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第2部:パンデミック後の景気サイクルに向けたポジショニング

本稿の第1部では、今後、インフレ率とボラティリティの高い環境を形作る背景になると考えられる、長期的なテーマについて触れました。第2部では、各テーマをより深く掘り下げ、これらの変化から恩恵を受ける可能性の高いシステマティック・エクスポージャーについて説明し、そして当社のポートフォリオのポジショニングとどのように関連するかを検証していきます。


Investment Strategist

構造的にインフレ率とボラティリティが高い環境

長期的な視点で見ると、いくつかの重要な長期的影響力がパンデミック後のサイクルを牽引すると考えられます—これらの影響力は、緩やかに進展し、構造的変化をもたらすでしょう。

高い投入コスト:グローバル化からリージョナル化へ

1970年代の経済問題は、1980年代の抜本的な経済改革のきっかけになりました。レーガンやサッチャーの時代に行われた政策変更によって、規制緩和、労働組合結成の減少、民営化、減税、信用規制措置の撤廃が次々と起こりました。1989年のベルリンの壁の崩壊、1994年の北米自由貿易協定(NAFTA)の締結、インド(1995年)と中国(2001年)の世界貿易機関(WTO)への加盟を経て、世界貿易は世界全体の国内総生産(GDP)の約2倍のペースで成長を遂げました1。その結果、世界の製造コストの基本水準は大きく低下することとなり、非常に効率的かつ複雑なグローバル・サプライチェーンが形成され、効果的でグローバルな労働力の供給が拡大しました。輸入価格とGDPに占める労働分配率は低下しましたが、利益分配率は記録的な高水準に達しました。世界貿易のグローバル化は、図1に示すように、世界金融危機の頃にピークを迎え、それ以降は緩やかになっています。

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大規模に実行・実装が可能なテクノロジーによって、グローバル化によるディスインフレ圧力は一段と強まりました。これは、急激に低下したコンピュータ・ハードウェア・コストや、より安価で効果的な通信において最も顕著となりました。インフレ率がすでに低下しつつあった時期に、テクノロジーの発展で信用拡大(クレジット・グロース)の必要性は低下しました。

パンデミック後のサイクルでは、リージョナル化の加速と、企業によるサプライチェーンの簡素化計画が予想されます。これには、非常に効率的な一方で複雑になっているグローバル・サプライチェーンを構築し直す必要があり、先立って多額の設備投資が発生することになります。世界金融危機(GFC)以降に起こっているグローバル貿易の強まりと依存の緩和・低下はますます加速して、過去の長期的なディスインフレ圧力が一部覆されるでしょう。リージョナル化の流れは、現在、以下の要因と相まって加速しています:

  • テクノロジーの発展:生産活動で労働集約度を下げるためのテクノロジー・ソリューションによって、生産拠点の国内化(オンショアリング)の実行がより可能になりました。
  • コロナ禍とロシア・ウクライナ紛争:新型コロナや紛争によって、ジャストインタイムの在庫管理方式と複雑なサプライチェーンへの過度な依存およびその脆弱性が浮き彫りになりました。

多くの企業が、脱グローバル化、海外移転した生産拠点の国内への回帰(リショアリング)、サプライチェーンのレジリエンス(強靭性)の改善について活発に議論しています。例えば、米国では、アナリスト向け決算説明会で、サプライチェーンの強靭性の改善に関する話題がコロナ禍前の水準から約8倍に増え2、多くのグローバルで事業運営を一体化している企業にとって重要な注力事項となっています。現地化とリショアリングへの流れは法律が後押ししています。米国では、医薬品の外国企業への依存を減らすための法案「Strengthening Supply Chains for Service members and Security Act(サプライチェーン強化のための国家安全保障法)」などが制定されています。半導体でも同じような圧力が高まっています。例えば、米国上院は2022年7月22日、国内の半導体産業に助成金を交付する包括法案を可決しました。一方、欧州委員会(EU)も、チップ産業を強化し、米国やアジアのサプライヤーへの依存を減らすために、半導体工場の資金調達規制を緩和しています。

結果および投資への影響

生産拠点の国内現地化が進めば、これまでグローバル化の恩恵を受けてきた企業の投入コストが上昇することになり、特に多額の資金が必要な国内の労働市場やエネルギー源からの圧力がすでに高まっています。端的に言うと、現在、生産者物価指数(PPI)で測定した投入コストが、消費者物価指数(CPI)で測定した生産コストよりも大幅に速いペースで上昇している時代になっています。このことは図表2で示されています。こうした環境は、価格決定力のある企業には大いに有利ですが、投入コストや人件費の転嫁が困難な企業にとっては不利に働くと考えられます。