世界の株式市場は、堅調な経済に加え、特にハイテク株を中心とした好調な企業収益や人工知能(AI)の影響力の拡大によって特徴づけられています。AIが各分野にもたらす変革の可能性は、2026年に注目すべきポイントの一つです。一方、バリュエーションや政策面での懸念にも留意が必要となります。
世界の株式市場は2025年を通じて堅調なリターンを達成しました。これは回復力のある経済環境と、AI関連セクターを中心とした力強い企業収益に支えられたものです。AIが経済全体にもたらす変革の可能性に投資家の注目が集まっています。マグニフィセント・セブン(M7)が話題を独占する中、2026年に向けての重要な注目点は、資本配分、セクターリーダーシップ、およびマクロ経済の勢いを左右するAIの役割となります。AI投資に対する期待によって、保護主義政策や継続する地政学面の不透明感によるマイナス要因は引き続き相殺される見込みです。米国に限らず、市場のバリュエーションが割高であることを認識しつつも、株式市場に対しては引き続き前向きな見方を維持しています。いずれはボラティリティが再度高まることや市場の調整が起きることも想定されますが、一時的なものにとどまると当社は見ており、2026年全体としては楽観的な見通しを維持しています。
世界全体の時価総額の60%超を占める米国株式に対する当社の見通しを支えるものとして、幾つかの要因があります。第一に、米国は依然としてAI関連銘柄の中心地であり、AI支出への期待感がM7の株価上昇を後押ししています。このグループによる設備投資額は2026年までに約5,200億ドル(前年比+30%超)に拡大すると予想されています1。AI主導の設備投資はハイテクセクター内にとどまらず、米国全体のGDPと企業収益を押し上げており、全般的に生産性を向上させる可能性を秘めています。2
第二に、見通しが良好なのは米国の大手ハイテク銘柄だけではありません。小型株にも回復の兆候が見え始めています。過去において、経済が改善し金融政策が緩和に向かう局面では、小型株がアウトパフォームしてきました。米国の製造業の活動は安定しているとみられ、連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ観測は、企業、特に小型株の資金調達に対する圧力を緩和する可能性があります。
第三に、企業に対する今後の支援策を踏まえると、米国企業は成長促進の追い風をさらに受ける可能性があります。小型株はフェアバリューに近い水準で推移しており3、国内経済の成長を活用する機会を提供しています。また、財政政策もこの傾向を後押ししています。「1つの大きく美しい法案(OBBBA:トランプ政権による予算措置調整法案)」は資本財投資、研究開発、工場建設を奨励しており、企業利益を押し上げる可能性があります。さらに、2026年初頭に予定される税還付も消費者を支援するものとみられます。4
ただし、当社の米国株式見通しの前提には二つの重要な注意点があります。第一に、AI投資にはリスクが伴います。特に、巨大IT企業の予想外の減速は、企業の増益を基盤としてきた市場の上昇トレンドを阻害する可能性があります。AIに対する市場の期待は、成長を支える主要な柱に亀裂が生じた場合に特に脆弱です。具体的には、フリーキャッシュフロー(FCF)が枯渇したり、FCF利回りが低下するなどの局面です。債券発行による財務レバレッジの上昇も、特に収益が減少したり、金利が高止まりする局面では弱点となり得ます。
加えて、市場は割高なバリュエーションを伴いながら最高値を更新しており、S&P500株価指数の今後12カ月の予想PER(株価収益率)は23.1倍5、シラーCAPE比率(景気循環調整後株価収益率)は史上二番目の高さとなっています。同比率はITバブル崩壊前に過去最高を記録しました。とはいえ、テクノロジーが転換点を迎える時は、その影響が不透明であることから市場の熱狂が正当化されるため、バリュエーションのみに焦点を当てることは近視眼的になりかねないという見解に当社は賛同します。企業の投資利益率(ROI)と生産性の向上が持続する限り、米国市場のアウトパフォームは可能です。AIテーマがモメンタムを支える一方で、こうした企業が過大な成長期待に応えられない場合は、より慎重なアプローチが必要となる可能性があります。
米国市場への集中度が高い状況下では、投資家がマクロ経済動向を乗り切り、ポートフォリオの回復力を強化するには、景気循環セクター、ディフェンシブセクターおよび長期的な成長が期待できるセクターに分散投資することが一助となるでしょう。
コミュニケーション・サービス:直近のパフォーマンスにもかかわらず、バリュエーションは依然として過去の中央値を下回っており、AI主導の成長を基に魅力的なバリュエーションでの投資機会を提供しているほか、上振れサプライズの可能性もあります6。2026年に目を向けると、AIは自動化されたコンテンツ生成や大規模なパーソナライゼーションからキャンペーンの最適化に至るまで、業務効率の大幅な向上を推進し、広告主の投資収益率を高めると予想されます。
公益事業セクターは、ディフェンシブなポジションとAIデータセンターの拡大や製造業の国内回帰に伴う電力需要増加へのエクスポージャーを兼ね備えています7 。相対バリュエーションは依然として過去の中央値を下回っています8。公益事業各社は発電能力増強に多額の投資を行っており、2026年末までトレンドを上回る収益の成長を支える見込みです。さらなる利下げや経済の不確実性によって、同セクターのディフェンシブな魅力がポートフォリオ内で高まる可能性があります。
資本財セクター:防衛支出の増加、電力インフラ投資、および資本財受注(国防を除く)の継続的な回復が、2026年の18%の増益見通しを支えています(セクター中3番目の高さ)9。航空宇宙・防衛産業はOBBBA下での防衛支出増による成長が見込まれ、電力需要が電気機器の成長を後押しし、機械・陸運機器の1株当たり利益(EPS)の成長見通しも堅調です。
欧州株式は、軍事とサイバーセキュリティの両分野における防衛支出に焦点を当てた新たな財政刺激策に支えられ、米国とのパフォーマンス格差を縮めてきています。特にドイツの5,000億ユーロ規模のインフラ計画は、地域成長にプラスに寄与する見込みです。とはいえ、米国におけるAI投資の規模は欧州の取り組みをはるかに上回っており、競争力を維持するには規制上の障壁を克服し、テクノロジーのエコシステムを作ることが不可欠です。2026年の市場予想のEPS成長率は上方修正されましたが、依然として米国に後れをとっています。さらなる上昇には、欧州が財政改革を実施し、目標とする収益の成長を達成できるかどうかにかかっています。
欧州内では、世界経済の成長、生産性、そしてファンダメンタルズ面のキャッシュフローに影響を与える大きな長期的トレンドに焦点を当てつつ、選択的に投資する機会が存在します。割安とは言えませんが、米国の同業他社と比較するとバリュエーションは比較的低水準です。
欧州にはM7のような銘柄は存在しませんが、それでも投資家はAIやデジタル・トランスフォーメーション(DX)の潮流に乗ることができます。第3四半期の企業業績は高い市場予想を上回り、欧州のハイテクセクターは長期のバリュエーション指標を上回る水準で推移していますが、米国のように過去最高には達していません。
米国と同様に、公益事業セクターには世界的なAI・データセンター需要を満たす必要性から投資機会が生まれており、好調な利益動向はセクターの上昇余地を示唆しています。
資本財セクターは、新たな防衛支出を通じた財政刺激策が支援材料となります。特に欧州が、他国の自給自足ニーズに対抗する形で自らの計画(ドラギ報告書や欧州防衛2030ロードマップなど)を推進している状況下ではなおさらです。
日本の株式市場は、リフレ基調、ガバナンス改革、および高市早苗新首相の政策アジェンダに対する楽観論を背景に上昇し、新高値を更新しました。高市首相の政策は財政拡大、技術ナショナリズム、防衛力の近代化を重視しています。2026年の増益率は、2025年の約2%から約10%へ上昇すると予想されています10。高市首相の政策は日本を「最もAIに優しい国」とするAI推進法を基盤とし、自主的なコンプライアンスとイノベーションを優先するとともに、多言語AIおよびハードウェアとソフトウェアの共進化への戦略的投資を推進するものです。米国との合意により、原則15%の関税の代償は残るものの貿易の不確実性が解消され、政策立案者、企業および投資家が再び投資機会に注目できるようになりました。
新興国市場(EM)については、AI主導の世界経済の成長、潤沢な流動性および米ドル安を追い風として、2026年へ向けて概ね前向きな見通しを維持しています。インド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦など、政府がAI開発とインフラ整備を推進する新興諸国では、AI主導の生産性向上が好材料となっています。米ドル安による新興国市場への持続的な資本流入は、この資産クラスのパフォーマンスを支える可能性があります。
中国は国内消費の拡大を目指していますが、高い貯蓄率と低調な支出は不動産価格、雇用および社会保障改革に対する消費者信頼感の低さを反映しています。最も重要なのは、同国がAI分野での主導権を獲得すべく、米国との競争に備えてインフラ投資を優先している点です。株式バリュエーションは5年平均を上回っており、EPSは下方修正されています。ITセクターとAI投資は株式市場のパフォーマンス維持のために不可欠ですが、イノベーションの質および収益化には疑問が残ります。中国はエネルギー分野で優位性を有するものの、先端チップの開発では後れをとっています。
AI導入と株主還元施策が追い風となる一方、投資家心理は政策動向やマクロ経済情勢に引き続き敏感です。グローバル投資家にとって、中国株は他の主要市場との相関性が比較的低いため、分散効果をもたらします。ただし、企業収益の持続的な成長の不確実性や、政策依存の度合、および市場のリーダーシップが少数のセクターに集中しているといった点を踏まえると、選別的なアプローチが求められます。
Anqi Dong, CFA, CAIA
Head of Sector Strategy
Matthew J Bartolini, CFA, CAIA
Global Head of ETF Research
Rebecca Chesworth
Senior Equity Strategist
Laura A Ostrander
Emerging Markets Macro Strategist and Portfolio Manager
Paul Nestro, CFA
Director of Fundamental Growth and Core Equity Research
Christopher J Sierakowski, CFA
Portfolio Manager, Fundamental Growth and Core Equity