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なぜテヘランの要求がリスクを上振れ方向に歪め続けるのか

米国とイランの対話再開を示す初期の兆候を観察するにあたり、私の評価は当時の調査経験に大きく影響をしています。現在再び名前が浮上している人物の多くは、暗殺された指導者と生き残った指導部の双方を含み、1979年の革命およびイラン・イラク戦争の原初の「古参世代」から構成されています。体制存続への本能は中核にあり、危機の局面では実利主義が優勢になりやすい。

Elliot Hentov profile picture
Chief Macro Policy Strategist

私は2005年夏、大学院生としてテヘラン大学でペルシャ語を学ぶ予定だったが、ビザが間に合わなかった。その代わりに石油コンサルで、イラン支配層の主要意思決定者に関する詳細な人物分析を行うという仕事をしました。その経験が再び意味を持つとは、2026年2月28日まで思いもしませんでした。

なぜテヘランの要求がリスクを上振れ方向に歪め続けるのか

米国とイランの対話再開を示す初期の兆候を観察するにあたり、私の評価は当時の調査経験に大きく影響をしています。現在再び名前が浮上している人物の多くは、暗殺された指導者と生き残った指導部の双方を含み、1979年の革命およびイラン・イラク戦争の原初の「古参世代」から構成されています。体制存続への本能は中核にあり、危機の局面では実利主義が優勢になりやすい。

一方で、イスラム共和国の交渉戦術の歴史を振り返ると、以下の通り一貫したパターンが見て取れます。

  • まず、レジーム体制は交渉の時間軸を主導することを好み、相手の想定を超えて交渉を長期化させることで「焦り」を生み出し、より有利な条件を引き出そうとします。
  •  続いて、指導部は自らの交渉力を誇張する傾向を繰り返してきた実績があります。
  • 最後に、経済的・環境的制約といった通常の国益は、彼らの意思決定において重視されにくく、交渉上のレバレッジ確保のためには犠牲にされることもあります。

こうした背景から、停戦が近い将来に成立しない確率を当社は比較的高く(55%)見積もっています。より穏健なシナリオ(45%)は、米国主導で停戦が実現し、イランがエネルギー輸送の再開を容認する枠組みに依拠するものです。ただし、テヘランが米国にとって受け入れ難い要求を突きつけ、結果としてエスカレーションが強まる展開も十分に想定されます(図表1)。

図表1:現在の当社の見通し

 当初想定(45%)短い戦争ベースケース(55%)1979年の再来
定義米国主導の停戦構想が非公式な合意へと発展し、エネルギー輸送の正常化が実現する。レジーム体制は十分なドローン能力を維持し、エネルギー混乱を継続。米国の譲歩を引き出すため、戦争を数か月引き延ばす。
エネルギー供給の混乱4月下旬から段階的に正常化が進む今後2~3ヵ月かけてエネルギー供給が悪化
マクロインパクト小幅なスタグフレーションの影響が生じ、リスクプレミアムがなお残存グローバルなマクロショックとなり、ほとんどのリスク資産にとりネガティブ。影響は紛争の長期化に比例して時間とともに悪化
4月末の原油価格80~90ドル/バレル120~150ドル/バレル
債券利回りは低下するが戦前水準には回帰せず、イールドカーブはややフラット化する当初はイールドカーブがフラット化するが、成長悪化への対応として金融政策が緩和されるにつれ、徐々にスティープ化が進む。
為替米ドルは戦前水準へ正常化。FRBが他の先進国中央銀行と政策的に乖離するまで、米ドルは強含み。
株式景気循環セクターを選好、とりわけ米国の資本財、素材、金融、一般消費財エネルギー、化学、ディフェンシブ(ヘルスケア、公益、生活必需品)を選好。

出所:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年3月24日時点

レジーム体制は動く緊急性を感じていない

米国の停戦提案は、全面的な制裁解除に向けた約束が強化された点を除けば、概ね戦前の要求を踏襲する内容でした。これに対し、イランの初期対応は、ホルムズ海峡に対するイランの支配権の承認や、イスラエルによるヒズボラへの戦争停止といった新たな条件を盛り込み、双方の隔たりをむしろ拡大させました。海上輸送の麻痺が続く一方で、ミサイルおよびドローン攻撃が比較的安定した水準で継続していることは、現状を維持できるとのレジーム体制側の高い自信を裏付けています。図表2は、過去2週間におけるイランの攻撃を示しており、5日移動平均(5DMA)からは攻撃水準が概ね横ばいで推移していることが確認できます。これは、実際の攻撃件数が減少しても、海上輸送が再開されないままの状態が続くシナリオを想定しうることを示唆しています。

第4週目のアセスメント

ポジティブ

(早期終結、リスク資産にとって追い風)

ネガティブ

(戦争が長期化し、リスク資産にとって逆風)

  • 米国の停戦計画と、それに対するイランの正式な回答
  • ホルムズ海峡の支配権承認やレバノン戦争との連動を含む、イラン側の新たな停戦条件
  • 米国の停戦計画と、それに対するイランの正式な回答
  • ロシアの支援を受けたイランのドローンやミサイルの安定的な発射と精度向上
  • イスラエル、GCC諸国の迎撃ミサイル備蓄が枯渇しつつあり、攻撃用弾薬の在庫も不足
  • 米国による地上部隊の展開が継続
  • ガスインフラへの相互被害が、エスカレーションに対する共通のレッドラインを形成
 

なぜエネルギーは以前の水準に戻らない可能性があるのか

マクロ面の話自体は概ね語り尽くされています。改めて強調すべき点は、重要なのは紛争の期間と、それに伴うエネルギー供給停止の長さです。現時点では、実質的な供給ショックはまだ顕在化しておらず、その多くは価格ショックにとどまっています。その価格上昇もこれまでのところ比較的穏やかで、2022年のショックを大きく下回っています。ただし、ホルムズ海峡が仮に5月中旬になっても閉鎖されたままであれば、その影響は容易に2022年を上回る可能性があります。主要な一次資源について、下表は現在の価格と2022年ピーク時を比較したものであり、全体として影響がより限定的であることを示しています(図表3)。

図表3:現在のコモディティ価格(2022年のピーク時と比較)

コモディティ

2022年ピーク時の価格との割合

ブレント原油

0.7

欧州天然ガス

0.11

EU小麦

0.4

米国天然ガス(ヘンリーハブ)

0.3

尿素

0.7

EU鋼材

0.5

出所:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年3月24日時点

精製品については、比較水準が一貫してレンジの上限に位置しており、0.7~0.8倍程度と、2022年の局面にかなり近づいています。ジェット燃料など一部の燃料は、すでに2022年のピーク水準に達しており、その結果、図表4が示すように「店頭価格(ガソリン価格)」は大きく跳ね上がっています。しかも、これらはすべて比較的短期で終結するという穏健なベースケースの範囲内での話であり、紛争が長期化した場合には、依然として大きな下振れリスクが残されています。

長期的には、たとえ戦争が短期で終結したとしても、エネルギー関連セクターが通常状態に戻ることはないでしょう。  

  • 第一に、イランリスクがゼロになることはないため、湾岸地域のエネルギーには恒常的なリスクプレミアムが付きまといます。
  • 第二に、世界的に在庫水準の引き上げや備蓄確保に伴うコストが上昇します。   
  • 第三に、原油・ガス代替への追い風が再び強まり、原子力、再生可能エネルギー、さらには国内石炭生産の維持といった選択肢まで含めて見直しが進むでしょう。

        これは結果の如何を問わず、一種の「ミニ・エネルギー転換ショック」に相当し、世界経済の供給サイドにとって重しとなります。

        原油価格がピークを迎えると、債券が反応する

        第4週目は、それ以前の週と比べて落ち着いた展開となり、主要なボラティリティ指数の多くは第3週末時点よりも低下しました。戦争が終息に向かう兆しが見え始めた場合、市場で最も大きな反応が生じるのは債券市場になるとの見方を、我々は引き続き維持しています。

        過去を振り返ると、原油価格がピークを打ってから約1か月以内に、利回りは2022年に約45bp、2003年に約35bp、1991年に約20bp低下しています(図表5)。この歴史的パターンを今回の局面に当てはめると、原油価格がピークアウトした後の数日間で、利回りはおおむね20~45bp低下する可能性があることが示唆されます。

        戦争の始まりと終わりは、いずれも予期せぬ展開を伴うことが多いです。足元では緊張緩和に向かうモメンタムが見られるものの、エネルギー市場の正常化見通しは、以前と比べてほとんど改善していません。

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