「私はプロセスを信じています。四季を信じています。冬は厳しくとも、春は巡ってきます。成長期はあると信じています。そしてあなたが人生で成長を実感できる時が、やって来ると考えています。あなたは成長しています」
今年の年次予想シーズンもそろそろ終わりを迎え、ほっとしています。毎年この時期になると、ストラテジストたちは自分たちには未来を予測する力があると、投資家に信じ込ませようとします。誤解しないで下さい。投資家はそう信じたいのです。彼らも、この馬鹿げたビジネスに加担しているのです。投資成果を常に正確に予測するなど不可能だ、という証拠が山のようにあるにもかかわらず、投資家は専門家と呼ばれる人たちならそれが出来ると、とにかく信じたいのです。
私は米国SPDRビジネスのチーフ・インベストメント・ストラテジストとして、毎年この予想ゲームに参加しなければなりません。気が進まないと思いつつ、投資家にとっての3大サプライズを予想するのは、今年で8年連続となります。
過去7年間に私が行った21の予想のうち14は当たっており、的中率(67%)はなかなかのものです。ただクオンツや統計マニアなら、これが実力なのか、まぐれなのかを統計的に有意に判断するには、数が少なすぎることを知っています。
私は、自分の投資プロセスを信頼しています。投資成果は常に予測不可能ですが、一貫性と規律がある再現性の高い投資プロセスは投資家がコントロールできると、私が毎年こうして念を押しているのはそのためです。十分に考慮されたアプローチと僅かな運があれば、投資家は長期的な成功への、最善の投資機会が得られると考えます。
私が毎年繰り返しているこのメッセージは、2023年に入って一段と重要性を帯びています。歴史的に見て極めて厳しい1年を経て、おそらく投資家の間には、投資プロセスを変更しようとする行動バイアスが働きます。しかもそれは多くの場合、まさに悪いタイミングで起こります。変更したいという衝動に駆られた場合、何もしないのが得策です。現在の方針を維持し、プロセスを信じることです。
したがって8年目も、私は同じ方法で、3つのサプライズを予想します。確信度の高い少数のサプライズに的を絞ったことが、これまでの成功の一因です。予想する項目が多すぎると、外れるケースも増えるため、全体の的中率は低下します。
私の予想期間は暦年です。予測期間が長いと、予測や測定の誤差が増えます。そして私がサプライズを予想する際、最も重視しているのは、既に多くの悪材料が織り込まれて投資家センチメントが一方向に傾き、バリュエーションに妙味が出ている不人気資産を特定することです。
これらの条件が揃った時、サプライズが起きる可能性は最も高くなると考えています。この単純な予測方法を用いて導いたのが、私の2023年の3大サプライズです。
2023年1月20日までの12ヵ月間に、米国金融セクター上場投資信託(ETF)から200億ドル近い資金が流出しました。これは、同時期の流出額が11の経済セクター中2番目に多かった、米国生活必需品セクターETFの2.5倍にのぼります1。景気後退懸念の高まり、資本市場の大幅な変動、住宅価格の下落、低調な決算、逆イールド(イールドカーブの逆転現象)を受け、投資家センチメントは明らかに悲観的となり、金融セクターは不人気資産となっています。
第4四半期の決算発表シーズンは、米国の金融セクターにとって想定以上に悪い結果となりました。12月31日時点では、米国金融セクターの一株当たり利益(EPS)成長率は前年同期比-7.5%と予想されていました。決算発表シーズンは低調なスタートとなり、現在、EPS成長率は前年同期比-12.4%と更に大幅な減益が予想されています2。
ほとんどの金融機関、特に銀行は、短期で借り入れた資金を長期で貸し出すことで利益を生み出しています。たとえば、当座預金や普通預金といった要求払い預金で短期資金を借り入れます。そして、住宅ローンなどの長期ローンを提供することで、資金を長期間貸し出します。要求払い預金に対して支払う低い短期金利と、長期ローンで受け取る高い金利の差額が金融機関の利益になります。
ただ、現在のように長期金利が短期金利を下回ると、逆イールドが起こります。歴史的に、逆イールドは景気後退の前兆とされています。しかし、同時にイールドカーブの反転は金融機関の収益モデルの前提を崩すものです。逆イールドは、2023年の米国金融セクターの見通しに悪影響を与えています。
言うまでもなく、環境の厳しさを考えると、今年、米国金融セクターが市場をアウトパフォームすれば、サプライズになるでしょう。ただ、米国金融セクターには悪材料が既に多数織り込まれている可能性があります。これが投資家を引き付ける相対価値による投資機会を生み出しています。12ヵ月予想株価収益率(PER)に基づくと、金融セレクト・セクター指数(13.6倍)はS&P500指数(17.4倍)に対して20%を超えるディスカウントで取引されています3。また、金融機関は、自社株買いや配当を通じて株主への資本還元を積極的に進めています。これは、今日のように資本市場が大幅に変動する環境において魅力的です。金融セレクト・セクター指数の配当利回りは、S&P500指数の配当利回りの1.24倍となっています4。
第4四半期決算発表シーズン序盤は厳しい内容となったものの、米国金融セクターの前年同期比増収率は依然としてS&P500指数を上回るとみられています。また、ファクトセットによると、米国金融セクターの純利益率は11の経済セクターの中で3番目の高さにあります。実際、米国金融セクターの純利益率は15.5%と、S&P500指数の純利益率の1.35倍となっています5。
こうした中、米連邦準備制度理事会(FRB)はイールドカーブを現在の逆イールドから正常な状態に戻したいとの意向を示しています。FRBの引き締めサイクルが年内に終了した後も、金利は高止まりする可能性が高く、金融セクターの収益性は更に低下するでしょう。また、金融セレクト・セクター指数は、昨年S&P500指数をアウトパフォームしたものの、2022年12月31日までの3年および5年年率ベースでは大幅にアンダーパフォームしています6。投資家が今年後半に景気回復を織り込み始め、イールドカーブが正常化するのに伴い、米国の金融セクターは再び市場を牽引するようになるとみています。
私が予想する第1のサプライズは、2023年に金融セレクト・セクター指数がS&P500指数をアウトパフォームする、です。
欧州は良く知られているように、多数の構造的問題を抱えています。通貨統合は、財政同盟を伴っていません。多くの裕福な諸国と同様に、欧州は莫大な債務と厳しい人口動態に直面しています。また、米国や一部のアジア太平洋諸国と比べて、欧州は革新的で破壊的な新たなテクノロジーの開発に出遅れています。これらすべてが、欧州の経済成長の足かせとなってきました。その結果、欧州株のPERは、日常的に米国株のPERを下回るようになっています。
ロシア-ウクライナ戦争が欧州の見通しを更に複雑にしています。戦争で数百万人がウクライナから避難しており、人道的危機が起きています。ロシアへの経済制裁により、欧州がロシア産の原油や天然ガスに依存していることが露呈しました。既にパンデミックによる物価上昇に直面していた欧州では、ロシア-ウクライナ戦争によって食品とエネルギーの価格が欧州全域で高騰しました。しかも、欧州中央銀行(ECB)は、経済が減速して景気後退懸念が高まっているにもかかわらず、物価安定化のために利上げを余儀なくされました。
ロシア-ウクライナ戦争以前には、欧州株を割安と考えていた向きもいるかもしれませんが、ストックス・ヨーロッパ・トータル・マーケット指数は現在、12ヵ月予想PERベースでS&P500指数に対して30%近くのディスカウントとなっています7。欧州株に既に多くの悪材料が織り込まれているため、不人気資産に魅力的なバリュエーションの投資機会が生まれています。たとえば、投資家は米国株を大幅に下回る価格で、向こう3年から5年で同等のEPS成長率が期待できる欧州株を購入できます。加えて、ストックス・ヨーロッパ・トータル・マーケット指数の配当利回りは、S&P500指数の配当利回りのほぼ2倍です8。
相対価値が良好というだけでは、投資家は欧州株の購入に動かないでしょう。結局のところ、欧州株は長期にわたって、常に米国株より割安に推移してきました。安値買いのタイミングが来たと投資家に思わせる、強力なカタリストが必要です。これまでのところ、例年より温暖な冬と石油・天然ガスの在庫積み上がりによって、欧州の消費者センチメントは押し上げられています。また、ロシア-ウクライナ戦争が今年終結すれば、欧州のセンチメントは同じく高まるでしょう。米国と同様に、インフレ関連指標は減速の兆しを見せ始めており、これは欧州の消費者および企業にとって歓迎すべきニュースです。
おそらく欧州株にとって最大のサプライズは、景気後退懸念にもかかわらず、売上高、利益、利益率が底堅さを維持している点でしょう。そのため、米企業の収益性が大幅に減速する一方、欧州企業のファンダメンタルズは引き続き堅調です。パンデミックで停止していた中国経済が再開し、欧州にとって最大の顧客も戻ってきます。そのため、バリュエーションの著しいディスカウントは、投資家に一段と興味深い投資機会を提供しているでしょう。
最後に、米投資家による欧州株投資のもう一つのカタリストとして、ドル安が挙げられます。FRBの引き締めサイクルが終盤に差し掛かり、中国は経済を再開し、欧州がエネルギー危機を回避する中、米ドルは弱含み始めており、投資家の非ドル建てリターンを押し上げています。
率直に言って、欧州株は10年にわたって割安に推移してきましたが、堅調なファンダメンタルズとドル安がカタリストとなり、バリュエーションのギャップは無視できないほど大きくなっています。ストックス・ヨーロッパ・トータル・マーケット指数は、2022年12月31日までの3年、5年、10年の年率ベースでS&P500指数を大幅にアンダーパフォームしています9。このパフォーマンス格差は、今年縮小する可能性があります。
私が予想する第2のサプライズは、2023年にストックス・ヨーロッパ・トータル・マーケット指数がS&P500指数をアウトパフォームする、です。
昨年、投資家が退避する場所は、ほとんどありませんでした。高騰するインフレと闘うために世界の中央銀行が実施した急速な利上げにより、ほぼ全ての資産価値が再評価されました。エネルギー株、米ドル、コモディティは、昨年投資家にプラスの絶対リターンを提供した数少ない資産でした。奇妙なことに、昨年、米エネルギー・セクターETFのフローはほぼ横ばいだった一方で、コモディティETFからは資金が流出しました。実際、6つの主要資産クラス(株式、債券、コモディティ、特化型、複数資産、オルタナティブ)のうち、2022年に資金が流出したのはコモディティETFのみで、その主因は金ETFからの資金流出でした9。
インフレのピークアウトと世界的な景気後退懸念の高まりを背景に、コモディティ、不動産、インフラ投資などの実物資産に対する投資意欲は冷え込んでいます。実質金利の上昇とドル高も、金を中心とする実物資産の見通しに悪影響を及ぼしました。また、オフィス復帰の動向などパンデミック後の余波や著しく高い金利水準も、不動産市場の見通しに影を落としています。
その結果、様々な資産から成る実物資産という不人気なカテゴリーには、特に伝統的な株式、債券、デジタル資産と比べて、相対価値による投資機会が生じています。
供給は依然として制約されています。また米国で1兆ドル規模のインフラ投資・雇用法が2021年11月に成立し、2022年8月にはインフレ抑制法が成立と、大規模な財政出動が続くため、需要は長期的に力強さを維持するでしょう。
実物資産は、当然インフレ環境からも恩恵を受けます。世界のインフレは2022年にピークを付けた可能性があるものの、おそらく少なくとも向こう1年、場合によってはさらに長く、高水準にとどまりそうです。
投資家は実物資産ラリーの長期化に懐疑的です。ただ実物資産のラリーが1度限りで終わることは滅多にありません。今世紀初頭の、前回のコモディティ・スーパーサイクルのように、多くの場合、ラリーは数年間続きます。
ただ、現在のように供給が制約され、金利が上昇し、インフレが高まる環境でさえ、コモディティ、不動産、インフラへの投資は十分ではありません。投資家は、分散型投資ポートフォリオにおけるエネルギー、素材、コモディティ、インフラ、不動産、金、工業用金属への配分引き上げを検討すべきでしょう。今年はボラティリティが上昇し、予想される投資成果はばらつきが大きくなるとみられることから、実物資産の保有は賢明だと思われます。
私が予想する3大サプライズの最後は、2023年に実物資産による分散型投資ポートフォリオが伝統的な株式60%/債券40%投資ポートフォリオをアウトパフォームする、です。
投資家には厳しい1年だったため、私の2022年の3大サプライズ予想が上手く行ったことを喜ぶのは気が引けます。大方の投資家は2022年の投資パフォーマンスに満足していません。私もその一人です。ただ私は少なくとも1月の記事で言及した、人気ポッドキャスト「The Compound & Friends」の呪縛は断ち切ることができました。3つのうち2つのサプライズを的中させたからです。2020年、2021年と私の予想は外れていたので、挽回できてよかったです。
私は2022年に中国株が、グローバル株をアウトパフォームすると予想しました。これは外れました。しかし2023年、私はこの予想にダブルダウンすること(ブラックジャックのゲームで、勝てそうな時にリスクをとって掛け金を倍に出来るというルール)を検討しました。そして中国株は、今年これまでのところ非常に好調です。遅れても来ないよりはましです、多分。ダブルダウンと言えば、昨年私は初めて、前年のサプライズを再び採用し、米国の航空宇宙・防衛セクターの株式が反発すると予想しました。そして2022年、S&P航空宇宙・防衛セレクト・インダストリー指数のパフォーマンスはS&P500指数を13.4%上回りました。ただ残念ながら、いずれも絶対リターンはプラスではありませんでした。そして3つ目の、金がビットコインをアウトパフォームするという予想は的中しました。昨年、金のスポット価格が実質的に横ばいだったのに対し、ビットコインは約65%下落しました。ことわざにもあるように、「3つのうち2つが当たれば悪くない」です
FRB、金利、インフレ、業績、株価、米ドルに関する2023年のコンセンサス予想は、ほとんどの年がそうであったように、おそらく外れるでしょう。それでも大丈夫です。投資成果は予測不可能なものです。それは現在のように、先行きの不透明感が極めて高い環境ではなおさらです。投資家がコントロールでき、かつ頼れるのは、一貫性があり、規律ある再現性の高い投資プロセスを通じて、長期的な成功への最善の投資機会を捉えることです。2022年は極めて厳しい1年でしたが、2023年はすべての投資家のポートフォリオで、ポジティブ・サプライズが起こることを願っています。