コロナ時代の投資:

SSGAが見たアセットオーナーの経験

             
サイラス・タラポールヴァラ     ロリ・ハイネル           リック・ラカイエ
社長 兼 CEO     グローバル副CIO           グローバルCIO

パトリシア・ハドソン

エグゼクティブ・コミュニケーション&ソートリーダーシップ責任者

2020年6月9日(翻訳版)*

*当レポートの原本は2020年5月18日発行

第1四半期としては過去最大級の下落を記録したS&P500指数は、3月に安値をつけた後、5月初めまでに下落の約半分を取り戻した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの先行きが依然として極めて不透明な状況での経済再開であることを理解した上で、アセットオーナーがこれまでこの難局をどう乗り切り、「ニューアブノーマル」の局面からどのような教訓を導きつつあるのか、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ(「当社」)の経験と考察をラウンドテーブル形式で紹介したい。

スピードが求められる

パトリシア・ハドソン: 2008年の世界金融危機(GFC)との違いはアセットオーナーにどのような意味を持つのか、そして2008年の教訓は活かされているのか?

サイラス・タラポールヴァラ: 2020年を前にして、「株式市場は過去最長の強気相場がまだ続いている」との認識にあったため、顧客の多くはポートフォリオを通常の調整局面を想定したポジション構成にしていた。一方、今回の健康面と経済面に及ぶ世界的危機の深刻さとスピードの速さを、誰も予想していなかった。2008年の危機とは全く違っていた。2008年の危機はスピードがもっと緩やかで、財務レバレッジの積み上がりによる先進国市場の危機という色彩が強く、間接的だが最終的に新興国にも影響が波及したものの、中国は巨額の準備金のおかげで十分に持ち堪えることができた。しかし今回は、すべての地域、そしてほぼすべての資産クラスが影響を受け、その波及スピードははるかに急速だった。

数日のうちにテレワークに切り替える必要に迫られたことも、アセットオーナーには初めての経験だった。ITインフラや事業継続計画の整備の程度によって、対応状況に大きな差が出たようだ。当社は幸い、事業継続計画、システムの危機耐久力、危機時の決定プロセスを重視し、課題に従来から取り組んでいたため、かなり上手く対応できた。初期に感染が広まった中国で広く事業を展開しているため、他社より多少先んじて経験を積むこともできた。

ロリ・ハイネル: 確かに、今回の危機のダイナミクスは2008年の危機と全く異なる。それでも、世界金融危機での経験は、流動性逼迫などの混乱した市場への対応に確かに役立った。規制当局や政策当局が世界金融危機から学んだ最も重要な教訓は、「スピードが求められる」ということだ。経済活動が突如停止したため、政策当局は素早い対応を迫られ、その通り迅速に動いた。過去数カ月に中央銀行が打ち出したファシリティや救済策の規模は驚異的であり、数日ほどでこれらの市場支援策を実施した米連邦準備制度理事会(FRB)と当社が効果的に連携できたのは、言うまでもなく2008年の経験があったからだ。

 

流動性供給の重要性

パトリシア・ハドソン: 顧客が直面した最大の課題とは何か?

リック・ラカイエ: 2008年のように売りが殺到することはなかった。一部の顧客は個有の流動性問題により行動を余儀なくされたが、3月の市場暴落が急激だったため、投資家は取引の次の方向について考えあぐねていた。さらに10%下落するのか、それとも反発するのか見当がつかない状態だったようだ。

行動を強いられた顧客にとって、目的がより安全な資産への乗り換えであれ、危機で生じた投資機会の検討であれ、あるいは他の流動性ニーズに対応するための資本の確保であれ、執行と流動性の手段を確保することは不可欠だった。市場がストレスにさらされている時、世界中で取引や注文の執行を提供することが可能である当社の高い執行能力は、顧客にとって拠り所となったと考えている。

ロリ・ハイネル: 当社は11年に及ぶ株式の強気相場の終わりが近いと考え、今回の危機が発生するかなり前から顧客とダウンサイドリスクの緩和について、定期的に意見交換してきたことも指摘したい。様々なヘッジ手段について議論していたが、当社が推奨した手段は、ディフェンシブ株への配分を増やすこと、オプションベース戦略の実行、アクティブな資産配分や動的配分の導入、金の配分比率の引き上げなど、いずれも効果を上げたと言える。

サイラス・タラポールヴァラ:  当社が機関投資家の顧客にすぐにサポートを提供した分野として、1つは、ヘッジ目的やキャピタルコールへの対応で大量の流動性を必要としていた顧客へのサポートだったが、より多くの顧客が求めていたのはリバランスに関するサポートだった。多くの顧客は3月の四半期末を控えて株式を5~8%アンダーウェイトしていた。相場が大きく変動しがちな四半期末に再び基本の資産配分に戻すのは困難な作業だったが、株式市場が回復し始めた局面でそれぞれのニーズに応じた効果的な方法で実践でき、多くの顧客から喜ばれた。

危機時に適切なガバナンスと意思決定モデルを持つことの重要性を踏まえると、当社の確定拠出年金ビジネスにおけるターゲットイヤーファンドも強調したい。同戦略は、運用マネージャーが危機の最中でも加入者の長期目的を重視して計画的に運用を実践している。2008年には、個人投資家の行動が確定拠出年金とリテール口座で大きく異なっていたが、今回、個人投資家はより堅実と思われる長期的観点の投資にとどまる用意ができていた。

ETF批判が間違っていることを証明

パトリシア・ハドソン:  米国の上場投資信託(ETF)は第1四半期に異例の出来高の増加を見せた。株式ETFの1日当たりの平均出来高は3月末までの5週間で、それまでの平均約600億ドルから2,000億ドル超と、3倍超に増加した。債券ETFの1日当たり平均出来高も約350億ドルと、3倍に膨らんだ1。そして当社のETFは2月下旬から3月末までの米国ETFの出来高の42%を占めた2。実際、米国初のETFであるSPY(SPDR® S&P500® ETF)の流通市場での出来高は、15日連続で500億ドルを超えた(過去最高の1,130億ドルを含む)3。この出来高増加の背景には、何があるのか?

サイラス・タラポールヴァラ:  顧客が当社のETFに目を向けた最大の理由は価格発見機能だ。特に債券の場合、実際の価格を知る方法はETF市場以外にはなかった。十分な規模で迅速に取引を行う方法として、リスクテイクやリスク削減にかかわらず、ETFを用いる顧客が増えている。

今回の経験は、現在ETFが非常に多くの投資家から流動性手段として選好されていることを如実に表した。周知の通り、流動性は投資家の取引能力の源泉である。そのため、当社が提供する流動性へのアクセスは、特に難局においては、顧客とのパートナーシップを特徴づける重要な要素である。

パトリシア・ハドソン:  今回の危機の前には、インデックス運用やETFへの配分が積み上がっていることについて、「相場急落を加速、悪化させる恐れがある」と懸念する意見が多数上がっていた 。 ボラティリティが最も悪化した3月、実際はどうだったか?

リック・ラカイエ: サイラスが述べたように、ETFは相場の上昇・下落いずれの局面でも、投資家が選択を執行するための流動性を提供する役割を十分に果たした。また、他の方法ではアクセスできない資産クラスのエクスポージャーに迅速にアクセスできるよう、投資家が機動的に行動するための効果的な方法でもあった。ETFは「投資家の群集心理やパニックにつながりやすく相場下落を加速させる」との懸念があったが、特に激しい値動きや取引行動が見られたハイイールド債やその他の資産クラスのETFでは、実際のところ、売り買い双方に十分な取引があった。ETFがあったからこそ、投資家が実行したい取引を円滑に実行できたと考えている。

もう一つ長いこと問題視されてきたのが、いわゆる「パッシブマネーの壁」だ。市場がショックに見舞われている最中に資産の連動性が一方向に傾くと、インデックスによる大量の売りまたは買いが原因とみなされる。今回も資産の値動きは単一の要因に支配されたが、経済活動が停止している場合、A社とB社の固有要因の微妙な差は率直に言って重要でない。従って、インデックス化が市場に占める割合が大きいかどうかにかかわらず、単一の要因がファンダメンタルズに圧倒的な影響を及ぼしている時には、資産の相関性は常に上昇するだろう。

ロリ・ハイネル:  特に市場価格に大きな歪みが生じている時に、ETFが優れた価格発見機能を示す点を市場が深く理解したとの意見に賛成だ。過去の危機時には、ETFは現物市場に連動していないという、私に言わせれば間違った指摘を受けていた。実際のところ今回、投資家は価格発見とポジション構築の手段として、ETFが現物市場より優れていることを認めたと考えている。

これまでに学んだ投資の教訓

パトリシア・ハドソン: 世界金融危機時にウォーレン・バフェット氏が述べた有名な言葉がある。「潮が引いて初めて誰が裸で泳いでいたのかが分かる」。今回私たちは、投資家の行動や選好度を変える可能性のある脆弱な部分について何を学んだのか、あるいは学び直したのか?

リック・ラカイエ: 今回の局面での教訓を述べるにはまだ早すぎる段階にあるが、高レバレッジの企業や投資家は潜在的に脆弱性を抱えていることが分かった。金利が極めて低いため、多くの企業が負債を積み上げてきた。同様に、流動性の低い資産をポートフォリオに大量に保有していることに過度に自信を持っていた一部の投資家は、何らかの課題に向き合うだろう。

新興国市場では、米ドルの収支にミスマッチが起きた場合に一部の新興国債券がミスプライシングされ、損失につながるという問題が起こりやすい。しかし、新興国の発行体の多くはデフォルトすることなく、現在の危機を乗り越えられるだろう。問題は、こうした個別発行体のデフォルトが先進国市場と新興国市場の投資家に、どこまで影響を及ぼすかという点だ。また、ディストレスト・ファンドの設定により、機動的な買いの機会が多く生じるとみている。当社は顧客とそうした機会について議論しているが、これまでのところ実際の資金の動きは少ない。

ロリ・ハイネル:  現実にテレワークになると、アセットオーナーは機動的な大型投資案件の検討をするのが難しくなっているようだ。大手の顧客企業では、当社と投資機会について意見交換している運用担当者も多くいるが、彼らは独自の分析を行いたいと考えている。コンサルタントも、投資における今後の最善の方法を調査分析している。それでも、現時点で私たちが顧客やコンサルタントと行っている議論が、通常の勤務体制に戻った時に投資を行う上で極めて重要になるだろう。

リックが述べたように、プライベート・エクイティやプライベート不動産を含む多くの資産クラスについて、まだ何も確たることは言えない。商業不動産のクラスAオフィスは、以前は簡単にインカムを積み上げられる投資対象だったが、企業が不動産の利用を見直す中で、こうした状況は変わっていないのだろうか?

今回の危機から改めて学べる教訓はいくつかあると思う。第一に挙げられるのは、優れたガバナンスに関する不変の教訓である。迅速かつ効果的に行動できるように投資プロセスと決定権に関する適切な手順を整備することに関して、教訓を改めて学べるだろう。例えば、投資適格債が非投資適格債に格下げされて、いわゆる「フォールンエンジェル」が多数発生した場合にどうすべきか、あるいはポートフォリオのリバランスについて投資方針に明確に規定すべきか、といったことだ。

サイラス・タラポールヴァラ: 危機により、多くの小規模年金基金では、市場環境が急速に変化する中で迅速に決断を下すためのガバナンスや手段の整備に関する問題が増えたようだ。例えば、投資委員会を年4回しか開催していない場合、ガバナンスを外部委託し、主観の余地が入らないルールベースの基準を取り入れるのか、あるいは決断を効果的に行える専門家にガバナンスを完全に委ねるアウトソースCIOの採用を検討する必要はないのか、といったことだ。

今回の危機はまた、市場ボラティリティのピーク時に流動性へのアクセスをすぐに提供でき、専門家の視点で執行のタイミングと方法を見極めつつ取引を円滑に行えるマネージャーと協働するメリットを浮き彫りにしたと思う。

それ以外にもアセットオーナーは今後、今回のような業務環境の劇的な変化にも対応できるITシステムやオペレーションに、改めて重点を置くようになるだろう。自然災害の発生時やサイバー攻撃を受けた際に、業務を継続または回復させるための対策については、どの企業も行ってきたが、今回はまさに桁違いだった。シナリオ・プランニングやストレステストに関して重要な検討課題が示されている。

リック・ラカイエ: 資本効率と資本の耐久力に関する疑問は、企業のバランスシートと投資ポートフォリオの双方で既に散見される。長期投資家である当社は、これが本質的にバランスの問題であることは分かっている。当然ながら、存在を知らない未知のものに備えることはできず、従ってテールリスクの管理は常に手探りとなる。

ロリ・ハイネル: 今回の危機的状況は続いており、まだ多くの出来事が起きるだろう。1四半期の結果だけでは、長期的な行動は変わらない。とは言え、ポートフォリオ・レベルで様々なストレステストに直面し、真の分散の意味について問われる可能性もある。投資家は将来、資産配分のためより、流動性バッファーとして、より多くの手元資金を保持する傾向を強めるだろう。誰も最悪なタイミングで売りを強いられたくないからだ。

サイラス・タラポールヴァラ:  率直に言うと、投資家にとっての最大の脆弱性は、今回の危機がいつまで続くか予測できない点だ。1~2年続く場合、ウイルス感染の再拡大によって経済の大部分が活動を停止し、市場は激しい変動をみせ、その結果、既にあった脆弱性は悪化し、新たな脆弱性が生じるだろう。多くのエコノミストが指摘しているように、景気悪化の深さによる打撃は、期間の長さによる打撃よりも小さい。そして私たちはまさにその長さが分からない。一つだけ分かっているのは、私たちはいずれこの危機から脱するということだ。それまでは、顧客と連携しつつ、これから直面する逆風を乗り切るために必要な情報、洞察、知識、流動性に顧客がアクセスできるようにサポートしていきたい。

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