インフレは、2008年の金世界融危機以降、11年にわたって過去平均を下回る水準で推移し、10年超にわたり投資戦略においてほとんど考慮されませんでした。しかし、パンデミック後は、米国のインフレが2022年に40年来の高水準に達する中、そうした考えは急速に変化し、インフレに対する固定概念へと引き戻されました。物価はピークから低下しているものの、コモディティ価格高騰による圧力、脱グローバリゼーションの動き、労働市場逼迫による賃金上昇圧力によって、インフレは根強く続き、この10年よりも、過去の平均に近づく可能性があります。
この新たな状況に対応するため、投資家は、長らく放置していた、高インフレ環境を乗り切るための基本戦略に再び目を向けました。流動性のある実物資産、特にコモディティ全般、に再び関心が集まっています。ただ、実物資産へのエクスポージャーがポートフォリオで果たす役割や効果は、必ずしも同一ではありません。実物資産エクスポージャーのインフレ感応度に加え、リスク調整後のパフォーマンスや分散効果がポートフォリオに与える影響について、考慮する必要があります。
主要な実物資産とインフレとの連動性とベータ値(感応度)を見ると、コモディティと天然資源株がその他をリードしています。コモディティ全般は、歴史的に見て米国消費者物価指数(CPI)との相関性とベータ値が最も高く、コモディティが経済的インプットとして、事業活動や消費に影響を及ぼしていることを反映しています(エネルギーと食品の価格)。
しかし天然資源株もまた、グローバル株式(60%)および債券(40%)で構成されるポートフォリオ、ならびに流動性のある実物資産の代表例であるインフラ、不動産投資信託(REIT)や金と比べて、インフレ感応度がかなり高水準です。これらの天然資源企業の売上高への寄与度が最も高いのはコモディティ価格であることから、これは直観的に理解できます。
全般的な物価上昇に対する金の感応度は高くありませんが、金は通貨安や購買力の低下から長期的に資産を守ることにより、別の形のインフレ ―― 貨幣的インフレ ―― に対してプロテクションを提供します。歴史的に見て、金の「インフレヘッジ」特性が取り沙汰される時には、このダイナミクスが台頭しています。
実物資産のエクスポージャーを決定するために必要な要因は、インフレ感応度だけではありません。長期的なリスク調整後パフォーマンスを考慮することも重要です。
2002年11月以降、コモディティ全般のトータルリターンは1.32%、標準偏差は16.40%となっています。これに対して、天然資源株のトータルリターンは年率8.60%、標準偏差は年率20.82%です。これをリスク/リターンの観点からみると、天然資源株はリスク当たりのリターンが0.41と、コモディティの0.08を上回り、コモディティ全般より優れた選択肢であることが分かります。
この20年を超える期間に、金も年率リターン9.01%、標準偏差16.90%で、リスク当たりのリターンは0.53と、魅力的なリスク/リターン特性を示しました。
図表3:金と天然資源株の組み合わせは、いずれかの資産に個別に投資するよりも、歴史的に見て優れたリスク/リターン特性を提供している
出所:ブルームバーグファイナンスL.P.,ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ。期間2002年11月30日から2023年2月28日。グローバル60/40ポートフォリオ: MSCI ACWIトータルリターン指数60%、ブルームバーグ・グローバル総合トータルリターン指数40%で構成。過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスとして信頼できる指標にはなり得ません。
上記のヒストリカル・リターンは2002年終盤から2023年序盤までの期間が対象ですが、特に注目したいのは、これらの資産を組み合わせた場合に生じるダイナミクスです。天然資源と金を均等加重ベースで組み合わせた場合、それぞれの資産の個別パフォーマンスと比べて、年率標準偏差は低下し(15.49%)、年率リターンは上昇します(9.46%)。興味深いことに、金とコモディティ全般を組み合わせても、リスク/リターン特性は、同様には改善しません。
金と天然資源株の組み合わせがリスク/リターン特性を改善させた理由として1つ考えられるのは、金と株式の相関性の低さが、天然資源株の高いボラティリティを長期的に安定させる役目を果たした可能性です。一方で、天然資源株はリスクプレミアムがあるため、先物を通じてコモディティに直接投資し、満期時における期先へのロールによって通常パフォーマンスが圧迫される総合コモディティ指数を、相対的にアウトパフォームします。
金と天然資源株の組み合わせは、分散されたポートフォリオのシャープレシオ改善にもつながる可能性があるため、ポートフォリオにとって魅力的な選択肢です。分散投資およびリスク管理に効果的な金と、インフレ感応度の高い天然資源株を組み合わせれば、配分比率が1、2%、おそらくそれ以上で、シャープレシオは改善します。金だけに配分した場合、歴史的に見てシャープレシオは上昇していますが、天然資源株を加えることによるインフレ感応度の上昇は、高インフレ環境におそらく有効です。加えて、天然資源株あるいはコモディティ単独の場合、あらゆる配分比率で、ポートフォリオのシャープレシオは歴史的に見て押し下げられており、金を加える方が効率的です。
図表4:金と天然資源株を組み合わせれば、資産をインフレから守りつつシャープレシオを改善させる
出所:ブルームバーグファイナンスL.P.,ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ。期間2002年11月30日から2023年2月28日。それぞれの組入比率に基づき、グローバル60/40ポートフォリオ(MSCI ACWIトータルリターン指数60%、ブルームバーグ・グローバル総合トータルリターン指数40%で構成)を追加しています。インデックスのリターンには、インカム、利益および損失すべての項目と、配当金およびその他インカムの再投資が反映されています。リターンは特定の商品のものではありませんが、上述した組入比率に従って、構成銘柄の実際のパフォーマンス・データを数学的に組み合わせることで算出しています。仮想混合ポートフォリオのパフォーマンスは、取引費用やリバランス費用を想定していないため、実際の運用成果は上記と異なります。過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスとして信頼できる指標にはなり得ません。
目先、インフレや物価は高止まりを続ける見込みであり、この環境に対応したポートフォリオ管理を目指す投資家にとっての最善策は、コモディティ全般のエクスポージャーではなく、おそらく金と天然資源株の組み合わせだと考えます。金の分散投資効果と、天然資源株の株式リスクプレミアムおよび高いインフレ感応度の組み合わせは、おそらく将来、実物資産エクスポージャーにとって補完的なソリューションになるでしょう。