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Bond Compass

投資家センチメント:長期投資家はまだ動揺していない

このデータは数万におよぶポートフォリオから投資家行動の傾向を捉えたもので、世界の債券発行残高のおおよそ10%強を占めていると推定されます。

2023年は債券にとって、既に厳しい年となっていました ―― そうした中で起きたのが9月の相場下落です。

米国の成長予想は、年初から上方修正を続けていました。しかし、第3四半期に予想外に力強いデータの公表が続いたことで、通年の予想成長率は2%を上回り、5月のコンセンサス予想の倍まで押し上げられました。

こうした成長期待の高まりに加え、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を「より高くより長く」維持するとの発言を繰り返したことから、世界のソブリン債市場、特に米国債市場は混乱に陥りました。インフレ予想は第3四半期を通じて概ね横ばいで推移し、実質長期利回りが大幅に上昇したため、リターンは打撃を受けました。

長期投資家の需要は底堅く推移

よって、市場が混乱したのは事実です。ただ興味深いことに、ステート・ストリートの機関投資家に関する指標は、混乱の原因がリアルマネー勢、すなわち長期投資家による売りではなかったことを示しています。

実際、長期投資家の資金フローは、こうした激しい相場変動に動じなかったばかりか、中には5年来の高水準あるいはその近辺まで上昇したケースもありました(図表1)。イールドカーブ短期セクターの安全資産やキャッシュを確保しようとする動きは見られませんでした。長期債、特に米国債は9月に最も大量の資金が流入した資産の1つとなりました。

米国債市場と欧州ソブリン債市場が発しているのは、「長期投資家は現在の利回り水準で、ソブリン債に引き続き妙味があると考えている」というシンプルなメッセージです。

イタリア国債、新興国市場、クレジット市場は、債券市場全般のこうした明るいストーリーとはやや異なる様相を見せています。保有残高とリバランスのニーズも、最近のフローに影響した可能性があります。とはいえ、長期投資家の需要の底堅さは、今後の供給動向を踏まえると、米国債にとって好材料であるのは間違いありません。

アロケーションのトレンド: 債券vs.株式(およびキャッシュ)

通常「Bond Compass」は、債券市場における長期投資家の行動に注目します。しかし、9月に再び起きたように、株式市場と債券市場が同時に下落するような環境では、一歩引いて、アセット・アロケーション全般のトレンドについて考えてみると参考になります。

ステート・ストリートの機関投資家関連指標を用いると、長期投資家全般の債券、株式、キャッシュへの資産配分状況を比較できます。株式と債券のリターンがともに下落したことを考えると、ここ数ヵ月間におけるキャッシュ保有残高の急増に驚きはありません。

キャッシュへの配分比率は足元で20%強と、長期平均を1%ポイント超上回っています。株式の保有比率も依然として長期平均をやや上回っています。つまり、長期投資家はキャッシュと株式をオーバーウェイトし、債券をアンダーウェイトしているということです。

債券への配分比率は長期平均を数%ポイント下回り、15年来の低水準となっています(図表2)。もちろん、このアンダーウェイトの多くは債券のアンダーパフォーマンスを反映しています。

第3四半期には、特に米国債とユーロ圏の債券に大量の資金が流入しました。ただ、このリバランシングだけでは、ポートフォリオの全般的な債券配分比率の低下を阻止できませんでした。これは次の2つの点において重要です。

  1. 市場の混乱にもかかわらず、長期投資家の債券需要は健在です。
  2. 投資家が第4四半期に保有資産をベンチマークや長期平均に戻す場合、債券が買われ、代わりに株式が売られ、場合によってはキャッシュも打撃を受けるでしょう。

米国債は圧力にさらされるも、リアルマネー投資家は依然として長期債に投資意欲

9月の債券市場の混乱は世界的な動きでしたが、特に大きな打撃を受けたのは米国債、とりわけ長期債です。

今回の債券市場の混乱は、これまでとは対照的に、FRBの政策金利の終着点をめぐる予想とはほとんど関係がありませんでした。ピーク金利に対する市場の予想にほとんど変化はなく、年末の政策金利予想はFRBの予想を下回っています。混乱の原因となったのは「より高くより長く」の「より長く」の部分であり、来年の利下げ観測が急激に後退し、それを受けてカーブの逆イールドは急速に縮小しました。

資金フローを見ていなければ、この相場の動きを受けて投資家が相対的に安定しているカーブの短期セクターの安全資産に殺到したと推測していたかもしれません。しかし、一部のマネーは超短期の米国債に向かったものの、カーブの超長期セクターに対する需要はいつになく旺盛なままでした。

おそらくこの需要の一部は、激しい値動きを受けたリバランスによるものでしょう。しかし、夏のあいだ長期債に対する需要は旺盛だったにもかかわらず、当社の指標は投資家が現在、長期債をアンダーウェイトしていることを示しています。言い換えると、投資家は米国債の保有残高を維持するために相場の動きに沿ってポジションを積み増してきたものの、これまでのところ値動きが勝っているということです。

全般的な債券アロケーションからは、幾つかの明るい材料が見て取れます。長期志向のリアルマネー投資家の長期債に対する投資意欲は、依然として旺盛です。そして、相対的に保有残高が少ないことから、旺盛な投資意欲は続く可能性があります。

米国債のさらなる供給が見込まれるため、これは朗報です。また、入札における長期投資家の応札意欲が、6ヵ月ぶりの高水準に近づいている点にも注目です(図表3)。

結論: 米国債は大幅な圧力にさらされていますが、長期投資家の需要は、他の市場参加者がパニック状態にあるにもかかわらず、今のところ堅調に推移しています。

長期投資家は何を売っていたのか?

9月の市場混乱時、相場の動きに沿ってポジションを積み増した長期投資家が、投資家全般と同様に、売りに回った市場がありました。それほど意外ではないでしょうが、第3四半期にソブリン債のなかでも高リスクと認識されている市場と社債市場は、長期投資家による売りが見られました。

海外の長期投資家のイタリア国債(BTP)に対する需要は、ここ1年超の低水準まで後退しました(図表4)。イタリアは、目先の借り換えニーズは比較的小幅ながらも、債務水準が高いことに加え、政府の成長見通しの下方修正と財政見通しの悪化を受けて特に脆弱な状態に陥っています。

イタリアはこうした高金利環境の下、単年度の財政赤字を対GDP比3%以内に抑えるというEUの要件を満たすには、プライマリーバランスの黒字を対GDP比1.5%超にする必要があります。しかし、イタリア政府に必要な緊縮財政を推し進める政治的意思があるのかは、依然として不明です。

新興国市場の現地通貨建て債券に対する需要も軟化しました。多くの新興国で近く短期金利の引き下げが見込まれていますが、インフレは再び加速しています。これに加え、ドル高と米国利回りの大幅な上昇によって、マクロ環境は新興国投資にとって厳しいものとなっています。

最後に、長期投資家は第3四半期にハイイールド社債も売却しました。これは、原油高と最近の米成長予想の高まりを考えると興味深い動きです。ここからは、たとえ足元の景気が順調でも、長期投資家はリセッション・リスクが消えたと考えていないことがうかがえます。