株式相場が史上最高値付近で推移し、主要株価指数における銘柄集中度が過去最高水準に達する中、投資家は、リスク資産の高バリュエーション、株式と債券の高相関、およびテールリスクの増大といった環境に直面しております。
近年、投資家が、株式と債券を6対4の割合で配分する従来型ポートフォリオ(いわゆる“60/40”)の妥当性を再評価する中で、オルタナティブ資産への関心が高まっています。2022年は、株式と債券が同時に下落した転換点の年となり、分散投資を株式・債券の負の相関のみに依存することのリスクが鮮明となりました。金をはじめとするコモディティ、実物資産およびプライベート市場は、分散投資をより広い視点で捉える投資家の恩恵を受ける資産クラスとなっています。
今日のように多様化したマクロ環境下では、オルタナティブ投資の重要性は一段と広がっています。ポートフォリオには、単なるボラティリティだけでなく、相場環境の変化にも耐えうる構造が求められます。投資家は、持続的なインカムを生み出し、真の分散効果を提供し、世界経済の潮流を変える成長テーマへのアクセスを可能にするエクスポージャーを求めています。プライベート・クレジット、実物資産、インフラ、プライベート・エクイティ、厳選されたヘッジファンド戦略など、オルタナティブ資産はこうしたニーズに応える手段を提供します。
インカムの確保は、依然として投資家にとって主要なテーマです。銀行融資が制約され、公的債券の利回りやスプレッドが低下圧力を受ける中、プライベート・クレジットは2.8兆ドル 規模に成長し、中堅企業の成長資金やM&A取引向けに柔軟な資金調達手段を提供することで、銀行が担えなくなった役割を補完しています。ダイレクト・レンディングやオポチュニスティック戦略は、公的債券と比較して魅力的なトータルリターンを生み出しており、加えてFRBによる追加利下げが見込まれることからも、この資産クラスは堅固な収益源として際立っています。クレジット・サイクルを乗り切り、個別リスクを回避するには、厳格な与信審査と確かな実績を持つ運用会社を選定することが不可欠です。インカムの創出は実物資産によっても支えられています。
インフラ投資には、長期契約、不可欠なサービスの提供および価格決定力が基盤にあり、安定したキャッシュフローをもたらします。AI主導の設備投資拡大はデータセンターなどのデジタルインフラの成長を後押ししており、構造的な需要と高い参入障壁の恩恵を受けています。また、慢性的な住宅不足や手頃な住宅の供給不足が続く中、多世帯向け(マルチファミリー)住宅用不動産は安定した賃貸収入を生み出すとともに、市場回復に伴う資産価値の上昇も期待できます。これらの投資対象は、利回り向上に寄与するだけでなく、インフレヘッジや市場変動が大きい局面での安定性も提供します。
財政問題が前面に浮上するなか、分散投資を株式と債券の相関関係のみに依存するリスクは、これまで以上に高まっていると言えます。投資家は、ポートフォリオのボラティリティを抑制し、マクロ経済・政策・地政学的な不確実性をヘッジするため、思い通りの分散効果を期待できるオルタナティブ資産クラスに目を向けています。プライベート・エクイティ、プライベート・クレジット、金および厳選されたヘッジファンド戦略は、株式と債券を6対4の割合で配分する従来型ポートフォリオ(いわゆる60/40)に構造的な分散効果を提供し、向こう1年間、有力な選択肢となります。これらの資産は伝統的な株式や債券との相関が低く、長期的なトレンド、規制の変化および地域市場の動向に結びついていることがパフォーマンス要因として挙げられます。
特に金は、構造的および循環的な追い風を受け、分散投資の有力な手段であることが実証されています。中央銀行による金の買い入れは、価格に左右されにくい需要を生み出し、地政学的緊張、財政不均衡、根強いインフレ懸念が、戦略的ヘッジ資産としての金の魅力を一段と高めています。株式との低い相関に加え、不確実性が高い局面でも安定性を発揮することから、金はポートフォリオ分散に不可欠な構成要素となっています。
裁量型マクロ戦略、株式ヘッジ戦略、リスクパリティ戦略は分散効果をさらに高めます。経験豊富なマネージャーは地政学の変化、為替の動き、商品価格の変動などから利益を上げられる一方、リスクパリティ手法は、資産クラス間の投資配分を均衡させることで、市場の集中や相場環境の変化に伴うリスクを軽減することができます。
オルタナティブ投資は、キャッシュフローやリスク管理の手段にとどまらず、従来型の成長要因が弱まり、競争に過熱感がある環境では、成長機会を捉えるうえで中心的な役割を果たします。インフラはAI関連の設備投資拡大の恩恵を最も受ける分野ですが、厳選されたプライベート・エクイティやプライベート・クレジット投資も、そうした潮流の恩恵を受けられる可能性があります。デジタルインフラは強力な成長テーマであり、AI導入の加速とクラウドの拡大が、データセンター開発に大きなビジネス機会をもたらしています。ただし、注目度が高く、過熱リスクもある急成長セクターであることを踏まえると、投資に際しては規律を維持することが重要です。インフラ投資は安定した収益源であるだけでなく、経済の近代化が進展するなかで、長期的な資本価値の上昇を促す役割も果たします。
プライベート・エクイティは2026年においても成長機会へのアクセス手段として有力な選択肢の一つです。2025年10月中旬までのIPO案件は2024年と比べて64.5%増加し3、運用会社が投資家へより多くの資本を還元する動きを後押ししました。こうした動きには、Databricks、Klarna、Sheinといった著名企業の案件も含まれます。プライベート・エクイティのセカンダリー市場の拡大は流動性の制約を緩和し、投資家が既存のプライベート・エクイティ・ファンドの持分をライフサイクルの後期段階で取得する手段を提供しています。このアプローチは、Jカーブ効果の緩和や「ブラインドプール」リスクの低減に加え、割安な価格での取得というメリットをもたらすことでしょう。
2025年の金市場は強気相場(ブルサイクル)が広がる中で一服する形となっていますが、安定的な現物需要、力強いETFへの資金流入、中央銀行の継続的な買い入れによって支えられています。金価格が1オンス=5,000ドルに到達する可能性が注目されますが、バランスの取れた見方では、支援材料と抑制要因の双方が影響を及ぼす複数のシナリオが示唆されます。
2025年第3四半期の金の現物需要は、過去最高水準の金価格にもかかわらず前年比3%増加し、史上最高を更新しました。この堅調な動きは、ETF投資家、地金・コイン購入者および中央銀行の需要によって支えられ、価格に敏感な宝飾品需要の弱さを相殺しました。特に新興国の中央銀行は構造的な需要源としての役割を維持しており、第3四半期の買い入れの回復および価格の下支えに寄与しました。2025年通年の買い入れは、年間約1,000トンという近年のトレンドには届かない可能性があるものの、依然として過去最高水準に迫る力強い需要が見込まれます。ETFへの資金流入も引き続き力強く、年初来の流入額は米ドルベースで2020年通年の記録をすでに上回り、トン数ベースでも2020年にほぼ匹敵する水準となっています(図2)。
金は、マクロ経済の不確実性、積極的な財政政策、世界的な債務水準の高止まりといった環境から引き続き恩恵を受けています。こうした状況下では、金は債務の貨幣化や通貨価値の下落(ディベースメント)に対する戦略的ヘッジとして機能します。
FRB(連邦準備制度理事会)による利下げの継続と量的引き締め(QT)終了への期待は、実質金利を低下させる要因となり、金保有の機会コストを一段と引き下げます。実質利回りの低下は、分散投資およびヘッジ手段としての金の魅力をさらに高めることにつながります。
金価格を支えるマクロ的な追い風を背景に、最近の予測では金価格のベースケースが1オンス=3,700〜4,100ドルへ上方修正されています。最も強気なシナリオでは、金は1オンス=5,000ドルに達する可能性があり、そのためにはFRBの追加緩和の継続、ETFへの持続的な資金流入、そして中央銀行による需要の再燃が同時に起こる必要があります。さらなる支援材料として、金が多くのポートフォリオに「依然として十分に組み入れられていない」点が挙げられます。ETF保有量や先物ポジションは依然として過去最高水準を下回っており、より幅広い組み入れが進めば金の魅力が高まり、好循環につながる可能性があります。ただし、リスク要因も2点あります。第一に、世界最大の金消費地であるアジア太平洋地域では、現地での記録的な価格上昇が現物需要を鈍らせる可能性があります。第二に、2026年に米国の成長例外主義が再燃し、かつインフレが抑制され米ドル高が伴えば、通貨価値の下落や為替リスクヘッジとしての金の魅力が弱まる恐れがあります。総じて、金は分散投資および成長機会の双方を引き続き提供する一方、今後の行方は、金融政策、投資家の資金フローおよび世界経済の動向が相互に影響し合う形で決まるでしょう。
Aakash Doshi
Head of Gold Strategy
Jie Qin
Senior Investment Strategist,
Investment Solutions Group
Keith M Snell, CFA
Portfolio Specialist,
Investment Solutions Group
Timothy Wang
Head of Real Estate / Real Assets Funds