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ウクライナ情勢の緊迫化に対する市場の反応


吉橋 諒佑

運⽤部
ポートフォリオ・ストラテジスト


ロシアによるウクライナ侵攻の影響は政治的・経済的制裁などを通して広範囲に及び、足元の相場動向にはこうした地政学リスクの影響が大きく表れています。本レポートではウクライナ情勢を巡る市場の動向と投資環境について、特に情勢が悪化する前後で市場動向にどのような変化が現れたのかという点に着目して現状を整理します。

金利動向

まず初めに年明け以降の金利の動向について整理します。米欧の長期債金利はインフレ懸念と金融政策の引締め加速に対する見方が強まる中で、年初から2月の上旬まで上昇基調で推移していました。しかしウクライナ情勢が緊迫化して以降は、市場のリスク回避姿勢が高まったことで、長期債金利は一転して低下に転じています。また期待インフレについては、情勢の悪化以前から供給制約や労働需給の逼迫に対する懸念を背景に高止まりの状態が続いていましたが、商品価格の上昇を受けて足元は明確な上昇トレンドを示しています。

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株式市場:ファクター別

次に株式市場の動向を確認します。図表2はMSCI World指数のファクターリターンです。年初来からウクライナ侵攻の勃発前までは、金融政策の縮小と金利上昇を警戒し、金融株などバリューファクターが大きくアウトパフォームする一方で、これまで緩和的な金融環境の中で株価上昇を牽引していたハイテク株を中心としたグロースファクター、及びグロースと特徴の重なる銘柄の多いクオリティファクターがアンダーパフォームしていました。しかし地政学リスクが高まって以降は、バリュー・グロース間の選好の差は縮小し、その一方でインフレの高進と市場の先行き不透明感を反映して、低ボラティリティファクターとクオリティファクターへの物色が目立っています。

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株式市場動向:地域別

また株式市場の地域別の動向を確認すると、年初から2月前半までは、時価総額に占めるグロース株比率の大きい米国株がアンダーパフォームする一方で、欧州、日本、新興国といったその他の地域は景気回復と企業業績の改善期待を背景に株価はアウトパフォームしていました。しかし地政学リスクが高まって以降は、株式市場全体が下げに転じる中で、特に地理的・経済的影響の大きい欧州株が大きくアンダーパフォームしています。反対に、経済活動への直接的な影響が相対的に小さく見積もられる米国株は、金利上昇の一服と実質金利の低下によってバリュエーション面からのグロース株への下押し圧力が低下したことも背景に、株式市場の下げ幅は相対的に小さくなっています。

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ここまで確認した通り、ウクライナ情勢の悪化は投資家のリスク回避姿勢とインフレ上昇に対する懸念の高まりという形で幅広い資産クラスの動向に影響を及ぼしています。特にインフレに対する警戒感は情勢の変化を受けて大きく高まりました。上述の通りインフレ懸念は地政学リスクの高まる以前から市場の関心事となっていましたが、今回のロシアとウクライナ間の衝突が、商品価格の上昇や供給制約を通じてインフレ懸念の上昇圧力を高め、中長期的なインフレ期待の上昇につながる可能性があります。

また金利や株式市場の動向については、情勢が悪化する前後で物色が大きく変化している点に注意が必要です。足元では今後の情勢の帰結や影響が継続する期間が見通せない中で、市場の動きはリスク回避的になっていますが、今後情勢が変化し、事態の沈静化などを通して従前のトレンドに回帰した場合には、市場のボラティリティが高まることも予想されます。その為、当面は事態の好転、悪化に関わらず、市場の動向に注意を要する状況が継続すると考えます。


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