Skip to main content
Uncommon Sense

市場の好調なスタートを阻む5つのリスク

「リスクを取る勇気がなければ、人生において何も達成することができない」

―モハメド・アリ

28分で観られる
Chief Investment Strategist

資本市場には、コンセンサス予想を見事に裏切るという面白い性質があります。2023年のスタート時点で最ももてはやされた予想は、上半期の市場は乱高下に苦戦するが、年末にかけて上昇するというものでした。

米国大型株が6年連続で米国小型株をアウトパフォームしたことを受け、多くの投資家は、今年こそ小型株が大型株に勝ると考えていました。市場関係者の大半は、2023年もバリュー株がグロース株を上回ると予想していました。米国株は、外国株に対する10年におよぶアウトパフォームを維持すると見られていました。金利が上昇し、インフレが引き続き根強いことから、債券、特に投資適格未満の債券はおしまいだと誰もが思っていました。そして、金に対する投資家の熱は、かつてないほど冷めていました。

ところが、少なくとも年初の4カ月間を見る限り、投資家が予想していたほぼすべての点で、正反対の展開となっています。

経済は市場ではない

経済は、今後12~18カ月以内に景気後退入りするという既定路線に沿って進んでいるように見えます。S&P500指数構成企業の1株当たり利益(EPS)成長率は、2四半期連続で前年同期比マイナスとなりました。労働市場のデータにも、小さな亀裂が現れ始めています。しかし、株式と債券は、いわゆる「不安の壁」を果敢に登っています。

過去3四半期にわたって、私は投資家に対して繰り返し、「経済は市場ではなく、その逆もまた然りである」と注意喚起してきました。今年の折り返し地点が目前に迫る今、景気は減速し、企業業績は落ち込み、労働市場は軟化しています。

今、投資家が直面している5つのリスク

当然ながら、投資家は思いがけない利益を何とかして守ろうと、神経を尖らせています。しかし、以下に挙げる5つのリスクのうち、1つでも現実のものとなれば、2023年下半期の資本市場に混乱をもたらす可能性があります。

  1. 迫り来る信用収縮
  2. 米連邦準備制度理事会(FRB)による過度の引き締め
  3. 資本獲得への競争激化
  4. 企業業績の低下
  5. 債務上限交渉

今年後半を迎えるにあたり、これらの5つのリスクに関する私の考えを述べたいと思います。

信用収縮に伴い、既に減速している経済がさらに冷え込む可能性

クレジットへの容易なアクセスは、米国経済の生命線です。金利の上昇と金融引き締めにより、今年に入って与信を受けることが非常に困難になっています。

例えば、FRBが2月6日に発表した、銀行の貸出状況に関する四半期ごとのシニアローンオフィサー調査(SLOOS)によると、消費者向けローンと企業向けローンの双方で貸出基準が厳しくなり、需要が減少していることが明らかになりました。さらに、調査では、年末にかけてすべての種類の融資について、貸出基準が厳格化して需要が減退し、融資の質が悪化すると銀行が予想していることが報告されました。

驚くことにこれは、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行、ファースト・リパブリック銀行が破綻する前に実施された調査です。これらの銀行破綻の影響で地方銀行の危機が続く中、クレジットへのアクセスがますます困難になっていることを示すさらに多くのデータが発表されました。5月8日に発表された最新のSLOOSレポートでは、消費者向けローンと企業向けローンのすべてのカテゴリーにおいて、貸出基準が厳しくなり、需要が減少していることが報告されました。

地方銀行をめぐる危機を考えれば当然のことですが、FRBは調査の中で、商業不動産ローンに関して予想される変化に焦点を当てた一連の質問を投げかけました。これに対して銀行は、ローンポートフォリオの信用の質や顧客が差し出す担保価値の悪化、リスク許容度の低下、銀行の資金調達コスト、銀行の流動性や預金流出に対する懸念を理由に、年末にかけて商業不動産ローンの貸出基準を厳格化する見通しであると答えました。

LOOSのデータはまた、商業・産業向け融資、商業不動産ローン、住宅用不動産ローン、ホームエクイティローン、自動車ローン、クレジットカード、その他消費者ローンにおいて、信用環境が悪化していることを示しています。それだけではありません。ダラス連銀による最新の銀行業況調査と米国銀行協会(ABA)の信用状況指数も、信用環境の悪化を示唆しています。

このため信用収縮のリスクが高まっており、多くの市場関係者は商業不動産がその原因であるとみています。少なくとも信用状況の悪化は、既に減速している経済のさらなる冷え込みにつながると思われます。

明るい兆しとしては、インフレ率が引き続き低下することで、FRBが引き締めサイクルを終了することです。しかし、市場関係者の間では、FRBが既にやり過ぎているのではないかという声が高まっています。では、2つ目のリスクについて検証してみましょう。

通常、過度の引き締めと利下げは、リスク資産の下落を意味する

FRBは5月3日、昨年3月から数えて10回目となる利上げを実施し、フェデラルファンド(FF)レートの誘導目標を2007年8月以来の高水準となる5~5.25%に引き上げました。米国の銀行システムをめぐる足元の課題や、景気減速を示唆する新たな兆候にもかかわらず、FRBの政策担当者は雇用者数の堅調な増加や高止まりするインフレを理由に、5月も引き締めの継続を決めました。しかし、連邦公開市場委員会(FOMC)声明文の文言には、微妙ですが重要な変化が見られ、会合後のパウエル議長の記者会見での発言からも、引き締めサイクルが近いうちに終了する可能性が示唆されました。

ところが、債券市場の利回りは、FRBが既に引き締め過ぎた可能性を示しています。

FFレートの誘導目標である5~5.25%は、イールドカーブ上のすべての満期の利回りを大幅に上回っています。具体的には、米国2年債利回りを1%超、米国10年債利回りを1.5%、それぞれ上回っています。FRBの過度の引き締めへの懸念から、債券市場の関係者は今年下半期の景気後退入り、または資本市場のメルトダウン、あるいはその両方が起こる可能性を見ています。その結果、投資家は年内の利下げを積極的に織り込んでいます。中には、早ければ7月にも利下げが行われるのではないかと見る投資家もいます。

FRBの利下げ? 願い事は慎重に

FRBの利下げに関しては、願い事は慎重に考える必要があります。過去の例を見ると、利上げ終了から利下げ開始までの金融政策の移行期に、リスク資産はそこそこ良好なパフォーマンスを示しています。実際に、これは足元の投資環境にも表れていると言えます。しかし、FRBが利下げを開始すると、通常、リスク資産は下落します。結局のところ、FRBが利下げを行うのには理由があり、通常は景気後退や資本市場の混乱に対応するためなのです。

金融政策リスクと市場の年初来の上昇には、奇妙なつながりがあります。もし、投資家が正しく、FRBが既に引き締め過ぎだとしたら、利下げ開始を受けてリスク資産は下落する可能性が高いでしょう。一方、インフレ率がFRBの目標値を大幅に上回り続け、労働市場が逼迫していれば、FRBは予想に反して、6月14日に11回目の利上げを実施するかもしれません。

利下げか利上げか、どちらの結果になったとしても、リスク資産の短期的見通しにとっては好材料ではなく、特に今は、保守的なマネーマーケット商品と、投資家の資金の奪い合いになっているため、なおさらです。

資本の獲得競争により、リスク資産への熱が冷める

過去15年間の超低金利環境では、投資資金を奪い合うことはほとんどありませんでした。投資家はリスクの高い金融資産に投資するしかなく、「TINA:There Is No Alternative(リスク資産の他に選択肢はない)」という言葉も生まれました。低金利は、株式、債券、プライベートエクイティ、不動産、新規株式公開(IPO)、特別買収目的会社(SPAC)、非代替性トークン(NFT)、暗号通貨といった、ほぼすべての高リスクの金融資産について相対的な魅力やバリュエーションを押し上げました。

投資家は、利回りの低いマネーマーケット商品への資金配分を後回しにしました。ただしそれは、FRBが14カ月前に積極的な利上げを開始するまでのことでした。

現在、譲渡性預金(CD)、マネーマーケット・ファンド、財務省証券、短期国債(1~3年)の利回りは、およそ4~5%となっています。昨年は実質的にすべての投資資産が下落し、ボラティリティが急上昇したため、隠れる場所はほとんどありませんでした。大半の投資家は、向こう12~18カ月の間に景気後退、企業業績の悪化、雇用の減少が起こると予想しています。

様子をうかがいながら、機会の到来を待っている投資資金

昨年の損失と暗い景気見通しを考えると、投資家にとって、マネーマーケット商品の安全性と安定性の魅力が増しています。CD、マネーマーケット・ファンド、財務省証券、短期国債への資金流入は、過去12カ月で急増しています。米国投資信託協会(ICI)は5月4日、マネーマーケット・ファンドの資産残高が5兆3,000億ドルを上回り、過去最高を更新したと発表しました。

投資家の資金をめぐる新たな競争は、厄介な結果をもたらしています。マネーマーケット商品へ多額の資金が流入すると、高リスクの金融資産に対する投資家の需要が弱まり、そうした資産のバリュエーションに下方圧力がかかります。また、銀行の要求払い預金は利回りがほとんどない状態が続いています。その結果、預金者は口座から資金を引き出し、より利回りの高いマネーマーケット・ファンドや財務省証券に振り向けています。

ストラテガス・リサーチ・パートナーズによると、利上げサイクルが始まって以降、商業銀行の預金残高が1兆ドル程度減少する一方で、マネーマーケット・ミューチュアルファンドには7,510億ドルの資金が流入しています1。要求払い預金の大幅な減少は、利益の減少や融資の伸びの低下によって、銀行業界の問題を悪化させる恐れがあります。健全な銀行環境がなければ、経済が勢い付くのは困難です。

楽観派は、高リスク資産に回帰する機会を待って、様子をうかがっている資金が膨大にあるとみています。おそらく、予想通りに景気が後退すれば、投資家のリスク志向は回復すると思われます。それまで投資家は、CD、マネーマーケット・ファンド、財務省証券、短期国債から安定したインカムを確実に得つつ、様子見を続けているのです。

企業利益の減少に伴って、レイオフの増加や経済成長の低下につながる可能性がある

市場関係者の間では、第1四半期の決算シーズンを大成功で終わらせようという動きがあります。実際に、現時点でS&P500指数構成企業の約85%が決算発表を終えていますが、アナリストの予想をはるかに上回る内容となっています。

ファクトセットによると、S&P500指数構成企業の79%でEPSがプラスのサプライズとなり、75%で売上高がプラスのサプライズとなりました。EPSがプラスのサプライズとなった企業の数と、そのサプライズ幅は、どちらも過去10年の平均を上回っており、第1四半期の決算内容は、アナリスト予想に対する上振れとして、2021年第4四半期以来の好業績となりました。

騙されてはいけません。利益は減少しています。

S&P500指数構成企業の第1四半期利益は、前年同期比2.2%減と予想されています。前年同期比での減益は2四半期連続となります。一方で、売上高は同3.9%増が見込まれていますが、これは2020年第4四半期以来で最も低い伸び率です。さらに、利益率は7四半期連続で低下しています。

投資家はアップルの決算内容が、下方修正後のアナリスト予想を上回ったことを好感しました。しかし、売上高は前年同期比で減少し、利益率も低下しています。今回の決算シーズンでは、似たような状況が多く見られました。アナリストが売上高や利益の予想を引き下げていたため、企業は低い予想を簡単に上回ることができたのです。昔からあるトリックです。

利益が予想を上回っても好業績とは限らない

企業のオーナーである株主にとって重要なことは、売上高の減少と利益率の縮小によって、利益が前年同期比で減少したということです。次の四半期はさらに悪化が予想され、アナリストは、S&P500指数構成企業の売上高は前年同期比横ばい、EPSは同5.7%減と予想しています。驚くべきことに、アナリストは現時点で、2023年通年の利益と売上高が前年実績をやや上回るとみていますが、こうした予想も、今後数四半期のうちに、下方修正されると思われます。

景気後退が迫る中、企業業績が底を打ったとは到底思えません。しかし、投資家は、まるで利益が底打ちしたかのように、第1四半期決算を明らかに好感しています。これは投資家に、確信ではなく、警戒心を抱かせるものです。

歳出削減を伴う債務上限の引き上げは、景気後退を早める可能性がある

勝利目前で敗北を喫することになるのかどうかは、ワシントンDCの政治家次第と言えます。米国経済は第1四半期に緩やかに拡大しました。インフレ率は低下し続けています。労働市場がこれほど堅調となったのは、50年以上さかのぼります。昨年10月以降、株式と債券市場は上昇しています。残念なことに、米国政府は1月に債務上限に到達してしまいました。米財務省は特別措置を適用することで、連邦政府の支払いを続けています。しかし、ジャネット・イエレン財務長官は5月上旬、連邦税収の減少を理由に、予想より早い6月1日にも、米国が債務不履行に陥る恐れがあると議会に警告しました。

イエレン長官の警告を受け、民主党、共和党、バイデン政権から債務上限引き上げに向けた議論が一気に噴き出しました。心配は要りません。債務上限は、過去四半世紀の間に22回も引き上げられており、第二次世界大戦以降では100回を上回ります。今回も引き上げられるでしょう。投資家が懸念しているのは、引き上げの過程と、考えられる妥協案の内容です。

バイデン大統領は5月9日、交渉を開始するために議会のトップリーダーと会談しました。バイデン大統領と民主党は、歳出削減を一切伴うことなく即座に債務上限を引き上げるべきだという立場を貫き、表面的には大きな進展があったようには見えませんでした。一方で、ケビン・マッカーシー下院議長と共和党は、債務上限引き上げの条件として、歳出削減を盛り込むべきだとの主張を続けています。交渉は明らかに膠着状態にありますが、双方ともスタッフに対して交渉を継続するよう指示しています。

バイデン大統領が憲法修正14条を発動して債務上限に関する議会の手続きを回避するという大胆な見出しや、さらには、債務上限をめぐる危機を回避するために1兆ドルのプラチナコインを発行するなどという奇想天外なニュースがメディアを賑わしていますが、ノイズに気を取られてはいけません。政治のせいで投資家が絶望の淵に立たされるかもしれませんし、あるいは一線を超えて極限に達するかもしれません。それでも心配は無用です。政治家が、私たちを奈落の底に突き落とすはずはありません。

イエレン財務長官は5月13日、先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議の中で、デフォルトは回避される見通しであることを示唆しました。5月15日には、マッカーシー下院議長が双方の主張は依然として「大きくかけ離れている」と述べた一方で、バイデン大統領は、合意に達すると楽観視していると述べました。バイデン大統領とマッカーシー下院議長は5月16日に再び会談する予定です。

予想される結末としては、短期的に債務上限が引き上げられるのと同時に、広範にわたる大まかな歳出合意がまとまるとみられます。政治家は、お得意の技、つまり、歳出合意を成立させ、次回の債務上限の引き上げを容易にすることが必要であるにもかかわらず、問題を先送りすると思われます。これは複雑な交渉です。時間は短く、リスクは高いのです。

ストラテガス・リサーチ・パートナーズによれば、債務上限が引き上げられた後に、リスクが増大する可能性があります。景気は減速しており、債務上限が引き上げられると、予想に反して流動性は低下します。また、政府支出が長期平均を上回る場合、1980年代半ば、1990年代半ば、そして世界金融危機の影響が残る2010年前後に見られたように、債務上限を理由に政府支出が削減されます。2011年の株式市場の下落のほとんどは、オバマ大統領とベイナー下院議長が債務上限をめぐって合意に達した後に起こりました2

パンデミックによる負の影響に対抗するために行われた大規模な政府支出により、経済成長は一時的に押し上げられ、インフレは加速し、政府支出は長期平均を大幅に上回る水準に拡大しました。今後10年間で少なくとも1兆ドルの歳出を削減することで合意が成立した場合、経済成長は一段と減速し、インフレ率は低下するでしょう。

経済は市場ではなく、その逆もまた然りである

今年初めの時点では、経済と市場は上半期に落ち込み、その後年末にかけて回復するというのが大方の予想でした。ところが、他の多くの年初予想と同様に、現実には予想とほぼ正反対のことが起こっています。第1四半期に経済は緩やかに拡大し、市場は驚くほど好調なスタートを切りました。

しかし、景気後退懸念が高まり、企業業績が落ち込み、労働市場に小さな亀裂が見られる中、投資家は予想外に得られた幸運に不安を募らせています。

今は特に、投資家は、経済が市場ではなく、その逆もまた然りであるということを念頭に置く必要があります。「市場は短期的には投票機だが、長期的には計量器である」という古い相場格言があります。短期的なセンチメントが価格を決定し、市場を動かしますが、長期的に価値を決定するのはファンダメンタルズだということです。

地方銀行危機の余波を受けて、信用収縮が迫っています。債券市場の利回りは、FRBが既に引き締め過ぎている可能性を示唆しています。プラスの実質金利によってTINA時代は終わりを迎え、資本獲得競争が激化しています。売上高の減少と利益率の縮小に伴って、企業利益は落ち込んでいます。そして、債務上限をめぐる議論は混迷を極めています。これらはすべて、投資家にとってさらなるストレスとなることを示唆しています。一方で、その他のリスクも水面下に潜んでいる可能性があります。

では、このような複雑な投資環境の中で、投資家はどうやって神経を落ち着かせたらよいのでしょうか。

待っている間の投資機会

予想される結末の振れ幅が極めて広いことから、投資家は分散投資のメリットを活用するのがよいでしょう。分散投資は、今年最初の4カ月のように、予想外のことが起こった時に、ポートフォリオのパフォーマンスにもプラスに働きます。

CD、マネーマーケット・ファンド、財務省証券、短期国債といったマネーマーケット商品の利回りは、ここ15年以上で見たことのない水準となっています。投資家は、マネーマーケット商品への資金配分を慎重に行い、選択を誤ってチャンスを無駄にしないようにする必要があります。

最後に、投資家は、バリュー株、配当成長株、海外株、小型株、そして初期段階の景気循環セクターなど、景気回復の初期段階で恩恵を受ける割安な投資先に、勇気をもって資金を投入することを目指すべきです。

Michael AroneによるUncommon Senseの一覧は こちらから ご覧いただけます。コンセンサスとは異なる、型にはまらない視点を提供します。

その他のUncommon Sense