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CEOレター

イー・シン・フン profile picture
President and Chief Executive Officer

取締役の皆様、

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの新社長 兼 最高経営責任者(CEO)として、私はこの会社に参加できることを大変嬉しく思っています。その理由はいくつかありますが、特に重要なのものとして、当社ビジネスの規模、範囲、地理的な広がりもさることながら、グローバルな顧客基盤に対する責任が挙げられます。過去25年間、投資運用業界に携わり、シニア・リーダーとして、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの価値主導のスチュワードシップへの取り組みを常に称賛してきました。また、顧客の投資ポートフォリオに含まれる企業の取締役会と健全なガバナンスの実践を促進する実践的かつ一貫したアプローチも常に称賛してきました。

アセット・スチュワードシップに関する非常に多くの意見と活発な議論を踏まえ、そして最近拡大されたプログラムを通じてより多くの投資家が保有するファンドの株式に関して自ら議決権行使を指示できるようになったことを考慮して、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズが長期的な価値を追求する方法、取締役会による価値に関連するリスクの評価と開示に対するニーズの高まり、そしてそれが今後、皆様のような取締役との関係において何を意味するかについて、私の意見をいくつか紹介したいと思います。

実践的で価値重視のアプローチへのコミットメント

顧客に対して負っている受託者責任を果たすことは、投資運用会社の最も重要な責任です。そのため、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズは、投資先企業とのエンゲージメント、議決権行使活動、ソートリーダーシップなどのスチュワードシップ活動の焦点を、投資先企業が直面する長期的なリスクと機会に常に合わせてきました。当社は、投資先企業がこれらのリスクと機会を考慮して戦略や経営に統合することを確実にするためには、効果的な監督およびガバナンスが必要だと、顧客に代わって長期的に資本を有する者として考えています。

最近の市場では環境・社会・ガバナンス(ESG)の問題が盛んに議論されていますが、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズは、長期的な価値創造というレンズを通して、一貫してこれらの問題を捉えてきました。価値観は私たち全員にとって重要ですが、この文脈では、当社は、長期的なポートフォリオの価値をいかに高めるかという価値観にのみ焦点を当てています。当社は、規制当局や政府機関が策定した政策や規則、学術研究、他の投資会社からの洞察、業界の専門家が収集・作成したデータなどを検討し、長期的に顧客のポートフォリオに大きな影響を及ぼすと考えられる課題にスチュワードシップの取り組みを集中させています。当社が特定したリスクと機会は、投資先企業が管理し、取締役会が監督するものとして重要であり、当社の顧客は、それらの分野における投資先企業の重要な情報開示が効果的に促されることを期待していると考えています。これらの問題に対する当社の揺るぎない関心は、常にベストプラクティス、証拠に基づく調査・研究、長期的視野とのバランスがとれた実用主義、そして健全なガバナンスの組み合わせに根ざしています。これは今後も当社のアプローチであり続けるでしょう。

2023年におけるスチュワードシップの焦点

2023年のスチュワードシップの優先課題は、1)取締役会の効果的な監督、2)気候変動リスク管理、3)人的資本管理、4)ダイバーシティ・公平性・インクルージョンの分野における透明性と情報開示を奨励することです。これらのテーマはそれぞれ、当社のポートフォリオに含まれる企業にとって短期的および長期的なリスクと機会をもたらすものです。例えば、従業員そのものが重要な資産と見なされるようになってきており、企業が従業員をどのように管理するかによってリスクや機会が生じ、財務パフォーマンスに影響を及ぼす可能性がある¹ことが調査・研究によって示唆されているため、当社は企業に人的資本管理に関する情報の開示を求めています。また、多様な視点が戦略的な監督を強化する可能性を示唆する調査・研究を参照して、取締役会に多様な取締役を採用することを長年奨励してきました。同様に、財務パフォーマンスに影響を与える可能性がある²ことから、ダイバーシティ、公平性、インクルージョンの取り組みについての考え方を提供するよう企業に求めています。また、気候変動が企業やセクターを問わず潜在的なシステミックリスクであるというコンセンサスが高まる中³、投資先企業には気候関連リスクの管理計画について透明性を確保し、取締役会には関連する気候リスクと機会について監督するよう求めています。

取締役会とのエンゲージメントと説明責任の徹底

これらの作業のすべてを支えているのは、取締役会による効果的な監視の重要性であり、取締役会の強さ、独立性、有効性が、企業の長期的な価値を確保するために重要である⁴ことから、これは常に当社のアセット・スチュワードシップ・アプローチの基礎となってきました。私の経験では、取締役会は、投資家と経営陣をつなぐパイプ役であるだけでなく、経営陣を長期戦略に集中させ、当社の顧客の資産を投資する企業が直面する重要なリスクと機会に関して必要な視点とガバナンスを提供する最適な立場にあることが多いと感じてきました。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズは、長年にわたり、建設的なエンゲージメントを通じて、取締役会との双方向の対話を促進すると同時に、開示、監督、および戦略の改善について取締役会に説明責任を持たせるというアプローチをとってきました。株主提案は、特定の問題に対する認識を高める上で効果的であり、それが合理的で、かつ顧客にとっての長期的な価値を最大化する可能性がある場合には、当社は支持しますが、提案はほとんどの市場で拘束力がなく、また、規範的に過ぎることが多いようです。

これとは対照的に、当社のチームは、長期的な価値にとって重要だと当社が考え、投資先企業と関わってきた問題に取締役会の注意を向けるには、取締役選任における議決権行使の方がはるかに効果的であることを見出しました。これは、関連する戦略を監督する責任が取締役会にあることから、理にかなっています。当社の議決権行使ガイドラインでは、ガバナンスの欠如を理由に取締役および/または関連委員会の委員長の選出に反対票を投じるシナリオを概説しています(当社の議決権行使の記録はこちらでご覧いただけます)。

2023年の当社の焦点:リスクと機会に対する取締役会の効果的な監督

顧客に代わってアセット・スチュワードシップ責任を果たすために、当社のチームが取ってきた一貫した透明性のある実践的なアプローチは、決して固定的なものではありませんでした。毎年、取締役会がどのように監督責任やその他のガバナンス責任を果たしているかを理解するために、取締役会と関わる方法を進化させることに努めてきました。

取締役会が長期的なリスクと機会の管理にますます重点を置くようになるにつれ、取締役会のガバナンス、委員会の構成、およびその有効性は、より一層重要になっています。例えば、この1年では、当社のチームは、多角経営の大手eコマース企業の取締役会の監督とガバナンスの欠点を指摘した後に、報酬委員会の委員長の選出に反対票を投じました。今後も、取締役会によるリスクと機会の効果的な監視に関する当社の関連ガイダンスに示されているように、健全なガバナンスと監視を奨励するために取締役と委員会委員長選出にかかる議決権行使を利用し、ケースバイケースで関連取締役に責任を持たせていきます。

今日、取締役はかつてないほど多忙を極めており、正式な取締役会の開催回数と取締役業務に費やす日数の両方が25%増加していると報告されています⁴(複数の取締役会を同時に務めることも少なくありません)。このため、取締役の仕事量が大幅に増加すると、取締役会の全体的な有効性が長期的に低下する懸念があります。今日まで、ほとんどの資産運用会社の議決権行使ガイドラインは、候補となった執行役員、委員長、筆頭独立取締役が、一定数の上場投資先企業の取締役会に出席することを認めています。これに対して、個々の取締役の資質や時間的コミットメントを主観的に判断することは、資産運用会社ではなく、よく統治された取締役会自身の仕事となるはずです。

当社は、優れた情報開示によって、株主が投資先企業を細かく管理する傾向が減ることになると考えています。しかし、S&P500指数を構成する企業の5社に1社以上が、取締役の時間的コミットメントをいかに管理するかについて限られた透明性しか提供していません⁵。株主は、取締役が取締役会の業務に十分な時間を割くことができるかどうかに関して、取締役会が効果的に自己管理することを期待しています。そのため、今後1年間は、投資先企業の指名委員会とガバナンス委員会が、取締役の時間的コミットメントの管理について、強固な方針の確立と実施、および開示に責任を持つことを期待しています。

2024年からは、1)過剰兼任数の取締役を特定するための数値制限を廃止し、代わりに、2)取締役の時間的コミットメントに関する社内方針を開示していないS&P500指数構成企業において、指名委員会およびガバナンス委員会の委員長に反対票を投じることにします。

取締役のコミットメントレベルについて、指名委員会およびガバナンス委員会に明確なガイダンスを提供し、年次の議決権行使を通じて説明責任を果たさせることで、当社は、この問題に関する透明性を高め、長期的なリスクと機会に関する投資先企業との議論においては、他のテーマを優先させたいと考えています。

変化する世界の中で長期的な価値創造を支える

経済的および地政学的な不確実性と、市場のボラティリティが続く世界においては、強力なガバナンスと取締役会の監視、透明性、情報開示の必要性は、これ以上ないほど重要になっています。

現在ステート・ストリートの会長兼CEOであるロナルド・オハンリーが、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのCEOであった2017年に「長期的な価値は取締役会から始まる」と述べています。この6年間に目にしてきたすべての変化にもかかわらず、彼の言葉は今でも真実であり、すべての投資家に奉仕するという当社の使命の指針となり続けています。実践的なスチュワードシップへのコミットメントと長期的な価値創造への注力は、引き続き揺るぎないものです。今後とも、皆様のような取締役と一緒に仕事ができることを楽しみにしています。

 

敬具

イー・シン・フン

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ
社長 兼 最高経営責任者(CEO)

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