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ETF Market Outlook

金利およびクレジット市場の安定性を追求

米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを待つ間、債券へのアロケーションを積極化すれば、マクロ要因によるボラティリティ上昇からポートフォリオを守るのに役立つでしょう。

不透明な財政政策とFRBの曖昧な「様子見」姿勢により、金利市場は乱高下しました。そしてクレジット・スプレッドは4月に大幅に拡大した後、若干回復しました。

こうしたトレンドを見ると、債券市場に安定性を求めるのは時代錯誤ではないかと思えます。

そして今後も安心できる材料はほとんどありません。FRBが政策を緩和すれば、インフレが上昇する可能性もあります。緩和しなければ、成長が落ち込む可能性もあります。いずれにせよ、米金融政策には制約があるため、金利は以前の予想より高止まりする可能性があり、債券が対キャッシュで提供できるキャリー(利回り)の魅力は高まるでしょう。

政策変更期を乗り切るためにはこのキャリーを生むボラティリティの管理が鍵となるため、安定性を追求する投資家は以下戦略を検討するとよいでしょう。

  • アクティブ・コア戦略:マクロ要因による金利ボラティリティ上昇から債券ポートフォリオの主要部分を守るための柔軟な運用。
  • デュレーションの短い投資適格(IG)社債:FRBが「様子見」を続けるなか安定性とインカムを追求。
  • アクティブ運用型マルチセクター・クレジット・エクスポージャー:市場が急速にリスクを再評価するなか収益機会の拡大や機動的なポジショニングを図る。

政策は不確実性が高く、明瞭さに欠ける

貿易政策をめぐる混乱が報じられるたびに市場は反応し、ボラティリティは著しく上昇しました。同時に金融政策の先行きが不透明となり、利下げ予想は急速に見直され、イールドカーブ全体で金利ボラティリティが上昇しています。

政策担当者の間で経済に対する見方が乖離しており、投資家の懸念の緩和に何ら役立っていません。FRBの政策担当者の講演やインタビューのテキスト分析によると、経済見通しと政策のいずれに関しても意見が広く乖離しています。ステート・ストリート・グローバル・マーケットが中央銀行の政策決定の投票権をもつメンバー間の意見乖離のバロメーターとしているこの指標によると、FRBでは今年初めから意見の乖離が2倍近く広がっています1

興味深いことに、同様のテキスト分析を欧州中央銀行とイングランド銀行の政策担当者を対象に実施したところ、今年に入り意見の集約が進んでいることが示されました。これは、米国の貿易政策を受け、他の中央銀行が、国際貿易原則の修正による成長悪化を相殺するために緩和姿勢を強めていることを反映しています。とはいえFRBは、他の中央銀行と異なり、経済成長への打撃を緩和するための利下げを積極的に打ち出すことができません。

FRBの制約と関税政策をめぐる不透明感はカーブ全体でリスクプレミアムの拡大につながっています。米国債は4月に下落し、株価下落時に期待されているバッファーの役割を果たせませんでした。実際、10年物米国債のタームプレミアムは、過去10年のほとんどの期間にマイナス水準で取引されてきましたが、現在は2014年以来の高水準にあります2

このタームプレミアム上昇は、これまでの債券市場パラダイムが過去のものとなったことを意味します。つまり現在は、

  • このマクロ要因によるボラティリティ上昇が成長とインフレに不規則な影響を及ぼし続ければ、長期利回り(リスクプレミアム)が拡大するため、分散投資手段としての魅力は低下し、米国債の需要は鈍化する可能性があります。
  • 中長期債のポジティブキャリーは現在拡大しており、カーブの長期セクターの買い手を引き付けています。

債券利回りが上昇しても上限があり、そこから需要を引き付け始めます。問題は安定しているものなどないということです。この環境をもたらしたのは、政策担当者間の見解の大幅な乖離、ならびに財政・金融政策の先行き不透明感です。したがって、カーブの長期セクターのキャリーが需要を引き付けるほど魅力的であったとしても、そのキャリーを生み出すためのリスクは高いです。

不透明なマクロ環境下で債券のリスクは上昇

カーブがスティープ化した結果、キャリーとタームプレミアムはプラスとなりましたが、このキャリーを生み出すためのリスクも上昇しています。たとえば、米国債の長期セクターと短期セクターの利回り格差は1%です。これらの年限幅の異なるボラティリティを調整すると、利回り格差は-1.68%に反転します3

これは、ボラティリティが大幅に上昇したことで、不透明感が高まるときに長期債が得る補償が十分に得られないことを示しています。長期米国債と短期米国債のボラティリティ・スプレッドの30日移動平均値は政策のパラダイムシフト後に大幅上昇しています。現在のボラティリティ・スプレッドは14%と、過去1年の中央値を24%上回り、92パーセンタイルにあります4

同じことは社債のイールドカーブにも言えます。米社債の長期セクターと短期セクターのボラティリティ・スプレッドは12%と、過去1年の中央値を45%上回り、95パーセンタイルにあります5。社債のスプレッド拡大は、企業の成長の不確実性および長期融資に対するリスクプレミアムを反映しています。

この利回りを得るために必要なボラティリティを考えると、この環境が長期セクターの債券リスクを高め、キャリーの魅力を低下させたことが分かります。

グローバル債券の基調も反転しています。過去15年間、米債券市場は、多くのセグメントおよびセクターにわたり、海外市場をアウトパフォームしてきました。米ドル高が輸入を牽引しました。そして現在、国際貿易におけるドルの役割に疑問符がついているため(たとえば、米国の輸入が減少すれば、海外に支払われる米ドルが減り、米国資産への再投資の減少につながります)、債券市場のリターンは逆転しています。

海外市場は現在、5つのセグメントすべてにおいて、米国市場を著しくアウトパフォームしており(図表2)、株式市場と同様のトレンドを示しています。

こうした乖離は、年末に向けて2つの重要な動きがあることを裏付けるものです。

  • 成長とインフレの基調の不透明さは、主として米国市場に影響を与えています。つまり、米国資産(債券を含む)は他の国・地域より強い逆風にさらされる可能性があります。
  • ポートフォリオ構築のためのユニバースを拡大すれば、アルファの機会を強化できる可能性があります。

下振れリスクによりクレジットのリスクが不均衡化

この不均衡はクレジットにも広がっています。クレジット・スプレッドは大幅に変動し、4月の混乱直後に300台に戻りました6。それでもスプレッド縮小によるさらなる利益の余地はあまりなく、ハイイールド債が大幅なネガティブ・コンベクシティ状態で取引されていることが示すように、上振れリスクと下振れリスクの間に不均衡が生じています(図表3)。

リスクが不均衡化したことから、この水準ではボラティリティを乗り切る余地はほとんどありません。

これらのスプレッド水準はまた、成長拡大がコンセンサスになるなか、マクロ経済環境が改善することも示唆しています。成長予想のレンジは広いものの下振れを示している足元の政策環境を踏まえると、そうした結果となる可能性は低いでしょう。

とはいえ、クレジットを投資対象から外すべきではありません。成長は落ち込むと予想されていますが、プラス成長にとどまるとみられます。70人のエコノミストのうち、2025年の米国実質国内総生産(GDP)成長率がマイナスになると予想した者は1人もいません7。ファンダメンタルズの観点では、企業の利益の伸びは世界的にプラスになると予想されています。ただし、企業利益は世界では200ベーシスポイント(bps)以上、米国では500bps下方修正されています8

成長は減速するもののプラスを維持し、スプレッドはタイトでネガティブ・コンベクシティにより上振れ余地が限定されているということは、以下を意味します。

  • クレジットのリターンの主な源泉はクーポンとなり、15年平均の6.9%に対して7.5%と魅力的な水準になるでしょう9
  • 最近の政策や成長のトレンドに基づき市場がリスクプレミアムを見直すなか、セクターやクレジット・タイプ間の乖離は拡大するでしょう。

バランスを考え、大胆な債券投資は禁物

コア・プラス・アクティブ戦略には、海外投資など、より幅広いユニバースで機会を追求しつつ、金利リスクを管理する柔軟性があります。そして特にカーブの様々なポイントにおけるボラティリティやリターン・トレンドの逆転を踏まえると、コア資産ではおそらくそれが最も有利なアプローチだと考えられます。

コア・エクスポージャーがインデックスに連動する戦略と違い、アクティブ戦略はアルファ追求のために対ベンチマークでのデュレーションの短期化/長期化や、カーブのスティープ化/フラット化トレードの実行が可能です。この柔軟性は金利予想が予想と異なる場合に魅力的です。

よって、投資適格社債や米国債などの伝統的債券セクターと、ローン担保証券(CLO)や証券化クレジット商品などの非伝統的債券セクターを組み合わせればインカムと分散効果をいっそう強化できるため、相対価値のミスプライシングやアルファの機会を追求する戦術的なポジションをイールドカーブおよびクレジット・カーブに沿って構築できます。

コア戦略以外の選択肢として、債券のバランス回復のために以下の2つの戦術があります。

第一に、FRBの「様子見」姿勢に逆らわないこと。これは、高クオリティでデュレーションが短い社債を用いることで、大幅なボラティリティに耐えつつ、インフレ率を上回る利回りを獲得することを意味します。1~3年物投資適格(IG)社債市場はそのための1つの選択肢です。

他の高クオリティ債券市場と比べ、1~3年物投資適格社債のリスク調整後利回り(利回りからキャッシュの利回りを差し引きボラティリティで除して算出、図表4)は魅力的です。

十分に分散化されたコア資産とFRBによる安定化効果が期待できる1-3年物社債により、この組み合わせのリスク・バランスはディフェンシブに傾いています。

第2の選択肢、そして上振れサプライズへのバイアスがより強いのは、高インカム・セクターを1つ以上含む、非投資適格アクティブ・マルチセクター・クレジット戦略によりインカム増加を追求する方法です。幅広い検討事項と同様に、アクティブ運用は、単一銘柄、格付け、セクター、クレジット・ユニバース・レベルでリスクを管理するとともに相対価値を特定することで、クーポン獲得を超えるリターン強化が可能です。

マルチセクター・クレジット戦略は、株式より低い様々なベータ・エクスポージャーを組み合わせて成長拡大を狙うことが可能です(ハイイールド債は0.46ベータ、シニアローンは0.27ベータ)10 、ただしそれほど直接的ではない株式バイアスより柔軟性のある方法で実施します。

投資アイディア

アクティブコア戦略

短期適格投資社債

アクティブ運用マルチセクタークレジット戦略

執筆者

Bio Image of Michael W Arone

Michael W Arone, CFA

Chief Investment Strategist

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Matthew J Bartolini, CFA, CAIA

Global Head of Research

共同執筆者

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Anqi Dong, CFA, CAIA

Senior Research Strategist

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