金相場は何が要因で動くのでしょうか。変動要因について長期と短期で整理して考えてみましょう。
金相場の長期的な変動には需要と供給、そして構造的要因が大きく影響します。
1. 供給-限りある資源:
– 金の希少性を担保する供給面は、2024年末時点での地上の在庫の総量がオリンピック公式競技用プールの約4.5杯分、現在確認されている埋蔵量については約1.1杯分と言われています。こうした制約がある上に、2015年から2024年までの金の年間供給増加率は、年平均で約1%程度に過ぎませんでした。予想以上に鉱山の生産量またはリサイクルの生産量が増えると、金価格に影響を与えます。
2. 経済成長:
– 特に中国やインドのような新興国の経済成長・所得の増加が長期的な消費と投資需要を支える重要な要因となります。また、経済成長が金の技術用途としての需要を高める可能性があります。
図表1:政府が外貨準備の分散を進める流れが継続
3. 構造的な金需要の増加:
– 中央銀行は、米ドルの保有比率を徐々に引き下げ、金の保有を引き上げる動きを見せており、金の長期的な需要を支える構造的な変化となっています。米国がロシアの米ドル資産を凍結した動きも、こうした動きを加速させています。
– ワールド ゴールド カウンシルによると2010年から15年連続で中央銀行は金を買い越しています1。また、欧州中央銀行によると2、2024年の世界外貨準備に占める金の割合は20%と16%のユーロを上回り2位となったとしています。
– 通貨の信認は政府債務と密接に関係しています。法定通貨は金や銀などの裏付けがなく、発行者(政府)の信用に基づいて価値が担保されているため、政府債務の増加は通貨の信認の低下につながり、個人投資家、機関投資家ともに金への資産配分を増やす傾向にあります。
4. 構造的なインフレリスク:
– 第二次トランプ政権下での関税引き上げをはじめとした脱グローバル化やサプライチェーンの再構築の取り組みが、長期的なインフレ圧力を高め、金の価値を押し上げる可能性があります。
金相場の短期的な変動には市場における投資心理の揺らぎやインフレへの見方、金融政策の方向性、米ドルの動向などが影響します。
図表2:金価格の短期的な変動要因
1. 不透明性やボラティリティ:
– 地政学リスクや流動性リスク、信用リスクが高まり、株式や債券など伝統的な資産が急激に調整した場合、保有資産が急激な値動きにさらされることへの防衛から、安全資産としての金に需要が集まる傾向があります。金の希少性や長期的な価値保存機能がこうしたリスク回避の受け皿となっている背景にあります。ただし、こうしたリスクが一時的で混乱が一巡した場合には、質への逃避で積み上げた金の持ち高が短期間で手じまわれるリスクがあります。
2. 期待インフレの動き:
– 物価の上昇時には私たちが利用する米ドルや円の通貨としての価値の低下につながるため、価値が安定している金に対する需要が高まりやすくなります。期待インフレは将来のインフレのリスクを測る指標で、これが高まると投資家は資産価値が目減りすることへの防衛から金の需要が増加、価格を押し上げる可能性があります。
3. 金利の動き:
– 金は短期金利や長期金利の影響を受けます。例えば、短期金利が金融緩和によって低下する、またはインフレや通貨価値の下落、財政懸念などから長期金利が上昇し、短期金利と長期金利の差が開く場合も金価格にとってポジティブに働く傾向にあります。
4. 米ドルの下落:
– 国際的には、金相場は米ドルで取引されており、米ドル安局面で金価格は上昇する傾向にあります。米ドルは需給や米金利の動向に左右されるほか、投資家心理の強弱(リスクオン・オフ)にも左右されます。