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米政府機関の閉鎖はただの茶番ではない

米政府機関が閉鎖の危機に直面していますが、債務上限協議の合意事項の効力が年末までに生じ、通常業務が同様の水準で再開する点を踏まえると、マクロ経済に重大な影響は及ばないとみられます。この点に関し、過去の政府機関閉鎖の多くと同様に、消費と投資のパターンには概ね影響はないでしょう。ただ政府機関閉鎖は、将来的な財政の圧迫ならびに2024年の選挙サイクルに対する政治リスクを予感させます。

Head of Macro Policy Research

政府機関閉鎖はカーター、レーガン政権時代に始まり、両政権のもとでたびたび実施されましたが、ほとんどの場合、閉鎖からわずか数日で政府は予算案を通過させ、政府機関は通常業務を再開しています。直近の政府機関閉鎖は2018年後半で34日間続きましたが、実際に業務が停止したのは政府機関の一部に限られました。ではなぜ、2023年の政府機関閉鎖をめぐって懸念が生じているのでしょうか。

急速に悪化する米財政状況

今回の政府機関閉鎖をめぐる混乱は、2つの関連するシグナルを発しています。第一に、足元で財政状況が記録的なペースで悪化していること。

図表1に、連邦政府の利払額が歳入に占める割合を示しました。現在の水準は依然として1980年代および1990年代のヒストリカル・レンジ内にありますが、以下の3つの理由から今後このレンジを超える可能性は高いとみられます。

  1. 金利上昇ペースが、過去の引き締めサイクルより急速なこと。
  2. 債務負担の全般的な上昇は、金利リスクの影響が増大することを意味すること。実際、債務の平均満期を6年に延長したものの、現在の高い金利水準で、より大量の債務が借り換えられています。
  3. 債務の借り換えコストに加え、米財政赤字が対GDP比で約8%と驚くほど高水準にとどまっていること。つまり、ネットの新規発行額は著しく高額で、発行コストが割高となります。

これらはいずれも分子への影響を説明していますが、注目すべきは、今年も分母、すなわち税収がかなり悪化していることです。企業利益の予想や賃金の伸びの見通しは、税収は来年も改善せず、2023年の悪化分を取り戻すことができないことを示しています。

全体としては、元利払いコストの上昇が続いており、これは第2のシグナル、すなわち、この先の厳しい政局運営を示しています。

図表1:米連邦政府の利払額が歳入に占める割合(純利払額/税収の12ヵ月移動平均)

US Federal Government Interest Payments as a Share of Total Revenues (12M MA)

出所: マクロボンド、米財務省、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2023年8月1日時点

緊縮財政は近い?

驚くことではありませんが、図表1からもわかるように大規模な財政赤字削減措置は、政権政党と議会多数派が異なるいわゆる分割政府で実施されてきました。レーガン政権やクリントン政権が予算協議で合意したとき、元利払いコストは過去最高水準にありました。それに比べ、オバマ政権が同様の措置を打ち出したとき、利払いの絶対額こそ控えめでしたが、それでも10年来の高水準近くにありました。同様に、大型減税策は通常、元利払いコストが低く、かつ政権政党と上下両院の政党が同じである統一政府のもとで成立しています。

ここでのリスクは、2024年の選挙を前に米景気が悪化した場合、この脆弱な財政状況と選挙を睨んだ政局運営が財政による景気下支えを限定し、それによって景気の悪化がより長期かつ深刻となることです。選挙分析によると、統一政府の可能性は、ゼロではないものの見込みは薄いとみられます ―― よって2025年に大規模な財政赤字削減、すなわち緊縮財政が打ち出される可能性があります。

政府機関閉鎖により、財政赤字が米選挙戦の争点に

政府機関閉鎖は米選挙シーズンの幕開けを告げるものです。これにより、財政赤字が再び争点の中心となる可能性が出てきました。これに関して、たとえ「ソフトランディング」シナリオの下で利下げが実施されても、上述したような財政余力を制約する構造的な要因を反転させるには不十分でしょう。

したがって、財政政策を打ち出す余地がますます狭まり、今後数年の米経済成長の逆風となるなか、景気が落ち込む場合には米連邦準備制度理事会(FRB)が引き続き、政策対応の中心的役割を担うことになるでしょう。

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