流動性は、さまざまな投資家グループを上場投資信託(ETF)に惹きつける最も重要な特徴の1つです。ETFの流動性がどこから生まれるのかを理解するために、ETF取引のメカニズムと流動性エコシステムにおける主要メンバーが果たす役割について探ってみましょう。
上場投資信託(ETF)は投資手段の1つで、その持ち分(受益証券)は証券取引所において日中(取引時間中)に、市場で決定された価格で取引されます。
ETFは、以下の2つの市場で取引されるという点でユニークと言えます:
図表1:ETFの流動性エコシステム
ご覧のように、ETFの流動性エコシステムには多くの参加者がいます。ETF取引のエコシステムは、少し複雑過ぎるように見えるかもしれません。図表1を分解して、ETF取引における主要な取引活動を項目ごとに説明しましょう。
ETF受益証券の買い手と売り手は登録ブローカーを通じて注文を出し、買いの場合は現金と引き換えにETF受益証券を取得し、売りの場合はその逆となります。
空売りプレーヤーは、貸し手に手数料を支払ってETF受益証券を借り入れ、市場で売却します。その後、価格が下落したところで受益証券を買い戻すことで利益を確定し、貸し手に返却します。空売りプレーヤーはETF受益証券と引き換えに担保を提供しますが、通常は借り入れるETF受益証券を上回る価値の担保が要求されます。
ETF受益証券に対する需要がセカンダリー市場で売買可能な受益証券数を上回るまたは下回る場合、ETFの市場価格とその原証券の価格に基づく本源的価値(純資産価値[NAV])の間に差が生じます。
その場合、プライマリー市場が追加の流動性を供給します。マーケットメーカーは、指定参加者(AP)に依頼してETF受益証券の設定/交換を行うことで需給のバランスを取り、ETFの価格は本源的価値に近い水準に維持されます。マーケットメーカーはETF受益証券と引き換えに、ETFバスケットをAPに引き渡します。
ETFが設定される前に、マーケットメーカーはETFバスケットに組み入れる原証券を調達するために、自社の在庫証券を利用するか、または、原証券市場から購入する必要が生じることがあります。
新興国株式のように流動性の低い証券については、マーケットメーカーが証券を調達できないことがあります。その場合、ETF発行者はETFバスケットの一部として代わりに相当金額の現金を受け取り、ETFに組み入れる証券を原証券市場から直接購入し、そのコストをマーケットメーカーに請求することがあります。
ETFを交換する場面では、これと逆のプロセスが発生します。マーケットメーカーはAPから引き渡されたETFバスケットを清算し、その売却代金をETF受益証券の売り手に返却します。結局、プライマリー市場でのETFの設定と交換は、原証券市場での取引に帰結する可能性があります。
各営業日の取引が終了すると、ETF発行者は翌営業日の取引に備えて、ETFバスケットを構成する証券の名称とそれぞれの数量が記載されたポートフォリオ構成銘柄リストを公表します。
APはバスケットに含まれる証券とETF受益証券を交換することで(またはその逆で)ETFを設定/交換します。
ETFのポートフォリオマネージャーは、コーポレートアクション(配当支払い、合併・買収[M&A]、スピンオフなど)、インデックスの再構成、キャッシュフローを管理して、ポートフォリオをベンチマークに合わせて再調整し、トラッキングエラーを最小限に抑えるために原証券を売買します。これらの取引は、原証券市場の流動性に影響を及ぼす可能性があります。
設定/交換というETF独自のプロセスやセカンダリー市場での取引には、多くの資本市場関係者が関与し、ETFの流動性エコシステムに貢献しています。
ETFは通常、1つの取引所に上場していますが、ETF受益証券の取引は多くの取引所で行われます。これには、各国の証券取引所、代替取引システム、店頭取引などが含まれます。
ブローカーやディーラーは取引所に注文を送ったり、買い手と売り手を直接マッチングさせることで、顧客に代わって取引を執行しています。ディーラーは、自己勘定において証券を売買します。ブローカーとディーラーは、取引の執行や決済といったサービスに対して手数料を請求します。
APは関係者の中で唯一、ETFの設定や交換の注文を出すことができます。通常はセカンダリー市場におけるETF受益証券のディーラーとしての役割や、またマーケットメーカーや他の流動性プロバイダーの代理人として、ETF受益証券の設定/交換を行うなど、さまざまな機能を果たしています。
マーケットメーカーは、特定の価格で証券の買い値(ビッド)と売り値(アスク)を同時に提示することで、他の市場参加者に対して売り買い両面で流動性を提供します。自然な買い手と売り手が市場に参入するまでのギャップを埋めることで、最終投資家間での証券のやり取りを促進します。マーケットメーカーは、ビッド/アスク気配値のスプレッドや、ETFのNAVと市場価格との裁定取引の機会から利益を得ます。これは、価格発見にも役立ち、ETF価格をNAVの水準に維持することに寄与します。
デリバティブ・トレーディングデスクは、顧客である機関投資家のためにさまざまな金融商品の取引を促進する一環として、原資産としてのETFを積極的に取引し、ポジションをダイナミックにヘッジします。また、スワップや先物といった他のストラクチャ―にリンクするインデックスとの連動を目指すETFは、ビークル間のレラティブバリューにもとづく裁定取引でよく利用されます。
空売りプレーヤーは、株価上昇時には需要に向けて売り、逆に株価下落時には買い戻そうとすることで、流動性を供給します。例えば、資産の将来のパフォーマンスについて、ほとんどの投資家が楽観的であれば、ETFの価格は上昇してETFへの需要はますます高まります。逆張りの考え方を持つ空売りプレーヤーは、ブローカーからETF受益証券を借り入れ、購入需要が高まった時に売却し、その後多くの投資家が売りに動いている時に買い戻します。
設定・貸し出しデスクは、受益証券の借り入れを求める顧客に貸し出すことを目的に、ETF受益証券を(APを通じて)設定します。通常、ポジションをヘッジすることで価格変動リスクを最小限に抑えます。
これらの資本市場関係者はそれぞれ、ETFが1日を通して効率的に取引されることに貢献し、買い手と売り手の双方に利益をもたらしています。また、資本市場参加者にとっても、経済的メリットがあります。
ETF発行者はETF商品を開発し、投資目標を決定し、目標に従ってETFポートフォリオを管理し、日々の運営を監視します。組織内では、以下の4つの機能が市場の流動性に対処しています。
ポートフォリオマネージャーはETFポートフォリオを運用し、投資目的の達成を目指します。また、ETFバスケットの構成を決定します。ポートフォリオマネージャーのトレーディングデスクは、ポートフォリオマネージャーの指示に従って取引を執行します。原証券の流動性プロバイダーとともに、流動性を供給し、取引コストの最小化を図り、最良執行を目指します。
キャピタル・マーケッツチームは、AP、取引所、マーケットメーカー、トレーディングデスク/プラットフォーム、その他の流動性プロバイダーと関係を構築し、競争市場を促進してETFの流動性エコシステムの改善を図る上で、積極的な役割を担っています。市場参加者との関係や、プライマリー市場およびセカンダリー市場の活動に対する洞察力により、大規模なETF取引を効率的に執行したい投資家にとって、重要なリソースとなっています。
ETFは裁定取引によって、ファンドの市場価格をNAVの水準に維持しています。そのため、ETFが連動するインデックスを設計する際に、商品開発チームは流動性の観点からETFを効率的に運用できるように、ETFバスケットの流動性確保に努めます。これにより、市場参加者はETFの受益証券を効率的に設定/交換し、ETFの価格をNAVと同水準に維持することができます。
流動性リスク管理チームは、さまざまなリスク指標や、平常時およびストレス時のシナリオにおける定量的モデルを用いて、ファンドの原資産の流動性と資金調達における流動性を監視し、ETFが公正かつ秩序ある方法で顧客の交換ニーズに応じられるようにします。流動性に関する問題が確認された場合には、ポートフォリオマネージャー、トレーダー、プロダクトマネージャー、その他の関係者と連携して対処します。