地政学、コモディティ供給の混乱、AI関連設備投資が米国の各セクターのファンダメンタルズにどのような影響を与えているのか、そしてそれが投資家にとって何を意味するのかを探ります。
US Sector Strategy & Research team
イラン戦争は世界経済に甚大な供給ショックをもたらし、インフレリスクを押し上げ、成長見通しを抑制しています。一方、米国経済は引き続き底堅さを示しており、景気後退リスクは実質的に高まっていません。それどころか、足元のマクロ環境を見ると、供給ショックによってインフレ圧力が再燃し、鈍化しているとはいえプラス成長を維持しており、こうした圧力をどのように吸収し、反応するかはセクターによって大きく異なります。
地政学的不確実性は増していますが、今年に入って米国の各セクターの情勢を形作ってきた中期的な影響力を覆い隠すほどではありません。「一つの大きく美しい法案(OBBBA)」に基づく設備投資インセンティブなどの財政支援、加速するAIインフラ支出、サプライチェーンのリショアリング(国内回帰)は、いずれも維持されています。これらの構造的要因は各セクターに明確な示唆を与えています。資本財、公益事業、情報技術セクターでは持続的な需要が見込まれ、インフラの構築や製造能力の拡張に関連する分野では底堅さが持続しています。
一方、消費者を取り巻く状況はイラン戦争が勃発する前からすでに弱含んでおり、足元の環境はそうした軟化を増幅させています。賃金成長率がパンデミック前の標準的水準付近まで鈍化する中1、根強いインフレと高止まりするエネルギーコストは実質可処分所得と個人貯蓄をむしばみ続ける可能性が高く、その影響は低・中所得世帯で最も顕著に表れると思われます。消費が軟化すれば、生活必需品や一般消費財など、家計支出の影響を受けやすいセクターは厳しい状況に直面します。
金融政策の見通しも、より不確実になっています。供給要因で押し上げられたインフレがどの程度のペースで沈静化するかによって、米連邦準備制度理事会(FRB)による緩和のタイミングと規模が左右されるとみられ、現時点では利下げが先送りされる方向にリスクは傾いています。これにより、金融や不動産といった金利感応度の高い景気循環セクターへの下支えは限定されます。
地政学リスクの高止まりと政策見通しの変化を背景に、今後6~12カ月はセクター間のパフォーマンスはばらつきが予想されます。金利動向に加え、企業業績の底堅さ、利益率の持続性、コモディティ価格への感応度、そして財政政策やAI投資といった追い風へのエクスポージャーがセクターパフォーマンスの差別化要因となり得ます。これらのダイナミクスが当社の各セクターに対する見解のベースとなり、以下の各セクションにおける戦術的・戦略的推奨の根拠となっています。
図表1:セクター市場見通しの概要
6カ月から12カ月の投資期間
| セクター | 見解 | 変更点とその根拠 |
| 情報技術 | 強気 | AI主導の利益成長が引き続き力強く裾野も広いうえ、バリュエーションにも魅力があることから、当セクターの見通しを強気へ引き上げる。 |
| コミュニケーション・サービス | 強気 | デジタル広告の拡大、加速するAIの収益化、底堅い利益、および良好なバリュエーションに基づき、強気見通しを維持する。 |
| 一般消費財 | 弱気 | 実質所得の伸びの鈍化、貯蓄率の低下、インフレ圧力が消費者需要を弱めていることから、当セクターの見通しを弱気に引き下げる。 |
| 生活必需品 | 弱気 | 利ざやの縮小、利益成長の伸び悩み、割高なバリュエーションが上昇余地を抑えていることから、弱気見通しを維持する。 |
| 金融 | 中立 | 利下げの遅れ、金融環境の引き締め、およびマクロの不確実性の高まりが、規制面の追い風とバリュエーションの改善を相殺するため、中立に引き下げる。 |
| 不動産 | 弱気 | 収益モメンタムの弱さ、利下げ観測の後退、主要REITサブセクターの持続的な逆風を踏まえ、当セクターの見通しを弱気に引き下げる。 |
| 資本財 | 強気 | AI主導のインフラ投資、防衛支出、設備投資を後押しする財政政策がセクター全体の成長拡大を支えており、足元のバリュエーションも正当化されるため、強気見通しを維持する。 |
| 素材 | 強気 | 化学品セクターの需給環境の改善、貴金属および工業用金属に対する構造的な需要増、同セクターの堅調な成長見通しに対する魅力的なバリュエーションを基に当セクターの見通しを強気に引き上げる。 |
| エネルギー | 強気 | エネルギー供給の途絶が長引くリスクが高まっており、エネルギーの地政学的リスクプレミアムが恒常的に変化していることから、当セクターの見通しを強気へ引き上げる。 |
| 公益事業 | 強気 | 当セクターはトレンドを上回る成長プロファイルを有し、AI主導の電力需要、電化、製造業の国内回帰という構造的追い風もあるため、強気見通しを維持する。 |
| ヘルスケア | 中立 | 利益成長の鈍化、成長転換点の不透明な見通し、および政策の不確実性が魅力的なバリュエーションを相殺しているため中立見通しを維持する。 |
出所:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2026年3月31日時点。緑は「強気」、オレンジは「弱気」の見解を表しています。
四半期見通し:AI主導の力強く幅広い利益成長と魅力的なバリュエーションに基づき、情報技術セクターに対するスタンスを「強気」に引き上げる。
情報技術セクターは引き続き、全セクターの利益成長を主導する立場にあり、2026年には市場全体(+16%)の2倍超となる37%の利益成長が見込まれます2。昨年12月以降、セクターの成長見通しは56%上方修正されており、半導体・半導体製造装置(+71%)を筆頭に、同セクターに属する6産業すべてが成長しています3。
この成長を牽引する最大の要因はAI需要です。AI作業量の急速な拡大を受け、AIアクセラレーターチップに対する需要は旺盛かつ持続的で、2033年にかけて年平均16%の成長が予想されています4。一方、大規模言語モデルを動かすには、従来のコンピューティングと比べてはるかに多くのデータを保存・アクセス・供給する必要があるため、メモリチップやハードウェアストレージの需要も高まっています。AIデータセンター構築の加速を受けてメモリチップ不足が生じており、このボトルネックは2027年まで続き、価格を押し上げるものと予想されます5。電子装置・機器・部品産業も、AI構築に伴う光ファイバーやケーブル、接続性関連に対する旺盛な需要が追い風となっており、2026年には21%の利益成長が見込まれます6。
第1四半期にソフトウェア銘柄の株価が下落した主な原因は、ファンダメンタルズの悪化ではなく、AIによるディスラプションへの懸念でした。実際、ソフトウェア業界は依然として2桁の利益成長(+17%)が見込まれています7。今回のバリュエーションの見直しは過度に悲観的であると当社はみています。とりわけ、支配的なポジションを占める大手Saas(サービスとしてのソフトウェア)銘柄の一部は、企業データへの密接な統合、企業システム間の強固な接続性、そして高いセキュリティ基準を備えている点を踏まえるとなおさらです。当社のファンダメンタルズ株式アナリストによると、エージェント型AIの採用拡大に伴い、データインフラ、サイバーセキュリティ、エンドポイントソフトウェアの成長は加速が予想されます。
力強い利益センチメントとここ数カ月のマイナスの値動きを受け、情報技術セクターのバリュエーションは魅力が高まっています。このセクターの絶対および相対ベースの12カ月先(NTM)予想PERは、過去5年レンジの下位20%に位置しています8。ソフトウェアが売りを主導しているとはいえ、バリュエーション圧力は広範に及んでおり、半導体およびソフトウェア銘柄の相対NTM予想 PERは、それぞれ2022年と2015年以来の低水準まで落ち込んでいます。その結果、セクターレベルではAI成長へのエクスポージャーに対して魅力的なエントリーポイントが形成されています9。
四半期見通し: デジタル広告の拡大、AIのマネタイズ(収益化)、良好なバリュエーションに基づき、コミュニケーション・サービスセクターに対するスタンスは「強気」を継続。
デジタル広告の成長とAIのマネタイズは、引き続き同セクターにとって主要な成長ドライバーです。米国の広告支出は、2025年の前年比5.7%増から2026年は同9.5%増に伸びが加速すると予想されており、米国の中間選挙やFIFAワールドカップといった重要イベントに加え、ソーシャルメディアやコネクテッドTVを中心とした幅広いデジタル広告の成長によって押し上げられる見通しです10。デジタル広告は2026年に米国の広告支出の約67%を占める約4,430億ドルに達するとみられ11、2029年にかけて年平均15.1%の成長が見込まれます12。最も魅力的な投資機会は、AIを既存のソーシャルメディアや検索プロダクトに直接組み込むことにより、広告のターゲティング、パーソナライズ、コンバージョン効率を高めるインタラクティブ・メディアやデジタル・プラットフォームにあります。
マクロ経済の不確実性が持続し、消費者センチメントが弱まる中でも、AI主導のマネタイズは、時価総額ベースでセクター最大セグメントである13インタラクティブ・メディアおよびサービス産業の底堅い成長見通しを引き続き下支えしています。関税を巡る不確実性にもかかわらず、2025年にコミュニケーション・サービスセクターは力強く成長し、AIのマネタイズがマクロ全体の逆風を十分に相殺したことが浮き彫りになりました。今後に目を向けると、セクター全体の売上高は2026年に前年比28.3%増が見込まれ、2021年以降で最高の伸び率となった2025年の同16%増を上回ると見込まれ、厳しいマクロ環境にもかかわらず成長の持続性はますます高まっています14。
ファンダメンタルズもセクター全体で力強く、業績予想は上方修正が下方修正を上回り、2026年には4年連続で2桁の利益成長を達成する見通しです15。1月以降にバリュエーションは大幅に低下しており、NTR予想PERはS&P500指数と同水準、プレミアムは過去15年間の中央値である7%を下回っているため、相対的にもバリュエーションは良好な水準を維持しています16。総じて、コミュニケーション・サービスセクターにはAIによって強化された底堅い成長機会があり、バリュエーションには投資妙味があります。
四半期見通し:当社は消費関連セクターに弱気の見方を強めています。生活必需品セクターの見通しは「弱気」を維持し、一般消費材・サービスセクターについては「中立」から「弱気」に引き下げます。
個人消費は底堅いものの、その強さは主に高所得層という狭い層に集中しており、低・中所得世帯は深刻なインフレ圧力と家計負担の増大に直面しています。この差異は重要な意味を持ちます。中・低所得世帯の金融面での健全性は、一般消費財セクターに属する企業の持続的成長において不可欠だからです。当社のファンダメンタルズ株式チームによれば、高所得層の消費者だけに依存する企業やブランドは極めて少数であり、ほとんどの企業はハイエンド需要だけでは持続可能ではありません。
それと同時に、消費関連セクターの成長を促進する主要ドライバーは弱まりつつあります。個人貯蓄率は2022年以来の低水準付近にあり、個人消費は実質所得の伸びを上回り続けています17。こうした背景の下、ガソリン価格の上昇はOBBBA減税が意図した支援の多くを打ち消してしまう可能性が高く、燃料価格の高止まりが続けば、消費需要が弱まるリスクが高まります。実質所得の減少と貯蓄率の低下は、生活必需品と一般消費財の両セクターの成長見通しにとって悪材料となります。
原油およびその他コモディティ価格の上昇は、生活必需品企業の利益率の重しとなる可能性もあります。特に競争が激しく価格感応度の高いカテゴリーでは、原材料コストは価格転嫁しても追い付かないペースで上昇することも珍しくありません。その上、近年の相次ぐ値上げを経て、企業側の価格決定力は以前よりも制約を受けています。こうした課題は企業のファンダメンタルズにますます反映されています。生活必需品セクターは2026年に5.8%の増収と6.1%の増益が見込まれていますが、これはGICS11セクターの中で最低レベルにあります18。一般消費財セクターの成長見通しは若干良好なものの、市場全体を下回る水準にとどまっており、下方修正が続いています19。
四半期見通し: イランとの戦争がインフレリスクを高め、成長見通しが低下する中、金融セクターに対するスタンスを「強気」から「中立」に引き下げ、不動産セクターについても「弱気」に引き下げます。
インフレ期待の上昇を受け、2026年のFRBによる利下げ確率は低下し、金融環境は引き締めに向かい、金融セクターにとって重要なマクロの追い風の一つが後退しました。エネルギー供給の混乱が長期化するシナリオでは、金融セクターは消費者および企業センチメントの悪化、資本市場活動の先送り、タカ派的なFRBが金融引き締めを維持することによるイールドカーブのフラット化といった環境に対して脆弱になり得ます。エネルギー供給の混乱が長期化するリスクが高まっていることから、解決に向けた条件がより明確になるまで、金融セクターに対して慎重スタンスを強めるのが妥当と当社は考えます。
プライベートクレジットを巡る懸念も、セクターの一部、とりわけオルタナティブ資産運用会社にとって重しとなっています。セミリキッド型(半流動性型)プライベートクレジット・ファンドからの個人投資家による解約が大幅に増加しているためです。オルタナティブ資産運用会社は金融セクターの中ではごく一部を占めるにすぎませんが、重要な点は、プライベートクレジット市場のストレスが金融システム全体に重大なシステミックリスクをもたらす恐れがあるかどうかです。
そのリスクは限定的と当社は考えています。プライベートクレジットのデフォルトを巡っては、レバレッジドローン市場で懸念される報道が見られますが、この市場は民間の非金融部門に対する与信全体のわずか4%を占めるにすぎません22。加えて、ソフトウェア企業など、プライベートクレジットの借り手の信用力は概ね安定しています23。とはいえ、金融引き締めとFRBの不透明な見通しが続いていることから、当社は慎重姿勢を取り、引き続きクレジット市場を注意深く監視します。
リスク環境が変化する一方で、金融セクターには明るい材料も残っており、当社は「弱気」ではなく「中立」のスタンスを維持します。とりわけ、今年に入って最近のパフォーマンスの低下により、セクターのバリュエーションは大幅に改善しています。金融セクターの相対NTM PERは、2021年12月以来の低水準付近にあります24。中東紛争が沈静化し、地域の供給混乱の解消に向けた生産的な交渉が始まれば、金融セクターは反発し、合併・買収(M&A)や新規株式公開(IPO)といった活動の回復、金融緩和、イールドカーブのスティープ化の再開によってパフォーマンスは押し上げられる可能性があります。同時に、最近公表されたバーゼルIIIの最終化とグローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)の提案が承認されれば、銀行の資本要件は500億ドル低下する可能性があり25、融資能力が大幅に高まるだけでなく、自社株買いの拡大を通じて自己資本利益率(ROE)が押し上げられるとみられます。こうしたカタリストが出てくると、金融セクターに対する見方は改善するはずです。
不動産セクターは、金融セクターと同様の下振れリスクがありますが、ファンダメンタルズはさらに弱い状況です。利下げ期待の低下と弱い業績センチメントを受け、当社は同セクターに対するスタンスを「中立」から「弱気」に引き下げます。不動産セクターは通常、低金利環境でアウトパフォームするため、利下げを巡る不確実性を受け、同セクターにとって重要な追い風は弱まっています。セクターのバリュエーションは魅力的で、投資家のポジションも控えめですが、セクターの成長見通しは1桁台前半と11セクターの中で最低レベルにあり、携帯基地局、住宅、オフィスなどの不動産投資信託(REIT)に対するネガティブなセンチメントによって業績予想の下方修正が続いていることは、セクター・ファンダメンタルズへの逆風が続くことを示しています。
四半期見通し: AI主導のインフラ構築、防衛支出の増加、設備投資を促進する財政政策による恩恵が続いていることから、資本財セクターに対するスタンスは「強気」を維持します。
クラウドサービスを圧倒的な規模で構築・運用する企業(ハイパースケーラー)は引き続き、AI関連の資本支出を引き上げています。2026年の設備投資予想は11月以降に29%上方修正されており、足元では前年比53%増の6,510億ドルが見込まれています26。資本財セクターはいわゆる「ピック・アンド・シャベル型(基盤供給型)」の受益者としての位置づけから、電力インフラ、電気機器、高性能冷却システム、データセンター建設にまたがるAI構築バリューチェーン全体で恩恵が見込まれます。
世界的な防衛支出の増加も、資本財セクター、特に航空宇宙・防衛産業にとって大きな追い風です。地政学的不確実性と緊張の高まりを受け、世界の軍事支出は2025年に過去最高の2兆6,000億ドルに達しました27。イラン戦争の激化により、各地域における国家安全保障に対する認識や安全保障同盟内における力学が変化し、このトレンドはさらに強まる可能性があります。
抑止力への長期投資に加え、今回の戦争により短期的な需要も増大しています。イラン戦争が勃発して最初の16日間に、中東連合軍(イランを除く)は1万1,000発を超える高性能弾薬を使用し、そのコストは約260億ドルに上ると報じられています28。その結果、米国および中東の同盟国が消費した弾薬在庫を補充する必要が生じており、航空宇宙・防衛業界にとっては新規受注のさらなる増加が見込まれます。
OBBBAによる財政刺激も、セクターの成長見通しを明るくしています。恒久的な100%ボーナス減価償却は、税引き後の資本コストを大幅に引き下げ、設備投資を促し、産業活動を押し上げる効果があります。2026年初頭に発表された経済指標は、産業活動が徐々に回復していることを示しています。2月時点で、鉱工業生産の前年比伸び率の6カ月移動平均は、2022年8月以来の高水準となりました29。さらに、調査データも一層の改善を示しており、S&Pグローバルによる3月の米国購買担当者景気指数(PMI)速報値は、新規受注と生産が加速し、成長見通しが堅調なことを示しています30。
総合すると、こうしたダイナミクスは、産業レベルでの成長の裾野拡大に反映されており、資本財セクターに属する産業の半分超が今年は2桁成長が見込まれます31(2025年は3分の1の産業にとどまる)。バリュエーションは高く、過去15年の高値に届く勢いですが32、産業活動の加速、AIデータセンター構築による非循環的かつ価格感応度の低い需要、および防衛支出の増大によってバリュエーションは正当化されるとみられます。
四半期見通し:化学品に対する需給バランスの改善、貴金属および工業金属に対する構造的に高い需要、セクターの堅調な成長見通しに対して魅力的なバリュエーションに基づき、素材セクターに対するスタンスを「中立」から「強気」に引き上げます。
イラン戦争によって世界の化学品サプライチェーンが混乱した結果、米国の生産者には、特に肥料、メタノール、ポリエチレン(PE)市場で市場シェアを獲得する短期的な投資機会が生まれています。中東は、世界で取引される肥料原料の3分の133、世界のポリエチレン輸出の約30%、世界のメタノール生産能力の約11%34を占めています。中東からの輸出がプラント停止や物流の制約により減少し、アジアの生産者が原料およびエネルギーコストの上昇に直面する中、米国の生産者は、安定的で低コストの天然ガス由来原料へのアクセスと世界的な汎用化学品価格の上昇から恩恵を受けるとみられ、利益率の上昇や販売数量の増加が予想されます。
また、戦争をきっかけに欧州やアジアでは、エネルギーレジリエンスを強化するための再生可能エネルギー投資の必要性が再認識され、銅、アルミニウム、ニッケル、亜鉛の採掘・生産会社に対する長期的な需要の追い風となっています。金価格は第1四半期に19%下落したものの35、世界的な債務増加、為替価値の希薄化懸念、新興国の中央銀行による堅調な現物需要に支えられ、金に対する構造的需要は維持されています。金は、過去のオイルショック後の6・12・18・24カ月の期間でアウトパフォームしていることから、中期的に価格は底堅いとみられ、金鉱企業の利益にとって好材料です36。
素材セクターの直近の株価下落に伴い、同セクターの力強い成長プロファイルを捉える魅力的なエントリーポイントが生まれています。セクターのNTM予想PERは直近のピークから13%低下しており、足元では過去3年平均に対して8%ディスカウントで取引されています37。年初から業績予想の上方修正が続いており、2026年は全セクターの中で2番目に高い28%という力強い利益成長が見込まれます38。重要なことは、素材セクターの成長は裾野が広く、セクター内のすべての産業で2026年に2桁の増益が予想されています39。
四半期見通し:エネルギーセクターは原油・ガス価格の急騰に対するバランス調整において最も有効な株式ヘッジの一つであるとの見方に基づき、当社はイラン戦争開始時点で同セクターに対するスタンスを「弱気」から「中立」に引き上げました。エネルギー供給の混乱が長期化するリスクが高まり、エネルギーセクターの地政学リスクプレミアムが構造的に変化していることを踏まえ、スタンスをもう一段引き上げて「強気」とします。
戦争とホルムズ海峡の混乱は、記録に残る原油市場の歴史の中で最大の世界的なエネルギー供給混乱を引き起こしました40。仮に戦争が短期で終結したとしても、それは一時的ショックでは終わらず、世界のエネルギー市場に持続的な影響が予想されます。市場はもはや、ペルシャ湾における混乱のリスクを低確率のテールイベントとして扱うことはできず、現実には原油、精製品、液化天然ガス(LNG)にわたり、地政学的リスクプレミアムの高まりが依然として続いています。
加えて、保険、輸送、資金調達のコストが構造的に上昇すれば、エネルギー供給にかかる限界費用は上昇するでしょう。戦略的備蓄目標や在庫バッファーが引き上げられれば、国や企業がエネルギー安全保障を管理するためのエネルギー需要は増加する可能性があります。その結果、余剰生産能力や安定した生産需要に対する希少価値が高まり、たとえ物理的な供給混乱が収まったとしても、エネルギーセクター全体にとって中期的に追い風となる環境が生まれます。
リスク管理の観点からは、エネルギーセクターのエクスポージャーを追加することで、足元の市場が織り込んでいる以上のエネルギー供給ショックが生じた場合の影響を軽減できる可能性があります。エネルギーセクターは年初来から大幅に上昇していますが、同セクターの投資家ポジションは依然として、過去の原油高局面で見られたピークは下回っています41。原油価格もロシア・ウクライナ危機のピーク水準を大幅に下回っており42、評価見直しによる上昇余地を残しています。
四半期見通し:良好な利益成長見通しと持続的かつ構造的な追い風を根拠に、公益事業セクターに対して「強気」のスタンスを継続します。AI主導の電力需要、加速する電化、送・配電網の継続的アップグレード、製造業のリショアリング(国内回帰)が引き続き、同セクターのトレンドを上回る成長プロファイルを下支えしています。
2026年の予想1株当たり利益(EPS)は過去6カ月にわたり着実に上昇しており43、業績予想はセクター全体で幅広く上方修正されています。公益事業セクターのEPSの上方修正幅は、情報技術セクターと素材セクターに次ぐ3番目の水準です44。2026年は、過去10年平均の約2倍に相当する12.3%の利益成長が見込まれます45。
電力インフラの拡張には多大な資源と時間を要するため、送・配電網の制約は、確立された事業基盤を持つ既存の電力会社の戦略的価値を高めることにつながります。現在および将来の電力計画において、信頼性とベースロード電源の重要性が再び注目されており、原子力およびガス火力発電も評価が見直される可能性があります。
評価見直しの兆しはすでに見られ、公益事業セクターのNTM予想PERは19.0倍と、過去5年および15年平均に対してそれぞれ5%と12%と小幅ながら上回っています46。評価見直しが起きているとはいえ、相対バリュエーションはなお魅力的で、S&P500指数との比較では過去15年レンジの下位31%の水準にあります47。トレンドを上回る成長を織り込むと、バリュエーションは依然として良好であり、割高感はなく、投資家にとって潜在的な買いの好機となっています。
ポートフォリオ構築の観点では、公益事業セクターには分散効果も期待できます。AIに関連した成長エクスポージャーがあるとはいえ、公益事業セクターは情報技術やコミュニケーション・サービスといった典型的なAI受益セクターとの相関は低いままです(相関性はそれぞれ0.38と0.39)48。同セクターの需要プロファイルは循環性が低く、規制下にある独占事業でキャッシュフローが安定しているという特性から、ディフェンシブ性が強く、AI主導の成長に投資しつつボラティリティは低く抑えたい投資家にとって、優れた分散投資先となり得ます49。
ただし、公益事業セクターにもリスクがないわけではありません。電力料金を巡る政策の不確実性が再浮上しており、またイラン戦争勃発で事態の複雑性が一段と増しています。公益企業は一般的に、燃料コストの上昇を電力料金の改定を通じて転嫁するため、規制のタイムラグがあるとはいえ、安定した収益と利益率が確保されます。とはいえ、燃料コストの急騰を受け、中間選挙を前に電力料金の手頃感に対する懸念が高まる可能性があります。これは、実質的な政策介入のきっかけになるというよりも、ヘッドラインノイズ(見出し先行の材料)となる可能性が高いと当社はみています。なぜなら、法的ハードルが高く、行政当局の権限が限定的であり、また介入を行えば投資の抑制や供給制約の悪化につながる可能性が懸念されるためです。
四半期見通し:ヘルスケアセクターのバリュエーションは魅力的だが、利益成長が減速し、成長が上向く見通しは依然弱く、政策の不確実性が根強いことから、同セクターに対するスタンスは「中立」を継続する。
肥満、がん、循環器、神経変性疾患領域における未充足ニーズに対応する製品イノベーションと人口高齢化に支えられ、長期見通しは引き続き良好ですが、同セクターには2026年に成長を再加速させるような短期的な変革をもたらすカタリストが不足しています。これはバイオ医薬品企業で特に顕著であり、重要な転換点に対する見通しは依然として限定的です。
減量/糖尿病を対象としたGLP-1受容体作動薬は大きな注目を集めていますが、このテーマだけではセクター全体を押し上げるには不十分です。現時点でGLP-1から大きな利益を上げているのは2社(米国企業は1社)に集中しています。その結果、バイオ医薬品業界の他の企業へは当初期待されていたほどの恩恵はありません。
こうした背景を反映し、ヘルスケアセクターの足元の2026年利益成長予想は+6.7%と、年初時点の+8.9%から低下しています50。もし予想通りの結果となれば、同セクターの利益成長率は過去5年のうち4回で長期平均を下回ることになり、セクターが直面する短期的な成長課題を裏付けることになります51。
政策も、もう一つの不確実性要因です。大手製薬会社にとっての薬価リスクは政府との価格合意を受けてピークアウトする可能性がありますが、マネージドケア型医療保険会社を巡る政策の不確実性は高止まりしており、中間選挙前に完全に解消する可能性は低いと思われます。マネージドケア関連企業は、政府による償還の引き締め、薬価設定および透明性に対する継続的監視、さらに人件費や医療コストの継続的上昇といった要因による利益率の下押し圧力に直面しています。
好材料として、同セクターでは歴史的に、ディフェンシブな事業構成や質の高い事業特性が、低成長・高インフレ局面でのアウトパフォームを下支えしてきました52。戦争の長期化により需要破壊が起こり、マクロ環境が一段と悪化した場合、ヘルスケアセクターは再び魅力を取り戻す可能性があります。同セクターは絶対ベースでも市場全体との相対ベースでも、過去5年間のバリュエーションレンジの中央値を下回っている唯一のディフェンシブセクターです53。
同セクターに対する見通しの「強気」引き上げを後押しする潜在的なカタリストとしては、GLP-1経口薬の上市が想定以上の成功を収め、肥満領域の最大市場規模(TAM)に対する投資家の期待が再び大きく膨らむこと、循環器領域でのブレークスルー、セクター内の幅広いサブ産業で利益安定の明確な兆候がみられること、などが挙げられます。