって、情報開示の客観性も担保されています。6

      APAC保険会社の一部は、さらに一歩踏み込んだ対策を講じて、サステナビリティに関する課題が自社ビジネスに与えうる潜在的な影響を軽減しています。
      例えば、東京海上ホールディングスは、防災を専門とするエンジニアリング・コンサルタント会社、ID&Eホールディングス(旧日本工営グループ)を買収しました。これにより、収益の向上を図ると同時に、顧客のレジリエンスを高めることで、顧客サイドのコスト削減を実現することを目指しています。7

      規制の枠組みもまた、APAC保険会社の投資判断に影響を与える可能性があります。香港保険業監理局(IA)によるリスクベース資本(RBC)に関する規定では、認定されたグリーンボンドは、信用スプレッドリスク(債券発行体の信用悪化による価格下落リスク)のキャピタルチャージ(資本賦課)に10%のディスカウントを受けることができます。8これにより、グリーンボンドを保有するための資本コストが実質的に削減され、保険会社がグリーンボンドへの投資を検討するインセンティブとなっています。

      受託者責任が取り組みを後押ししている

      回答した保険会社の過半(53%)が、既に受託者責任に基づき、投資判断において生物多様性関連のリスクと機会を考慮することが義務付けられていると述べており、気候変動についても40%が同様の義務があると回答しています。また、回答した保険会社のうち同程度の割合で、生物多様性(53%)と気候変動(37%)を長期的な価値の原動力(バリュードライバー)として考慮することが期待されていると報告しています。

      多くのAPAC保険会社にとって、スチュワードシップはこうした取り組みの重要な一部です。気候変動に関しては、回答した保険会社は、投資先企業(43%)よりもアセットマネジャー(50%)と対話を行う傾向があります。一方で、生物多様性についてアセットマネジャーと対話すると答えた保険会社はわずか20%にとどまるのに対し、57%が投資先企業と定期的に直接対話を行っています。

      気候変動に関して「受託者責任にはアクティブ・オーナーシップ(積極的株主行動)が含まれる」と回答した保険会社の割合は43%でしたが、生物多様性については3分の1未満(27%)でした。その代わり、回答した保険会社は、自然や生物多様性関連の課題に対して、より形式的なアプローチをとる傾向があります。回答者の半数が企業の年次株主総会(AGM)で議決権を行使すると回答しているのに対し、気候変動に関しては17%にとどまっています。

      こうした違いは、市場の成熟度の違いを反映している可能性があります。気候変動リスクは、現在では確立された枠組みを通じてより明確に定義されています。われわれの見解では、これにより、ポートフォリオ全体に一貫した基準を適用できるアセットマネジャーを通じて対処することが容易になっています。一方で、生物多様性のリスクはより微妙で、特定の場所に依存します。そのため、サプライチェーンの依存関係を理解したり、拠点レベルの影響を評価したりするために、直接的な対話を行うなど企業レベルでの介入がより必要になることが多いのです。枠組みや基準が成熟するにつれて、取り組みはポートフォリオ全体でより構造化され、規模の拡大が見込めるものに進化していくとわれわれは考えています。

      APAC保険会社はインパクト投資を検討していますか?

      回答した保険会社の86%が、インパクト投資の原則を何らかの形で投資に組み込んでいます。うち80%は、「もしその投資がなければその成果が生み出されなかったかどうか(付加性)」を判断することでインパクトを評価しており、67%が公開市場を含む投資資産について、サステナブルな成果への貢献度を分析することに関心を持っています。 インパクト関連の投資を対象とするAPAC保険会社にとって、最も人気のある資産クラスは実物資産(67%)であり、次いで債券(GSSS債:グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド、サステナビリティ・リンク・ボンドなど)(60%)、そして上場株式(57%)と続いています。

      結論

      今回の調査から、多くのAPAC保険会社にとって、気候変動投資は長期的なリスクを管理する上で重要であり、生物多様性についても検討課題として浮上しつつあることがわかりました。規制面からのプレッシャー、財務上の検討事項、そして負債との整合性といった要因が、回答した保険会社の多くの投資活動を推進しています。しかし、その一方で、測定の難しさから財務上のリターンに関する不確実性に至るまで、さまざまな課題も生じています。

      こうした障害はあるものの、進むべき方向性は明確であると思われます。枠組みが成熟し、市場が拡大するにつれてAPAC保険会社は、地域全体でサステナブル投資の「次のフェーズ」へと移行しつつあるようです。

      本調査について

      2025年8月および9月、State Street Investment Managementは、FT Longitudeと共同で、アジア太平洋地域(APAC)に拠点を置くアセットオーナーに所属する100名超のシニア意思決定者を対象に調査を実施しました。回答者は、オーストラリア、中国、香港、日本、マレーシア、シンガポール、韓国、台湾、およびタイを拠点とする幅広い機関投資家を代表しています。本調査では、これらの投資家が気候、自然・生物多様性、およびインパクト関連の投資目標を自社の投資ポートフォリオに組み入れる際の課題や機会にどのように取り組んでいるかを探りました。