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Uncommon Sense

失敗なくして資本主義は発展できるのか?

「倒産のない資本主義は、地獄のないキリスト教のようなものだ」

– フランク・ボーマン

Chief Investment Strategist

過去40年間にわたり、政府と中央銀行は銀行救済策を練り上げ、発動してきました。事の始まりはコンチネンタル・イリノイ銀行の救済で、直近ではシリコンバレー銀行が救済されています。皮肉なことに、コンチネンタル・イリノイ銀行が米国の銀行で初めて「大き過ぎて潰せない」とみなされたのは、連邦政府の影響力が低下していた1984年のことでした。当時としては前例のないことでしたが、規制当局は、連邦預金保険公社(FDIC)が今年3月上旬にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の預金者に対して行ったように、コンチネンタル・イリノイ銀行の預金者に対する預金保護を無制限に拡大しました。

パンドラの箱がいったん開けられると、ギリシャ神話と同じように、貯蓄貸付組合(S&L)危機、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の救済、世界金融危機、パンデミックといったさまざまなものが中から這い出してきました。そして現在も、政府と中央銀行が危機に対応し、協調して救済策を講じることが期待されています。今世紀に入って以降の金融緩和政策と、グローバル化に伴うコネクティビティの高まりにより、救済は困難さを増しています。そのため、米連邦準備制度理事会(FRB)と米国財務省は2008年と2020年に、救済のために数兆ドルを要しました。

ところが、依然として根強いインフレと金利上昇にもかかわらず、今回の銀行危機は、金融緩和の時代がまだ終わっていない可能性を示唆しています。ストラテガス・リサーチ・パートナーズによると、政策当局は、今回の危機がシステミックイベントに発展することを回避するため、第1四半期に金融市場に7,550億ドルの流動性を注入しました。四半期ベースの流動性注入量は2021年第3四半期以来の増加となりましたが、驚くことに、この流動性注入によって5カ月間にわたる量的引き締めが、わずか2週間ですべて帳消しになってしまったのです1。流動性が注入される一方で、FRBはインフレと闘っています。両者の揉み合いの結果、第1四半期は流動性が勝利し、ナスダック企業からビットコインに至る長期グロース資産がパフォーマンスの上位を占めました2

今回の銀行危機 をきっかけに、救済をめぐる議論が再燃しています。救済を擁護する人々は、救済によって好景気と不景気の景気サイクルの波が小幅になり、経済に対する信頼が回復し、金融市場のボラティリティが軽減し、企業のデフォルト率が低下すると主張しています。一方で、救済は一時的に痛みを和らげるかもしれないが、長期的な問題の解決にはほとんど役立たないとの意見もあります。

こうしたことから、失敗のない資本主義とは本当に資本主義と言えるのだろうか、という疑問が湧いてきます。

救済者を救うのは誰か?

国際通貨基金(IMF)は資本主義の柱として、競争、政府の役割の限定など、6つを定義しています。資本主義が成功するためには、政策当局から過度な干渉を受けずに、勝者と敗者を区別する能力が不可欠です。しかし現在、政府は市場の失敗を是正するために、市場をより厳しく規制しています。

コンチネンタル・イリノイ銀行が破綻する以前、政府や中央銀行は救済に乗り出すことに消極的でした。救済が行われる以前の時代は、好不況の波が激しく、生産性は高く、収益力は高まっていました。

ロックフェラー・インターナショナルのルチル・シャルマ会長は、今日の救済文化が、いかに資本主義を弱体させているかについて、「救済は資本の大規模な誤まった配分につながり、多くのゾンビ企業を生み出し、生産性とビジネスのダイナミズムの低下に大きく寄与している。米国の全要素生産性(TFP)の伸び率は、1870年から1970年代前半にかけて約2%だったが、2008年以降はわずか0.5%まで低下している3」と書いています。

もちろん、産業革命の頃のような過酷な状況や、1930年代の銀行取り付け騒ぎの再来を願う人はいないでしょう。しかし、過去数十年の間に繰り返し行われてきた政府による救済は、間違った方向へ踏み出し過ぎたと思われます。

政府や中央銀行が良かれと思って行った救済措置が、実際には期待とは逆の効果をもたらしている可能性があります。金融システムを安定させ、経済を活性化させるどころか、救済が成長の鈍化や不安定な市場を助長している可能性があるのです。米国の1つの地方銀行が破綻しただけで、世界の銀行業界全体に影響が及ぶ恐れがあるほどです。

終わり良ければすべて良しなのか?

ここで、シリコンバレー銀行やシグネチャー銀行の破綻、およびクレディスイスの経営危機に対する政策当局の行動を非難するつもりはありません。それどころか、当局は世界の銀行システムに必要な信頼を回復するために迅速に動き、さらなる破綻の連鎖を回避したと思われます。これは経済と市場にとって、最善の結果と言えます。

しかし、今起こっている銀行の混乱と政策対応は、数十年にわたる救済措置の影響について考えるための、新たな視点を投資家に提供しています。政策当局が安易に講じる救済措置は、一時的にはプラスに働くかもしれません。しかし投資家は、資本主義経済が長年をかけて積み上げてきた教訓の1つとして、タダほど高いものはないということを嫌というほど分かっています。

経済成長が鈍化し、生産性が低下し、生活水準が低下するようなことになれば、救済の代償としては高過ぎます4 。救済措置は良いことのように見えますが、もしかしたら世界の金融システムを安定化するどころか、ますます脆弱にしているのかもしれません。

さらに問題なのは、救済措置が世界の経済や金融市場にもたらすリスクが増大していることに対して、政策当局や投資家の感覚がますます鈍感になっている可能性があることです。

Michael AroneによるUncommon Senseの一覧は こちらから ご覧いただけます。コンセンサスとは異なる、型にはまらない視点を提供します。

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