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2024年に市場を動かす可能性がある6つのグレイ・スワン

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(当社)では、発生する可能性が極めて低いものの、幅広い投資に影響を及ぼすリスクを伴うシナリオを通常、グレイ・スワンと定義しています。グレイ・スワン事象が発生した場合、当社の見通しとポートフォリオのポジショニングが大きく変化する可能性があります。

Lori Heinel profile picture
Global Chief Investment Officer

将来が常に不確実であることは既定の事実ですが、基本シナリオから逸脱したシナリオについて考えることで、ポートフォリオ全体において、リスクを考慮したアプローチが可能になります。そうした代替シナリオを検討することが投資家の思考プロセスの一環として定着すれば、こうした状況や類似の状況が顕在化した場合に迅速に反応し、ポートフォリオ配分を見直すことが可能になるでしょう。実際に広く認識されていることに反しますが、代替シナリオは必ずしもネガティブなものである必要はありません。最初の段階で考えられる結果を想定しておくことで、投資家はヘッジ戦略を実行するかどうか、またどのように実行するかについて、より良い判断ができるようになるはずです。不測の事態が起こるかどうかにかかわらず、ポジションや期待値をプレッシャーテストにかけることで、得られる価値は必ずあります。

2024年がどのような展開になるかについて、当社が考える基本シナリオは「グローバル市場展望2024」で述べられています。しかし、当社では予想されるいくつかの代替シナリオ(グレイ・スワン)も用意し、投資への影響を評価しています。

1.規制当局がマグニフィセント・セブンの解体に動く

米国株式市場の代表的株価指数であるS&P500指数は、最高値更新まであとわずかというところで2023年を終えました。しかし、これには、ほんの一部の銘柄が指数全体を押し上げているという事実が隠されています。S&P500指数は現在、集中度という点でも過去最高を記録しており、上位10銘柄が指数の約32%を占めています。マグニフィセント・セブン1と称される7銘柄は、S&P500指数の年間リターンの65%を占めました2。利益成長もこれらの銘柄に集中しており、7銘柄を除いた指数は2023年に利益が減少しました(図表1)。このような不均衡に注目が集まるのは当然であり、これらの巨大企業の成長、富の集中に対する認識、市場が歪められている可能性をめぐっては、常に意見が分かれています。しかし、もし規制当局が、マグニフィセント・セブンのうちの1社、あるいは数社の翼を封じる必要があると結論付けたらどうなるでしょうか。

このシナリオでは、巨大な力が数社に集中していることで、選挙戦や議会で反トラスト法(独占禁止法)をめぐる議論が再燃します。規制当局はマグニフィセント・セブンへの監視を強め、反競争的なビジネス慣行、市場支配力の乱用、そうした力の集中がインフレ、消費者、起業家、経済的平等に及ぼす悪影響について精査します。訴訟が起こり、司法に判断が委ねられ、大手ハイテク企業による反トラスト法違反について判決が下される恐れがあります。

しかし、これは米国に限ったトレンドではなく、欧州委員会がアップルを相手に反トラスト法違反をめぐる訴訟を起こしたことからも明らかなように、世界的な圧力となっています。この訴訟では、アップルの年間売上高の最大10%に相当する罰金が科される可能性があります3。さらに2024年には、EUデジタル市場法(DMA)の施行が迫っており、一連の規則により、大手ハイテク企業の収益事業に影響が及ぶ可能性があります4

規制当局からの圧力が強まり、反トラスト法に関する訴訟が増加すれば、マグニフィセント・セブンの事業効率やビジネスモデルが損なわれ、現在存在する企業が将来も継続的に利益を上げ続けるに違いないという投資家の期待も低下するかもしれません。

そうなれば、これらの銘柄の2024年のリターンは精彩を欠き、市場におけるスタイル別(S&P500グロース指数の半分超をマグニフィセント・セブンが占める5)やセクター別のリーダーシップ交代が起こる可能性があります5。さらに、米国市場のトップ銘柄が低迷すれば、地域別のリーダーシップも変わり、米国市場が米国以外の市場を11%アウトパフォームした2023年のトレンド6が逆転して、米国以外の株式が米国のベンチマークをアウトパフォームする可能性があります。

2.銀行貸し出しとノンバンク金融セクター:影響がはね返ってくる

市場が、中央銀行による金融緩和と世界経済のソフトランディングを予想している今、2つ目のグレイ・スワンはノンバンク金融セクターの信用動向が、より悪い結果の前兆となる可能性を案じています。急成長するノンバンクセクターには、ベンチャーキャピタル、プライベートエクイティ、商業用不動産、ミューチュアルファンド、保険会社などが含まれ、その大部分は不透明であり、隠れたレバレッジや流動性のミスマッチといったリスクが潜んでいます7。グレイ・スワンが飛び立つとしたら、まさにここかもしれません。

足元で民間および公的債務は記録的な高水準に達しており、財政状況は極めて逼迫しています。2022年初めから金利が急上昇していることに加え、各国中央銀行はバランスシートの縮小を進めています。マネーサプライは縮小しており、銀行の貸出基準はますます厳しくなっています。

多くのことが利上げの巻き戻し次第であり、ディスインフレトレンドが停滞または反転すれば、「高金利の長期化」シナリオが再び現実味を帯び、深刻な信用損失が顕在化する可能性があります。ショックの潜在的な大きさを知るために、国際決済銀行(BIS)による各国の集計データを見ると、ノンバンク金融セクターに対する銀行債権は2023年6月末時点で11兆8,000億ドルに上ります(図表2)。プライベート市場の取引は、2021年末時点で世界全体で約5,000億ドルと、数十年来の高水準に達しました8

プライベートエクイティファンドやプライベートクレジットファンドは、企業の借入にも大きな影響を与えています。借入コストが上昇しているため、レバレッジの高い企業は債務の借り換えや返済で問題に直面する可能性があります。企業債務の大部分は、今後3年以内に満期を迎えると推定されます9。一方で、商業用不動産では、就業形態の変化によって必要なオフィススペースが減少しており、資産価値がさらに下落すれば、投資家の苦境が一段と悪化すると思われます。企業のデフォルト(債務不履行)をきっかけに、ミューチュアルファンドや上場投資信託(ETF)から資金が引き揚げられるのと同様に、不動産不況は不動産投資信託(REIT)からの大規模な資金引き揚げを引き起こす可能性があります。一部の市場は不透明であるため、「悪い」タイミングでパニックが発生し、他のセクターに波及する可能性もあります。

2008年以降10、規制当局が銀行システムの根本的改革に多大な努力を払ってきたにもかかわらず、業界の一部でガバナンスや管理体制の不備が続いていることから、銀行への打撃はさらに増幅されて返ってくるかもしれません。銀行監督当局はすでに、一部の銀行のカウンターパーティリスク管理について不十分であり、リスク集中に対する管理や制限についても懸念があることを指摘しています。さらに、管轄が異なり、共通の基準がないことから、単一のカウンターパーティーへの過剰なエクスポージャーや関連するエクスポージャーを特定することが困難になっています11

市場が混乱する中、銀行のエクスポージャーに起因するシステミックリスクについての憶測が高まれば、「安全への逃避」が促され、その結果、債券が投げ売りされ、最もストレスを受けているセグメントで価格下落のスパイラルが起こる可能性があります。急激かつ大量の市場の動きによって、ディーラーのバランスシートが「枯渇」すれば、一部の金融市場が機能不全に陥る恐れもあります。

3.地政学的混乱が原油、金、米ドルの上昇に拍車をかける

2024年初頭の地政学的情勢には懸念材料が満載ですが、投資家は通常、目の前の脅威の先を見据える傾向があるため、ここ数年(そしてここ数ヶ月)、市場は比較的平穏に推移しています。しかし、今後1年間でこうした状況が大きく変わるとしたらどうでしょうか。中国との地政学的緊張や、ウクライナや中東での戦争が2024年を通じて世界中にさまざまな影響をもたらし、さらに多くのイベントを引き起こし、すでに分断されている世界経済が厳戒態勢に置かれることになったらどうでしょうか。世界各地で選挙が相次いで行われ、地政学的理由から石油の生産と輸送が混乱し、供給リスクの高まりに対する懸念を受けてコモディティのリスクプレミアムが拡大します。原油価格は事態が悪化するにつれて段階的に上昇することになるでしょう。

このシナリオではすぐに成長ショックにつながることはありませんが、世界のインフレ率は上昇するため、中央銀行は迅速に方向転換し、示唆していたハト派的軌道を反転させます。事態の変化を受け、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げの中止を決め、メンバーによる金利予想を示す「ドットチャート」は利上げを示唆します。こうした動きに投資家は意表を突かれ、株価は20%超の大幅下落に見舞われます。このような背景から、米ドルは、主要産油国としての地位による恩恵や質への逃避という2つの力を受けて買われます。

米ドルは2002年の高値を上回り、ドル指数は現在の102.512から約16%上昇して、さらに1985年に付けた過去最高値も視野に入ってきます。最高値を更新すれば30%の上昇を意味します。インフレが再び、世界の経済システムにおける主要リスクとなります。過去の原油価格ショックとは対照的に、現在、原油価格はドル高と密接な相関関係にあり、金融引き締めの中、世界経済におけるインフレ効果を増幅させます。原油価格は70%超上昇して、1バレル=140ドルの高値に近付きます13

それと同時に、地政学的不安定による脅威が高まるにつれて、金はリスク回避とインフレの中で急騰して、2023年12月に付けた過去最高値1オンス=2,152ドルを上回ります。2024年が終わるころには、米国の選挙が新たなモメンタムの源泉となって金価格を押し上げます。構造的な財政状況が悪化し続けているにもかかわらず、米国の財政状況は「安全な逃避先」を求める資金フローによって一時的に好転します。

4.円相場が1ドル=100円を突破

2023年末が近づくにつれて、日本円は極端な金利格差の影響で1ドル=150円付近まで円安が進みましたが、その後やや回復しました。2022年以降、FRBが金利を合計525bp引き上げたのに対し、日銀はイールドカーブ・コントロール(YCC)政策を微調整しただけで、依然としてマイナス金利政策を維持しています。ただし、金利格差は今がピークであり、今後1年間で縮小する見通しです。しかし、もし金利格差が市場の予想をはるかに超えて縮小したらどうなるでしょうか。

大まかに言って、FRBは(景気後退がなければ)2024年に150bp、2025年も同程度の利下げを行うと見られています。もし景気後退となった場合には(弊社の予想では確率は25%)、利下げのタイミングは前倒しされ、利下げ幅も拡大されるでしょう。ここまでは、それほど特筆すべきことはありません。一方で、金融政策の正常化プロセスの開始について極めて慎重だった日銀も、2024年の早い時期にマイナス金利の解除に動き、それまで予想されていたよりも、はるかに積極的な引き締めに向かうと予想されます。信頼感を低下させたデフレ時代からようやく抜け出し、賃金交渉が成果を上げ(政府による税制優遇措置も後押しして)、好循環が根付きます。労働コストの上昇による圧力や、東京証券取引所上場企業に対する新ルール導入に伴う上場廃止の危機に直面する日本企業は、より積極的な価格設定アプローチを取るようになります。経済の一部で価格決定力が高まると、別の場所でも価格決定力が高まります。投資家が投資機会を見出し、また円キャリートレードの低迷を受けて、日本の企業や個人投資家が投資資金を自国に還流させ、資本の流れは逆転します。インフレ率は2.0%付近を維持し、日銀は1年半かけて政策金利を150bp引き上げます。円は急激に上昇し、1ドル=100円を突破します。

このシナリオでは2024年に30%超の円高を想定していますが、当社の為替チームは長期PPP14モデルに基づき、円の公正価値を1ドル=76円程度としています。つまり、1ドル=100円というのは、決して驚くほど極端な結果ではありません。実際のところ、コロナ禍前の10年間の平均に戻るだけのことです。

5.奇跡的な景気回復

世界金融危機以降、コロナ禍までの何年間かは低成長・低インフレの時代でしたが、突然、パンデミック後の活動再開による成長ブームと、供給問題によるインフレ急騰に取って代わられました。しかし、その後はリショアリング(生産の国内回帰)とグリーン経済への転換をきっかけに、低成長と目標を上回るインフレ率、すなわち緩やかなスタグフレーションが長期化するという新たな懸念が浮上し、広がっています。このシナリオでは、さまざまな力が収束することで予想以上に力強く持続的な生産性と成長がもたらされ、現実的には、はるかに建設的な結末が待ち受けています。

このシナリオでは、グリーン経済への移行と脱グローバル化をめぐる懸念が行き過ぎであることが判明します。初期のいくつかの試練を経て、世界はウクライナ戦争と緊張する米中関係による、より速い変革の時間軸に順応し、新たな均衡を見出します。世界のエネルギー政策は、単なるエネルギー転換ではないエネルギーソリューションに向けて、わずかですが、重要な調整がなされます。供給の持続性と弾力性を確保するために包括的なアプローチが取られ、大きなプラスの影響がもたらされます。一方で、脱グローバル化をめぐる懸念が極めて行き過ぎであることが明らかになり、インドや中南米が積極的な投資に後押しされ、新たな大規模供給拠点として台頭します。世界が生産能力不足に苦しむことはありません。

人工知能(AI)を中心とするテクノロジーの急速な進歩により、経済全体、特にサービスセクターにおける生産性はますます向上します。各産業の製品開発期間は、大幅に短縮されます。医療や教育は、AIの幅広い導入によって様変わりします。労働生産性は飛躍的に上昇し、インフレは十分に抑制され、実質所得は増加し、成長トレンドは持続的な上昇軌道に乗ります。

投資の観点で見ると、このシナリオの展開となった場合、グロース資産、とくにAIブームやグリーン経済への移行によって恩恵を受ける資産への注目度が高まります。ハイテク企業が引き続き市場をリードし、米国例外主義が持続します。このシナリオでは、債券、インフレ連動債(TIPS)、コモディティなどの魅力が後退します。

6. あいまいな世界:デジタル資産がエンターテインメント業界を崩壊させる

デジタル資産では時折、市場のボラティリティが急激に高まることがありますが、この分野は急速に進化し続けています。最後のグレイ・スワンでは、有名アーティストがこのテクノロジーを取り入れることをきっかけに、個人投資家が体験への投資や取引の手段としてデジタル資産を採用する動きが、加速的に広がることが想定されています。他のデジタル・インフルエンサーや有名人もすぐにこうしたテクノロジーの力に気づき、デジタル資産へ手を広げたり、自身で所有したり、収益化したり、自身のブランドのコアバリューとして取り入れたりします。これにより、エンターテインメント業界のビジネスモデルが一時的に混乱し、金融サービス業界にも影響が及びます。小規模なアーティストは従来の業界インフラを通さず、トークン化された作品を通じて資金を調達するようになり、業界における利益配分がますます分散化され、公平になります。

こうした動きが活発化するにつれて、ファンは自分自身を資産所有者やトレーダーとして考え始め、ファン同士、あるいはアーティストと直接つながるようになります。透明性や信頼性が向上するのと同時に、コストが低下し、複雑さが低減するという好循環が生まれ、体験の所有権やアクセス権を個人が簡単かつ効率的に売買できる取引可能な資産クラスが形成され、従来の投資リターンよりも、独占性やコミュニティが重視されるようになります。デジタル資産を通じた体験の分割所有という方法によって、少ない予算でもファンが参加できるようになり、市場は広く開放されます。

金融サービスプロバイダー、とりわけ個人投資家に焦点を当てたプロバイダーは、従来の資産クラスからの分散投資の対象として、また顧客ポートフォリオのパーソナル化を高める方法として、デジタル資産に機会を見出します。

このシナリオでは、デジタル資産の急速な普及に伴って影響が広く波及します。最も直接的な影響としては、エンゲージメントと収益化の新たな形態が、コンサート会場、チケット販売業者、エンターテインメント・レーベル、ストリーミング・プラットフォームといった従来の中間業者をバイパスし、合理化と変革をもたらします。

従来の金融機関は、ユニークな体験といった非金融的属性に対する評価モデルの構築を急ぎ、自社の商品やサービスにデジタル資産を組み込む方法を模索します。デジタル資産に投資するファンドを立ち上げ、それをモデルポートフォリオに組み込むアプローチを開発します。これにより、体験の本質的価値は実質的に、コレクションの領域からメインストリームの金融領域へと移行します。この成長市場に特化した新たな破壊者が出現し、デジタル資産は交換媒体として、そして価値の貯蔵手段として認知されます。

個人投資家に続いて機関投資家も、ポートフォリオを多様化し、新たな成長源へのエクスポージャーを得るための手段として、この成長する新しい資産クラスに着目します。その結果、伝統的資産が再評価され、価値のあるあらゆるものを証券化し民主化する可能性が認識され、デジタル資産を組み込んだ新たな投資商品に対する需要が高まります。

図表 6: インターネットの借り手から、インターネットの所有者へ

  Web1.0:1990~2004年 Web2.0:2004~現在 Web3.0:現在~
コンテンツ制作者 プラットフォームオペレーター プラットフォーム ユーザー プラットフォームユーザー
ガバナンス/管理者 プラットフォームオペレーター プラットフォーム オペレーター プラットフォームユーザー
信頼性 検証不可能 検証不可能 検証可能
所有権 プラットフォームオペレーター プラットフォーム オペレーター プラットフォームユーザー
受益者 プラットフォームオペレーター プラットフォーム オペレーター
プラットフォームユーザー

出所:BofAグローバルリサーチ

共同執筆者

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Simona M Mocuta

Chief Economist

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Elliot Hentov, Ph.D.

Head of Macro Policy Research

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Altaf Kassam, CFA

EMEA Head of Investment Strategy & Research

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Matthew Nest, CFA

Global Head of Active Fixed Income

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Esther Baroudy, CFA

Portfolio Manager

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Aaron R Hurd, FRM

Senior Portfolio Manager

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Dane Smith

Head of North American Investment Strategy & Research

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Matthew J Bartolini, CFA, CAIA

Head of SPDR Americas Research

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