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地域通貨の底堅さがアジア債券のパフォーマンスを下支え

2026年7月のアジア債券市場は厳しい投資環境に直面しましたが、通貨の上昇がリターンの様相を大きく変えました。iBoxx ABF Pan-Asia Bond Indexのリターンは、米ドルベース(為替ヘッジなし)で0.92%となり、同指数の米ドルベース(為替ヘッジあり)のリターンであるマイナス0.45%を上回りました。この差はほぼすべて為替要因によるもので、アジア地域の通貨が米ドルに対して上昇したことが、為替ヘッジなしリターンに1.36%寄与し、債券価格の軟調な動きを相殺しました。

State Street Investment Management Fixed Income Portfolio Strategists

市場概況

金融政策面では、韓国銀行(BOK)が政策金利を25bp引き上げ、2.75%としました。これは3年以上ぶりの利上げであり、インフレ率が過去3年で最高水準に達したことを受けたものです。この結果、韓国の10年国債利回りは24bp上昇しました。 一方、インドネシア銀行(政策金利5.75%)、マレーシア中央銀行(翌日物政策金利2.75%)、中国人民銀行(1年物ローンプライムレート3.0%)はいずれも政策金利を据え置きました。地域内で利下げを実施した国・地域はありませんでした。

このような環境下、10年国債利回りはほとんどの市場で上昇しました。上昇幅が大きかったのは、フィリピン(+41bp)、シンガポール(+32bp)、韓国(+24bp)、香港(+21bp)でした。これに続き、インドネシア(+18bp)、マレーシア(+10bp)、タイ(+1bp)でも利回りが上昇しました。

一方、中国は唯一利回りが低下した市場であり、10年国債利回りは1bp低下しました。総じてみると、各国中央銀行の引き締め的な政策スタンスと利回り上昇が為替ヘッジ付き運用のリターンの重しとなりました。しかし、地域通貨が米ドルに対して幅広く上昇したことが、為替ヘッジなしの投資家にとって決定的な追い風となり、債券市場にとっては軟調な月であったにもかかわらず、プラスの運用成果につながりました。

市場現地通貨建てリターン為替リターン(FX)USDベースのトータルリターン

 韓国

-0.9%

8.7%

7.7%

中国

0.4%

0.6%

1.0%

香港

-0.5%

0.0%

-0.4%

タイ

0.0%

-0.5%

-0.5%

マレーシア

-0.1%

-0.4%

-0.5%

インドネシア

0.0%

-0.7%

-0.7%

シンガポール

-2.2%

0.9%

-1.3%

フィリピン

-2.0,

0.1%

-2.0%

3年以上ぶりの利上げ

韓国(米ドルベース、為替ヘッジなし:7.7%)
韓国の10年国債利回りは2026年7月に24bp上昇しました。一方、韓国ウォンは同月に8.7%の大幅な上昇となりました。
消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比2.8%となり、2026年6月の3.2%から鈍化しました。これは2026年4月以来で最も低い伸び率であり、市場予想の3.0%も下回りました。ただし、韓国銀行のインフレ目標である2.0%は依然として上回っています。燃料価格の落ち着きを背景に、輸送関連のインフレ率が11.1%から7.7%へ低下したことが全体のインフレ鈍化に寄与しました。一方で、コアインフレ率は約2.5%で推移しました。
製造業は改善傾向を示しました。S&Pグローバルの購買担当者景気指数(PMI)は52.1から53.1へ上昇し、過去4年間で3番目に高い水準となりました。半導体および自動車需要の回復を背景に、生産と新規受注が加速したほか、輸出受注も3カ月ぶりに増加へ転じました。
労働市場はやや軟化し、失業率は2.7%から2.8%へ上昇しました。
こうした環境下、2026年7月16日に韓国銀行は政策金利を25bp引き上げ、2.75%としました。これは2023年1月以来初めての利上げです。申鉉松(Shin Hyun-song)総裁は物価安定を優先する姿勢を示すとともに、インフレ圧力の継続、家計向け信用の堅調な伸び、景気見通しの改善を踏まえ、今後さらなる金融引き締めが必要になる可能性を示唆しました。


輸出依存が続く中国経済のまだらな回復

中国(米ドルベース、為替ヘッジなし:1.0%)
2026年7月の中国経済は、製造業およびサービス業の活動が鈍化し、成長モメンタムにやや減速が見られました。一方で、外需は引き続き景気を支える要因となりました。
2026年第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比4.3%と、3年以上で最も低い伸びとなり、第1四半期の5.0%から減速しました。ただし、2026年上半期全体の成長率は4.7%となり、中国政府が掲げる4.5~5.0%の成長目標の範囲内で推移しました。
製造業活動はやや弱含みました。国家統計局(NBS)の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、2026年6月の50.3から7月には49.2へ低下し、2026年2月以来初めて景気判断の分岐点である50を下回りました。一方で、人工知能(AI)関連投資の拡大を背景に、ハイテク製造業(53.3)および設備製造業(51.4)は引き続き拡大基調を維持しました。また、Caixin(財新)の製造業PMIも51.7から50.9へ低下しました。
より広範な経済活動も弱含みました。国家統計局の総合PMIは50.6から49.3へ低下し、非製造業PMIも50.2から49.0へ低下しました。
一方、外需は引き続き堅調でした。輸出額は前年同月比23.9%増の3,978億5,000万米ドルとなり、市場予想を上回りました。伸び率は2026年6月の27.0%から鈍化したものの、高い水準を維持しました。輸入額も27.5%増加し、貿易黒字は1,125億米ドルとなりました。
労働市場は概ね安定しており、調査ベースの都市部失業率は2026年6月時点で5.0%へと小幅に低下しました。
中国人民銀行は緩和的な金融政策スタンスを維持し、1年物ローンプライムレートを3.0%、住宅ローンの指標となる5年物ローンプライムレートを3.5%に据え置きました。これらの金利水準の維持は14カ月連続となります。また、市場流動性の確保に向け、公開市場操作を通じた資金供給を継続しました。
インフレ圧力はさらに和らぎました。消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比0.5%となり、2026年6月の1.0%から低下して6カ月ぶりの低水準となりました。
債券市場では、国債利回りは概ね安定して推移しました。2年国債利回りは約1bp上昇した一方、10年国債利回りは約1bp低下しました。その結果、長期金利の低下幅が短期金利を上回る「ブル・フラットニング」の動きが見られました。これは、インフレ圧力の低下と中央銀行による継続的な流動性支援を反映したものです。
中国人民元は2026年7月中に米ドルに対して約0.5%上昇し、1米ドル=6.75元近辺で月を終えました。広範な米ドル安に加え、中国人民銀行による強めの基準値設定、そして中国の堅調な対外収支が人民元を支える要因となりました。
 

成長ペースが鈍化する香港経済

香港(米ドルベース、為替ヘッジなし:-0.4%)
香港の10年国債利回りは2026年7月に21bp上昇しました。一方、香港ドルは月を通じて概ね横ばいで推移しました。
香港経済は2026年第2四半期に前年同期比4.3%成長となり、第1四半期の5.9%から減速しました。個人消費の伸びが鈍化したことが主な要因ですが、対外貿易および内需は引き続き底堅さを維持しました。季節調整済みの前期比ではGDP成長率はマイナス0.6%となり、2022年第3四半期以来初めてのマイナス成長となりました。
インフレ率は前年同月比2.0%で、3カ月連続で同水準を維持しました。
S&Pグローバルの購買担当者景気指数(PMI)は52.0から51.0へ低下したものの、50を上回る水準を3カ月連続で維持しました。生産活動は5カ月ぶりの高水準となりましたが、外需の鈍化が新規受注の重しとなり、企業は過去3年間で最も速いペースで人員削減を進めました。
労働市場は安定しており、2026年6月までの3カ月平均失業率は3.7%で変わりませんでした。
金融政策面では、2026年7月30日に香港金融管理局(HKMA)が基準金利を4.0%に据え置きました。香港は米ドルとの連動相場制度(ペッグ制)を採用しているため、香港金融管理局は米連邦準備制度理事会(FRB)の政策運営に歩調を合わせており、その結果として金融環境は引き続き比較的引き締まった状態にあります。


インフレは鈍化も目標レンジ内を維持

タイ(米ドルベース、為替ヘッジなし:-0.5%)
タイの10年国債利回りは2026年7月にほぼ横ばいで推移し、上昇幅はわずか1bpにとどまりました。一方、タイ・バーツは月間で0.5%下落し、小幅ながら対米ドルで下落しました。
消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比1.95%となり、2026年6月の2.42%から鈍化しました。これは市場予想の2.55%を下回り、過去3カ月で最も低い伸び率となりました。国内燃料価格の大幅な下落がエネルギー価格を押し下げたことが主な要因です。ただし、インフレ率はタイ銀行(BOT)の目標レンジである1.0~3.0%の範囲内にとどまりました。一方で、コアインフレ率は1.23%から1.34%へ上昇しました。
製造業活動はさらに改善しました。S&Pグローバルのタイ製造業購買担当者景気指数(PMI)は53.6から54.2へ上昇し、2025年12月以来の高水準となりました。生産活動の伸びは2026年に入って最も高いペースとなり、輸出向け新規受注も3カ月連続で増加しました。
金融政策面では、2026年7月にはタイ銀行の金融政策委員会は開催されなかったため、政策金利は1.0%に据え置かれました。タイ銀行はこれに先立ち、2026年の経済成長率見通しを2.3%へ引き上げており、次回の金融政策決定会合は2026年8月26日に予定されています。

 

2026年第2四半期の力強い経済成長

マレーシア(米ドルベース、為替ヘッジなし:-0.5%)
マレーシアの10年国債利回りは2026年7月に10bp上昇しました。一方、マレーシア・リンギットは月間で0.4%下落し、対米ドルで小幅に下落しました。インフレ率は引き続き抑制された状態にあり、2026年6月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比1.9%となりました。これは2026年5月に記録した22カ月ぶりの高水準をわずかに下回る水準です。コアインフレ率も1.9%となりました。製造業活動は底堅く推移しました。S&Pグローバルの製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.7で前月から横ばいとなりました。新規受注は8カ月ぶりの高水準となり、輸出需要も改善しました。一方で、生産の伸びは限定的で、企業は雇用をやや抑制する動きも見られました。経済成長は引き続き力強く推移しました。2026年第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比5.8%となり、第1四半期の5.4%から加速しました。堅調な国内需要に加え、電子機器関連輸出の拡大が成長を後押ししました。金融政策面では、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)が2026年7月9日の金融政策決定会合で、翌日物政策金利(OPR)を2.75%に据え置きました。据え置きは6会合連続となります。インフレが抑制され、経済成長も底堅く推移していることを背景に、中央銀行は概ね中立的な政策スタンスを維持しました。

 

インドネシアで製造業活動が持ち直し

インドネシア(米ドルベース、為替ヘッジなし:-0.7%)
インドネシアの10年国債利回りは2026年7月に18bp上昇しました。一方、インドネシア・ルピアは月間で0.7%下落し、対米ドルで小幅に下落しました。
2026年6月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比2.88%となり、前月の3.34%から鈍化しました。これは2026年4月以来の低水準であり、インドネシア銀行(BI)が目標とする1.5~3.5%のレンジ内で推移しました。食品インフレ率が6カ月ぶりの低水準となる2.97%まで低下したことが主な要因です。一方、コアインフレ率は2.76%で安定的に推移しました。
経済成長は引き続き底堅さを維持しました。2026年第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比5.29%となり、第1四半期の5.61%からはやや減速したものの、市場予想を上回りました。堅調な個人消費と政府支出が成長を支えました。
製造業活動も改善しました。S&Pグローバルの製造業購買担当者景気指数(PMI)は46.9から50.2へ大きく上昇し、2026年2月以来の高水準となりました。生産は5カ月ぶりに増加へ転じたものの、輸出向け新規受注は5カ月連続で減少しました。
金融政策面では、インドネシア銀行は2026年5月と6月に合計100bpの利上げを実施した後、7月22日の金融政策決定会合で政策金利を5.75%に据え置きました。同時に、海外からの資金流入を促進し、インドネシア・ルピアの安定を図るための各種インセンティブ策の拡充を進めました。


AI関連需要が製造業の成長を下支え

シンガポール(米ドルベース・為替ヘッジなし:-1.3%)
シンガポールの10年国債利回りは2026年7月に32bp上昇しました。一方で、シンガポールドルは上昇し、月間リターンは0.9%となりました。
物価上昇は引き続き抑制されており、2026年6月のコアインフレ率は1.5%、総合インフレ率は1.9%でした。ただし、シンガポール金融管理局(MAS)は、エネルギー価格や輸入コストの上昇を背景に、2026年7月以降は物価上昇圧力が強まり、2027年初めにかけて高止まりするとの見通しを示しています。
製造業活動は拡大基調を維持しました。SIPMM製造業PMIは51.3から51.4へ上昇し、11カ月連続の拡大となりました。これは主にAI関連需要に支えられた電子機器分野の成長によるものです。また、S&Pグローバル・シンガポールPMIは、生産および新規受注の力強い伸びを背景に57.4から59.2へ上昇し、5カ月ぶりの高水準となりました。
経済成長も引き続き堅調で、2026年第2四半期のGDP成長率は前年比5.9%となりました。第1四半期の6.3%からはやや減速したものの、高い成長率を維持しています。
こうした輸入インフレリスクが根強く残る環境の下、シンガポール金融管理局(MAS)は2026年7月27日、2四半期連続で金融政策を引き締めました。具体的には、シンガポールドル名目実効為替レート(S$NEER)誘導レンジの上昇ペースを小幅に引き上げた一方で、2026年のコアインフレ率および総合インフレ率の見通しは、いずれも1.5%から2.5%の範囲に据え置きました。

堅調な生産活動と新規受注の拡大が続くフィリピン

フィリピン(米ドルベース・為替ヘッジなし:-2.0%)
フィリピンの10年国債利回りは約41bp上昇した一方、フィリピン・ペソはおおむね横ばいで推移し、月間では0.1%の上昇となりました。
インフレ率は鈍化傾向が続き、総合インフレ率は2026年6月の前年同月比6.4%から6.2%へ低下し、3カ月連続で減速しました。主に輸送コストの伸び鈍化が寄与したほか、コアインフレ率も4.4%から4.2%へ低下しました。ただし、いずれもフィリピン中央銀行(Bangko Sentral ng Pilipinas、BSP)が目標とする2.0%から4.0%の範囲を上回っており、年初来の平均インフレ率は5.0%となっています。
一方で、景気の減速は鮮明となりました。2026年第2四半期のGDP成長率は前年比2.3%となり、第1四半期の2.8%から低下しました。投資の大幅な落ち込みを背景に、新型コロナウイルス禍を除くと2009年以来の低い伸びとなりました。
こうした中、製造業は引き続き明るい材料となっています。S&Pグローバル製造業PMIは50.9から51.8へ上昇し、5カ月ぶりの高水準となりました。これは3カ月連続の拡大を示すものであり、新規受注と生産の伸びが2026年2月以来の高水準となったことが背景です。
2026年7月には金融政策決定会合が開催されなかったため、フィリピン中央銀行は2026年4月および6月の利上げに続き、リバースレポ金利を4.75%に据え置きました。一方で、インフレ率を目標である3.0%へと誘導するため、2026年8月27日の会合で追加利上げを実施する可能性を残しています。

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