技術が大幅に進歩すると、少ない経済資源でより多くの価値が創出できるようになるため、経済成長は促進します。これは第1次産業革命における蒸気エンジンの発明以降、現在起きているAIやデジタル資産などの革命まで当てはまります。
現在、技術的なブレークスルーの速度と影響力は指数関数的に加速し、空前の勢いを見せています。社会を変化させ続けている技術革新の背景にあるのは、高い計算能力をもつスーパーコンピューターへの容易なアクセス、人工知能 (AI)の急速な発展、ロボティクスと自動化、フィジカル世界とデジタル世界間のハイパーコネクティビティ、生物学的イノベーションなどの牽引役です。
しかし、多くのポートフォリオは、イノベーションへのエクス ポージャーがいまだ不十分です。したがって、イノベーション の経済的恩恵をどのように特定し、捉えることが最善かを 知ることが投資家にとって重要な問題になっています。
イノベーション銘柄はリスクが高過ぎると、考えている投資家もいるかもしれません。確かに、技術革新を生み出し、牽引する企業は大きなリスク ―― 完成までのコストや将来のキャッシュフローの不透明性から、技術が陳腐化するリスクまで ―― に直面しています1 。しかし、そうしたリスクを取る投資家にとって、埋め合わせとなるものがあります。「イノベーション・プレミアム」です。
実証研究は、技術革新を推進する企業の株主還元率が高いことを示しています。世界初のマネジメント・コンサルティング企業であるアーサー・D・リトルが、フォーチュン500社のうち338社を対象に1987年から1996年までの株主還元率を調査したところ、革新的企業上位20%の株主還元率は、同業他社の2倍に上ることがわかりました2 。
またイノベーションの重要な牽引役である活発な研究・開発(R&D)活動は、Fama-Frenchの5ファクターおよび3ファクター・モデルのような資産価格モデルでは説明できない、大幅なプラスの株式リターンとの相関があります3。
イノベーション・プレミアムは魅力的かもしれませんが、なぜ革新的企業はアウトパフォームする傾向にあるのかを理解することが重要です。革新的企業はより質の高い商品やサービスを提供することができ、エコノミック・モート(競争優位性)が高いため、より大きな価格決定力や高い収益性につながるからだ、との意見もあるでしょう。
アウトパフォーマンスは、行動ファイナンスの観点からも考えることができます。確かに、特許取得から最終商品の完成までの道のりの不確実性、ディスラプションの速度、新商品が競争や産業構造に与える影響や長期繰り延べ利益といった要因を、投資家が分析するのは容易ではありません。また、このようにあまり具体的ではない情報の処理は難しいため、 企業のイノベーションの見通しに関するニュースが報じられても市場の反応は鈍く、イノベ ーション銘柄のミスプライシングにつながる可能性もあります4。アメリカの科学者で未来学者のロイ・アマラは「私たちは、ある技術の短期的な影響を過大評価し、長期的な影響を過小評価する傾向がある。」と述べています。
ミスプライスされたイノベーション銘柄を活用するには、市場によって長期的な視点で過小評価されている初期段階の革新的企業を見極め、投資することが必要です。たとえば、認知度が高いイノベーション銘柄 ―― アマゾン、ネットフリックス、マイクロソ フト、アップル ―― がS&P500株価指数の構成銘柄となったのは、それぞれの新規株式公開(IPO)申請から8年以上経ってからでした。
アップルが同指数に組み入れられた時、iPhoneは既に発売から2年経過し、同社の売上高の伸びに最も貢献する商品となっていました。実際、下の図表1に示すように、上記の革新的企業は、いずれもS&P500株価指数に組み入れられる何年も前から売上高を大きく伸ばし、株価が大幅に値上がりして市場全体をアウトパフォームしていました。
S&P500株価指数に初期の段階のイノベーション企業が十分に組み入れられていないことからみて、おそらくほとんどの投資家のポートフォリオは、成長の初期段階における大幅な値上がり益を取り逃がしていると考えられます。
革新的企業はその価値の多くを将来の発明から ―― そして、そうした発明の収益化によって創出される将来のキャッシュフローから ―― 得ているため、新技術の開発、顧客によるそれらの採用、市場構造の変化をめぐる不確実性は、バリュエーションに大きく影響する可能性があります。リスクフリー金利や投資家のリスク・センチメントの変化も割引率に影響するため、バリュエーションを大きく左右します。
しかし、長期的なイノベーションのトレンドは金融や市場のサイクルを超えて続く可能性があるため、イノベーション銘柄は長期的な投資期間にわたって市場全体を上回る値上がり益を提供します。つまり、イノベーションのトレンドは、金融市場の上昇下降サイクルを乗り越え、投資家に長期的に恩恵をもたらすということです。その代表例と言えるのが、インターネットサービスとインフラ産業です。
1995年から2002年までの8年間に、米連邦準備制度理事会(FRB)は2回の利上げサイク ルを実施し、政策金利は1994年から1995年の間に3%から6%に、1999年から2000年の間 に4.6%から6.5%にそれぞれ引き上げられました。同じ時期に、インターネットサービスとインフラ銘柄は過去最大級の年間下落率を7回経験しています。それでも業界の著しい成長を支えたインターネットユーザーやインターネット利用の加速度的な増加・普及の流れは、反転することはありませんでした。これらの銘柄はその後20年にわたり、市場全体やテクノロジーセクター全体をアウトパフォームする追い風となりました。
セクター分類や指数構築上の様々な制約やバイアスから、今日、投資家のポートフォリオは多くの場合、イノベーション銘柄の組み入れが十分ではありません。
市場全体に対してエクスポージャーを取ろうとすると、たいていの場合、時価総額加重型のベンチマークを追跡しているため、自然と時価総額が大きく、歴史の長い企業に偏る傾向があります。これは、既存のテクノロジーに多くの投資をしており、破壊的な技術を受け入れて方向転換する能力や意欲が比較的低い既存企業にポートフォリオが偏ることを意味します。こうした企業は、テクノロジーショックに対してより脆弱である傾向があります。
1970年代の米国株式市場に関する全米経済研究所(NBER)の調査によると、情報技術(IT)革命は比較的新しく、総じて規模の小さい企業に有利に働き、既存企業の価値を破壊しました ―― そうした企業の市場価値は数年間で50%超下落し、完全には回復していません5 。
近年の生成AIの革新は、S&P500指数の時価総額の36%6を占める大手テック企業によって主導されてきたのは事実です。しかし、AIの革新におけるリーダーや今後数十年にわたる恩恵を受ける企業は、現在とは大きく異なる様相を呈する可能性があります。なぜなら、私たちは依然として、最も破壊的な技術革新の始まりの段階にあるからです。
これはつまり、投資家の中核的な投資対象の多くが、大きな技術変化によって生じる代替リスクにさらされる可能性があることを意味します。新技術の開発が加速し、その影響が指数関数的に拡大する中で、既存企業が新規参入者に取って代わられるスピードも速まり、投資家のポートフォリオに対する影響はさらに大きくなる可能性があります。
以下の図表に示したように、伝統的なグロース・スタイルのベンチマークでも、革新的企業の数は十分ではありません。その一因として、グロース/バリュー指数の構築に最もよく使用されている財務指標 ―― 株価収益率、株価純資産倍率、ヒストリカルな増収率など ―― はしばしば後ろ向きであったり、ごく目先の動きしか捉えておらず、企業の創造性や将来の成長余地を反映していないことがあげられます。
具体的には、革新的企業は通常、研究・開発(R&D)に大規模な投資を行うため、短期/実現利益の減少につながる可能性があります。またIT革命開始以降、知的資本は競争優位を生み出すための極めて重要なリソースとなりましたが、帳簿価額には十分反映されていません。最後に、過去のパフォーマンス(増収率)は、将来のパフォーマンスの信頼できる指標ではありません。破壊的なテクノロジーや企業や消費者の行動変化によって環境が急速に変化する中、過去に成功した方法が将来も同じように通用するとは限りません。こうしたことのすべてが理由で、伝統的なスタイル・ボックスではイノベーションを十分に捉え切れなくなっています。それよりもイノベーション・エクスポージャーに相応しいのは、伝統的な株式スタイルのエクスポージャーとは異なるアロケーションです。
技術進歩の恩恵を受けるため、テクノロジーセクターやコミュニケーション・サービスセクターなど、収益性を特徴とするセクターを選ぶ投資家もいます。この2つのセクターはIT改革の恩恵を主に受けましたが、現在、技術革新によって既存産業と新規産業の境界線は曖昧になっています。新技術はデジタルとフィジカル、企業と個人の世界を変容させ、その影響は経済全体に広く及んでいます。その結果、収益ベースの伝統的なセクター分類方法では、テクノロジー変革における特定のトレンドやニューエコノミーにおける企業のポジションを特定できない可能性があります。
たとえば、先進エネルギーの生成・伝送・貯蔵技術によって世界のクリーンエネルギー転換を推進する企業は、電気部品・機器メーカーから半導体メーカー、電力会社まで多岐にわたります。そしてこれらの企業は、資本財、情報技術、公益事業と異なるセクターに分類されます。情報技術セクターのみに注目している投資家は、このエネルギー転換の恩恵を十分に受けられないでしょう。
コア・ポートフォリオで、過小評価されたイノベーショ ンへの関連銘柄に資産を配分すれば、分散効果が高まり、長期的にポートフォリオ全体の成長余地が広がる可能性があります。また革新的企業はそれぞれ高水準の固有リスクを有しているため、革新的企業のプールに分散投資することはポートフォリオ全体のリスク軽減に役立ちます。
より重要なのは、投資家がテクノロジー変革を牽引する企業や新興産業を見出し、進化するイノベーショントレンドに合わせてポートフォリオを最新の状態に保つために、将来を見据えた柔軟なアプローチを取る必要があるということです。製造業中心の経済を反映するように設計された過去志向の財務データに頼るだけでは、経済を再構築する技術革新や革新的企業を見極めることはできません。
アクティブ運用とシステマティックなインデックス運用の両方の戦略は、イノベーションへのエクスポージャーを獲得し、破壊的テクノロジーによる長期的な価値創出の恩恵を受ける手段となり得ます。急速に進化するテクノロジー分野に精通し、深いファンダメンタルリサーチを行うアクティブ運用マネージャーは、真のイノベーションによって強固な経済的な堀(モート)を築く企業に注目することで、市場のノイズや一時的な流行に惑わされず、長期的な成長機会を見出すことができるかもしれません。
とはいえ、アクティブ戦略は一般的にポートフォリオの集中度が高く、広範な市場エクスポージャーと比べて固有リスクが大きくなる傾向があります。長期的に高いリスク調整後リターンを達成するためには、強固なリスク管理とバリュエーションに対する規律を備えたバランスの取れたポートフォリオ構築が極めて重要です。
コストを気にする投資家はシステマチック・インデックスアプローチを検討されるかもしれません。S&P Kenshoニュー・エコノミー・コンポジット指数は、ニューエコノミーにおける技術 革新を捕捉するように設計された、新たなシステマチック・アプローチの1つであり、技 術革新を促すファンダメンタルな牽引役を捕捉する5つの「イノベーションの軸(Axes of Innovation)」に基づき、産業やセクターを分類する枠組みを適用しています7 。
伝統的な売上高、バランスシート、あるいは伝統的な世界産業分類基準(GICS)の先に目を向けたS&P Kensho指数のフォワード・ルッキングなアプローチでは、AI、すなわち自然言 語処理(NLP)アルゴリズムを用い、企業が規制当局に提出した資料等から独自に選んだ 25のイノベーション分野(遺伝子工学やサイバーセキュリティーからロボティク ス、クリーンエネルギーまで)に関連する、キーワードをスキャンします。その目標はシンプルで、今日の技術革新を促進する企業を特定することです。
アクティブ運用であれ、システマティックなインデックス運用であれ、イノベーションに特化したエクスポージャーをポートフォリオに組み入れることで、長期的にイノベーション・プレミアムを捉え、投資家の中核ポートフォリオのリターンと成長特性を高める可能性があります。
たちの社会を変えようとしている、革新的企業の成長を捉える準備はできていますか?SPDR® S&P Kenshoニュー・エコノミーETFシリーズの詳細をご覧いただけます。