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Mind on the Market

日本国債(JGB):グローバル債券市場で再び脚光を浴びる新星

JGBは、これまでの「守り資産」から「戦略的な投資機会」へと変貌しています。G4諸国(米国、英国、欧州、日本)の中で最もスティープな金利曲線を持ち、利回りと安定性を求めるグローバル投資家にとって、為替ヘッジ後のリターンも非常に魅力的です。

Masahiko Loo (駱正彦) profile picture
Senior Fixed Income Strategist
Dane Smith profile picture
Head of North American Investment Strategy & Research

グローバル債券市場が金融政策の変化やインフレ動向に対応して構造的なインフレが進行し金融政策も影響されるなか、グローバル債券市場が調整・見直され、JGBが海外勢投資家にとって魅力的な投資機会として浮上しています。かつては低金利でディフェンシブ資産とされていたJGBですが、現在では特に長期ゾーンにおいて競争力のあるリターンを提供しており、構造的な安定性を維持している点で、G4国債と一線を画しています【図1参照】。

スティープ化したイールドカーブ:日本の新常態

2025年、JGBの金利カーブは大きくスティープ化(長期金利が短期金利より大きく上昇)しています。これは、2024年3月に日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)を終了したことや、需給の不均衡が表面化したことが背景にあります。2025年10月時点で、30年物JGBの利回りは3.3%、10年物は1.7%に達しており、これは17年ぶりの高水準です。このスティープ化は、以下の要因によるものです:

  • 経済の基礎的条件の改善(潜在成長率やインフレ期待の上昇)
  • 財政リスクに対するプレミアムの再評価
  • 日銀や本邦生保勢による国債購入の減少などの技術的要因

現在、日本の3ヶ月対30年および5年対30年のスプレッド(金利差)は200ベーシスポイント前後で、G4(主要4カ国)の中で最も急な傾斜です。ピア対比の金利差はその半分程度です。実際、日本のイールドカーブは、Ba/B格付けの米国ハイイールド債のオプション調整スプレッド(OAS)と比較してもワイドで、資産間のバリュエーションの観点からも注目に値します【図2参照】。

これにより、日本はイールドカーブの傾きにおいて際立った存在となり、長期リターンを狙う投資家にとって魅力的な「デュレーション投資(長期債への投資)」の機会を提供しています。

為替ヘッジ後の利回り優位性:米欧英豪ドルの視点

海外投資家にとって、JGBの魅力は、利回りを自国通貨にヘッジすることでさらに高まります。ヘッジ後の利回りは、ピア国債と比べて140〜200ベーシスポイント高いことが多く、これは以下の要因によるものです:

  • 日本と他国の金利差によって有利な為替フォワード取引が可能になること
  • 足元のクロスカレンシー・ベーシス・スワップ(異なる通貨間のベーシス交換)による有利な条件

構造的な強み:JGBが他国と異なる理由

日本は、最近の政治的混乱があっても、先進国の中で際立った堅固な経済基盤と安定した国債構造を持っています:

  • 日本国債の90%以上が国内で保有されており、主に銀行、年金基金、生保勢、そして日本銀行が保有しています。これにより、外国資本の流出リスクが低く、市場ショックへの耐性が高いです。
  • 日本は世界最大の純債権国であり、対外資産は3.7兆ドル以上。これが外部資金調達リスクに対する強力なバッファーとなっています。
  • 家計の金融資産は国の債務の約2倍に達しており、日本は自国で資金を調達できる強い能力を持ち、投資家からの信頼を確保しています。

これらの要因により、日本は、英国の「トラス・ショック」に見られたような、財政ショックによる急激な国債売りや金利急騰といった債券市場の不安定要因から守られています。

投資家のポジショニング:長期的な機会とリスク

スティープなJGB金利カーブは、複数の投資戦略にとって魅力的:

  • 長期視点を持つデュレーション戦略では、スティープな5年対30年のスプレッドを活かし、30年国債の高利回りを固定して長期保有することが可能です。
  • カーブのフラット化を狙う取引は、2026年に登場する可能性があります。背景には、日本銀行の政策金利が最終到達水準に近づくことや、財務省が需給の不均衡に対応して国債発行を調整する動きにあります。
  • 海外勢は、為替ヘッジ後の利回りプレミアムに惹かれ、JGBへの関心を高めています。

見通しは前向きですが、投資家は次の点に注意を払うべき:

  • 財政政策の変化:特に、自民党が国会両院で過半数を持たない状況では、政策の不確実性が高まり、ボラティリティを招く可能性があります。具体的には、高市氏は、所得税の免除や税額控除を通じてインフレ緩和を目指す、13.9兆円規模の景気刺激策を検討しています。しかし、政権の分裂により、こうした公約は弱まり、市場の過度な期待感が抑えられる可能性があります。財政措置は一部の株式セクターにとってはポジティブとなる一方で、短期的には円にさらなる下押し圧力をかけるため、投資家は為替ヘッジ戦略を検討する価値があります。
  • 世界の政策金利の動向、特に米国FRB:これは為替ヘッジコストやヘッジ後のJGBの相対的な魅力に影響します。米連邦準備制度(FRB)は今週、政策金利を3.75〜4.00%に引き下げ、市場は12月にさらに25bps(0.25%)の追加利下げを織り込んでいます。SSIMは、インフレ鈍化、労働市場の軟化、成長の小幅減速を条件に、2026年までにさらに50〜75bpsの利下げを予測しています。この動きは為替ヘッジコストを低下させ、ヘッジ後のJGBの魅力を相対的に減らす可能性があります(ヘッジプレミアムが縮小するため)。ただし、米国につられてJGB金利低下による債券価格上昇がこれを補います。総じて、FRBのハト派姿勢はJGBを含む債券市場全体には追い風となりますが、マクロ経済の不確実性により見通しは依然として不透明です。

結論:JGBの新時代

JGBは、従来の低金利の安全資産から、競争力ある利回り、構造的な安定性、そして魅力的なヘッジ後リターンを提供する戦略的資産へと進化しました。世界的な高金利環境と資本フローの変化の中で、JGBは高格付けかつ長期目線で臨める投資対象として注目されています。国内保有率の高さや強固な対外資産により市場の安定性が確保され、分散効果も大きく、JGBを除外することによる機会コストは無視できない水準に達しつつあります。さらに、2026年以降は、日銀政策金利が心理的に重要な1%を超え、最終到達金利に近づく局面で、金利カーブのフラット化や本邦銀行による約400兆円の巨額日銀預金(キャッシュ)の本格運用が始まる可能性があり、長期投資の好機が見込まれます。

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