金(ゴールド)は国際市場では主に米ドル建てで取引されていることから、円で投資を行う日本の投資家は為替リスクを抱えることになります。上場投資信託(ETF)や投資信託には、こうした為替変動の影響を軽減(ヘッジ)したものとそうでないものが用意されています。為替リスクをヘッジするべきか、しないべきか――金高・円安、金高・円高、金安・円安、金安・円高の4つの事象に分け、それぞれの事象が起こりうる要因やヘッジの有用性を考えてみましょう。
国際的に金は米ドルで取引されており、米ドルの動向はその他通貨建ての評価額に影響をもたらす可能性があります。円の対米ドル相場は日米金利差や市場のリスク環境、貿易収支や対内外の証券投資など経常収支といった需給によって動く傾向があり、金相場と円相場の関係は複雑です。このため円を使って投資を行う日本の投資家にとって、為替ヘッジの有用性は重要な視点の一つです。ただし、ヘッジは米ドル安・円高がもたらす米ドル建て金価格へのマイナスの影響を取り除くことができる一方、ヘッジするためのコストがかかることからリターンが抑制されてしまうことには留意が必要です。
金相場と円相場をめぐる4つの事象のうち、過去に最も多かった組み合わせや最も少なかった組み合わせを見てみましょう。2000年初から2025年7月までの期間の米ドル建て金価格と円相場、それぞれの月間騰落率を見ると、全307カ月のうち、金高・円高となった局面が106回と最も多く、次いで金安・円安が92回、金高・円安が68回、そして金安・円高が40回と最も少なくなりました。
全体の3分の2を占める2つの事象については、安全資産とされる金と円が相場環境のリスクオン・オフに合わせて同じ方向に動きやすいことが示されています。こうした環境ではヘッジなしでも金相場と円相場が互いに相殺し合って中和する傾向があるため、必ずしもヘッジが必要とは言い切れません。特に金高・円高といった局面では、金の上昇率が円の上昇率を上回る傾向にあり、ヘッジなしの米ドル建て金投資は比較的プラスのパフォーマンスが維持されています。また金安・円安局面では、米ドル建て金価格の下落を為替の円安が吸収し、衝撃を和らげているため、ヘッジの有用性は低いと言えます。
一方、過去40回しかない金安と円高の組み合わせは比較的複雑なマクロ環境の下で起こりやすいです。例えば2000年代初頭のITバブル崩壊後の世界的なデフレ圧力が金価格の重しとなったうえ、円高圧力が強まった局面が散見されました。また世界的に景気に楽観的な見方が広まり、安全資産としての金に対する需要が低下した一方で、円キャリー取引を背景とした過度な円安の巻き戻しが起こった局面でも見られています。こうした局面ではヘッジが有効であると言えます。
金高・安、円高・安の4つの事象が起こりうる環境はどのようなものか見てみましょう。なお、円安は金の円建て評価額を押し上げることから+、円高は押し下げ要因となることから-と評価しています。以下の類例については、市場の動きを厳密に示すものではなく、全体的な傾向を示すもので実際の動きを保証するものではない点をご理解ください。
図表2:金相場と円相場の組み合わせとマクロ要因例
| 状況 | マクロ要因例 |
| 金高(+)/円安(+) | インフレ懸念、日本の金融緩和、円キャリー取引活発化 |
| 金高(+)/円高(-) | 世界的な景気不安、米金利低下・米ドル安、日米金利差縮小 |
| 金安(-)/円安(+) | 世界的な景気堅調、米金利上昇、円キャリー取引活発化 |
| 金安(-)/円高(-) | 世界的な景気回復、日銀の政策正常化、円キャリーの巻き戻し、世界的なデフレ圧力 |
出所:ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。市場の動きを厳密に示すものではなく、全体的な傾向を示すもので実際の動きを保証するものではありません。