Global Market Outlook


パンデミックの再燃でグローバル経済は再び試される

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)により、世界中の経済と市場は2020年に厳しい試練にさらされたが、空前の規模の金融・財政刺激策に支えられ、市場は驚くほどの底力を見せた。株式のバリュエーションは、治療法の確立とワクチンの開発を受けて、今後12カ月以内に経済活動が完全に再開できるかどうかに大きくかかっている。そのため、たとえ最高の市場環境にあるとしても、懸念が払拭されることはないだろう。しかし残念なことに、足元の状況は最高とは程遠い。

Global Chief Investment Officer
Senior Economist
Chief Portfolio Strategist

2021年が近づく今、様々な面で不確実性が継続している。パンデミックの危機に対する医学的ソリューションを世界が待ち望む中、感染者数は再び増加しており、移動制限などの封じ込め措置が拡大している。一方で、コロナ禍への対策として流動性が大幅に供給されたことで、インフレ見通しに疑問が浮上している。その上、緊迫した米大統領選以降、上院の支配権の行方は1月の決選投票まで持ち越しとなり、政策をめぐる不透明感は解消されていない。英国ではEU離脱の期限が迫っているが、依然として合意に至っていない。コロナ危機当初に打ち出された経済対策の効果はもはや薄れ、市場は2021年に再び大きな試練に立たされることになろう。

こうした状況において、有効性があり、早急に量産が可能なワクチンが実用化目前というアップサイドリスクの可能性について認識することも重要である。複数のワクチンの後期臨床試験で有望な結果が発表されたことで、景気回復の時期に関する見通しは速やかに修正された。これらの臨床試験から有効なワクチンが開発され、広く実用化されれば、ウイルスの感染拡大とそれに伴う景気後退で受けた深い傷痕も時間をかけて修復されるだろう。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(当社)は、現下の環境で投資家にとって絶好の機会となるのは成長性と質が高い資産であり、中でも米国と中国にそうした機会を見出す公算が極めて大きいと考える。

回復が持続

大半の資産クラスは、市場がショックに見舞われた2020年3月の底から反発し、年初来でプラスのリターンとなっており、量的緩和(QE)が2020年の株式市場を力強く下支えしたものの、企業利益は完全には回復していない。一方、過去のQEで見られた動きとの顕著な違いとして、今回のQEではインフレ期待が高まったにもかかわらず、債券利回りは頭打ちしているようだ。

最新の市場見通しの中で、当社はコロナショックからの回復について、複数の段階がオーバーラップしながら展開していく「リレー競技のような回復」になると分析している。第1段階では経済と市場の混乱が最も深刻だったものの、緊急の金融・財政刺激策が最も重要な役割を果たした。状況を勘案して、刺激策ではターゲットが絞られず、大規模かつ迅速に行われた。刺激策の効果は明白で、経済と市場の下落を食い止めるという成果につながったことから、回復リレーの第1段階は成功したと当社はみている。

回復リレーの第2段階で経済活動は再開し、経済自らがバトンを持って走り始めた。多くの国の2020年第3四半期GDP成長率が示すように、経済再開で繰延需要が一気に開放された結果、世界各国の経済は驚異的な成長を遂げた。現時点において、新型コロナウイルスの感染者数は再び増加傾向にあり、各国政府は活動制限を再導入している。しかし、今回導入される制限は感染拡大当初に実施されたものと比べて格段に緩い内容と引き続きみており、経済は高い稼働率で回り続けると考える。

結局のところ、有効かつ量産可能なワクチンが実用化されなければ、完全回復は不可能である。その目標に向けて毎週のように進展があり、同時にワクチン完成に左右される状況がますます深まっている。その最終の解決策に到達するまでは、回復リレーが順調に進行しているかどうかを判断することはできない。

さらに、パンデミックを完全に封じ込め、世界各国の移動制限が全て解除されることで、危機が過ぎ去った時、回復リレーは次の段階を迎える。ある時点で、経済は金融・財政刺激策に頼らない自律的な成長を取り戻す必要がある。刺激策による代替的な成長がどれほど完璧かまたは不十分かについては、今後の推移を見守る必要がある。だが、複雑な調整が必要であることは確実で、その過程において市場にある程度の混乱が生じる可能性は極めて高い。

そのため、当社は2021年に経済が力強く回復するとの見方に確信を持っているが、現在では、景気が急回復した後に訪れるあらゆる事柄にますます注目している。景気後退局面から、力強さはあるが短期的な回復期に移行し、成長に関する新たな基本シナリオが定まらない現状においては、注意力と機敏さを兼ね備えることは投資家が成果を得る上で有用な要素となるだろう。

米国と中国がアウトパフォームする公算大

米国と中国は、世界の他の国々と比較して長期的な打撃が相対的に軽微にとどまっており、目前に迫る課題を乗り切る上で最も好位置に付けていると思われる。両国の経済はコロナ危機の期間中もアウトパフォームし、現在は回復途上にある。

中国は、世界の主要経済国の中で2020年のGDP成長率が唯一プラス(2.5%前後)となる見込みだ。中国はコロナ危機を最初に経験したため、回復に転じたのも他国より早く、世界の景気サイクルを先導している。中国はウイルスを驚くほど効果的に封じ込めたことで経済活動が再び制限される可能性も低く、回復が妨げられることもないと見受けられる。一方で、米国の2020年のGDP成長率はマイナス約3.7%と予想されるが、英国のマイナス9%超やユーロ圏のマイナス約7%と比べると縮小幅ははるかに小さいだろう。

そのため、投資家は2021年に中国と米国へのエクスポージャーを検討することが重要だ。両国の経済は、投資家にとって見逃すことのできない好機をもたらすと当社は考える。短期的なアウトパフォームにとどまらず、両国経済は世界の他の地域よりも高い潜在成長力の恩恵を享受すると思われ、長期的にも魅力的な投資先であり続けると予想される。

当然ながら、潜在リスクを慎重に考慮せずに米国や中国の市場にアプローチすべきと言っているわけではない。例えば、中国の成功シナリオは極めて魅力的である。しかし同時に、債務水準の高さ、地政学的緊張、人口動態の悪化といった問題も抱えている。中国株式は新興国市場のベンチマークで大きな比重を占めており、中国債券は今や複数の債券指数に組み入れられているため、これを機に中国市場への積極的な資産配分を検討し、関連するリスクと機会について熟考する絶好のタイミングと言えるかもしれない。

それ以外の国・地域では、英国は2020年のGDP成長率が欧州の中でも出遅れており、マクロ経済的観点からするとアンダーパフォームが確実視される。英国のパンデミック対応もかなり失望するような内容で、例えばドイツなどの事例と比べると移動制限と感染抑制とのバランスがうまく取れていない。ドイツも英国も移動制限を大幅に強化しているが、2020年第1~3四半期のGDP成長率の平均が、ドイツで前年同期比マイナス5.9%であり、それに対して英国は同マイナス11.0%に落ち込む状況でこれが行われている。ブレグジットの期限が迫っていることを考えると(原時点で合意はまとまっていない)、英国経済は短期的に逆風にさらされることになろう。バリュエーションは概して相対的に割安ではあるが、英国やユーロ圏の企業利益は期待外れに終わるリスクが高まっており、目前に立ちはだかる試練を乗り切ることのできる質の高い成長企業は少ないと当社は考える。


ブレグジット:増幅する危機

新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした危機は、英国の政策当局に手ごわい難題を突き付けた。しかも、英国にはブレグジットという問題もある。EUとの通商交渉が合意する見込みは薄く、英国政府自身が策定する基本シナリオでさえ、世界貿易機関(WTO)ルールしか年末に残っていないと想定している。

英国側もEU側も「カオス状態」での移行は回避したいという意向で一致していると思われ、特に英国は(少なくとも一時的には)国境管理を厳格化せず、また企業活動への悪影響を軽減するために規制も強化しないことに合意するとみられるが、それでもブレグジットは2021年の当社見通しにおいて重大なダウンサイドリスクである。こうしたリスクを念頭に置いた上で、イングランド銀行は先般、QEプログラムを拡大することに加え、マイナス金利の導入について積極的に検討する方針を明らかにした。

 


ユーロ圏は、好調な米国と低調な英国の中間に位置すると思われる。ユーロ圏経済も、感染者数の急増やそれに伴う移動制限の再導入など、様々な課題に直面していることに間違いはない。このところの状況を見る限り、2020年第4四半期GDP成長率は恐らくマイナスになる可能性が高い。ただし、より統一性があり支援的なマクロ政策が奏功し、2021年の景気回復を下支えするだけでなく、EU内部の摩擦軽減や成長など制度上の限界(不十分な財政刺激策など)の緩和に寄与すると予想される。

新興国市場の経済見通しは、国によって大きく異なる。全体的に輸出依存度が高く、一部の国では特にコモディティに依存していることから、新興国経済にとって新型コロナウイルスに対する医学的ソリューションの確立が、ことのほか大きな「特効薬」となるだろう。投資家は、市場ごとのファンダメンタルズの力強さ、すなわち、マクロ経済や制度上の強さと照らし合わせたプラスの推進力を見極めた上で、最も良好なパフォーマンスを上げるセグメントを特定する必要がある。

量的緩和とインフレ見通し

世界各国がまだもうしばらくの間、緩和寄りの金融政策を維持すると分かれば、投資家にとってある程度の安心材料となり得るだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)が平均インフレ目標政策(AIT)を導入したことの影響力は大きく、政策転換の背景にある考え方は他の多くの中央銀行の間で共有され、カナダ、オーストラリア、英国などの他の諸国も早くも追加の金融緩和に動き出している。投資家がインフレ率上昇の可能性について慎重に検討し始める中、低金利と追加の量的緩和は、債券利回りが上昇し過ぎるのを防ぐのに有効な組み合わせになりそうだ。

当社としては、2020年と2021年のインフレ予想を上方修正したものの、引き上げ幅は小幅にとどめている。ウイルス禍は中期的にインフレショックとなるのか、それともデフレショックに陥るかという、新型コロナウイルスに関連した最大の疑問の1つに回答するのは、現時点ではまだ極めて難しい。

米国では政策転換の可能性

11月3日の選挙でジョー・バイデン氏が次期大統領に選出されたことで、追加の財政刺激策の時期、規模、内容をめぐる新たな憶測が浮上している。米国内のウイルス感染第2波による景気回復の減速が懸念されており、追加刺激法案の年内可決に対する圧力が高まっている。本稿執筆時点において、規模は小さいながら早急に支援策が決まる公算が大きい。支援策の規模は、共和党のミッチ・マコネル上院院内総務が提案する5,000億ドルと、民主党のナンシー・ペロシ下院議長が提案する2兆2,000億ドルの間になるとみられる。追加支援策が予想を上回る規模になれば、インフレ上昇の可能性についてさらなる疑問が浮上することも考えられる。

気候変動に対するグローバルな取り組みの中で、今回の米大統領選の結果は、世界最大の二酸化炭素排出国における重要な政策転換を意味する。バイデン次期大統領が掲げる2兆ドル規模の気候変動対策は、インフラの改善、雇用創出、再生可能エネルギーの推進に焦点が当てられている。上院の支配権をめぐる争いが続いていることから、この意欲的な提案がどのような障害に直面するかは不透明であるが、気候変動に関する議論のトーンは政権交代とともに変化し、ESG慣行の採用を一段と支持する方向に進むと当社は予想している。

最後に

2021年を迎えるに当たり、不確実性が残る中で多くの疑問が生じているが、明確な答えはほとんど得られていない。感染者数の増加は、経済的なコスト負担を伴う制限をどの程度導入するべきかという問題を浮き彫りにしている。その他、継続中のQEはインフレ見通しにどう影響するのか、米国の決選投票で今後の政局はどうなるのか、英国はブレグジットをめぐる合意成立という難題を抱えて(本稿執筆時点)、経済が移行期をうまく乗り切ることができるのか、などの疑問がある。

現状では、有効性があり量産可能なワクチンが開発され、感染者の治療が確立しつつあるなど、事態が良い方向に展開する可能性があることを認識するのも重要だ。一方、世界がパンデミックに打ち勝つ医学的ソリューションの実用化を待つ間、グローバル経済の底堅さが試される目の前の試練を、米国と中国が最もうまく乗り切ると当社は考える。