米国のハイテク株は、人工知能(AI)を追い風に過去3年にわたり上昇してきましたが、足元でボラティリティが高まっています。これは投資家が、割高なバリュエーション、AIハイパースケーラーの設備投資の規模、AIからの収益化ペース、およびソフトウェア業界における既存の利益モデルへの脅威を疑問視しているためです。
短期的な変動はあるとはいえ、AIの導入がさまざまな業界で急速に進んでおり、より大規模なAIの計算能力に対する需要が持続していることがから、当社は引き続きAIイノベーションサイクルにおける長期的な勝者はハイテク企業であると考えています。
とはいえ、AIのような変革的な成長テーマには本質的に高いボラティリティが伴います。そのため、AIテーマへの投資においては、情報技術セクターへのエクスポージャーに、コミュニケーション・サービスおよび公益事業セクターへのエクスポージャーをバランスよく組み合わせれば、より安定的で強靭(きょうじん)なポートフォリオの構築を可能にする戦略となるでしょう。
AIテクノロジーの急速な進展と、大規模なAIデータセンターの建設が、過去3年間にわたる情報技術セクターの力強い利益成長を後押ししてきました。同セクターは、3年連続で高い利益成長が見込まれており、米国株全体の利益成長を牽引(けんいん)する主要なエンジンになると予想されます(図表1)。この成長トレンドは、同セクターの2023年初頭からの力強いパフォーマンスを支えており、情報技術セクターの上昇率は年率34%と、同期間のS&P500指数を年率12%上回りました。1
利益は引き続き堅調に推移すると見込まれていますが、AIへの設備投資の規模、AIからの収益化のペース、ソフトウェアのビジネスモデルが受ける潜在的な脅威といった懸念から、情報技術セクターの再評価が進んでいます。セクター全般の株価とソフトウェア業界の株価は、それぞれ10月のピークから9%と30%下落しています。2 マイクロソフトやオラクルのようなAIハイパースケーラーは、AI投資の増加と想定を下回る投資利益率(ROI)を背景に短期的な圧力に直面しています。また、オープンAI、アンソロピック、グーグルが最近リリースした製品は競争を激化させ、「安定的」な収益モデルへの下押し圧力となることから、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)企業への脅威が高まっています。
もっとも、ハイパースケーラーの高水準のAI設備投資は、数千億米ドル規模の受注残高に反映されている直近のキャパシティ制約の緩和に役立っており3、堅調なAI需要を支えつつ将来の成長基盤を築いています。現在の大手SaaSプロバイダーがが新興勢力に取って代わられるかどうかについては、既存企業の持つ緊密に統合されたデータ、企業システム間の接続性の強さ、高度なセキュリティ基準を考えると、依然として不透明です。
市場が最終的な勝者と敗者を見極めようとする中で、情報技術セクターの高いボラティリティと銘柄間格差は続くと予想されます。それでも、情報技術セクターは総じて、長期的にはAI革命の最大の恩恵を受けることになると考えます。
コミュニケーション・サービスもAIの進展から恩恵を受け、過去3年間にわたり、一貫して予想を上回る高成長を達成しています(図表2)。AIによる効率性向上と売上成長は、同セクターの成長モメンタムを引き続き支える見通しです。2026年成長率のコンセンサス予想は低いものの、AIに支えられた強い成長モメンタムに加え、冬季オリンピック、FIFAワールドカップ、米中間選挙といった主要グローバルイベントに伴う広告支出の急速な伸びを背景に、コミュニケーション・サービスはポジティブなサプライズをもたらす可能性があります。
コミュニケーション・サービス・セクターのトップ企業、特にインタラクティブ・メディアとエンターテインメント分野では、AIの収益化が短期的には進んでいます。ソーシャルメディアやデジタル検索プラットフォームは既存製品にAIを組み込み、利用者ごとに個別化されたコンテンツ配信を通じて検索結果やコンテンツ推奨などを改善し、ユーザーエクスペリエンスを向上させています。これにより、ユーザーエンゲージメントが高まり、デジタル広告収入の成長を後押ししています。
例えば、メタ・プラットフォームズは高度なAIモデルを駆使して広告ランキングを向上させた結果、フェイスブックでの広告クリックが3.5%増加しました。4一方、グーグル・サーチは、改良版のジェミニ3 AIモデルを統合した後、第4四半期にグーグル検索の利用数が増加し、2025年第4四半期の四半期売上高は1,138億米ドルという過去最高の伸びを記録しました。5
インタラクティブ・メディアに加えて、エンターテインメント業界でもAIの活用が進んでいます。動画編集やコンテンツ生成の自動化、映画やビデオゲームにおける3Dモデリングの高度化を通じて、コンテンツ制作プロセスの効率化が図られています。こうしたAI戦略は、業界企業にとって大幅なコスト削減と生産性の向上につながる可能性が高く、テレビや映画の制作コストが最大30%低下するとの予測もあります。6
過去3年間にわたり同セクターは力強いパフォーマンスを示してきましたが、相対的なバリュエーションは依然として魅力的です。予想株価収益率(PER)は市場並みで、過去の中央値の7%のプレミアムを下回っています。7利益成長と株価倍率(バリュエーション)の拡大の双方に支えられ、コミュニケーション・サービスは引き続き力強いリターンを提供する可能性があります。8
公益事業は歴史的にディフェンシブ・セクターと見なされ、主にその安定性とインカムの観点から評価されてきました。しかし、電力集約型のAIデータセンターの建設急増は電力需要に構造的な増加をもたらし、同セクターに強力な相対的パフォーマンスをもたらす長期的な追い風となっています。
公益事業は、2022年末以降、ヘルスケアや生活必需品といった他のディフェンシィブ・セクターやインカム重視の不動産と比べても著しくアウトパフォームしてきました。10これは、公益事業セクターが、その長期的成長に基づいて再評価されつつあることを示唆しています。
さらに、公益事業セクターはAI関連の成長要因であるにもかかわらず、情報技術やコミュニケーション・サービスなどAIの恩恵を受ける他のセクターとの相関は低いままです(それぞれ0.40および0.44)。10公益事業セクターは安定的なキャッシュフローを持つ規制された独占企業によって構成されており、景気循環に左右されにくい需要構造を有していることから、ディフェンシブな特性が際立っており、AI主導の成長機会を取り込みたい投資家にとって分散効果が期待できる投資対象となります。
成長志向のAI投資に公益事業を追加することで、アップサイドの成長を狙いつつ、ポートフォリオのボラティリティを低減し、ポートフォリオのドローダウン・リスクを緩和できる可能性があります。具体的には、2023年の初め以降、情報技術、コミュニケーション・サービス、公益事業セクターを毎月リバランスして均等に加重するポートフォリオは、S&P500指数を年率換算で9.2%上回った一方、情報技術、コミュニケーション・サービス、ならびにS&P500指数全体よりもボラティリティが低く、小幅なドローダウンにとどまりました(図表3)。
AIの勝者、敗者、バリュエーションを巡る議論が続いていますが、当社は、情報技術とコミュニケーション・サービスがAIテクノロジー革命の最大の恩恵を受けるセクターになると考えます。ただし、今後の道筋は一様に進む可能性は低く、ボラティリティと銘柄間格差は続くものと思われます。
このような環境では、AI成長セクターを相関の低い公益事業セクターと組み合わせることで、リスク調整後のリターンの改善とドローダウン・リスクの軽減を通じて、ポートフォリオの耐性を高める可能性があります。