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中国:問題を抱えた不動産セクターが景気回復に暗雲を

中国の住宅セクターにおける過剰なレバレッジはシステミックリスクをもたらす可能性がありますが、中国の金融構造が持つ性質上、危機が広範に及ぶ公算は小さいと思われます。例えば、中国の政策当局は、金融の痛みをバランスシート全体に分散させる、さまざまなツールを持っています。また、政府は住宅の需要と値ごろ感を後押しする政策を展開しています。しかし、こうした対策では、中国における主要な成長エンジンとしての住宅投資の喪失を軽減することはできないかもしれません。

本稿は、中国の不動産セクター、GDP成長の難問、今後予想される地政学的制約について考える、中国に関するシリーズの第1回目です。

Head of Macro Policy Research

2020年8月、中国政府は「3本のレッドライン」と呼ばれる、住宅開発業者向けの規制ガイドラインを発表しました。このガイドラインは、住宅開発業者のレバレッジに3つの異なる制限を設けるもので、システミックリスクを抑制することを目的としていました。規制は大きな成功をおさめましたが、その代償として、住宅セクターが締め付けられ、金融危機のリスクをあおる形となりました。ガイドラインが導入されて以降、中国恒大集団をはじめとする複数の莫大な債務を抱える開発業者が、債務返済に苦しみ始め、不動産セクターは深刻な減速に見舞われました。

たいていの国では、不動産開発業者が債務不履行に陥ると銀行のバランスシートに不良資産が急増し、その結果過度に集中したローン・ポートフォリオが崩壊し、システム内の他の債権者を通じて影響が広がります。

ところが、中国の場合、政府が貸し手とその債権者を直接または間接的に幅広く管理しているため、こうした懸念は小さくなります。中国では、政策当局が介入して複数の異なるチャネルを通じて債務再編の条件を設定し、システム全体に影響が波及することなく、損失を分散させることができます。これは、開発業者、銀行、地方政府、そしてそれぞれの資金調達手段に適用され、その結果、もし金融危機に発展したとしても、影響を抑制することができるのです。

それでも経済的影響は深刻

しかし、経済への影響については同じようにはいかず、成長の原動力としての住宅が失われれば、中国経済の重石となります。不動産は、中国のGDPの約4分の1を占め、その約3分の2は建設活動と直接的関係があります。さらに、中国の家計は、個人資産の大部分を国内の不動産で保有しています。

景気が減速して物価が下落すれば、建設活動は急激に落ち込み、中国の家計にマイナスの資産効果が及びます。パンデミック後の経済再開というダイナミクスがあるにもかかわらず、2023年の経済成長率が低調なのはこのためです。今後を展望すると、不動産セクターは安定し、住宅投資の収縮は2024年中に終息するとみられます(図表1)。

政府はまた、新たに住宅ローンを組む人の借り入れコストを引き下げ、主要都市で不動産を購入する際の、条件を緩和しています。こうした対策は、失われた需要の一部を取り戻すのに役立つかもしれませんが、住宅業界は当面の間、ゼロ成長が続くとみられます。

都市化のペースに関しては、中国は東アジアの近隣諸国に追随しています。中国の都市化プロセスはまだピークに達していないため、足元の供給過剰はおそらく、今後数年間の需要を満たすものと見られます。しかし、都市化がピークに達するのはそう遠い話ではなく、急ピッチで進められている都市建設のペースは大幅に減速し、成長カーブは大幅にフラット化し始めるものとみられます(図表2)。

まとめ

中国の不動産は金融危機を引き起こす可能性がありますが、同国経済の金融構造が持つ特異性により、危機の波及は回避されると思われます。しかし、不動産は中国のGDPの4分の1を占めるため、危機が中国経済に多大な影響を及ぼすことは間違いありません。最も重要なことは、一般的に危機に陥った場合、中国がGDPの原動力として投資に過度に依存しているという深刻な問題が浮き彫りになることです。この問題については、中国に関するシリーズの第2回目で考察します。シリーズの最終回では、中国の地政学的制約、つまり外需の減少や、バリューチェーンの強化を妨げる障害について探ります。

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