市場はイラン戦争の短期終結を織り込んでいるが、歴史は紛争が長期化しがちであることを示している。戦闘が長引けば、より影響のあるエネルギーショック、成長の下振れ、そして市場の急激な再評価を招くリスクがある。
現在のイラン・米国間の戦争の展開を踏まえると、主に2つのシナリオが考えられます。
国際戦争の仕組みや戦争期間について豊富な研究を有する文献によれば、一方が明確に「短期決戦」を望む場合、戦争は長期化しやすい傾向にあります。これは、相手側の交戦国にとって、戦争を引き延ばすことで、より有利な結果を引き出そうとするインセンティブが生じるためです。イランは、通常戦力による戦闘では全面的な敗北を喫しているにもかかわらず、現在まさにこの戦略を追求しています。安価で非対称的なドローン戦を用いる能力により、1)ホルムズ海峡を通過するエネルギー輸送を抑止し、2)湾岸地域のエネルギー施設に損害を与えることが可能となおり、これにより米国および同盟国にとっての戦争コストを引き上げることができます。
では、これはより長期かつ大規模なエネルギーへの影響を意味するのでしょうか。答えは「イエス」です。ただし、金融市場は依然としてその可能性に懐疑的です。市場では、2026年5月以前、すなわち今後約6週間以内に停戦が成立する確率を50%と見ています。私たちもこの見方に概ね同意します。しかしそれでもなお、戦争が市場が現在織り込んでいる時間軸やリスク水準を大きく超えて長期化する可能性が、50%残されていることを意味します。
当社の基本シナリオ:戦争は短期で終結する
4月に停戦(55%) 政権は存続するものの、さらなる被害拡大を懸念し、4月中の停戦に合意する。 | 1979年の再来(45%) 政権は、エネルギー供給の混乱を持続させるのに十分なドローン能力を維持し、米国から譲歩を引き出すために、戦争を数か月にわたって長期化させる。 | |
エネルギー供給の混乱 | 4月以降段階的に正常化 | 今後2-3ヵ月かけて、エネルギー供給の環境は徐々に悪化 |
2026年4月末の原油価格予想 | 1バレル80-85ドル | 1バレル120-150ドル |
このような確率を踏まえると、より長期(2か月超)に及ぶ紛争が、経済や市場にどのような影響を及ぼすのかを考え始めることが賢明だと言えます。
第3週目のアセスメント
ポジティブ (早期終結、リスク資産にとって追い風) | ネガティブ (戦争が長期化し、リスク資産にとって逆風) |
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2020年代頭によく使われた言い回しを振り返ると、このような原油ショックは「一時的(transitory)」なものだ、という見方になります。しかし、調査が示すのは、「一時的」であっても「短期間」とは限らない、という点です。エネルギーは米消費者物価指数(CPI)全体の約7%を占めるにすぎませんが、エネルギー価格の上昇は他のコストにも波及し、実際のショック期間を超えて、米コアPCE(個人消費支出価格指数)をやや高い水準に押し上げる傾向があります。さらに、肥料や石油化学製品の価格上昇による追加的なインフレ圧力も、時間差を伴って発生します。これらは2~3四半期後に、食品価格や資材コストの上昇として顕在化する見込みです。
それでもなお、原油価格が数か月にわたり1バレル=120ドルを上回る水準で推移すれば、市場の関心は速やかに市場の成長リスクへと移るでしょう。これは、歴史的に見て高水準の原油価格が景気後退と結び付いてきたためです(図表2)。
2022年のショックとの最大の違いは、現在の環境が「インフレの高まり」よりも「成長の弱さ」によって特徴付けられている点にあります。米国では、特にウクライナ戦争勃発時と比較すると、労働市場の脆弱性がこの点を最もよく示しています。当時は、労働需要が供給を大きく上回っていたため、インフレの上昇が賃金の伸びに転嫁され、消費が維持されました。一方、今回は家計が実質所得の減少を早期に実感することになり、消費は減少に転じると考えられます。
成長が大きく損なわれかねないスタグフレーション型の原油ショックが発生した場合、債券市場の反応はこれまでとは異なるものになるでしょう。イラン戦争の勃発以降、債券利回りは上昇しており、日本を除くG7の10年国債利回りは平均で40bp上昇しています。
しかし、市場の焦点が成長懸念へと移れば、利回りは反対方向に動くことになります。その一方で、株式市場は悪化する経済見通しを背景に下押し圧力を受けるでしょう。現在の市場は全体として依然リスクオン寄りであるため、株式市場には調整余地が大きく残されていると考えられます。
このような局面では、債券のヘッジ機能が一時的に回復すると考えられます。加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げが見込まれることから、イールドカーブのフロントエンド(短期ゾーン)には最終的に下支えが入るでしょう。一方で、タームプレミアムは粘着的に推移する可能性が高く、その結果、短期金利の低下ペースが長期金利を上回る展開が想定されます。したがって、戦争終結後のショック局面では、イールドカーブ全体はスティープ化すると見込まれます。
同様の力学は米ドルにも当てはまり、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げによって米国債利回りが低下するまでの間、米ドルは引き続き底堅さを示すと考えられます。特に、エネルギー輸入国の通貨に対しては、米ドル高が継続しやすいと見込まれます。
主なエネルギー輸入国の通貨
通貨 | 国/地域 | 備考 |
EUR | ユーロ圏 | 原油・天然ガスの大規模な輸入国 |
JPY | 日本 | エネルギー供給のほぼ全てを輸入に依存 |
KRW | 韓国 | 輸入原油およびLNGへの依存度が高い |
INR | インド | 原油需要の大半を輸入に依存 |
TWD | 台湾 | 構造的にエネルギー輸入依存型 |
PHP | フィリピン | エネルギー輸入が貿易収支の重荷になっている |
THB | タイ | 輸入を通じで原油価格の影響を受けやすい |
TRY | トルコ | 高額なエネルギー輸入負担と対外資金調達ニーズ |
米国は、エネルギー輸入国と比べて、政策金利を引き下げる余地が大きく、かつ中央銀行の対応もより機動的です。一方で、エネルギー輸入国では、成長が弱含む局面であっても、金利の推移は相対的に高い水準にとどまる可能性が高いと考えられます。
こうした環境を踏まえると、より深刻な原油ショックに耐え得るよう、ポートフォリオに十分なヘッジを確保しておくことが賢明と言えるでしょう。