インサイト

2022年 金の見通し トレンドの回帰とアップサイド・リスクの余地

  • 2022年に向け、金は長期的かつ構造的な上昇相場に回帰すると考えられます。
  • 金相場を考える上において重要な要因は、各国中央銀行における金融政策の方向性とスピード感になります
  • ボラティリティは、潜在的に上昇する可能性があります。投資家は、市場リスクの高まりに対する潜在的なヘッジ手段として金に注目すると予測しています。

Head of Gold Strategy
Chief Gold Strategist
Senior Gold Strategist
APAC Gold Strategist & Gold Sales Specialist - Hong Kong

金価格は2019年と2020年にそれぞれ+18%と+25%上昇しましたが、2021年は若干マイナスのリターンで終わる結果になりました1。2020年は投資需要の記録的な強さが宝飾品需要の弱さを打ち消しましたが、2021年は再び調整期に突入し、需要部門が長期的なトレンドに回帰しつつある中において金価格は最高値圏で推移しています。

2022年に向け、金の楽観的な見通しを維持する理由は幾つかあります。長期化する新型コロナウイルスや変異株との闘い、サプライチェーンの混乱による供給ボトルネック、消費者物価やコモディティ価格の上昇、金融政策の転換などにより今後ボラティリティは高くなる可能性があります。特に、パンデミック(世界的大流行)が続いていることを背景として、逆風は金にとって好材料になるかもしれません。前回の金融引き締めサイクルは2015年12月の米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げで始まり、金の長期上昇相場につながりました。今回の引き締めは、その再来となる可能性があります。

本稿において、2022年の金価格の見通しを左右する4つの重要なマクロ経済テーマを引き続き説明します。4つのテーマに基づき、ステート・ストリートの基本シナリオにおいて、金価格は長期トレンドの水準に回帰すると想定していますが、新興国市場のさらなる回復、金融・財政政策の失敗、ボラティリティの高まりなどにより上振れする可能性もあると見ています。

金価格は2021年の調整を経て長期トレンドに回帰する可能性が顕在

Total Return Cumulative

テーマ1:世界的な成長回復が循環的な金需要を押し上げると予想します。

2021年における世界的な経済活動の再開と景気回復は2022年も続き、パンデミック前の実質GDP成長率を上回ると予想されています。米国の成長率を他国と比較した場合、パンデミックで悪化した低水準から2021年に最も早く回復しました2。ワクチン接種の推進や財政出動に牽引されたことにより、2021年の米国の成長率は+5.5%増、2022年の同国成長率は+3.9%増と緩やかになるものの、2010~2019年の平均成長率+2.2%増の2倍近くになると予想されています3。米国と同様に、欧州もワクチン接種の普及に伴う域内移動が増加したことにより、2021年は回復から拡大に移行しました。国際通貨基金(IMF)は、欧州先進国経済における2022年の成長率が2021年の+5.1%増よりやや減速し+4.2%増になると予想しています4

金相場にとって重要な新興国市場である中国とインドにおいて、2022年を通して個人消費はさらに回復する兆しがあり、年間金需要の大半を占める循環型の金消費部門(宝飾品、テクノロジー、産業加工)を支える可能性があります。中国は、2021年の経済成長率が+8%増に達する見通しですが、2022年は公共投資における一層の減少と不動産市場の低迷により成長率が+5.6%増に減速すると見られています5。ここ数カ月、中国の経済面や信用面に対する懸念が強まっていることを受け、中国は金融市場におけるリスクを抑えることを目的とした債務増加の抑制計画を開始しました。しかし、中国に対する懸念は2022年においてグローバル市場のボラティリティ上昇を招き兼ねません。金宝飾品における需要の中核を占めるインドについては、パンデミックからの回復に伴い、2022年の成長率は+8.5%増に達する見通しです6

4つの市場(米国、欧州先進国、中国、インド)は金宝飾品の需要にとって重要な市場であり、その中においてもインドや中国をはじめとする新興国市場は極めて重要になります。2021年第1四半期から同年第3四半期までにおける宝飾品部門およびテクノロジー部門の金需要は、既に2020年の年間需要量に達しています 。2021年通年における金の循環的需要がパンデミック前の水準に回帰するとの期待感は高く、SSGAではトレンドが2022年まで続くと考え金見通しの基本シナリオに織り込んでいます。

長期トレンドを上回る世界的な経済成長が金の循環的需要を支持すると予想

Real GDP Growth

テーマ2:実質利回りは低水準にとどまり、ボラティリティは上昇します。

2022年の金相場において、各国中央銀行における金融政策の方向性とスピード感は重要な材料であり、その中においてもFRBは2021年11月に資産買い入れの段階的縮小(テーパリング)を開始したことにより極めて重要視しています。

歴史的に見ても、米10年物国債の実質利回りは金価格を左右する主要因として機能しており、FRBが政策金利の引き上げを開始すると予想されている2022年も相関関係は続く可能性があります。2021年第1四半期に米10年債の実質利回りが-1.07%から-0.63%へ+40ベーシスポイント強上昇したことにより、金にとって2016年第4四半期以来、最悪の四半期となり、2021年全体のパフォーマンスを押し下げました8。しかし、第1四半期以降、米国債利回りの低下とインフレ期待の上昇が相まり、実質利回りは2021年初めと実質的に変わらない状態が続いています9。インフレ率の上昇に加え、FRBの引き締めが今後も後手に回る可能性があることから、実質利回りは低い水準で推移するという期待感が続くかもしれません。

2022年の実質利回りはマイナス圏で推移する可能性が高く、金の投資意欲を支える要因となる可能性が顕在

10 Year Real Yield

2022年に予想されているFRBの引き締めサイクルにおけるタイミングが、市場全体のボラティリティ上昇をもたらす可能性は否めません。米国における政策金利の上昇が金へ与える影響について、過去の金融引き締めサイクルにおいては政策金利の上昇がサイクルの全期間を通じて必ずしも金にとって逆風にはなっていません。2015年末に始まった前回のFRBによる引き締めサイクルは、FRBの利上げが必ずしも金にとって悪材料ではないことを示しています。2015年12月から金融政策が緩和に転じた2019年7月までにおいて、FRBはフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0~0.25%から2.25~2.50%に到達するまで9回引き上げました。同じ期間に金のスポット価格は1オンス1,061米ドルから1,431米ドルまで+35%増近く上昇しました10。投資家は、名目政策金利だけでなく、実質金利や金市場の需給動向など、金価格の動きに影響を与え得る他の要因も考慮する必要があります。しかし、2022年における金利のボラティリティ上昇は目前に迫っています。また、実質利回りはマイナス圏にあり、歴史的に見ても低い水準にとどまると思われ、金を取り巻く環境は全般的に緩和状態が続くと考えています。

前回のFRBによる引き締めサイクル中、金価格は上昇

Federal Funds Target Rate

テーマ3:インフレリスクと財政支出が投資意欲をもたらします

インフレは2021年に投資家に対して大きなリスクとなり、2022年も継続する見通しです。コモディティ価格やエネルギー価格の上昇、世界的なサプライチェーンの混乱による供給ボトルネック、労働力需給のミスマッチなどが継続し、過去10年間の低インフレ時代と比べインフレが進行する可能性が大きいと予想しています。

現在、米国のインフレ率は数十年ぶりの高水準で推移しており、インフレ率を計測する広義の指標である消費者物価指数(CPI)は、2021年10月時点で前年同月比+6.2%増の上昇になっています 11。金は長期的に見れば物価と連動し、過去においては極端な物価変動時に潜在的な価値貯蔵手段として傾向が顕著に表面化しました。実際、過去50年間において米国のCPI上昇率が+5%増を超えた際、米国の株式や債券の平均リターンがマイナスであったことに対して金は年平均+12.7%増の実質リターンを生み出しています(下図参照) 12。2022年は、新たなインフレの高まりを受けて投資家は金のエクスポージャーを増やす可能性があります。

高いインフレ環境の中、投資家は資産配分を金融資産から金に変更する可能性が顕在

Average Annual Real Return

さらに、パンデミック後における各国の財政出動と米ドル相場に対する相関関係を鑑みた場合、インフレ懸念が一段と高める可能性は否めません。2020年以降、米国の政府債務は2020年初めの23兆米ドルから2021年10月31日時点の29兆米ドルまで急増しており、長期的な米ドル安の要因となる可能性があります。米国において直近可決された1兆米ドル規模のインフラ法案に加え、追加の経済政策および歳出の一括案が成立すれば、債務水準はさらに上昇し、中期的に見れば米ドルに対してさらなる下押し圧力がかかる可能性は否めません。米ドルと金のスポット価格は歴史的に逆相関の関係にあり 13、2022年も引き続き米ドルの動きが金価格を左右する可能性は大きいと見込んでいます。FRBが金融引き締めに動く中において米ドルの短期的な上昇は期待できるものの、欧州や新興国が米国と成長回復の格差を縮めつつ米国の財政支出が続く場合において長期的な米ドルの上昇は限定的になるかもしれません。


テーマ4:リスク資産の平均回帰が市場のボラティリティを高めます

2021年が終わろうとしている中、リスク資産が2021年において達成した大きな成果へ注目が集まっています。株式市場のバリュエーションは全体的に割高圏で推移しました。また、一部の部門で極めて高水準となったものの、ボラティリティは1年を通してほぼ横ばいでした。さらに、低金利政策と流動性供給に支えられ、債券市場やクレジット市場における高リスクの選好が進みました。2021年に金融商品の価格が力強く上昇したことを考えると、2022年に循環的な調整、バリュエーション主導の平均回帰、市場ボラティリティの上昇、あるいは外因性のテールリスク(発生確率は低いものの、発生すると甚大な損失につながるリスク)が顕在化する可能性は高まっています。

市場リスクとなり得る点は以下のようなものがあります。

  • 割高である株式市場のバリュエーションが、原材料価格や人件費の上昇に伴う利益率の低下で妥当性が疑われる可能性は否めません。また、期待値の低下に伴い、平均回帰あるいは循環的調整が発生する可能性はあります。
  • 社債の米国債に対するスプレッド(上乗せ利回り)は、2021年の最低水準に近い状態が続いています14 。リスクフリーである国債の低利回りとタイトな社債のスプレッドが重なり、実効利回りは構造的に低くなっています。金融引き締めサイクルの中において債務負担の増大は、広範囲に市場を圧迫し、ボラティリティを上昇させる可能性があります。
  • 市場参加者は、複数の世界的な紛争地域を注視しており、地政学的な混乱やニュースが市場全体のボラティリティを高める可能性があります。例えば米中間の緊張持続に加え、ウクライナ国境におけるロシアの動き、中東や北朝鮮の地政学的不安定性などです。
  • 暗号資産(仮想通貨)は、2021年において投機的な関心により著しく価値が増大し注目度が高まっています。しかし、急速な上昇に伴い、仮想通貨市場の調整が金融市場全体に波及してボラティリティを高める可能性があります。特に、仮想通貨と関連するデリバティブに対する関心が高まり続けている点を注視したいです。

ボラティリティが上昇する可能性があることにより、投資家は市場リスクに対する潜在的なヘッジ手段として金に注目することになると見込んでいます。歴史的に見ても。金は標準偏差を問わずVIX(ボラティリティ)指数の上昇幅が示す短期的なボラティリティに対して、投資家のヘッジ手段として機能してきました(下図参照)15

歴史的に見ても、金は市場ボラティリティに対して、標準偏差を問わず盤石な選択肢

Average Weekly Total Return

2022年の見通し

主要なテーマを考慮すると、2022年の金の見通しとしては3つのシナリオが挙げられます。上振れサプライズの可能性を反映してやや強気に傾いています。

  •  基本シナリオ:基本シナリオの確率は50%であり、金価格の取引レンジは1オンス1,800~2,000米ドルが想定されます。FRBは1回または2回の利上げを行い、実質利回りは上昇するものの年平均ではマイナス圏にとどまり、米ドルは横ばいで推移します。また、世界の経済成長率は2021年と同水準を維持し、金宝飾品の需要はパンデミック前の長期トレンド水準に達します。金のボラティリティは上昇しますが、小幅にとどまります。
  • 強気シナリオ:強気シナリオの確率は30%であり、金価格の取引レンジは1オンス2,000~2,200米ドルが想定されます。FRBが予想以上にハト派的な姿勢を維持し、実質利回りは大幅なマイナス水準にとどまります。インフレ率が高止まりし、利上げは1回限りを想定しています。新興国の経済成長率が米国を上回り、米ドルに対する下押し圧力がさらに高まります。ボラティリティは、外因性の市場混乱やテールイベントにより大きく上昇し、金および金ETFの投資需要が高まります。
  • 弱気シナリオ:弱気シナリオの確率は20%であり、金価格の取引レンジはパンデミック前の水準に近い1オンス1,600~1,800米ドルが想定されます。FRBは市場予想よりも早く利上げを開始し、利上げは2回以上ですが、米国は成長を堅持します。ボラティリティは低下し、投資家は投資をリスク資産に振り向け、実質利回りは劇的に上昇します。米国の経済成長率が他国を上回ることにより米ドルの上昇を促します。一方、新興国の景気回復は遅れるため、金宝飾品の需要は減少します。

2022年に向け、上昇リスクが下落リスクを上回ると予想

Gold Spot Price

Related Content