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金:中央銀行は金の購入を続けるでしょうか?

  • 各国中央銀行は、少なくとも今後12カ月間は金の買い越しを続けると思われます
  • 新興国の中央銀行からの需要が大部分を占め、12年来の買い越し基調が続くでしょう
  • 中央銀行による買い越しは、金市場に好影響を与える可能性が高いと思われます

Chief Gold Strategist

ここ10年以上、世界の中央銀行は公的準備として金を買い越し、金価格の重要な下支えとなってきました。新興国の中央銀行を中心とした金の購入は、世界の総需要の10~15%を占めています。この需要の源泉は今後どうなるのでしょうか。また、いつまで続くのでしょうか。逆に、潜在的な売り手に回る中央銀行はあるのでしょうか。

中央銀行の現在のセンチメントを洞察し、それが将来どのように変化するか、あるいは変化しないかを知る手がかりと して、弊社はワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が毎年行っている中央銀行に対する調査を参考にしました。今年のレポートでは、回答した中央銀行の25%が今後12カ月間に自国の公的金準備高が増加すると考えており、1年前の21%から増加しています1。また、回答した中央銀行の61%が、今後12カ月間に世界の金準備高は増加すると考えています2

中央銀行は金準備高を増やす方針です

Central Banks Intend to Increase Their Gold Reserves

調査結果によれば、少なくとも2022年末までは中央銀行による金購入が続くと思われ、直近の購入トレンドが継続するでしょう。公的準備からの潜在的な売却の可能性について、ここ数カ月はある国の名前が他のどの国よりも多く挙げられています。それはロシアです。しかし、そのような主張を裏付ける確かな証拠はありません。ロシアはここ10年以上、世界最大の金購入国の一つであり、公的準備のために金を購入しています。このような購入パターンが確立されているため、ロシアが公的準備から金を密かに売却しているとの最近のコメントは、直観的に違っているように思われます。筆者の見解として、もしロシアの金が世界の市場に出回っているとすれば、それは公的準備からではなく、現在生産されたものが出回っている可能性が高いと考えています。

中央銀行による金需要の変遷

では、中央銀行の金に対する姿勢はどのように変化してきたのでしょうか。以下のグラフを見ると、過去50年間で、3つの比較的明確なトレンドがあります。

  • 1971~1988年 差引きほぼ中立
  • 1989~2009年 大幅な売り越し
  • 2010 大幅な買い越しに転じる

過去50年間の中央銀行による金取引

Central Bank Gold Activity Over the Past 50 Years

差引きほぼ中立:1971~1988年

大きな買いも売りもありませんでしたが、4つの主要な供給源から売却が行われました。ソ連は計画経済の失敗を補うために、1950年代に始めた金売却を続けました。南アフリカは1985年、米国がアパルトヘイトに対する制裁を発動した際に、売却を開始しました。IMF は、最終的には失敗に終わった特別引出権(SDR)を主要な準備通貨として確立するために、その一環として金の一部を売却しました。 また、米国は、国際金融システムにおけるドルの優位性を確保するための取り組みの一環として、金準備の一部を売却しました。

大幅な売り越し:1989~2009年

1980 年代の末にかけて大量の売却が始まり、2009 年まで毎年、中央銀行が金を売り越しました。最大規模の売り手はオランダ、ベルギー、オーストラリア、スイス、英国、南アフリカ、カナダなど、先進国が中心でした。この期間の終わる頃には、一部の新興国が公的準備のために金を取得し始めましたが、それを上回る主に西欧や北米先進国からの売却が続きました。この期間が終わると、売却は徐々に減少しました。

大幅な買い越し:2010年~現在

2010年までの統計では、中央銀行による買い越し額は小規模でした。その後、購入の勢いは加速し、この12年間は大幅な買い越しとなっています。当初は中国とロシアが最大の買い手でしたが、すぐにトルコが加わり、その後はほぼすべて新興国の様々な国が買い手となりました。その他の買い手はタイ、韓国、ブラジル、メキシコ、インド、カザフスタンなどですが、その後ウズベキスタンとエジプトも加わりました。WGCの調査では、このように先進国と新興国の中央銀行の間に、金の取り扱いの違いが生じていることを指摘しています。

このように買いが急増した理由は、難しいことではありません。金本位制の最盛期(1870~1970年)に、経済的に最も重要な国はイギリスとフランス、そして次第にアメリカとドイツが重要になっていきました。これらの国の通貨は、国際取引の決済でほぼ独占的に使われていたため、発行量が増加しました。金本位制の下では、これらの経済大国は自国通貨の裏付けとして、大量の金を購入しなければなりませんでした。これらの19世紀から20世紀にかけての経済大国は、今日でも、平均して公的準備全体の3分の2以上に相当する膨大な量の金を保有し続けています。

経済力の弱い新興国は、国際取引の決済にこれらの強力な通貨を使用する以外に選択肢がなかったため、たとえ資金があったとしても、自国通貨の裏付けとして金を購入する必要がありませんでした。その結果、今日の新興国の公的準備に占める金の割合は平均5%未満であり、米ドル建て金融商品の割合がはるかに大きく、平均で3分の2を超えています3

新興国の金準備高が先進国を大幅に下回る状況が続いています

Emerging Markets’ Gold Reserves Remain Well Below Developed Market Peers

新興国中央銀行が金購入を主導

先進国の多くは金本位制時代からの遺産である膨大な金を保有していますが、新興国には金準備高を大幅に増やす余地があります。多くの新興国は、過去12年間にわたり金を大量に購入してきたにもかかわらず、依然として危険なほど過度に米ドルに依存していると考えており、そのエクスポージャーをヘッジするためにも、今後も金準備高を増やし続けることを計画しています。

中央銀行は、少なくとも2022年末までは金の買い越しを続けると思われます。そうした需要は、金市場に好影響を与える可能性があります。