足元の銀行危機がマクロ経済にもたらす影響は、少なくとも3つの側面から評価できます。それは何なのか、そして今回の危機をさらに深く理解するのに、どのように役立つのでしょうか?
金融セクターの混乱を受けて浮上している主要な疑問の1つは、マクロ経済への影響に関するものです。当社は、現在も続く銀行危機のマクロ経済への影響には、3つの側面があると考えています。方向性、タイミング、大きさです。このうち分析が最も簡単なのは方向性で、タイミングはそれほど簡単ではありません。そして正確に把握するのが最も難しいのは大きさです。
方向性が理解しやすいのは、影響の経路が単純だからです。銀行破綻は、具体的にどのようなリスクが発端であったにせよ、本質的にリスク管理の失敗に起因します。危機を経て、銀行システム全体、そしてシステム外でも、リスク管理が厳しくなります。
その結果、与信基準が強化され、借り入れは難しくなり、借入コストは高くなります。ひいては、資金需要が低下して、それまで問題のなかったプロジェクトの一部に支障がでる場合もあります。最終的に、資本投下や労働力需要の勢いは低下します。さらに成長は減速し、インフレは緩和し、失業率は上昇します。
危機封じ込めのために打ち出された政策は、マクロ経済に影響がおよぶタイミングを大きく左右します。その意味で、タイミングと影響の大きさの2側面には関連性があります。影響が広く深いほど、データに反映されるタイミングは早くなります。
一方、打ち出された措置が一時的な危機に対応しているだけだと市場参加者が早く気づけば、信頼感は早く回復し、望ましくない行動を取る可能性は最小限に抑えられます。金融機関自体は危機発生時に緩和的な貸出基準を採用していたでしょうか?そうであれば、ほとんど一夜にして引き締めが可能です。ただ新規融資の審査が既に厳格化されていれば、極端な対応を取る必要性は抑えられます。
いずれかの状況が当てはまるなら、現時点では安心できますが、そうでない場合には注意が必要です。幸い、金融引き締めサイクルは既に終わりに近づいており、したがって銀行の調達コストが、現行水準から大幅に上昇する可能性は低いと思われます。重要な点として、銀行預金全体は3四半期連続で減少していますが、最近の銀行破綻で大手行の預金は増加しており、少なくとも目先、大手行は相対的に安定した信用供給源になる可能性があることが挙げられます。
加えて、銀行システム全体の与信基準は、既に大幅に引き締められていました(図表1)。一部の指標によると、引き締め状況は既に前回サイクルのピーク時の3分の2の水準に達しています。したがって、この点に関して、既にかなり影響が出ていた可能性もあります。
極めて重要なのは、消費者の債務返済負担が全般的に非常に低水準にある点で、ストレスが広範に及ぶことなく借入コストの上昇を吸収する余地があることがうかがえます。これは米国だけでなくその他の国にも当てはまり、債務返済負担はいずれも歴史的に低水準にあります(図表2)。
やや気掛かりなのは、非金融企業セクターは、絶対ベースでは高水準の流動資産を有しているものの、前サイクルに比べて短期負債が短期資産を大幅に上回っており、信用逼迫に向かっているように見える点です(図表3)。
これは、大幅に高いコストで大量の借り換えを迫られること、あるいは債務返済を優先するために他の支出を削減する必要があることを意味しますが、いずれにせよ、その結果、利益率と信用力の双方に悪影響が及び、したがって将来の設備投資、労働力需要、国内総生産(GDP)成長率にとってマイナス要因となります。
家計の財務状況は盤石で、労働市場が極めて好調な出だしを見せているため、雇用者数の著しい悪化は第3四半期にならないと顕在化しない可能性もあります。労働所得は持ち堪えており、実質賃金は改善しつつあるため、消費支出の減速を示す証拠が増えるまで、あと数ヵ月は、同様に底堅く推移するかもしれません。ただ、それよりかなり前に、クレジット市場の一部でストレスの兆候が明白になることも考えられます。
最後はマクロ経済への影響の大きさです。当社は、銀行セクターの混乱の影響が最も大きくなるのは、今年後半から主に2024年になるとみており、その頃には成長の改善は、もはや見込めないと考えています。当社は最新の見通しで、2024年の年間成長率予想をこれまでの1.5%から僅か0.7%に下方修正しました。
当社は「景気後退は不可避」とする見方とは、長いあいだ距離を置いてきました ―― それはこれまでのところ直近データで裏付けられています。しかし、最近のイベントを踏まえると、2024年末までに軽微な景気後退さえ起らないと確信をもって主張するのは、難しくなっています。ただ、全ての景気後退リスクが、最近のイベントに関係している訳ではありません。
家計部門の超過貯蓄の枯渇、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めの遅行効果、財政による下支え不足は、いずれも2024年末までに景気後退リスクがあることを既に示していました。銀行セクターの混乱は、これらのリスクを単に高めただけであり、景気後退リスクの実現を前倒しする可能性もあります。
当社はFRBによる大幅な緩和を見込んでいます。具体的には、今年末までに金利を50ベーシスポイント(bp)引き下げ、2024年末までに累計200bpの利下げを実施すると予想しています。そうしなければ、おそらく景気後退はかなり深刻化するでしょう。
マクロ経済への影響には、常に少なくとも3つの側面があります。現在の危機がもたらす影響の方向性に関しては、成長率の低下とさらなるディスインフレの可能性は排除できません。方向性より見極めが難しいタイミングについては、影響はかなり急速に表れる可能性はあるものの、直ちに表れる訳ではありません ―― 当社は数ヵ月後とみています。影響の大きさは、正確に把握するのは極めて難しいものの、年間GDP成長率は少なくとも0.2~0.3%低下するでしょう。